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Science-Based Target 設定マニュアル 4 / 2019 4 26 パートナー組織 <ご留意事項> 本資料は、Science Based Targets initiative の「Science-based Target Setting Manual Version 4.0 」を、みずほ情報総研株式会社が仮訳したものです。 本資料の利用に際しては、翻訳に関する二次著作権の扱いを含め、お取扱いには 十分ご注意を願います。

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Page 1: Science-Based Target 設定マニュアル · Science-Based Target 設定マニュアル 第4 版 / 2019 年4 月26 日 パートナー組織 <ご留意事項> 本資料は、Science

Science-Based Target 設定マニュアル

第 4 版 / 2019 年 4 月 26 日

パートナー組織

<ご留意事項>

● 本資料は、Science Based Targets initiative の「Science-based Target Setting

Manual Version 4.0 」を、みずほ情報総研株式会社が仮訳したものです。

● 本資料の利用に際しては、翻訳に関する二次著作権の扱いを含め、お取扱いには

十分ご注意を願います。

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Science-Based Target 設定マニュアル

第 4 版

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目次

エグゼクティブサマリー ............................................................................................................................ 3

ポイント ................................................................................................................................................. 3

開発の背景 .............................................................................................................................................. 3

本マニュアルに関して ............................................................................................................................ 4

SBT の設定に関する主な課題 ................................................................................................................ 5

結論と推奨事項 ....................................................................................................................................... 6

1. はじめに ............................................................................................................................................... 9

2. SBT のためのビジネスケースを理解する .......................................................................................... 14

3. SBT 設定手法 ..................................................................................................................................... 21

3.1 利用可能な手法と様々なセクターへの適用性 ............................................................................. 21

3.2 SBT 手法を選択する際の推奨事項 ............................................................................................... 30

3.3 種類の異なる目標のメリットとデメリット ................................................................................. 30

4. SBT の設定:全スコープの主な検討事項 .......................................................................................... 34

4.1 分野横断的な検討事項 ................................................................................................................. 34

5. SBT の設定:スコープ 1 及び 2 の排出源 ......................................................................................... 40

5.1 一般的検討事項 ........................................................................................................................... 40

6. SBT の設定:スコープ 3 の排出源 .................................................................................................... 45

6.1 スコープ 3 インベントリの実施 .................................................................................................. 45

6.2 どのスコープ 3 カテゴリを目標バウンダリに含むべきか ........................................................... 48

6.3 単一目標か、複数目標か ............................................................................................................. 50

6.4 目標の適切な種類を特定する ...................................................................................................... 52

7. SBT のための社内体制を構築する .................................................................................................... 56

7.1 企業のあらゆる部署・部門を参画させる .................................................................................... 56

7.2 課題や反対に対処する ................................................................................................................. 59

8. 進捗をコミュニケーションし、把握する ........................................................................................... 61

8.1 SBT と実績の進捗を公にコミュニケーションする ..................................................................... 61

8.2 目標を再計算する ........................................................................................................................ 67

用語 .......................................................................................................................................................... 69

略語一覧 ................................................................................................................................................... 71

参考文献 ................................................................................................................................................... 72

謝辞 .......................................................................................................................................................... 76

SBT イニシアチブのパートナー組織について ......................................................................................... 77

エグゼクティブサマリー

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Science-Based Target 設定マニュアル

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ポイント

● 企業は、産業革命前と比べ、地球の気温上昇を 1.5℃または 2℃を十分に下回るように抑えるための

削減経路に則った温室効果ガス(GHG)排出量削減目標を設定することにより、気候変動対策で役割

を担うことができる。このような目標を Science-Based Targets (SBT)と称する。

● SBT は、積み上げ型の GHG 排出量削減目標よりも、はるかに多くのメリットを提供しており、低

炭素経済に移行する中で、企業の競争優位性を高める。

● SBT の設定手法は複数あり、測定指標や野心に応じて異なる目標を計算するために使用されてよい。

● 厳密性と信頼性を確保するために、SBT は、目標期間、野心、対象となる社内やバリューチェーン

の排出源に関する様々な認定基準を満たすべきである。

● 目標設定プロセスのすべての段階に社内のステークホルダーを参画させるには、綿密な計画を要す

る。

● SBT の設定後、SBT を完全に、かつ簡潔、明確にコミュニケーションすることは、ステークホルダ

ーに正確に情報を伝え、信頼を構築するために重要である。

開発の背景

パリ協定で、各国政府は世界の気温上昇を摂氏 2℃を十分に下回る水準に抑え、かつ 1.5℃に抑える取組

を目指すことに合意した。気温が 1.5℃を超えると、危険な気候の影響や、干ばつ、海面上昇、洪水、猛

暑、生態系の破壊につながる人道的危機が起こりやすくなるだろう。

各国政府やその他の主体の取り組みにも関わらず、人為的な GHG 排出量は、依然として増加を続けて

いる。現在の予想軌道では、世界の平均気温は今世紀末までに 2.2℃~4.4℃上昇するとされている。現在

の国家レベルでのコミットメントの下でさえ、2030 年の世界排出量は、1.5℃シナリオで設定されている

目標排出量よりもおよそ 90%高くなるだろう。(Climate Action Tracker 2018 年)

世界の気温目標を確実に達成するため、企業は極めて重要な役割を持つが、現在ほとんどの企業目標は

十分に野心的とはいえない。世界の GHG 排出量の大部分は、法人セクターから直接的または間接的に

影響を受けている。多くの企業が、気候変動が事業に及ぼすリスクやリーダーシップ、イノベーションを

生みだす機会を認識し、GHG 排出量削減目標を設定している。しかし、これまで、企業目標の多くは、

気温上昇が 1.5℃に抑えられる未来と合致する目標の高さや計画とはなっていない。

SBT は、企業が長期的に排出量を管理するための着実なアプローチを提供する。SBT は、ある企業によ

って達成可能なものというよりも、関連する炭素予算によって定められる世界の GHG 排出削減量に必

要とされているものの客観的、科学的評価を論拠としている。SBT は、低炭素経済に移行する中で、企

業の競争優位性を高めながら、長期的気候変動戦略に確固たる基盤を提案する。

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ますます多くの企業が、野心的な気候活動を推し進める強靭な事業計画の一環として、SBT を採用して

いる。すでに 190 超の企業が設定しており、350 超の企業が SBT イニシアチブを通して近い将来、設定

を約束している。このような企業の多くが、ステークホルダーからの信用強化、規制がもたらすリスクの

軽減、収益力・競争力の増加、イノベーションの拡大を動機に挙げている。活動の広がりにも関わらず、

排出量の多い鍵となるセクターの参加は少ない。実用的、かつセクターに特化したガイダンスの開発と

共に、このようなセクターでの採用を進めていくことが、優先事項となっている。

本マニュアルに関して

本マニュアルは、SBT を設定する際の段階的なガイダンス及び推奨事項を提供する。SBT を設定する企

業のメリットの理解から、設定した SBT に対する進捗のコミュニケーションまで、設定の主要な段階を

扱う(図 ES-1)。

図 ES-1: 本マニュアル各章

注記:Foundations of Science-based Target Setting では、SBT の設定手法が参照可能な最善の気候科

学に照らしてどのように開発されたかについて、第 3 章の補完的な技術情報を提供している。

本マニュアルは、SBT イニシアチブの成果物であり、企業が野心的かつ有意義な GHG 排出量削減目標

を設定するために革新的なアプローチを特定し促進を図るものである。本マニュアルの内容は、SBT を

設定した企業 20 社超に行ったインタビューを基にしている。また、Call to Action 活動(ボックス 1 参

照)1の一環として、SBT 評価に際しては、SBT イニシアチブが策定した推奨事項や認定基準を利用して

いる。業界団体や NGO 出身の技術者からなる技術諮問グループが、本マニュアルの草案に知見を提供し

た。

本マニュアルは基本的に企業を対象にしているものの、SBT に関心のあるその他ステークホルダーにも

有益となるだろう。企業(及び支援を行うコンサルタント)は、GHG 排出削減目標を検討する、または

策定する際、本マニュアルを参考にするべきである。また、企業は既存の目標が最新の科学と整合してい

るかを証明するために、本マニュアルを用いることもできる。何より、企業は全体的な GHG マネジメン

ト戦略の枠組みとして、本マニュアル(具体的には SBT)を使用するべきである。投資家及び環境団体、

1 SBT イニシアチブ Call to Action のガイドライン詳細は、https://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2018/10/C2A-

guidelines.pdf を参照

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政策立案者、研究者を含め、その他ステークホルダーは、SBT 設定のベストプラクティスについて学ぶ

ため、本マニュアルを利用することができる。

本マニュアルは、SBT の設定に際して、現在あるベストプラクティスの概要を示している。SBT を構成

するものに求められるものは、科学的モデリング及び気候科学、国際的な排出削減努力の進歩を受け、ま

た SBT の設定から学んだ教訓を反映し、時間と共に変わるだろう。セクター別、または地域ごとの検討

事項を基に SBT の設定を補う新たなデータや資料、ツールが将来利用可能になるかもしれない。本マニ

ュアルは、現在利用可能なツールに焦点を当てる一方で、基本的な科学が進化するにつれ、今後の SBT

設定のプラクティスを導くべき推奨事項全般を説明している。

本マニュアルでは、GHG 排出量削減対策を実施する際のガイダンスは提供しない。SBT を達成するた

めの成功戦略は、企業の目標及び開始時の状況、様々な選択肢のコスト、外部の市況によって、対策を組

み合わせたものとなる可能性が高い。一企業にどの戦略が最も適しているかを決定することは、本マニ

ュアルの対象範囲ではない。

SBT の設定に関する主な課題

企業は、SBT の設定につながる様々な課題に関するガイダンスを求めている。喫緊の課題として、以下

が挙げられる。

企業が SBT を設定するメリットとは?SBT は策定や実施のために社内の投資が必要となることが多い

ため、明確な戦略的メリットを伴うことが望ましい。

SBT の設定にどの手法を採用するべきか?様々な手法が利用可能であり、排出総量、もしくは物理的指

標に基づいた排出原単位、または経済的指標に基づく排出原単位の削減比率として目標を計算するかに

よって異なる。手法は、セクターの専門性によっても異なり、様々な科学的データセットや排出予測を基

にしていることもある。

信頼性の高い SBT とはどのようなものか?重要な検討事項は、目標の期間及び企業内の事業活動(「ス

コープ 1 と 2 の排出量」)及びバリューチェーン(「スコープ 3 の排出量」)からの排出範囲を含む。

社内の賛同を得て信頼を構築するために効果的なコミュニケーション戦略とは?SBT の効果的なコミュ

ニケーションは、企業の経営判断を導き、社員からの賛同を高め、企業の世評の向上を促す。

結論と推奨事項

SBT は多くの戦略的メリットを提供する。

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SBT は、積み上げ型排出削減目標よりも以下の点において有効である。

・ 企業のレジリエンス(逆境を乗り越える力)を培い、競争力を高める。

・ イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える。

・ 信頼及び評判を構築する。

・ 公共政策の変化に影響を及ぼし、変化に備える。

SBT の設定手法は複雑であり、各社の事業やバリューチェーンの状況の中で考慮されるべきである。

・ 一般的に、SBT の設定手法には 3 つの構成要素がある。炭素予算(気温上昇を 1.5℃及び 2℃を十分

に下回る水準に抑えるために排出可能な GHG 全体量を定義)、排出シナリオ(排出削減の規模と時

期を定義)、配分アプローチ(炭素予算が各企業にどのように配分されるかを定義)である。

・ 現在、複数のセクターに適用性がある 3 つの手法が利用可能である。

・ 企業はセクターのリーダーシップを発揮するため、最大の排出削減を押し進める手法や目標を選択す

るべきである。

・ SBT を算定するために、企業はセクター別の脱炭素化経路(すなわち「部門別脱炭素化アプローチ」)

あるいは排出総量の割合削減のいずれかに基づいた手法を使用するべきである。

・ 原単位目標はスコープ 1 及び 2 の排出源に対して設定されることがあるが、目標が気候科学に則り、

総量削減につながる場合、あるいは当該セクターで確実に排出削減につながるセクター別の脱炭素化

経路を用いてモデル化される場合にのみ、設定されるべきである。

厳密性と信頼性を確保するために、SBT は様々な基準を満たすべきである。

最も重要なことは

・ SBT は、目標が公式に発表された日から、最短 5 年、最長 15 年を対象とするべきである。長期的な

目標(例えば、2050 年までの目標)も策定することが奨励される。

・ SBT のバウンダリは、GHG インベントリのバウンダリと一致すべきである。

・ スコープ 1,2 排出源からの削減量は、2℃を十分に下回る水準または 1.5℃を目指す脱炭素化経路と

一致すべきである。

・ SBT は、企業全体のスコープ 1,2 排出量の少なくとも 95%を網羅すべきである。

・ SBTの設定及び進捗を把握するため、一つの特定のスコープ 2算定アプローチ(「ロケーション基準」

あるいは「マーケット基準」)を使用すべきである。

・ スコープ 3 排出量が大きい(スコープ 1,2,3 排出量合計の 40%超)企業の場合、スコープ 3 の目標

を設定すべきである。

・ スコープ 3 の目標は、通常、科学に基づく必要はないが、野心的で、測定可能であるべきで、企業が

現在あるベストプラクティスに沿って、どのようにバリューチェーンの主な GHG 排出源に対処して

いくかは、明確に示すべきである。

・ スコープ 3 の目標バウンダリは、バリューチェーン排出量の大部分を含むことが望ましい。例えば、

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上位 3 つの排出源カテゴリや、スコープ 3 排出量合計の 2/3 である2。

・ スコープ 3 目標の性質は、関連する排出源カテゴリ及び企業がバリューチェーンパートナーに対して

持つ影響、バリューチェーンパートナーから入手可能なデータの品質によって変わるだろう。

・ SBT は、重大な変更を反映するため定期的に更新されるべきであり、そうしなければ、目標の妥当性

や一貫性が損なわれるだろう。

・ オフセットや削減貢献量は、SBT にカウントされない。

目標設定プロセスのすべての段階に社内のステークホルダーを参画させるには、綿密な計画を要する。

・ SBT を設定する担当者は、目標設定過程において、目標を適合させ、実現可能性を評価し、実践的な

実施計画を作成するために、企業のあらゆる部署・部門と緊密に連携をとるべきである。

・ 担当者は、頻繁に社内で反対意見が起こるような問題を予測し、マニュアル化された対応を策定する

ことが望ましい。

・ スコープ 3 目標に関して、企業は目標設定過程の間、賛同を増やし、実行を可能にするため、サプラ

イヤーと連携して取組み、支援することが望ましい。

2 SBT イニシアチブの目標妥当性基準では、スコープ 3 目標は、関連するスコープ 3 排出量全体の少なくとも 2/3 を網羅しなければな

らない。

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1. はじめに

世界の排出量はどれほどまで削減されなければならないのか?

およそ 200 カ国が第 21 回気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議に参加し、「世界の平均気温上昇を産

業革命前から 2℃を十分に下回る水準、及び 1.5℃に抑える取組みを行うこと」(UNFCCC2015)を掲げ

たパリ協定に署名した。各国は、GHG 排出量の大幅な削減を含め、様々な対策を約束したが、大きな欠

陥が存在する。既存のコミットメントの下で最善の努力をもってしても、2100 年までに 2.4℃から 3.8℃

の気温上昇につながるだろうことだ(Carbon Action Tracker, 2018)。政府は、低炭素経済への移行は進

んでいて、長期的には不可避だと明確な意図を約束する一方、事業者は国が約束した取り組みの水準と、

気候変動の最悪の影響を避けるために求められる水準の差を埋める重要な役割を持っている。

2018 年に発表された「1.5℃特別報告書」(パリ協定の際に IPCC が作成要請されたもので、世界の気温

上昇を 1.5℃に抑えることは、2℃と比べて人間社会や自然システムへの気候関連リスクを大幅に減少さ

せるだろうという強いメッセージを送っている)では、野心を高めることがかつてないほど急務となっ

ている。気候変動に脆弱な国の政府は、より高い目標である 1.5℃閾値を支持している。気温上昇の 1.5℃

への抑制はさらなる排出量の削減を意味し、脱炭素化の速度を上げる必要があるものの、自然システム

や水資源、農業生産性、やがては経済、政治、社会の安定に対する破壊的な影響による世界の混乱を抑え

られる希望を示している。

事業者の役割とは?

世界の排出は、主に、電気及び熱生産、農業・林業・その他土地利用(AFOLU)、商業ビル、運輸及び産

業を含め、主要経済セクターの活動から生じている(図 1.1)。

図 1.1. 主要経済セクターからの人為的 GHG 排出量(年間 GtCO2e)

2010 年データ

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注記:その他エネルギーは、コークス炉や溶鉱炉での燃料の燃焼といった公共の電気及び熱生産以外の排出源を対象とし

ている。(出典:IPCC 2014a)

このような経済セクター内の企業も、当該企業が提供する電気のようなサービスに頼る企業も、低炭素

な未来への移行を促すために重要な役割を担っている。今、多くの企業が気候変動が事業に及ぼすリス

クや、気候変動がリーダーシップやイノベーションを生み出す機会を認識している。多くの企業が、排出

削減目標を設定し、GHG 排出量を把握し、公式に報告することで、変化を公言している。科学と整合し

た目標(SBT)は、目標設定のベストプラクティスを例示し、包括的な企業の気候変動戦略の要を形成する。

排出量の差を埋めるビジネスチャンス

低炭素技術パートナーシップ・イニシアチブ(LCPTi)3は、9 つの事業セクター向けに低炭

素技術配備行動計画を作成した。仮にその高い目標が実現すれば、LCPTi は世界の気温

上昇を 2℃未満に抑えるために 2030 年までに必要な排出削減量の 65%に貢献できると

PwC は見積もった。また、当該行動計画は、「経済の低炭素セクターに 5~10 兆ドルを

投資し、雇用にして 2,000~4,500 万人年を支えられる」と推定した(PWC2015)。

電力セクターの脱炭素化

発電は、世界の GHG 排出量のおよそ 1/3 を占める(図 1-1)。そのため、電力会社による

野心的な活動は、気温上昇が 2℃を十分に下回る水準に抑えるために不可欠となるだろ

う。電力セクターは、発電を集中型から分散型に、化石燃料から再生可能エネルギーへ切

り替えることで、脱炭素化が期待される。電力セクター自体が講じる対策以外にも、その

他のセクターの企業が、風力、太陽、地熱エネルギー源のような選択肢に投資すること

3 LCPTi は、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)、SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)、IEA

(国際エネルギー機関)の共同活動で、低炭素技術の大規模な開発や配備に向け、9 つのセクターに具体的な行動計画を提供している。

https://www.wbcsd.org/Programs/Climate-and-Energy/Climate/Low-Carbon-Technology-Partnerships-initiative

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で、低炭素エネルギーの利用に影響を及ぼすことができる。

経済成長と排出量をデカップリングすることは可能であり、今後の低炭素経済の主要な

構成要素となるだろう。例えば、米国の大手発電事業者 100 社は、2008 年から 2013 年

で発電総量は増えたものの、CO2e 排出量は 12%減少した(CERES2015)。このようなデ

カップリングを達成するためには、2℃を十分に下回る温度への抑制を実現するために排

出の多い成長軌道に乗らず、早期に廃棄せざるをえなくなるだろう座礁資産の保有をや

め、排出量の多いインフラへの投資を避けなければならないだろう。

SBT とは?

本マニュアルでは、GHG 排出削減目標が、最新の気候科学がパリ協定の目標(世界の気温上昇を産業革

命前より 2℃を十分に下回る水準に抑え、また 1.5℃に抑えるための取組みを行う)を達成するために必

要とするものと合致していれば、”Science-based” (科学と整合する)と見なされる。

企業にもたらす影響

賢明な企業は、気候変動がもたらすリスクを理解し、SBT を設定することでリーダーシップを発揮して

いる。SBT を設定した企業は、長期的な企業価値を構築し、次の点により将来の収益性を守っている。

(議論には第 2 章を参照)

・企業のレジリエンスを培い、競争力を高める。

・イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える。

・信頼及び評判を構築する。

・公共政策の変化に影響を及ぼし、準備を整える。

上記のようなメリットや SBT イニシアチブ(ボックス 1-1)のような活動を通して、SBT を設定する企

業数は急速に増えている。2019 年 3 月現在、500 社超の企業がイニシアチブを通して SBT の設定をコ

ミットしており、この内およそ 200 社がすでに SBT の認定を受けている。

ボックス 1-1. Science Based Targets イニシアチブ (SBTi)

SBT イニシアチブは、低炭素経済への移行が進む中、将来性のある企業の成長を力強く

押し進める方法として SBT の設定を推進している。

SBT イニシアチブは、CDP、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、国連グ

ローバル・コンパクト(UNGC)の共同活動である。

イニシアチブは

イノベーションの促進、規制によってもたらされる不確定要素の減少、投資家

からの信頼向上、SBT を設定することで生じる収益性や競争力の強化に注目

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し、SBT を設定した企業を、ケーススタデイやイベント、メディアを通して例

示する。

技術諮問グループ及び科学諮問グループの支援を得て、SBT 設定のベストプ

ラクティスを定義し、推進する。

採用の障壁を低くする資料やワークショップ、ガイダンスを提供する。

企業に SBT の設定を公式にコミットさせることで、気候変動対策についてリ

ーダーシップを発揮するよう呼びかける Call to Action 活動を通して、企業の

目標を独立した立場から査定し認定する。その後、企業は 2 年以内にイニシア

チブに目標を提出し、イニシアチブは目標が特定の基準を満たすと承認した

後、公表する。

イニシアチブ全体の目標は、2020 年までに SBT の設定が企業の標準的取組みとなり、

企業が世界の GHG 排出量を低減させる主要な役割を担うようになることである。持続

可能なマネジメントの取組みの基本的な部分に SBT を組み込むことは、この目標の達成

に不可欠である。詳しくは http://sciencebasedtargets.org/を確認。

本マニュアルの目的

本マニュアルは、STB を策定するための手引書である。SBT イニシアチブの活動から学んだベストプラ

クティスや教訓を盛り込んでいる。特に、イニシアチブの Call to Action キャンペーンから認定基準や推

奨事項をベストプラクティスとして盛り込んでいる。

本マニュアルの使用推奨者

本マニュアルは、気候科学に沿って新たな GHG 排出削減目標を立てようとしている企業が利用するこ

とが望ましい。また、現在掲げる目標が科学と整合しているかの確認や、GHG 管理戦略の枠組みとして

も利用できる。さらに、投資家や環境団体、政策立案者、研究者は、このマニュアルを使って、SBT を

設定するベストプラクティスについて知ることができる。

本マニュアルの内容

本マニュアルは、SBT 設定の異なる段階を通して、読者を高いレベルへと導く。ビジネスケースの定義

(第 2 章)、様々な SBT 手法の適用の理解(第 3~6 章)、社内の賛同の獲得(第 7 章)、目標と進捗のコ

ミュニケーション(第 8 章)によって構成されている。

マニュアル作成の経緯

本マニュアルは、SBT イニシアチブが調整をおこなった、複数のステークホルダーによるプロセスを経

て作成された。業界や NGO 出身の技術者からなる技術諮問グループが、複数の草案にきめ細かな知見を

提供した。さらに、ベストプラクティスを理解し、実例を紹介するため、SBT を設定済みの企業 20 社超

にインタビューを行った。世界中のステークホルダーから新たな考察を得るため、草稿は意見公募手続

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きで公開した。作成にあたっては、米国のワシントン DC、インドのムンバイ、ブラジルのサンパウロで

ウェビナーや対面でのワークショップも行った。

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2. SBT のためのビジネスケースを理解する

本章では、SBT の設定で企業にどんな恩恵があるのかを見ていく。恣意的な目標や、達成する自信のあ

るもの、あるいは同業他社が行っているものを基にした目標を設定することで事業のメリットが生まれ

ることもあるだろう。そして、SBT によって企業はメリットを最大限に生かし、漸進的な変化以上に前

進することができる。

企業例:ランド・セキュリティーズ

「結局のところ、科学は意味をもたらし、我々の高い目標を現実的なものにしてくれる。

目標はもはや、検討もつかないところから発生した数字ではなくなり、実際問題とつなが

った目標となる。SBT は我々が達成できるものではなく、必要なものを約束させる。そ

ういった意味で、SBT はリーダーシップを示し、長期的な持続可能戦略の「柱」を提供

している。」(ランド・セキュリティーズ エネルギー部門長、トム・ビルネ氏)

表 2-1. SBT を採用するメリット

機会 一般的なプラクティス - 積み上

げ型目標

SBT

企業のレジリエンス

を培い、競争力を高め

る。

積み上げ型目標は、コストの低減

や業務効率の改善につながるが、

企業は容易に手の届く結果だけを

目指すことになるかもしれない。

SBT の設定手法は、経費削

減や座礁資産のリスク回避

以上の様々な機会を生かし

ながら、低炭素経済と事業

との再調整を促す。

イノベーションを推

し進め、事業者のプラ

クティスを変える。

目標設定は、企業やサプライチェ

ーンの事業者が、新たな解決策や

製品をひらめくきっかけとなるこ

とも。積み上げ型目標は短期4目標

で、背伸びしたものではないので、

事業のプラクティスの変化を強要

されることはないだろう。

SBT は長期的視野を含むた

め、短期で一般的な解決策

にとらわれず、考えられる。

新たな技術や資金調達の選

択肢は、低炭素経済のため

の準備を重視した企業環境

で開発される。

信頼及び評判を構築 削減努力を明確にしている企業 SBT はステークホルダーか

4 「短期」は、今後 5 年以内のものとして定義される。

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第 4 版

14

する。 は、気候変動に対処するコミット

メントを示すことで、世論の信頼

を集めるが、昨今、投資家やステ

ークホルダーは外部の、科学的予

測に基づく目標を要求しているた

め、当該要件を欠く企業にとって

はリスクとなりえる。

ら高い信頼を得ている。

SBT を設定した企業は、最

新の参照可能な科学に基づ

いて計画を立てていると示

せるため、長期投資のリス

クが低くなることが多い。

公共政策の変化に影

響を及ぼし、準備を整

える。

積み上げ型目標は、政策立案者に

対して、気候変動に真剣に取り組

むメッセージを送るが、その信憑

性は目標の野心によって抑えられ

る。

SBT によって、政策決定に

影響を及ぼしやすくなり、

政策の変更に適応し、政策

立案者により強いメッセー

ジを送れる。SBT を設定し

ている企業は、政府が気候

関連対策を強化しても、将

来の規制変更に対応しやす

くなる。

企業のレジリエンスを培い、競争力を高める

自社の事業活動とバリューチェーンからの GHG 排出量を削減することにより、企業は低炭素経済にお

いて、レジリエンスや競争力を高められる。より厳しい排出削減を達成することで、特に製造や運搬にか

かるエネルギーコストの経費削減を図り、競争力を伸ばすことができる。また、エネルギー消費が低下す

ると、化石燃料の価格変動に関連するリスクにさらされることが少なくなる。

企業例:P&G イノベーションと省エネを推進する野心的な目標

2014/2015 年度で、プロクター&ギャンブル(P&G)は、基準年の 2010 年から 2020 年まで

にスコープ 1,2 の排出総量から、30%削減を掲げる SBT を設定した。再生可能エネルギー

が、目標を達成するための鍵となるだろう。同社は、テキサス州に 100MW の風力発電所

を建設するために、EDF Renewable Energy と提携。「この発電所は、米国とカナダのファ

ブリック・ホームケア製品全てを生産するのに十分な風力発電を提供するだろう5。」と述べ

ている。これは、年間 200,000 トンの GHG 排出量削減に等しい。

また、従業員にエネルギー節約の新たな方法を見つけるよう促している。同社は、従業員が

省エネや経費節約に関するアイデアを共有するための”Power of 5”と呼ばれるプログラム

を立ち上げた。これまで、同プログラムは、2,500 万ドル超の新たな省エネの機会を作り出

しており、今後 2~3 年をかけて実施される予定である。

5 P&G 社の風力発電所に関する詳細情報は、以下を参照。http://cdn.pg.com/en-us/-

/media/PGCOMUS/Documents/PDF/Sustanability_PDF/sustainability_reports/PG2015SustainabilityReport.pdf?la=en-US&v=1-

201605111505.

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イノベーションを推し進め、事業者のプラクティスを変える

積極的な削減目標は、より大きなイノベーションや投資につながる。野心的な目標は、企業のあらゆる部

署の従業員に、漸進的な変化を超えて考えさせ、企業のプラクティスを真に変えるような意欲を起こさ

せる。

SBT がきっかけとなって生まれたイノベーションは、新たなビジネスモデルや価値の源泉につながる。

イノベーションは、新たな製品、原材料調達の新たな方法、顧客との新たな関わり方、市場拡大の新たな

方法を創出することにより、企業の収益を再定義する一助となる。代わりに、急進的なイノベーション

は、現在の持続可能でない経済システムを破壊する可能性がある。野心的な目標は、インターナルカーボ

ンプライシングや炭素税といった革新的な資金調達のプラクティスも促進することができる。創造的な

資金調達のプラクティスは、野心的な目標の達成に必要となる大規模な資金や研究開発(R&D)投資を可

能にし、このような目標の達成は、収益の改善に結びつく。

企業例:デル 販売された製品やサービスのイノベーション

デルの製品によって使用されるエネルギーは、同社のカーボンフットプリント全体で最も

多くを占めており、製品のエネルギー効率のイノベーションは、排出削減戦略全体の重要な

部分となる。SBT の一環として、デルは 2011 年を基準年として、2020 年までに製品ポー

トフォリオの 80%のエネルギー原単位を削減すると宣言した。この目標を達成するため、

ノートパソコン、デスクトップ、サーバー、ネットワーク機器といった製品ラインナップの

技術にてこ入れした。例えば、同社の次世代ブレードサーバーは、合理化したデータセンタ

ーのような機能があり、通常のデータセンターよりも GHG 排出量ははるかに少ない。顧客

は容量や計算能力を得られ、IT チームは問題から解放され、競合他社の同等製品よりも電

力コストは最大 20%削減される。

「エンジニアはデータが大好きだ。彼らにデータを渡すと対応するだろう。社内で最大のエ

ネルギーフットプリントを見つけて、対処できる。彼らはビジネス戦略目標を実現するため

に、改革を進める手段を持っている。実際、問題を解決したいと思ったら、解決しようとし

ている問題の規模や性質を知る必要があるのだ。情報と見識があれば、何をすべきかおのず

とわかる。」6 (デル主席環境ストラテジスト、ジョン・ヒューガー氏)

企業例:ウォルマート

「人は目の前にあるものが何であれ、最も難しいと感じるが、それは同時に多くの画期的な

イノベーションが起こる場所でもある。SBT は、おそらく私達の具体的な目標の中でも達

成に最も長い期間を必要とするだけでなく、会社として設定する最も積極的で包括的な目

標となる。SBT は、イノベーションを起こすために、私たちやステークホルダーを本気で

6 デル社の SBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-dell/. を参照。

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後押しすることになると思う。」(ウォルマート サステナビリティ部門長、フレッド・ベド

アー氏)

企業例:ケロッグ サプライチェーンのイノベーション

SBT の一環として、ケロッグはスコープ 3 の排出総量を、2015 年を基準年として 2030 年

までに 20%、2050 年までに 50%削減すると宣言した。

これは、ケロッグ初のスコープ 3 の量的目標であり、達成のために同社は、サプライヤー

に働きかけ、基準年の GHG インベントリを作成し、何を変えられるか特定を進めている。

目標を設定して以来、同社は課題や利用可能な選択肢を理解するため、排出量や材料に関す

る CDP の質問書への対応をサプライヤーに奨励し、すでにサプライヤーの 75%(400 社

超)と関わってきた。また、農家のフットプリントを減らす 35 のプログラムを世界各地で

実施しており、排出削減やレジリエンスに焦点をあてたスマート農業のプラクティスを実

施するため、50 万もの農業従事者を支援している。また、研究結果や学んだ教訓をまとめ、

個人農家と共有している7。

従業員や顧客、投資家、その他ステークホルダーとの信頼及び評判を構築する

SBT は、高い目標を設定し、有意義な GHG 排出削減の取組みのための道筋を作るために、厳格で制度

的なアプローチを提示している。気候専門家の外部コミュニティが支援する目標設定は、企業の持続可

能性目標に信用を与え、従業員や顧客、政策立案者、環境団体、その他ステークホルダーの視点から見た

企業の評判を高めることができる。

企業は、投資家から良い評判を得ることにもつながる。ますます多くの投資家が、多くのセクターにおけ

る気候変動の重要性やリスクを認識し始めている。例えば、2010~2019 年で、CDP8を通して気候変動

やエネルギー、排出量データの開示を求める機関投資家の運用の下、資産価格は 50%伸びた(64 兆 US

ドルから 96 兆 US ドルへ)。2016 年時点で、世界の資本保有上位 500 の投資家の 60%が、気候リスクに

さらされることを減らし、低炭素経済への投資を増やす行動を取っている(AODP 2017)。

SBT を設定することで得られる知名度やプラスの評判は、一般的な雇用主の魅力や消費者へのアピール

を拡大させるだろう。例えば、コーン・コミュニケーション社が 2016 年に行った調査では、ミレニアム

世代の 76%が、就職を決める際、企業の社会と環境へのコミットメントを参考にするとしている9。さら

に、消費者の 80%が、出来る限り社会あるいは環境を考慮した製品を購入し、大義のために購入ブラン

ドを変えるという。このような消費者の大多数が、企業にサステナビリティに関するコミットメントの

結果の共有を望んでおり、多くの消費者が、目標に向けた企業のここ 1 年のビジネスプラクティスを調

7 ケロッグ社の SBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-kellogg/ を参照。 8 https://www.cdp.net/en/info/about-us 9 本調査に関する詳しい情報は、http://www.conecomm.com/research-blog/2016-millennial-employee-engagement-study を参照。

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査していた10。

気候リスクや機会への関心を高める投資家

投資界では、気候変動が企業にどのように影響を及ぼすのか、あるいはその企業がリスクを

どのように理解し、対処するのかという点について、気候変動が多くのセクターにおよぼす

重大なリスクが日に日に認識されてきている。投資家の取組み例には以下がある。

・ 4 つの地域の気候変動投資家グループの共同活動である The Global Investors

Coalition on Climate Change (GICCC)は、COP21 で、資産にして 24 兆 US ドル

超となる 409 の投資家に承認された声明を公表した。「気候変動や気候政策によっ

てもたらされるリスクを最小限にとどめ開示し、機会を最大限に活かすために投資

する企業と連携すること」を含め、いくつかの対応策を宣言した11。

・ 非営利団体である Sustainable Accounting Standards Board (SASB)は、米連邦証

券取引委員会(SEC)に提出を義務付けられている財務書類において持続可能性情報

を開示する際の業界基準を設定しようとしている。投資家はこれを利用し、企業に

対して評価や判断ができるようにする。

・ 仏政府は、現在、金融機関に気候リスクの開示を義務付けている。

・ 気候変動に関する 2015 年国連パリ協定は、GHG の排出低減及び気候変動に強靭

な開発を目指す経路に、資金の流れを合わせるよう各国政府に約束させている

(UNFCCC 2015)。

・ 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、投資家及び銀行、保険会社、ステ

ークホルダーに情報を提供する際に、企業が使用する、任意で一貫性のある気候に

関連した金融リスクの開示条項を策定している。

企業例:NRG エネルギー SBT を将来性のあるビジネスに活用

NRG エネルギーは、米国全土のおよそ 300 万の小売業者に電気を提供している。同社は、

2014 年を基準年として、スコープ 1,2,3 の排出総量から 2030 年までに 50%、2050 年まで

に 90%を削減すると宣言した。NRG エネルギーは、米国で環境に優しいエネルギー生産者

の先駆けとなることを視野に、クリーンエネルギーに大きな投資をしている。「SBT の設定

は、自らのフットプリントについて考えている我々の顧客全員のニーズに直接答えました。

これは、我々が、短期的及び中期的、長期的にリスクについて考えていることを知る必要の

ある投資家にとっても大事なことです。」と NRG エネルギー、サステナビリティ部門長の

ローレル・ピーコック氏は語る。「高い目標を掲げることは、私たちが今後とも引き続き信

頼にたる、持続可能で安全なサプライヤーであり続けると示すために重要です12。」

10 本調査に関する詳しい情報は、http://www.conecomm.com/research-blog/2017-csr-study を参照。 11 文書全文は http://investorsonclimatechange.org/portfolio/global-investor-statement-climate-change/. 12 NRG エネルギー社の SBT について、詳しくは https://sciencebasedtargets.org/case-studies-2/case-study-nrg/ を参照。

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企業例:ランド・セキュリティーズ

「目標の認定は間違いなく、私たちの評判と投資家との関係を良いものにしてくれます。長

期的な投資の見通しは、今、一層良くなっています。最新の科学に沿って目標を更新し続け

る限り、私たちの目標は、今後 50 年、投資家の要求に対して私たちの事業を確実なものと

してくれます。サステナビリティチームには、弊社の取組みを尋ねる投資家からの電話が増

えています。自社で SBT の設定を考えている企業もあれば、目標設定を投資する企業の必

須要件に考えている企業もあります。」

「目標は、国の規制に対しても、私たちの立場をよくしてくれると考えています。私たち

は、英政府の現行目標に十分準拠しているので、さらに厳しい規制が導入されても、適合す

ることになるでしょう。実際、今、産業界はサステナビリティに関して政府をリードしてい

ると考えています。私たちは、企業が自分たちで何ができるのかを示していて、他社が弊社

に倣い、基準が高くなるような環境を作れたらと思っています13。」

(ランド・セキュリティーズ エネルギー部門長、トム・ビルネ氏)

公共政策の変化に影響を及ぼし、準備を整える

SBT を設定し、達成することは、企業が、より厳しい排出削減量やエネルギー規制にさらされる負荷を

減らし、日々の事業活動に影響を及ぼし、財務的成長を阻害することもある規制や政策変更にスムーズ

に適応できるようにする。SBT を設定した企業は、気候変動に係る規制が将来より厳しくなった時に、

競合他社より有利な立場に立つだろう。

また、大手企業が SBT を採用し実施することは、政策立案者やその他ステークホルダーに対して、移行

を加速させつつ、低炭素生産の技術的及び経済的実現可能性も示すことになる。SBT を設定した企業は、

低炭素政策への支持を示し、より望ましい政策状況から恩恵を得るであろう低炭素技術の経路や再生可

能エネルギーの解決策への需要を作り出すことで、政策に影響を及ぼすことができる。

企業例:デル

「米ビジネス気候変動対応行動誓約(American Business Acts on Climate Pledge)は、本

当に重要な転換点だったと思います。企業はこのような問題を真剣に見つめ始める必要が

ある、という連邦政府からの大きなサインだったのです。政府は単にルールや文化を設定す

るだけでなく、見込み客でもあります。このような製品を購入することで、低炭素イノベー

ションへの支持を表明することができるのです。そういった意味で、SBT を設定すること

は私たちに有益に働くはずです。」

(デル 主席環境ストラテジスト、ジョン・ピューガー氏)

SBT の設定は、経済成長と反目しない。前述したメリットが示すように、革新的な事業戦略を目指すこ

13 ランド・セキュリティーズ社の SBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-land-securities/.

を参照。

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とは、財務的成功を促進し、低炭素経済で繁栄する準備を整えることができる。企業は、引き続きビジネ

スに資する環境や事業活動の混乱を軽減する環境から、総合的に恩恵を受けるだろう。このような状況

を今後、確実にするために、企業はパリ協定の野心と足並みをそろえた目標を設定する必要がある。

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3. SBT 設定手法

本章では、利用可能な手法と様々なセクターに適する目標設定手法を選ぶガイダンスを提供する。また、

SBT 設定の一般的な方法論のアプローチも説明する。

本章のテーマの詳細な技術的議論は Foundations of Science-based Target Setting を参照のこと。

本章での重要なポイント

・ 現在、3 つの手法が利用可能であり、それぞれが複数のセクターに適用性がある。

すべての手法が全セクターに応用できるわけではない。

・ SBT 設定手法の重要な要素は、炭素予算(2℃を十分に下回る、あるいは 1.5℃に

気温上昇を抑えるために排出可能な GHG 全体量を定義)、排出シナリオ(排出削

減の規模と期間を定義)、配分アプローチ(企業にどれくらいの予算が配分される

かの定義)である。

・ 部門別脱炭素化アプローチ法(SDA)または、排出総量の収縮アプローチのいずれか

の使用が推奨される。スコープ 1、2 の排出量に関して、経済的原単位目標は目標

が気候科学に則り、総量削減につながる場合にのみ、設定されるべきである。

・ 企業は、セクターのリーダーシップを発揮するために、排出量が最も削減される手

法と目標を選ぶべきである。

3.1 利用可能な手法と様々なセクターへの適用性

現在、公に利用可能となっている主な目標設定手法は 3 つある14。本項では、利用可能な手法の概要を説

明し、様々なセクターに対する各手法の適合性を提案する。

Science-Based Target Setting Tool は、ユーザーが様々な手法を使って目標を作成するために利用でき

るものである。このツールは、定期的に更新される。

本章は、各手法のデータのインプットおよびアウトプットについても記述する。手法は使用したインプ

ットに影響を受けやすく、誤りは手法全体に響くため、データはできる限り正確であるべきである。

14 現在利用可能な手法に限らず、今後様々な特定セクターに新たなシナリオや手法が開発されると考えられている。このような情報

は、手法が公式に公開されるか、イニシアチブによって妥当性が確認されてから、SBT イニシアチブのウェブサイトに掲載される。

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利用可能な目標設定手法の概要

利用可能な目標設定手法は 3 つあり、排出総量収縮アプローチ、部門別脱炭素化アプローチ(SDA)、経済

的原単位収縮アプローチである。一般的に、SBT 手法は 3 つの要素から構成される。

1. 炭素予算

2. 排出シナリオ

3. 配分アプローチ:収束または収縮

手法は、上記の要素それぞれにおいて異なる。図 3-1 は、SBT 手法の 3 つの主な要素を説明している。

図 3-1. SBT の設定手法の主な要素

排出総量収縮アプローチ

排出総量収縮アプローチとは、排出総量の収縮を用いて総量目標を設定する手法である。このアプロー

チでは、企業は全て当初の排出実績に関係なく、同率で排出総量を削減する。つまり、排出総量削減目標

は、基準年と比べ、目標年までに大気に放出される GHG 量の削減全体の観点から定義される(例えば、

2018 年水準から 2025 年までに年間の CO2e 排出量を 35%削減)。

2℃を十分に下回るシナリオに則った目標に求められる削減は、最も少なくて毎年の削減量が 2.5%。特

に先進国の企業は、気温上昇を 1.5℃に抑えるシナリオに則る年間削減量が 4.2%の目標を採用するよう

強く推奨されている。

これは目標を設定し、進捗を把握するための簡易でわかりやすい手法で、多くのセクターに応用が可能

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である。表 3-1 では、このアプローチの使用が望ましくないセクターを明示する。

企業のインプット 手法のアウトプット

排出総量収縮

アプローチ

・基準年

・目標年

・スコープ毎に分けられた基準年

の排出量

・基準年と比べ、目標年までに大気

に放出した GHG 総量の削減全て

設定された総量目標の例

・シスコは、2022 年度までに、2007 年度の基準年からスコープ 1,2 の GHG 排出総量を 60%削減する

と宣言した。

・世界的な食品飲料会社であるネスレは、2014~2020 年までにスコープ 1,2 の GHG 排出総量の 12%削

減を約束した。

部門別脱炭素化アプローチ (SDA)

SDA は、排出原単位の収束を用いて物理的原単位目標を設定する手法である。原単位目標は、企業の生

産量(例、製造トン製品当たりの tCO2e)のような、特定の事業指標に対する排出量の削減によって定

義される。SDA は 2060 年までに重要なセクターの排出量原単位が世界的に収束することを前提として

いる。例えば、中国、米国、ブラジルの鉄鋼生産の排出原単位は、現在の違いに関わらず、2060 年まで

に同水準となることが想定されている15。地域の経路は、この手法に組み込まれていない。

SDA は、2017 年の IEA Energy Technology Perspective (ETP)報告書にある B2DS (Beyond 2℃

Scenario)を用いている。これは、気温上昇を 2℃を十分に下回る水準に抑えることと合致したセクター

経路を計算するために用いた排出量と活動量の予測から構成されている(IEA2017)。IEA から 1.5℃シナ

リオデータが公開されていないため、SBT イニシアチブでは現在 1.5℃目標の SDA の選択肢を提供して

いない。

現在、SDA 手法は、以下の単一、かつエネルギー多消費業界に、セクター別の経路を提供している16。

現在、Science-Based Target Setting Tool で利用可能なセクター:

・電力発電

・鉄鋼

・アルミニウム

・セメント

15 各セクターの予算は、セクターの活動量の合計が(単一セクターの)シナリオで予測されている量を超えず、新規事業が生まれない

範囲で保たれる。 16 SDA のセクターは、国際エネルギー機関(IEA)から引用している。SDA のユーザーガイダンスの附属書で、共通の産業分類システム

について IEA のセクターを示している。

http://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2015/05/Sectoral-Decarbonization-Approach-Report.pdf.

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・紙/パルプ

・サービス/商業ビル

現在、SDA Transport Tool で利用可能なセクター:

・旅客/貨物輸送

目標の排出原単位は、企業の基準年排出原単位や予想される活動量の伸び、セクターの予算によって変

わる。企業は、目標年の原単位を計算するために関連する SDA 経路を利用できる。SDA 手法はスコー

プ 1 及び 2 を対象としていて、その他のスコープ 3 カテゴリに対する適用性は限られている(第 6 章を

参照)。

SDA に特化した以前の Target setting tool では、上述した以外のセクターを対象とする一般的な「その

他産業」カテゴリに SBT を算定していた。このカテゴリには、建設産業や製造業(食品・飲料、電子機

器、機械等)が含まれていた。新しい Science-Based Target Setting Tool ではこの「その他産業」の経

路は使用不可となっている点に留意いただきたい。該当するセクターの企業は、目標の設定に排出総量

収縮アプローチを使用するべきである(詳しいガイダンスは以下の「その他目標の策定法」の項を参照)。

企業のインプット 手法のアウトプット

部門別脱炭素化アプローチ

(SDA)

・基準年

・目標年

・スコープ毎に分けられた

基準年排出量

・基準年の活動量のレベル

(建物の床面積、移動した

距離等)

・目標年までの活動量の予

測変化

当該企業の特定の生産量に

対する排出量の減少(MWh

当たりのトン CO2e)

SDA を使って設定された物理的原単位目標の例:

・イタリアの電力・ガスの製造・販売多国籍企業 Enel は、2007 年を基準年とし、2020 年までに 1kWh

当たり CO2 排出量を 25%減らすと宣言した。

・欧州の不動産運営会社 Covivio は、2017 年の基準年から 2030 年までにスコープ 1 及び 2 の GHG 排

出量を 1 平方メートル当たり 35%削減することを約束した。

経済的原単位収縮アプローチ

付加価値当たり GHG 排出量(GEVA)は、経済的原単位の収縮を利用して経済的原単位目標を設定する手

法である。GEVA 手法を用いて設定した目標は、1 ドルの付加価値当たりの tCO2e の原単位削減によっ

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て策定される17。GEVA 手法では、企業は GEVA を年率 7%削減するよう求められる(同率削減)。前年

比 7%の削減率は、2010 年水準から 2050 年までに 75%の排出総量削減に基づいている。近年の経済予

測とこれまでの排出量推定に基づき、年率 7%は、以下に説明のある理想的な状況(ETP2017; SBTi2019)

の下で、信頼度の高い IPCC (RCP2.6)の経路と大まかに合うものとなっており、その野心は、IEA の 2℃

シナリオ及び Beyond 2℃シナリオ経路の中間にある。

総量収縮アプローチや SDA 手法と違い、GEVA は世界の排出量予算を個々の企業の付加価値の成長が、

基本となる経済予測と同等か、それ以下となる範囲で保っている。企業やセクターの差別化された成長

は GEVA(や他の経済的原単位目標設定手法)によって、釣り合いがとれるわけではない。しかも、現在

受け入れられている GEVA の数値は、全ての企業が GDP と同率で成長し、GDP 成長が正確にわかると

いう理想的な状況によって決まる。このような理由から、また経済指標の脆弱性のため、経済的原単位目

標設定手法は、総量手法や物理的原単位手法よりも弱いものと考えられる。

重要な注記:SBTi の認定基準では、GEVA を使ったスコープ 1 および 2 目標は、2℃を

十分に下回るシナリオおよび 1.5℃シナリオに沿った排出総量の削減につながる場合に

のみ、認められる。従って、GEVA はスコープ 3 の目標設定に適用しやすい(スコープ 3

の目標設定に関する詳しいガイダンスは第 8 章を参照)。

企業のインプット 手法のアウトプット

付加価値当たり GHG 排出

量(GEVA)

・基準年

・目標年

・スコープ毎に分けられた

基準年排出量

・基準年の付加価値

・目標年までの付加価値の

変化予測

当該企業の業績に対する排

出量削減(付加価値当たり

の tCO2e など)

GEVA を使って設定された経済的原単位目標の例:

・屋外電機製品メーカーの Husqvarna Group AB は、2015 年の基準年から 2020 年までにスコープ 1 及

び 2 の排出量を付加価値単位当たり 30%削減すると宣言した。

その他目標の策定法

報告やコミュニケーションの好みに応じて、企業は手法毎に目標のフォーマットアウトプットを使用し

たり、他のフォーマットに変更したりすることができる(例えば、生産データを使って総量目標を原単位

目標に変えるなど)。企業は、目標を策定するために、企業のプロフィールを最も代表する経済的指標を

使うか、物理的指標を使うかを選ぶことができる。例えば、セクター別の経路がまだ利用できないセクタ

17 付加価値は、GEVA の適用にのみ認められる経済指標であることに注意。

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ーの企業は、自社の主要製品の生産量を基に原単位目標を設定できる。そのような目標策定では、排出総

量削減が、総量収縮アプローチに則っていることを確実にする必要がある。

その他目標の策定法を使って設定された目標の例:

・世界的なビール企業のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社は、2017 年の基準年から 2025 年までに

バリューチェーン上の排出量を飲料毎に 25%削減する(スコープ 1,2,3)と約束した。

手法の各セクターへの適合性

上述の 3 つの手法は各々1 つ以上のセクターに適用できる一方、全ての手法が全てのセクターに適用可

能というわけではない。表 3-1 では、特定の手法が特定のセクターに使用されることが望ましい時を推

奨している。

表 3-1. スコープ 1,2,3 目標に対する手法の各セクターへの適合性

スコープ 3 目標の設定に関するガイダンスは第 6 章を参照。

注記:SBTi の認定基準で特定の手法が要求されている場合、アスタリスク(*)や「~しなければならない」

という言葉を使用している。

セクター スコープ 1,2 目標設定に適切な手法

特定セクターのスコープ 3 目標の仕様

セクター別手法の策定中

発電 SDA

発電会社は、少なくとも SDA で定められる

目標と同じくらい野心的なスコープ 1 目標

を設定しなければならない。電力セクター

は世界で GHG を最も多く排出しており、

他の手法で過少評価される量を費用効率の

高い方法で削減することができるため。*

石油/ガス 石油/ガス企業のセクター別目標設定手法

は現在策定中。

その間、目標の妥当性を確認する選択肢に

ついて SBTi に問い合わせることも可。

天然ガスまたはその他化石燃料製品の販売

または輸送、流通(スコープ 3、カテゴリ 11

スコープ 3 目標は、当該企業のスコープ

1,2,3 の排出合計に対するスコープ 3 の排

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26

「販売した製品の使用」)に関わる企業全て

18

ガスネットワークの所有者や運用者は、販

売したガスからの排出量に係るスコープ 3

「販売した製品の使用」に対処するため、

定量化し、目標を設定しなければならない。

現在、当該項目が GHG プロトコル算定基

準では任意となっている場合でもそうであ

る。

出量の割合に関係なく、2℃を十分に下回る

シナリオ(年 2.5%の同量削減)と一致した

排出総量収縮または原単位目標を用い、ス

コープ 3「販売した製品の使用」を設定しな

ければならない。*19

鉄鋼 総量収縮に沿った SDA あるいは総量/原単

位目標 セメント

パルプ/紙

アルミニウム 排出総量収縮に沿った SDA あるいは総量/

原単位目標で、公式な妥当性確認に目標を

提出できる。

SBTi は、アルミニウムセクターに特化した

ツールやガイダンスの策定の基盤も作成

中。

輸送サービス 輸送活動(スコープ

1,2 及び/または 3)

・ 旅客

・ 貨物

SDA Transport tool または総量収縮に沿っ

た総量/原単位目標

注1. SDA Transport tool で対象となる

輸送サブセクターの説明を得る、ま

た活動の目標設定のベストプラク

ティスを知るには、SBTi 輸送ガイ

ダンスを参照のこと。

注2. SDA Transport tool は排出総量収

縮法を基に空輸(旅客と貨物)と海

運輸送に経路を提供している。

自動車の相手先ブラ

ンド名製造(OEM)

スコープ 3、カテゴ

リ 11「販売した製品

の使用」

スコープ 3「販売した製品の使用」に関して

OEM で設定される目標は、販売された車両

のWell-to-Wheel (油井から走行に至るまで

18 このような企業の例として、石油製品、天然ガス、石炭、生物燃料、原油の小売業者がある。定義は GHG プロトコル企業のバリュ

ーチェーン(スコープ 3)算定報告基準による。 19 これは SBTi 認定基準第 4 版での要件となっている点を留意いただきたい。認定基準第 3 版では、天然ガス/化石燃料の販売または輸

送、流通に関するバリューチェーンの活動がある電力セクターの企業を、当該活動が企業収益の五割を超える場合、現在策定中の石油/

ガスセクターの要件の下でこのような企業の GHG 排出削減要件が明確化されるまで、評価していない。活動が収益の五割未満となる場

合は、2℃シナリオ(年 1.23%の同量削減)に沿って排出総量収縮アプローチにて目標を設定することができる。

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・乗客

・貨物

に係る)排出量を網羅する SDA Transport

tool に定められる最低限の野心の水準に見

合わなければならない。*

サービス/商業ビル 商業/小売 総量収縮に沿った SDA あるいは総量/原単

位目標

金融機関

食品と宿泊施設

教育

不動産

行政機関

健康

金融機関 スコープ 3、カテゴ

リ 15「投資」

金融機関がパリ協定に則った気候安定化経

路に投資と債権のポートフォリオを一致さ

せるための目標設定手法を策定中。スコー

プ 1,2 目標のみ事前妥当性確認に提出可。

化学製品及び石油化学製品産業 総量収縮法に沿った総量/原単位目標で目

標を公式の妥当性確認に提出可。

SDA toolの化学セクター経路は現在使用不

可。セクター別ガイドラインを策定中。

その他産業 建設業 総量収縮法に則った総量/原単位目標

注1. アパレルと靴のバリューチェーン

上の企業は、目標設定の際、詳しい

ガイダンスを記した Apparel and

Footwear sector SBT guidance を

利用可能になれば確認すべきであ

る。

注2. SDA に特化した以前の目標設定ツ

ールの「その他産業」の経路は無効

となった。該当するセクターの企業

は、排出総量収縮アプローチを使っ

て目標を設定すべきである。

鉱業と採石業

以下の製造業

革及び革関連製品

織物

衣類

飲料

コンピューター、電

子、光学機器

電気機器

組立金属製品

食品

家具

機械、機器

その他非金属鉱物製

ゴム /プラスチック

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製品

たばこ

木製及びコルク製品

非鉄金属基幹産業

その他製造加工

二つ以上のセクターで事業を行っている企業の場合、事業の大部分を占める最も大きなセクターを特定

するべきである。このようなセクターに適用する手法は、合算した最終目標を決定するための基準とし

て使用することができる。例えば、ある企業はアルミニウムのセクターで事業を行っており、アルミの生

産を支えるために、発電事業を行うかもしれない。この場合、当該企業は SDA でアルミニウムと発電セ

クターの二つの経路を使用し、二つの異なる目標を設定できる。同様に、企業は、スコープ 3 排出量の異

なるカテゴリに、複数の手法を使用できる。目標の進捗確認や目標達成に向けた取り組みを容易にする

ために、地域、セクター、施設、排出量のカテゴリ毎に個別の社内目標が立てられることがあるものの、

外部への報告及びコミュニケーションのため、全組織に適用する合算した目標を作成することが望まし

い。

3.2 SBT 手法を選択する際の推奨事項

可能であれば、部門別脱炭素化アプローチ(SDA)あるいは排出総量収縮法のいずれかを用いることが望

ましい。

経済的収縮法は、経済的原単位目標(GEVA の使用等)を設定するために使用されることもある。一般的に、

スコープ 1 及び 2 の原単位目標は、排出総量収縮アプローチに則っているか、全体としてセクターの排

出削減を確実にするセクター別の経路(SDA 等)を使用してモデル化される場合にのみ、設定されるこ

とが望ましい。

企業は最も野心的な目標を選ぶべきである

異なる手法によって作られたある企業の目標の野心に、ばらつきが見られることがあるだろう。これは、

目標の策定の違い、並びに論拠とする削減経路自体のばらつきのためである。例えば、SBT イニシアチ

ブが定めた 1.5℃シナリオの限界許容範囲のシナリオには、(2020~2035 年の)年間削減量に 4.2~6%

の違いがある。さらに、SDA でセクターに求められている野心の最低限の水準は、程度の差はあるもの

の、2℃を十分に下回る目標の総量収縮率よりも高いだろう。

確実に炭素予算を順守するために、企業は最も早い削減と最も少ない累積排出量となる最も野心的な脱

炭素化シナリオと手法を用いるべきである。手法をいくつか検討し、セクターのリーダーシップを発揮

するため排出削減を最も推し進める手法と目標を選ぶべきである。手法の選択は、基準年と目標年のイ

ンプットデータの利用可能性といった、実務的な検討事項にも左右されるだろう。

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3.3 種類の異なる目標のメリットとデメリット

総量目標と原単位目標を比較する

どちらの目標にも長所と短所がある。原単位目標は必ずしも排出総量の削減につながらない。生産量が

増えると、たとえ単位基準当たりの効率がよくなったとしても、排出総量の増加をもたらすことがある

からである。(図 3-2 で説明)。

図 3-2. 原単位削減目標は、生産レベルが上がった時に排出総量の増加につながる。

総量目標にも、欠点がある。同業者間での GHG インベントリの比較ができず、報告された削減量は、排

出量の改善というよりも、生産量の減少に起因することがあるため、必ずしも効率の改善を示さないこ

とである。

企業は、総量と原単位、双方で目標を示すことが推奨される。

(総量及び原単位)目標の組み合わせの例

・ スコープ 1,2,3:コカ・コーラ社は、2007 年を基準年として、2020 年までに中核となる事業運

営から GHG 排出総量を 50%削減すると宣言した。また、2007 年の基準年から 2020 年までに

飲料部門から GHG 排出量を 33%削減すると約束した。

・ スコープ 1,2,3:欧州不動産運営会社 Covivio は、2017 年の基準年から 2030 年までにスコープ

1 及び 2 の GHG 排出量を 1 平方メートル当たり 35%削減することを約束した。2010 年の基準

年から 2030 年までに、スコープ 1,2,3 の GHG 排出量を 1 平方メートル当たり 34%削減するこ

とも宣言している。

物理的原単位目標と経済的原単位目標の比較

物理的原単位目標と経済的原単位目標にも、独自の強みと限界がある。物理的原単位指標(トン製品当た

りの tGHG あるいは発電した MWh 当たりの tGHG 等)は、統一された製品を作るセクター(鉄やセメ

ントセクターなど)での使用に最も適していて、多様な製品を製造する企業にはあまり適さないだろう。

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一般的に、経済的原単位指標(付加価値単位当たり tGHG 等)は、製品が大きく異なり、各々を直接比

較することが難しいセクターでの使用に最も適している(小売や化学製品セクターなど)。

経済的原単位目標は、時間と共に製品価格の変動があまりないセクターに適しているだろう。そのよう

なセクターでの排出量の増加は、企業の業績の伸びに結びつくことが多い。つまり、製品がたくさん売れ

れば、製品を生産するために排出量は増加する。

しかし、セクターによっては、業績の伸びが、排出増加と結びついておらず、需要と供給、価格変動とい

った他の市場原理に影響される。そのような場合、経済的指標は排出実績の把握に有効でない。企業は、

総量収縮を用いるか、排出総量の収縮に則った原単位目標を策定するべきである。

価格変動のあるセクターの例:

・製薬会社の特定の薬の価格は、需要や特許、規制要因に基づいて変動することがある。

・高級ブランド企業の付加価値(あるいは粗利益)は、マーケティングや高価な商品を購入する消費者意

欲に関連づけられ、価格に変動性をもたらす。

・多くの商品の価格(鉄や農産物など)は、商品取引所での売買で決定される。

表 3-2 に、この三種類の目標の主なメリットとデメリットをまとめる。

表 3-2. 排出総量目標、物理的原単位目標、経済的原単位目標の主なメリットとデメリット

排出総量目標 物理的原単位目標 経済的原単位目標

大気に放出される GHG

を具体量減らすよう設計

目標のコミュニケーショ

ンのために力強い野心を

示す

GHG排出量全体から具体

量を削減させる誓約を伴

うため、環境面で確実であ

り、ステークホルダーから

も、信頼が厚い。世界の排

出削減取組に対する貢献

度を予測でき、透明性が高

事業の浮沈と関係なく、

GHG排出量の実績及び効

率の改善を反映する

排出削減戦略や社内の進

捗把握と合致できる

企業同士で GHG 排出量

実績の比較可能性が増す

こともある(使用されてい

るインベントリ統合のア

プローチが同じで、製品構

成が非常に類似している

ことが前提)

多様な製品やサービスを

提供する企業に最適

成長の早い企業向き

企業同士での GHG 原単 原単位が減少しても排出 経済指標の変動性や「理想

メリット

デメリット

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第 4 版

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位や効率の比較が難しい

報告削減量は、パフォーマ

ンスの改善より生産/産出

量の減少に起因すること

がある

業績が伸び、成長率が

GHG排出量と関連してい

れば、目標の達成が厳しく

なることもある

総量は増えることがある

ため、環境面で確実ではな

く、ステークホルダーから

の信頼も薄い(例えば、

GHG原単位の減少以上に

生産量が増えるため)

多様な事業を展開する企

業は、一つの物理的原単位

を共通事業指標として定

義することが難しいこと

もある

的な」状況に基づいた手法

のため、環境面で確実でな

ある年に財務損失があれ

ば、目標進捗の把握は難し

くなる

物理的生産プロセスに結

びついた排出量と相関し

ないこともある(特に価格

変動が多いセクターには)

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4. SBT の設定:全スコープの主な検討事項

重要な注記:本マニュアルは、SBT イニシアチブの目標妥当性認定基準に直接関連付け

られていない。従って、第 4~6 章は、SBTi の認定基準と推奨事項を単にベストプラクテ

ィスとして組み入れている。必ずしも SBTi の認定基準を要件として説明していない。

SBTi の妥当性確認のために目標の提出を準備する際には、SBTi の認定基準(第 3 版ま

たは 4 版20)や Target Validation Protocol を閲覧するべきである。SBT は、企業の GHG

インベントリを踏まえているため、これらの章ではインベントリ開発のための GHG プ

ロトコル基準の関連要件にも言及する。

企業は常に、スコープ 1,2 の排出量に対して SBT を設定すべきである。スコープ 3 の排出量がスコープ

1,2,3 排出量全体の大部分を占める場合は、スコープ 3 の目標も設定したいと考えるかもしれない21。ス

コープに関わらず、重要な検討事項を通して、目標の構成や目標に適応される削減の種類がわかる。

本章での重要なポイント

・SBT は、イニシアチブに公式の妥当性確認のために提出した日から、最短 5 年、最

長 15 年を網羅することが望ましい(サプライヤーエンゲージメント目標は例外)。

企業には、長期目標(2050 年までの目標など)を策定することも奨励されている。

・SBT のバウンダリは、GHG インベントリのバウンダリと一致するべきである。

・オフセットや削減貢献量は、SBT にカウントされるべきでない。

4.1 分野横断的な検討事項

基準年の選択

取組期間中、排出実績を有意義で、一貫性を持って把握するために、基準年を設定する必要がある。

基準年を選択するためには、3 つの検討事項が重要である。

20 SBTi 認定基準第 4 版は、2019 年 10 月 15 日に発効となる。2019 年 10 月 15 日以前に SBTi が受領した目標は全て、認定基準第 3

版または 4 版に則って評価される。 21 SBTi の目標妥当性認定基準は、スコープ 3 の排出量が排出量全体の 40%を超えたときにスコープ 3 目標を設定するよう求めてい

る。

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第 4 版

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一つ目に、スコープ 1,2,3 排出量の検証可能なデータが基準年にあることで、データは利用可能な直近年

を基準年として選ぶことが推奨される。

二つ目に、基準年は企業の典型的な GHG 情報を代表しているものであるべきである。経年的にインベン

トリと事業の活動水準を比較することで、代表的なものであるかを検証できる。代表的な一年を特定す

ることが難しい場合は、排出量の異常な変動を除いた代表的な基本期間を設定するため、代わりに連続

した数年の GHG データを平均化することが望ましい。例えば、気候が異常だった年(例えば、2017 年)、

農業生産者の排出量は変化するだろう。この場合、当該企業は 2016 年から 2018 年の排出量の平均をと

ることができる。こうすると、目標は「2025 年までに、2016 年から 2018 年期の平均排出量から 40%

削減する」となる。

三つ目に、目標が今後の野心を高く持つよう、基準年を選ぶべきである。企業のこれまでの進捗は高く評

価されるが、イニシアチブの目的は、まだ達成していない活動を推進し、すでに実績のある企業が今より

もさらに高い目標を目指すよう後押しすることである。SBTi は、過去の実績を除いた今後の野心を評価

するために、目標がイニシアチブに提出された年(あるいは直近で GHG インベントリを完了した年)を

使用する。

最後に、持続的に SBT の妥当性を確保するために、様々な要因が基準年のインベントリ(及び SBT 全

体)の再計算を必要とするだろう。この点についての詳しいガイダンスは第 8 章を参照のこと。

目標年の選択

気候変動の影響は、今後長期に及ぶだろう。長期的な SBT の設定(例えば、2040 年あるいは 2050 年ま

で)は、気候変動に関連する長期的なリスクと機会を管理する計画を促進する。これには、新たなサービ

スや市場の創出、GHG 排出量削減の利点を提供する大規模な設備投資のニーズが含まれるだろう。しか

し、長期目標だけでは、多くの企業が定めた目標範囲に合わず、のちに非効率的な設備を段階的に廃止す

ることも求められるかもしれない。中期的な目標(今後 5~15 年の目標)は、排出削減の非効率性や機

会を特定するために有益である。

企業は、認定を受けるために目標を提出した日から、最短 5 年、最長 15 年を範囲とする目標を設定する

べきである22。

また、この期間以上の長期的な目標を定め、5 年間隔で中間的な節目を設けることが推奨される。中間目

標と長期目標を含め、すべての目標は、産業革命以前の気温と比べ、地球の気温上昇を 1.5℃あるいは、

最低でも 2℃を十分に下回るように抑えるために必要な脱炭素の水準と合致するべきである。

22 SBTi の妥当性確認のために、ある年の上半期に(例えば、6 月の末までに)目標が提出されると、目標達成までの期間には提出し

た年を含む。下半期に提出されれば、目標達成期間の開始は翌年の初頭となる。例えば、2019 年上半期に提出された目標の有効目標達

成年は、2023 年から 2033 年を含む。2019 年下半期に提出されれば、2024 年から 2034 年の間でなければならない。

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1 つ以上の目標が設定された場合、中期目標の取組期間の目標全て、および長期目標の取組期間の目標全

てに同じ基準年と目標年を使用するべきである。共通の目標期間は、データの把握や目標に関するコミ

ュニケーションを簡略化するだろう。しかし、バリューチェーンのデータの入手が難しいときは、スコー

プ 1,2 目標がスコープ 3 目標の基準年と異なっていても認められる。

企業の取組み:短期及び長期目標を策定し、コミュニケーションする

・ファイザーは、2℃の経路にとどまるために、2000 年の排出水準から 2050 年までに

自社の排出量を 60~80%削減する必要があると判断。そのためには、2012 年水準か

ら 2020 年までに 20%削減する必要があった。2050 年目標だけでは、取組期間が長

く、不確実なため、厳しいだろう。そこで同社は、短期(2020 年)目標を使用する

が、2050 年目標を目指す軌道にあることをはっきりとコミュニケーションした。

・ネスレは、2050 年目標に照準を合わせた 2020 年のコミットメントを策定。短期目

標には大きな意味があり、2020 年にも同社に在籍し、責任感を感じるだろう従業員

に当事者意識を持たせると考えている。

・マースは、2025 年、2040 年の二つの目標を掲げており、現在実施している効率化推

進活動を念頭に年間 3%削減に基準を合わせている。短期目標は大きな説明責任が伴

うと考えているが、長期目標は、短期戦略が 2025 年以降の低炭素経路から逸脱する

投資や決定に走らないことを確かにしている、

目標のバウンダリは GHG インベントリのバウンダリと確実に一致させる

GHG プロトコルは、企業の GHG インベントリの組織的なバウンダリを決定するため、3 つの異なるア

プローチを定義している。

1. 経営支配:経営方針を導入し、実行する完全な権限を持つ事業活動からの排出量を 100%算定する。

権益は持つものの、経営支配を持たない事業活動からの排出量は算定しない。

2. 財務支配:財務及び事業活動から経済的利点を得る目的で、指揮できる当該事業活動からの排出量を

100%算定する。

3. 出資比率:事業活動の出資比率に沿って事業活動からの GHG 排出量を算定する。出資比率は経済的

利益を表し、事業活動から生じるリスクや報酬に対して持つ権利の範囲を指す。

企業は SBT のバウンダリと GHG インベントリのバウンダリを一致させることが望ましい。そのために

インベントリと SBT に、企業特有の様々な検討事項を基に一つのアプローチを選択し、そのアプローチ

を企業構造全体に一貫性をもって適用しなければならない。GHG プロトコルコーポレートスタンダード

(WRI&WBCSD 2004)で詳しいガイダンスを提供している。

また、SBT とインベントリが、UNFCCC/京都議定書で対象となっている 7 種類の GHG あるいは GHG

類に関連する排出量全てを網羅するようにしなければならない。GHG とは、二酸化炭素(CO2)、メタン

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第 4 版

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(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、六フ

ッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)をいう。

子会社の対応法を決定する

複合的事業関係(子会社、共同ベンチャー等)は、GHG インベントリと目標のバウンダリの引き方を複

雑にする。親会社は選択した組織のバウンダリのアプローチに則って、子会社に SBT を設定することが

望ましい23。組織のバウンダリのアプローチによって認められた時、親会社が子会社の事業活動に SBT

を設定することが望ましい。しかし、子会社が事業的及び経営的独立性を持っている場合、直接、目標を

設定することは認められる。親会社と子会社がどちらも SBT を設定した場合は、目標が重複しないよう

コミュニケーションを慎重に行わなければならない。

タリス:子会社の目標を設定する

鉄道の世界大手タリスは、フランス国鉄(SNCF)、ベルギー国鉄(SNCB)、ドイツ鉄道によ

って設立された。SNCF が一部出資しているものの、経営は独立している。同社は、2008

年を基準年として、2020 年までにスコープ 1,2,3 の GHG 排出量を人キロ当たり 41.4%

削減する SBT を設定している。SNCF も SBT の設定を宣言したが、タリスの土地の一

部に管理義務を有するため、同社の目標と SNCF の新たな目標は区別しなければならな

い。24

合算したスコープの目標に必要な野心の水準に注意する

企業はスコープを合算した目標を設定してもよい(例えば、スコープ 1+2 またはスコープ 1+2+3 目標)。

スコープ 1と 2を合算した目標やスコープ 1,2,3を合わせた目標は、2℃を十分に下回るシナリオに則る、

スコープ 1 と 2 の排出削減量の統合につながるべきである。

スコープ 1+2+3 を合算した目標

SBT イニシアチブは、スコープ 1,2 部分の排出量が 1.5℃あるいは 2℃を十分に下回るシ

ナリオに合致し、かつスコープ 3 の排出削減がある一定の野心的な認定基準(第 6 章を

参照)を満たす限り、1.5℃あるいは 2℃を十分に下回るシナリオに則るスコープ 1,2,3 の

合算した目標を認定する。

スコープ 1+2+3 の合算目標で認定された例:

・世界的なコンサルティング会社アクセンチュアは、2016 年の基準年から 2025 年まで

にスコープ 1,2,3 の GHG 排出総量を 11%削減すると誓った。

この目標には、スコープ 1,2 排出量の 65%削減が含まれる。これは今後毎年 7.22%ずつ

23 詳細は GHG プロトコルコーポレートスタンダードの p.19 を参照 24 タリスの目標について詳しくは、http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-thalys/を参照

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削減することを意味し、削減量は 2℃シナリオに一致する目標で求められる最低限の削減

量を上回る25。スコープ 1+2+3 の合算目標では、今後の削減が 1.23%となり、これも 2℃

シナリオと合致している。

オフセットの使用を除外する

オフセットは、他の場所で GHG 排出量を補完するために使用された別の GHG 削減量である。オフセッ

トを生む緩和プロジェクトがなかった場合に排出量がどのようになっていたか、という仮説的シナリオ

を表すベースラインと比較して算定される。

オフセットは SBT を達成するための削減に含まれるべきでない。そうではなく、自社の事業活動、ある

いはバリューチェーン内の直接活動から生じる削減量を算定すべきである。しかし、SBT 以上にさらに

排出削減量を調達したいと考えている企業にとっては、選択肢として有効だろう。

削減貢献量を除外する

ある企業の製品が同等の機能を提供する他社製品と比べて、ライフサイクルの GHG 排出量が低ければ、

排出量を回避したことになる。この削減貢献(回避)量は、製品のライフサイクルインベントリの範囲外、

つまり企業のスコープ 1,2,3 のインベントリの範囲外で起こる。例えば、ある企業が、市場で販売されて

いる比較可能なモデルよりも、よりエネルギー効率の高い電化製品を製造するかもしれない。この場合、

当該製品は使用段階で排出量を回避するが、このメリットはライフサイクルインベントリ内には含まれ

ない。

企業の GHG インベントリと削減貢献量の算定に異なる手法が使用されるため、削減貢献量はスコープ

1,2,3 の排出量とわけて報告されなければならず、スコープ 3 目標を含め、SBT に算入するべきでない

26。

間接使用段階からの排出にどう対応するかを決める

間接使用段階からの排出は、予測されるライフタイムの使用段階でエネルギーを間接的にしか消費しな

い製品から発生する。例えば、衣服の洗濯や染色、食料品の調理や冷蔵がこれに該当する27。間接使用段

階からの排出が多ければ、この排出量を算定し、削減するための対応を取ることもできる28。

第三者レビューを確保する

25 アクセンチュアは、最低限の野心に 2℃目標を設定していた、以前のバージョンの認定基準の下で認定されたことを留意いただきた

い。

26 削減貢献量に関しては、https://www.wri.org/publication/estimating-and-reporting-comparative-emissions-impacts-products を参

照。 27 詳しい情報は企業のバリューチェーン(スコープ 3)算定報告基準 the Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting

Standard の p.38 を参照。 28 SBTi の認定基準では、間接使用段階からの排出量をスコープ 3 インベントリに含むのは任意となっている。2/3 バウンダリにも含め

ないことを求めている。

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37

企業は SBT イニシアチブの Call to Action キャンペーンを通して、自社目標の妥当性を確認することが

できる。Call to Action キャンペーンは、選んだ SBT 手法と本マニュアルの推奨事項に、目標が一致し

ていることを確認する詳細な技術評価を提供している。企業はそのような第三者レビューについて公式

のコミュニケーションで言及できる。また、排出インベントリの第三者検証を受けることもできる。

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38

5. SBT の設定:スコープ1及び 2 の排出源

本章での重要なポイント

・ SBT は、全社的なスコープ 1,2 排出量の少なくとも 95%を網羅することが望まし

い。

・ バイオマスの燃焼による CO2、CH4 及び N2O の直接排出量は、目標のバウンダリ

に含むことが望ましい。

・ SBT の設定及び進捗を把握するため、一つの特定のスコープ 2 算定アプローチ(「ロ

ケーション基準」あるいは「マーケット基準」)を使用するべきである。

・ 科学と整合していれば、代替方法として再生可能エネルギー調達目標を設定するこ

とができる。再エネ調達目標を設定した企業は、別の目標をたて、スコープ 1 排出

量に対応する必要があるだろう。

・ スコープ 1,2 排出源からの削減は、最低でも 2℃を十分に下回る脱炭素経路と一致す

ることが望ましい。スコープ 1,2 の目標には 1.5℃目標への取組みが推奨される。

・ SBT を設定する際、セクター独自の要件や推奨事項に直面するかもしれない。

5.1 一般的検討事項

目標バウンダリの設定

SBT は、あるスコープの合計が他と比べ、重要でないように見えたとしても、全社的なスコープ 1 及び

2 の排出量を網羅するべきである。これは、SBT が変化するエネルギー源のリスクと機会をとらえるこ

とを確実にするためである。通常、インベントリと目標から排除するのは、スコープ 1 及び 2 を合わせ

た排出量の 5%未満とするべきである。

多くの企業にとって、バイオマスに関連する排出量は大きい。バイオマス燃焼と生分解からの CO2 の直

接排出量、ならびにバイオエネルギー原料に関連する GHG 吸収量は、GHG インベントリの範囲外で報

告されるが、SBT を設定する際、及び目標に対する進捗を報告する際はいずれも、目標バウンダリに含

めるべきである29。バイオエネルギー原料に関連のない GHG 吸収量は、SBT の進捗としたり、インベン

トリの実質排出量として算入したりするべきではない。バイオ燃料とバイオマス燃焼に関連する CH4 と

N2O の排出量は、関連するスコープの下で報告されるべきである。

29 SBTi の目標妥当性確認に非バイオエネルギー関連の生物起源排出量の報告は不要。

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第 4 版

39

同様に、土地利用変化からの CO2 排出量は、対象範囲外で報告されるが、可能であればこれらの排出量

を目標バウンダリに含むことが推奨される。土地利用変化、並びにバイオエネルギー関連の排出量や吸

収量を計算する手法は多様なため、企業は合意した手法が利用可能となった時、使用した手法を開示し、

排出量を再計算することが望ましい。

概して、特定の事業活動と排出源を除外したか、除外した場合、その理由を開示することが望ましい(第

8 章を参照)。

スコープ 2 排出量の算定

スコープ 2 目標の設定や進捗の把握には、固有の検討事項が伴う。

SBT の達成のために再生可能エネルギーを使用する

GHG プロトコルスコープ 2 ガイダンス(WRI&WBCSD, 2015)は、再生可能エネルギーとその他の形態

のエネルギーの購入によるスコープ 2 排出量を計算するため、2 つのアプローチを定義している。

・ 「ロケーション基準」のアプローチは、エネルギー消費が発生し、主にグリッド平均の排出係数を使

用する送電網の平均排出原単位を反映するよう設計されている。

・ 対照的に、「マーケット基準」アプローチは、企業が目的を持って選んだ、差別化された電力メニュ

ーの排出影響を反映させる意図がある(例えば、サプライヤー特有の排出割合や電力購入契約)。

SBT 設定では、基準年の排出量を報告し、進捗を把握するため、一つのアプローチの結果を選ぶべきで

ある。また、マーケット基準アプローチを選んだ場合、スコープ 2 品質基準30に準拠するようすべての契

約文書を評価することが望ましい。

スコープ 2 排出量に割合削減の目標を設定する代替案として、再生可能エネルギーの調達に関する目標

を設定できる。再エネ資源からの電力調達を 2025 年までに 80%、2030 年までに 100%とすることに則

っていれば、調達目標は認められる。すでにこの閾値で、またはこれ以上の閾値で電力を調達している企

業は、再エネ電力の割合を維持、または増加させることが望ましい。

購入した熱や蒸気の算定

購入した熱や蒸気からの排出量は、インベントリのスコープ 2 に該当する。しかし、SBT 設定では、熱

や蒸気に関連した排出を直接排出(すなわち、スコープ 1)の一部であるかのように、モデル化すること

が望ましい。これは、スコープ 2 排出に関する既存の SBT 手法が、購入した熱や蒸気を考慮に入れない

ためである。

30 この基準は GHG プロトコル スコープ 2 ガイダンス第 7 章で説明されている。

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野心的目標の設定

最低でも、SBT はスコープ 1,2 の排出源からの削減が、2℃を十分に下回るシナリオと整合するべきであ

る。企業は 1.5℃の経路を目指し、さらなる取組みを目指すことが推奨される。

第 3 章で述べたように、スコープ 1,2 排出の原単位目標は 2℃を十分に下回る経路に則り排出総量削減と

なるか、SBT イニシアチブによって認定されたセクター別の手法に則るべきである31。同様に、総量削減

は最低でも、2℃を十分に下回る目標か、1.5℃目標の妥当性、整合性、責任、客観性の原則に則るシナリ

オと整合するか、部門別脱炭素化アプローチの中で、適切なセクターの削減経路と一致しなければなら

ない(SBTi 2019, “Foundations”)。

セクター別の検討事項

企業のスコープ 1 および 2 の SBT の野心は、SDA、または総量収縮アプローチのいずれかに則るべきで

ある(第 3 章)。例外は発電事業者で、SBT は SDA に則り設定すべきとなっている。これは SDA が電

力セクターに求められている大規模、かつ迅速な脱炭素化を考慮に入れているためである32。また、発電

事業者が SBT を設定するのはスコープ 1 の排出量のみでよい。

31 認定された手法とセクターの経路の一覧は、https://sciencebasedtargets.org/sector-development/ を参照。 32 SBTi 目標妥当性基準では、発電事業者に SDA の「発電」経路を用いて目標を設定するよう求めている。

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6. SBT の設定:スコープ 3 の排出源

目標を設定する時、初めはスコープ 1,2 の排出量に焦点を当てる。というのも、通常、スコープ 1,2 の排

出量に企業が持つ影響力が大きいからである。しかし、スコープ 3 排出量が凌駕することは多く(図 6-

1)、野心的なスコープ 3 目標は、目標達成度やリーダーシップを示し、サプライチェーンのリスクや機

会を管理し、ステークホルダーのニーズに応えることができる、企業の GHG 排出量削減戦略に不可欠な

要素となる。スコープ 3 目標は、現在のビジネスモデルが低炭素未来と適合するものなのか、企業の理

解を助けるものでもある。

スコープ 3 排出量は重要だが、取り組むには最も難しい部分であることが多い。SBT 戦略の一環として、

スコープ 3 目標を設定する重要な手順には、野心的なスコープ 3 目標を設定すべきか、設定すればどの

カテゴリに注力すべきかを判断するため、スコープ 3 インベントリを作成することが含まれる。その後、

適切な目標の種類や当該カテゴリの目標の高さを特定する手順が続く。

本章での重要なポイント

・ スコープ 3 の排出量が多い時は特に、少なくともスクリーニングアプローチを、で

きればより詳細なインベントリ手法を用いて、完全なスコープ 3 インベントリを作

成すべきである。

・ スコープ 3 排出量が、スコープ 1,2,3 の排出量全体の少なくとも 40%を占める場合、

スコープ 3 目標が設定されるべきである。

・ スコープ 3 目標は総量目標あるいは、原単位目標で組み立てられる。スコープ 3 目

標は、1.5℃経路、または 2℃を十分に下回る経路、または 2℃経路に沿って総量また

は原単位の削減につながる場合、あるいは SBT イニシアチブに認定されたセクター

別の手法を用いてモデル化された場合、野心的と見なされる。

・ さもなければ、物理的原単位目標は、取組期間において総量の増加につながらず、少

なくとも年平均 2%(毎年 2%の同量を削減する「同量削減」)の原単位削減を実現す

る場合、野心的となる。経済的原単位目標は、取組期間で付加価値当たりの経済的原

単位が少なくとも前年比で平均 7%減少する場合に野心的とみなされる。

・ スコープ 3 目標は、代案としてバリューチェーンパートナーの SBT 設定に関わると

いう目標でもよい(サプライヤー、またはカスタマーエンゲージメントターゲット)。

・ スコープ 3 目標全体の目標バウンダリは、少なくともスコープ 3 排出量の 3 分の 2

を含めるべきである。

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図 6-1. セクター別スコープ 1,2,3 排出量の相対量

6.1 スコープ 3 インベントリの実施

企業は、排出の多い箇所、削減機会、バリューチェーンの上流や下流のリスク範囲を特定するために不可

欠となる、完全なスコープ 3 インベントリを作成するべきである。GHG プロトコルコーポレートバリュ

注記:S&P500 社の CDP データを基にしたグラフ

出所:CDP2013

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ーチェーン(スコープ 3)算定報告基準(WRI&WBCSD, 2011)は、スコープ 3 の算定ガイダンス33と共に、

スコープ 3 インベントリを完成させる方法について、詳細なガイダンスを提供している。スコープ 3 基

準は、上流と下流の排出源を 15 のカテゴリで定義し(表 6-1 を参照)、排出量やカテゴリに及ぼす影響

のレベルといった基準に基づいて、すべての関連カテゴリをインベントリに含むよう求めている(表 6-

2)。通常、企業は、GHG 排出量の削減に影響を持つ可能性のあるスコープ 3 排出源からの排出を計算す

べきだが、スコープ 3 排出全体に大きく寄与すると思われる活動はどんなものも除外すべきでない。詳

細は、スコープ 3 基準の第 7 章を参照。

スコープ 3 排出量を計算する有益なアプローチは、まず高水準のスクリーニングインベントリを計算す

ることである。そのようなインベントリは、目標を設定したり、より正確なデータが必要となる影響力の

高いカテゴリを特定したりする際に直接使用できる。企業は徐々に完全なインベントリを策定し、目標

への進捗を把握しやすくするため、影響の大きいカテゴリのデータ品質を向上する努力(例えば、一次デ

ータの取得)をするべきである。スコープ 3 排出量を毎年算定できない場合は、スコープ 3 排出量合計

に大きな変化がないかを確認するため、2~3 年に一度は算定するべきである。あるいは、より正確なデ

ータを入手するまで、目標の設定を見送ることもできる。

ボックス 6-1 では、スクリーニングインベントリを構築する際に有益なツールである、スコープ 3 算出

ツールについて記述している。

表 6-1. スコープ 3 カテゴリ

上流のスコープ 3 排出

1 購入した製品・サービス 報告対象年に報告事業者が調達、あるいは購入した

製品やサービスの資源採取、生産及び輸送で、カテ

ゴリ 2~8 に含まないもの

2 資本財 報告対象年に報告事業者が調達、あるいは購入した

資本財の資源採取、生産及び輸送

3 (スコープ 1,2 に含まれない)

燃料及びエネルギー関連活動

報告対象年に報告事業者が調達、あるいは購入した

燃料やエネルギーの資源採取、生産及び輸送で、ス

コープ 1,2 に含まれていないもの

4 輸送、配送(上流) 報告対象年に報告事業者が費用負担する、一次サプ

ライヤーから自社への製品の輸送及び配送(報告事

業者が所有あるいは管理しない車両や施設に係る)

- 報告対象年に報告事業者が購入した輸送及び

配送サービス。調達物流、出荷物流(販売した

製品など)、企業内の施設間の輸送/配送(報告

33 http://ghgprotocol.org/scope-3-technical-calculation-guidance

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事業者が所有あるいは管理しない車両や施設

による)を含む。

5 事業から出る廃棄物 報告対象年に報告事業者の製造活動で発生した廃

棄物の処分/処理(報告事業者が所有あるいは管理

しない施設に係る)

6 出張 報告対象年の従業員の事業関連活動に係る移動(報

告事業者が所有あるいは運用しない車両による)

7 雇用者の通勤 報告対象年の従業員の自宅と職場間の移動(報告事

業者が所有あるいは運用しない車両による)

8 リース資産(上流) 報告対象年に報告事業者(賃借人)からリースされ

た資産の稼動で、賃借人が報告したスコープ 1,2 に

含まれないもの

下流のスコープ 3 排出

9 輸送、配送(下流) 報告対象年に報告事業者が販売した製品の、自社か

ら最終消費者までの輸送及び配送(報告事業者が費

用負担していないもの)。販売や保管を含む(報告

事業者が所有あるいは管理しない車両や施設に係

る)

10 販売した製品の加工 報告対象年に下流企業(製造業者等)によって販売

された中間製品の加工

11 販売した製品の使用 報告対象年に報告事業者によって販売された製品

やサービスの最終的な使用

12 販売した製品の廃棄 (報告対象年に)報告事業者によって販売された製

品の使用後の廃棄処分/処理

13 リース資産(下流) 報告対象年に報告事業者(賃借人)が所有する資産、

および他の主体にリースしている資産の運用で、賃

借人が報告したスコープ 1,2 に含まれないもの

14 フランチャイズ 報告対象年のフランチャイズ運営で、フランチャイ

ズ本部が報告したスコープ 1,2 に含まれないもの

15 投資 報告対象年の投資運用(株式/債券投資、プロジェク

トファイナンスを含む)で、スコープ 1,2 に含まれ

ないもの

出典:スコープ 3 基準(WRI&WBCSD 2011) カテゴリの詳細は、スコープ 3 基準を参照

表 6-2. スコープ 3 インベントリに含まれる、関連するスコープ 3 カテゴリを特定する基準

基準 スコープ 3 活動の説明

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規模 予想されるスコープ 3 の全排出量に大きく影響する

影響 企業が実施する、または影響を受ける可能性のある潜在的な排出

削減をもたらす

リスク 企業をリスクにさらす(財務や規制、サプライチェーン、製品と顧

客、訴訟、風評リスクといった気候変動関連リスク等)

ステークホルダー 主要なステークホルダーが不可欠と考えている(顧客やサプライ

ヤー、従業員、投資家、市民社会等)

外部委託 以前は社内で行われていた外部委託された事業活動、あるいは報

告事業者のセクター内で、他社が通常社内で行っている、報告事業

者によって外部委託された事業活動

セクターガイダンス セクター別ガイダンスで重要とされている

その他 企業やセクターが作成した妥当性を確認する追加基準を満たす

出典:GHG プロトコル スコープ 3 基準(WRI&WBCSD 2011)、表 6.1 より

ボックス 6-1:スコープ 3 算定ツール

GHG プロトコルは、コンサルタント会社 Quantis と共同で無料のスコープ 3 スクリー

ニングツールを開発した。組織の種類や規模に関わらず、利用者がスコープ 3 インベン

トリの概算を把握できる簡易な算定ツールである。製品やサービスの購入、燃料の使用、

材料の輸送等といった組織構造や事業活動に関する一連の質問を通して、ユーザーを導

く。

財務状況とプロセスのライフサイクルインベントリデータの組み合わせにこのような情

報を結びつけることで、ユーザーにスコープ 3 インベントリを提供する。このインベン

トリは、より正確な排出インベントリを作成するため、削減分野の特定、公式報告、今後

の取組みを伝える基礎として使用できる。インベントリ合計の大部分を占めるカテゴリ

の一次データを収集すべきである。詳細情報は https://ghgprotocol.org/scope-3-

evaluator を参照。

スコープ 3 データの品質

スコープ 3 排出源は報告事業者の所有または管理下にないため、これらのデータの収集や品質を確保す

る際、課題に直面することが多い。課題には以下の点が挙げられる。

・バリューチェーンパートナーにデータの提供を頼る(購入した製品やサービスからの排出量を計算す

るためなど)

・データ収集及び管理方法に関する影響力が弱くなる

・データの種類、出所、品質についての知識が少なくなる

・二次データのニーズが広まる(すなわち、企業のバリューチェーンに特化しないデータ)

・想定やモデルのニーズが広まる(販売した製品の使用による排出量の計算等)

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通常、企業は技術、時間、地理の観点から、最も完全で、信頼性が高く、代表的なデータを選択するべき

である。企業は、GHG 排出量削減に最も関連が高く、的を絞ったと思われるスコープ 3 の活動に対して、

サプライヤーやその他バリューチェーンパートナーから、品質の高い(「一次」)データを収集するべき

だ。企業のマーケティング及び営業部門は、製品の使用段階と廃棄活動に関する一次データを提供する

こともできる。二次データは認められるが、進捗を把握する能力は限られる。従って、二次データは、あ

まり排出量の多くないスコープ 3 カテゴリに適する。スコープ 3 基準の第 7 章で、データ品質の問題を

取り上げており、詳しいガイダンスを提供している。

スコープ 3 排出量が、スコープ 1,2,3 の排出量全体の 40%を超えている場合、スコープ 3 排出量の相当

部分を網羅する野心的で定量的なスコープ 3 目標を策定すべきである。本章の以降の項で、その推奨事

項について詳述する。

6.2 どのスコープ 3 カテゴリを目標バウンダリに含むべきか

全体として、スコープ 3 の目標バウンダリは、関連のあるスコープ 3 排出合計の 3 分の 2 を含むべきで

ある。また、排出量が最も多いカテゴリ 3 つを含むことになるだろう。スコープ 3 インベントリを使用

し、この閾値に達するためにどのカテゴリを目標バウンダリに含むべきか、特定することができる。表 6-

2 の基準も、このアプローチを導くために使用できる(例はボックス 6-2 を参照)。

どんなセクターにおいても、購入した製品・サービスと販売した製品の使用は、スコープ 3 排出量の大

部分を占める(CDP 2016)。従って、このようなカテゴリは、多くの企業の目標に不可欠となるだろう。

しかし、異なるスコープ 3 カテゴリの相対的重要性はセクターごとに異なる。スコープ 3 カテゴリは、

以下のような特定のセクターの企業で(排出規模という点で)重要となるだろう。

・自動車:販売した製品の使用

・化学製品:販売した製品の廃棄処理

・消費材:購入した製品とサービス

・電子機器:販売した製品の使用

・食品加工:購入した製品とサービス

・ガス供給と小売:販売した製品の使用

・物流:輸送、配送(上流)

・石油ガス:販売した製品の使用

製品には、家電の電気使用、空調機器の冷媒排出など、直接使用段階の排出がある。また、湯で衣服を洗

濯する時や食物の調理時など、間接使用段階の排出もある。GHG プロトコルスコープ 3 基準では、直接

使用段階の排出はスコープ 3 インベントリとして報告しなければならないが、間接使用段階排出の報告

は任意となっている。従って、間接使用段階の排出は目標バウンダリに含まれないかもしれないが、当該

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第 4 版

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排出量が多い時は含めることが推奨されている34。直接または間接使用段階の排出のある製品一覧は、

GHG プロトコルスコープ 3 基準を参照。

セクター別推奨事項

自動車メーカーは、販売された製品の使用にスコープ 3 目標を設定するため、SDA transport tool を使

用し、関連するセクター別ガイダンスに従うべきである35。

天然ガスまたはその他化石燃料製品の販売、輸送、流通に関わる企業は全て、スコープ 3 の「販売した製

品の使用」に関する目標を、企業全体の排出量に対する当該カテゴリの排出割合を問わず、2℃を十分に

下回るシナリオ(年間 2.5%の同量削減)に則って設定すべきである。ガスネットワークの所有者や運営

者は、例え現在 GHG プロトコルの算定基準で任意であっても、インベントリや目標バウンダリに分布し

ているガスの排出量を算定するべきである36 37。

ボックス 6-2: 関連するスコープ 3 カテゴリの決定

グローバル展開をする化学ガス会社は、バ

リューチェーン全体のスクリーニングイ

ンベントリを算定し、スコープ 3 排出量が

フットプリント全体のおよそ 50%を占め

るとわかった。スコープ 3 が排出量全体の

大部分を占めているとわかり、次にスコー

プ 3 の 15 のカテゴリのうち、どのカテゴ

リで最も排出量が多いのか調査した。3 つ

のカテゴリが適用されず、インベントリか

ら除外された(カテゴリ 10、13、14)。残

ったカテゴリにインベントリを作成する

ことで、排出の大部分を構成する 3 つのカテゴリ(上流の燃料とエネルギー、販売した製

品の使用、投資)に関する活動を設定する目標に注力した。

カテゴリ スコープ 3 排出量

(mmt CO2e)

スコープ 3 排出量

割合

1.購入した製品・サービス 773,731 8%

34 SBTi の目標妥当性基準では、企業が間接使用段階排出量をインベントリに含むと決めた場合、スコープ 3 目標バウンダリの 3 分の

2 に含めないことを求めている。 35 輸送活動に関する技術資料は https://sciencebasedtargets.org/transport-2/ を参照。 36 しかし、特に石油ガス企業は当面の間、目標の妥当性確認の方法について SBTi に問い合わせることが望ましい。 37これは SBTi 認定基準第 4 版での要件である点に注意。第 3 版では、天然ガス/化石燃料の販売、輸送、流通に関するバリューチェー

ンの活動がある電力セクターの企業を、当該活動が企業収益の五割を超える場合、現在策定中の石油/ガスセクターの要件の下で GHG

排出削減要件が明確化されるまで、評価していない。活動が収益の五割未満となる場合は、2℃シナリオに沿った総量収縮アプローチ

(年 1.23%の同量削減)を用いて目標を設定できる。

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2.資本財 35,054 >1%

3.燃料及びエネルギー関連活動(上流) 5,152,751 51%

4.輸送、配送(上流) 125,000 1%

5.事業から出る廃棄物 10,667 >>1%

6.出張 41,526 >1%

7.雇用者の通勤 39,742 >1%

8.リース資産(上流) 32,170 >1%

9.輸送、配送(下流) 221,217 2%

11.販売した製品の使用 2,150,739 21%

12.販売した製品の廃棄 116,379 1%

15.投資 1,347,360 13%

6.3 単一目標か、複数目標か

企業は、カテゴリに特化した複数の目標をたてるか、あるいはスコープ 3 の全カテゴリを網羅する単一

目標を設定するか、選択できる。また、スコープ 1,2,3 の排出量全体を網羅する単一目標を設定すること

もできる。各種の目標バウンダリは、メリットとデメリットがある(表 6-3 参照)。

表 6-3. スコープ 3 排出を対象とする異なる目標バウンダリのメリットとデメリット

目標バウンダリ 実例 メリット デメリット

スコープ 1,2,3 の排出

合計に単一目標を設

・Autodesk:スコープ

1,2,3排出合計を 2020

年までに 2008 年水準

から 43%削減

・ Capgemini UK

PLC:スコープ 1,2,3

排出合計を 2030 年ま

でに 2014 年水準から

40%削減

・General Mills:農地

から埋立地までスコ

ープ 1,2,3 排出量を

2025 年までに、2010

年の基準年から 28%

削減

・バリューチェーン全

体の排出量のより包

括的な管理を確実に

する

・最も費用対効果の高

いGHG排出量削減を

達成する箇所及び方

法に、より柔軟性を提

供する

・ステークホルダーに

わかりやすい

・スコープ間で活動を

変える際、基準年の再

計算が不要(外部委託

など)

・各カテゴリの透明性

は高くない

・異なるスコープに同

じ基準年が必要。スコ

ープ 1,2の基準年がす

でに設定されている

場合、難しいことがあ

スコープ 3 排出合計 ・EDP:スコープ 3 排 ・(選択されたカテゴ ・各カテゴリの透明性

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第 4 版

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に単一目標を設定

出総量を 2030 年まで

に、2015 年水準から

25%削減

・Kellogg Company:

バリューチェーン排

出総量を 2025 年まで

に 2013 年水準から

20%削減

リに対する個別目標

と比較すると)スコー

プ 3 カテゴリ全体の

GHG 排出量削減の実

現方法に包括的な

GHG 管理とより高い

柔軟性を確保する

・ステークホルダーに

比較的わかりやすい

は高くない

・スコープ間で活動を

変える際、基準年の再

計算が必要となるこ

とがある(外部委託

等)

スコープ 3 の各カテ

ゴリに個別の目標を

設定

・Dell:製品ポートフ

ォリオのエネルギー

原単位を 2020 年まで

に 2011 年水準から

80%削減

・Panalpina:外注し

た輸送及び出張のス

コープ 3 排出量を

2025 年までに 2013

年水準から 15%削減

・これ以外の例は以下

を参照

・異なる状況に基づ

き、異なるカテゴリに

対する目標のカスタ

マイズができる

・各カテゴリの透明性

が高くなる

・進捗の把握に追加的

指標を提供する

・新たなカテゴリをイ

ンベントリに追加す

る際、基準年の再計算

が不要

・具体的な活動の成果

が把握しやすい

・ステークホルダーに

とって複雑でわかり

にくい

・外部委託や内製化

に、基準年の再計算が

必要となることがあ

・排出総量や他のカテ

ゴリからの排出原単

位が増えることがあ

る(当該のカテゴリも

独自の目標を持たな

い限り)

6.4 目標の適切な種類を特定する

スコープ 3 目標は、以下の説明にあるように、総量目標あるいは排出原単位目標、サプライヤーエンゲ

ージメント目標の形をとって設定できる。他の種類の目標を設定したいとも考えるかもしれないが、そ

のような総量あるいは原単位、エンゲージメントの目標に置き換えられる場合にのみ、他の種類の目標

を設定することが望ましい。

スコープ 3 の排出源は報告事業者の直接の管理下にないため、野心的な削減は、スコープ 1 及び 2 で比

較できるような排出削減の実現よりも難しくなる。このため、スコープ 3 の総量目標あるいは原単位目

標は、2℃を十分に下回るシナリオあるいは 1.5℃シナリオに沿う必要はなく、2℃未満シナリオに則るこ

とができる。代わりに、以下に示す選択肢のいずれかを用い、野心的な原単位削減を推進するべきであ

る。

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50

総量目標

総量目標は、最低でも 2℃シナリオに則るべきである。スコープ 3 総量目標の設定にふさわしい手法は、

総量収縮法と SDA だが、SDA がスコープ 3 に直接適用可能なセクターは限られている(ボックス 6-3

を参照)。

排出原単位目標

既存のベストプラクティスの下、原単位目標は以下の種類の目標のいずれかを示す場合、野心的と考え

られる。

(1) 2℃シナリオに則った物理的原単位目標。SDA を用いて設定される(適用可能な経路があれば。ボッ

クス 6-3 を参照)か、2℃シナリオに沿って総量削減につながるようにモデル化されるべきである。

(2) 排出総量の増加とならず、取組期間中に毎年少なくとも 2%ずつ排出量を削減し、排出原単位を削減

する物理的原単位目標38

(3) 削減期間中に、前年比少なくとも年率で平均 7%の排出原単位を削減する経済的原単位目標。経済的

原単位目標の設定時に使用される GEVA 手法に関する情報は 3.1 項を参照いただきたい。

サプライヤーエンゲージメント目標あるいはカスタマーエンゲージメント目標

サプライヤーエンゲージメント目標あるいはカスタマーエンゲージメント目標では、企業はサプライヤ

ーや顧客に SBT の採用を促進することを誓う。目標例としては以下がある。

・ 日本大手総合化学メーカーの住友化学は、製品重量でサプライヤーの 90%が 2024 年までに科学に

基づいた GHG 排出量削減目標を設けることを約束した。

・ SKYCITY Entertainment Group は、購入製品、サービス、資本財を含め、支払額でサプライヤー

の 67%が 2023 年までに science-based targets を設定することをコミットしている。

企業がバリューチェーンパートナー間でまだ具体的な削減機会の方策を特定していない場合や、間接支

出が多く、協力的な削減取組を行うほど個々のサプライヤーに十分な支出をしていない場合、このよう

な目標は特に有益だろう。サプライヤーエンゲージメント目標は、同一サプライヤーのほかの顧客にメ

リットとなる削減行動を推し進める一助となることもある。

エンゲージメント目標は、関連する上流または下流のスコープ 3 カテゴリについて設定できる。企業は

支出あるいは排出量の影響に基づき、どのサプライヤーや顧客を目標に含めるか、を特定できる。エンゲ

ージメント目標は、代替方法として、業務リスクといった様々な要因に基づいて企業がすでに特定した

「重要なサプライヤー」または「戦略的なサプライヤー」に注力することもできる。支出データや重要な

サプライヤーリストは、それらが確実にサプライヤーに対する影響力の代理となる時は、有利である。し

かし、支出が最も多いサプライヤーが必ずしも GHG の排出が最も多いわけではないので、新たなスコー

38 2%の年同量削減は、2020 年のベースラインから 2070 年までにゼロカーボン原単位を目指す経路を示す、野心のための閾値とされ

た。

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プ 3 目標と同様に、エンゲージメント目標がスコープ 3 排出合計の少なくとも 3 分の 2 を網羅すること

を確実にするべきである。

エンゲージメント目標を設定する際、その他様々な事項を検討することが重要である。重要なことは、エ

ンゲージメント目標がサプライヤーや顧客の時宜にかなった排出削減に結びつくことである。そのため、

妥当性確認のためにイニシアチブに提出された目標は、発表された日から遅くとも 5 年以内に達成すべ

きである。また、サプライヤーと顧客は、最低でも排出量データがより利用しやすいスコープ 1 と 2 の

排出に SBT を設定すべきである。サプライヤーのスコープ 3 排出量が多い場合、データがより利用可能

となるにつれ、徐々にスコープ 3 目標も設定されるべきである。サプライヤーは年間ベースで進捗を報

告すべきである。

最後に、カテゴリ 1 の排出量の大部分が二次サプライヤー(ティア 2)または、報告事業者からさらに遠

いサプライヤーから発生し、影響力を行使できない可能性のある場合、サプライヤーエンゲージメント

目標の設定は推奨されない。

ボックス 6-3. スコープ 3 目標を設定する際の SDA の限界

スコープ 3 の総量目標または原単位目標を設定するために SDA を使用する際、2 つの限

界を認識すべきである。

1 つ目は、スコープ 3 目標に SDA を使用できるのは、一次サプライヤーの GHG 排出量

が、企業からさらに遠いサプライヤーからの排出量と比べて著しく多い時、及びスコープ

1 と 2 のデータが一次サプライヤーから入手できる時である。つまり、実際、SDA は建

物(リース資産とフランチャイズ)及び、上流または下流の輸送、配送に最適となる。

2 つ目の限界は、スコープ 3 目標全体がどれほど広範囲かによって、いくつかのカテゴリ

で削減量を把握するための選択肢を狭めてしまう点である。例えば、ある建設会社は SDA

の鉄鋼の経路を使って、購入した鉄の原単位目標を設定できる。この経路では、GHG の

排出がより少ない鉄の代用品に素材を変更することを認めないため、購入した鉄の GHG

原単位を減少させることでしか目標を達成できない。この問題は、購入した製品・サービ

ス全体に目標をたてることで回避できる。

企業が SBT の一部として設定できるその他の種類の目標

はっきりと排出を削減する目標をたてるのではなく、事業のある側面または製品のパフォーマンスを改

善する目標の設定を考えることもあるだろう。そのような目標は多様であり、よくある例としては以下

が挙げられる。

- GHG 排出量の多い材料の使用を止める、または減らす目標。「2025 年までに社有車の 25%を電気

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自動車とする」など。

- セクターのベストプラクティスを採用する目標。「農作物のサプライヤー全てが、肥料散布率を減ら

し、スローリリース肥料または硝化抑制剤を使用する」など。

- 再利用可能材料の使用を増やす目標。「梱包材のリサイクル量を 2022年までに 2015年水準から 80%

増やす」など。

そのような目標によって、大まかな排出削減目標を、より的を絞った社内の経営判断を導くことができ

る目標に分解できる。そのような目標を SBT の一部として設定する場合、その目標が総量目標または原

単位目標、エンゲージメント目標に貢献するものとして、予想される排出削減の利点を定量化できるよ

うにするべきである。

企業は削減努力全体の完全性を担保するために、ある一部の排出源の目標がその他の排出源の排出増加

につながらないか、検討し考慮すべきである。例えば、ある企業は使用段階における製品ポートフォリオ

のエネルギー原単位を削減する目標、またはガソリン/ディーゼル車から天然ガス自動車に切り替える目

標を設定したいと考える。しかし、もし、エネルギー効率の低い製品と比較した時に、エネルギー効率の

高い製品や天然ガス自動車が製造段階で多くの排出量を出す場合、ライフサイクル全体に目標を設定す

るべきである。

企業が SBT の一部として設定すべきでない目標

ある種の総量目標あるいは原単位目標は、エンゲージメント目標で予想されている削減につながること

の証明が難しいため、設定すべきでない。特に、GHG の具体的な質量を排出から削減する目標(「2030

年までに 500 万トンの排出量を削減する」など)や、セクター平均値に対する実績を基準とする目標は

設定すべきでない。これは、そのような目標では排出実績の変化が明確でないからである。また、セクタ

ーで基準とされた目標は、時間が経つにつれ、セクターの実績の変化で変わることもあり、実績の長期的

な変化を把握する能力を損なう。

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7 SBT のための社内体制を構築する

SBT は、多くの企業に目標を設定する新たな手法を示し、従来の目標設定のアプローチよりもさらに野

心的な目標を生み出すことが多い。したがって、事業部門や経営幹部層から信頼を得るには、周到に準備

された理由が必要だろう。第 2 章「SBT のためのビジネスケースを理解する」では、社内体制を構築す

る過程で使用される追加的な主張を提供した。本章では、ステークホルダーが目標設定プロセスの全て

の段階を通してどのように参画するか、そうした中でも、予想される課題や反対にどのように対処して

いくか、その方法を企業の経験を基に模索する。

本章での重要なポイント

・ SBT 設定を担当する職員は、目標設定プロセスの間、目標を適合させ、実現可能性

を評価し、実践的な実施計画を共に作成するために、企業のあらゆる部署・部門と緊

密に連携するべきである。

・ 担当者は、頻繁に社内で反対意見が起こるような問題を予測し、マニュアル化された

対応策を策定することが望ましい。

・ スコープ 3 目標に対して、賛同を増やし、実行を可能にするため、企業は目標設定

のプロセスで、サプライヤーと連携して取組み、支援するべきである。

7.1 企業のあらゆる部署・部門を参画させる

SBT を策定するプロセスにおいて、サステナビリティチームは目標の開発、設定、公表、最終的に目標

を達成するための情報源にアクセスするため、経営陣や事業部門長から支援を得なければならない。

社内の体制を確立するための有用な戦略は以下を含む。

1. 事業部門と緊密に連携し、目標を草の根レベルで広める。

・各部門に、目標の達成に向け実行可能なことを提案するよう依頼し、一部署にすべての責任を押し付

けない。

・必要な削減を行うため事業所からコミットメントを引き出し、ボトムアップ分析を通して、目標がど

のように達成されるかを明示する。役員幹部が SBT の設定を推進していなければ、この作業で上層

部から承認を得やすくなる。

・影響力のある部門に社内の推進者(サステナビリティチームではないが、SBT の設定及び、取組を

進める考えに賛同してくれる人)を見つける。

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2. ある事業部門に、影響力をあまり持たない分野で達成するべき目標を任せることは推奨されない。モ

チベーションを削ぐことになる。

3. 複数の国で事業を展開している場合、削減の機会を得るために、国の事業に携わることができる国レ

ベルの推進者を設けることを検討する。

4. 可能であれば、リスク軽減や財務利益を盛り込んだ、説得力のあるビジネスケースを作成する。

・SBT によって企業が、どれほど節約できるかを示す。

・短期及び長期回収期間でバランスのとれたプロジェクトポートフォリオを作成する。

・SBT がどのように中核となる事業戦略に寄与するか、目標がどのようにリスクの軽減に役立つかを

示す。

・施設のエネルギー効率対策といった小さなプロジェクトが目標全体にもたらす寄与度を軽視しない。

合計すると大きなものとなりえる。

5. 事業部門にとって、目標達成がしやすく価値のあるものにする。

・事業部門の分析を支援し、当該部門が実際に実行できるような現実的な案を提示する。

・事業部門が実施した排出削減プロジェクトで蓄えた資金を、当該部門が保持できるようにする。

・緊迫感と集団的な当事者意識をはぐくむために、短期的な中間目標を設定する。

6. 必要なテクニカルスキルが社内にない場合、社外の支援を得る。

・必要であれば、SBT の背景となる科学を理解し、SBT を設定するガイダンスを提供できる NGO や

コンサル会社と連携する。

・利用可能な選択肢をより理解するため、政府、サプライヤー、顧客、その他ステークホルダーと協働

する。

・スコープ 3 排出に関して、バリューチェーンパートナーに、排出削減のための目標や一般的なベス

トプラクティスについて時間を割いて説明する(トップサプライヤー・コミットメントが設定され

ていた場合、削減量の算定や報告のベストプラクティスを説明)。

企業例:ランド・セキュリティーズ

「よくニュースで報道される気候変動のマクロ問題と SBTの具体的な詳細をどのように結

びつけるかということも課題でした。こういった意味で、社内での話合いやワークショップ

は本当に重要です。私たちはサステナビリティチームから始め、その後このような問題に関

心があると思われる上層部(「アーリーアダプター」)を通して、説得が必要な経営陣に訴え

ていきました。すでに他社が参画していること、また科学が目標にどのように影響してい

て、世界の状況とどんなつながりがあるかを示せたことで、役員からの承認はずいぶん得や

すくなりました。私たちは、人に力を与え、野心的な目標をより受け入れられやすくする力

強いメッセージを持っています。」(ランド・セキュリティーズ エネルギー部門長、トム・

ビルネ氏)

企業例:ファイザー

「多様な地域の大きなネットワークにおいて、我々のグローバル・エンジニアリンググルー

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プは、社員がエネルギー効率や再生可能エネルギーの価値を理解し、GHG 排出量削減の要

請を負担と見るのではなく、機会を模索する権利を得たように感じるよう努めて取り組ん

できました。気候変動が地球に与える潜在的な影響を他部門の職員が理解し、だからこそ行

動する必要があるとはっきり認識するために、コミュニケーションは重要な要素でした。短

期目標(2020 年)と共に、経営執行部が承認した長期ビジョン(2050 年)を持つことで、

我々のチームは賛同を得やすくなりました。」39(ファイザー 上級顧問弁護士兼環境サステ

ナビリティアドバイザー、サリー・フィスク氏)

目標を定義し、承認を得ることは、必ずしもスムーズなプロセスとは限らず、目標が社内で承認されるま

では、何度もフィードバックを受け、上層部や事業部門との一進一退の作業が発生することもある。支援

を確保するための信頼を得るには、以下の点が重要である。

訴えかける対象者を知る

サステナビリティ関連の業務をしていない職員は、通常、気候科学の背景知識を持ち合わせていないが、

気候変動やサステナビリティの概念はよく知っていることもある。SBT のビジネスケースを作成するた

めに正しい出発点を見つけることは、このような人を参画させるために必須となるだろう。IPCC の調査

結果や企業が科学と整合した排出削減を行う必要性をきちんと説明する必要がある場合もあれば、すぐ

に目標の議論自体を始められる組織もあるだろう。

データを基にビジネスケースを作成するが、対人スキルの重要性を過小評価しない

サステナビリティの専門家40を対象とした昨今の調査で、サステナビリティの指導者として成功するため

の最重要要因は対人スキルであることがわかった。SBT を達成するには、社内の複数部門と協力する必

要があるので、人間関係を築き、取組みを支援するネットワークの構築が重要となる。

同様に重要なことは、データと合わせてビジネスケースを作成する能力である。SBT アプローチは比較

的新しいものだが、野心的な GHG 目標を設定することが企業のメリットとなる多くの裏づけがある(第

2 章を参照)。GHG 排出削減によって定量化できるメリットには、経費削減、エネルギー節約、収益の改

善がある。SBT の設定に関するその他重要な利点も、議論されることが望ましい。イノベーションの推

進、信頼や評判の向上、リーダーシップの発揮等も一例である。

ビジネス用語で目標をコミュニケーションする

気候やサステナビリティの専門用語よりも、リスク、機会、収益、評判といったビジネス用語を使って目

標を構成することで、企業の意思決定者は共鳴するだろう。目標の設定・達成のために、意思決定者を参

画させることは重要だが、ビジネス用語を使って組織の全職員に、確実に目標を伝えるべきである。

39 ファイザー社の SBT について、詳しくは http://sciencebasedtargets.org/case-studies/case-study-pfizer/ を参照。 40 参照

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早い段階で企業のあらゆる職員を関わらせる

社内で訴える対象は、設備運用から調達に至るまで会社のほぼ全部門を含む。特に、経営幹部、「グリー

ンチーム」の職員、コミュニケーション部門、多くの排出削減活動に直接関わる部門は、目標を設定する

プロセスを知り、関与することが望ましい。また、GHG 排出削減の活動・プロジェクトの担当チームは、

目標の中で自分たちに関わる部分が達成できるか、妥当性を確認する役割を担い、目標の公表後、単に目

標を知らされるだけにならないことが大切である。職員の啓発に投資すると、支持的社風が生まれ、目標

設定作業に直接携わらない職員も感化され、GHG 排出削減の新たな画期的解決策の創出につながること

もある。

目標を設定し、達成する重要性が、職員に早く効果的に伝達されればされるほど、企業は目標の取組みに

賛同を得やすくなる。SBT の背景となる論拠や目標達成に向けた取組についての説明を、従業員のオリ

エンテーションやトレーニング/ハンドブックに盛り込むことを検討すべきだ。全社/部門会議で定期的に

発表することも、進捗を伝える手段となる。同様に、企業のニュースレター、ブログ、ソーシャルメディ

アといった媒体は、成果や改善面を強調する良い場となる。

7.2 課題や反対に対処する

企業の複数の部門、資金、予算に影響を及ぼすコミットメントである SBT が承認されるまで、上層部は

いくつか重要な質問を投げる可能性がある。

・私たちの目標が、今後の成長率、市場占有率の変化、事業戦略のその他の側面につながるのなら、何

を開示する必要があるのか?企業機密は守られるのか?

セクター別の手法または経済的原単位アプローチを使用する原単位目標は、通常、市場占有率、予測され

る生産の伸び、財務成長率、GDP への貢献度といった指標と関連している。しかし、必ずしも目標を決

定する際に使用した前提条件を開示する必要はなく、SBT を発表しつつも、慎重に扱うべき情報はすべ

て機密情報とすることができる41。

・一次目標の達成日は、5 年後。どのようにして達成したらいいのか?

予想される再生可能エネルギーの購入、製品設計あるいはサプライヤーの変更計画、新たな技術の採用、

取扱商品の計画変更を始め、複数のプロジェクトの排出削減をまとめることで、短期的目標は妥当性を

確認できる。どのプロジェクトが実行可能かを見極めるために、多くの企業が、IRR (内部収益率)、ROI

(投資利益率)、回収期間といった代表的な事業指標を使用する。このような測定結果と、予測される GHG

の削減量を合わせると、削減目標を達成可能にするプロジェクトポートフォリオを組み立てられるだろ

う。このようなプロジェクトのグループは、目標設定パッケージの一部として提示できる。

41 さらに、SBTi に提出された情報は全て機密情報として扱われる。

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代わりに、科学と整合した目標を設定後、その目標をプロジェクト作成や、改革を促進する動機付けとす

る企業もある。これは体系的なアプローチとは言えないが、緊急性のあるプロセスにより重点を置く企

業風土では成功する可能性がある。

・公表した目標を達成しなかった場合、どうなるのか?

SBT の達成計画は慎重に練る必要があるものの、なかには予想外の状況によって目標(または中間目標)

に届かない企業もある。例えば、組織の想定以上の業績の伸びや落ち込みによって、再生可能エネルギー

プロジェクトの運用に影響が出る、といったことがある。こういった場合、それまでに達成した成果や未

達削減量の差を含め、状況を隠すことなく伝えることで、ステークホルダーの信頼を保てる。今後の計画

や、未達量にどのように対処するかを説明することも重要である。加えて、最新の気候科学やベストプラ

クティスと整合性をとるため、少なくとも 5 年毎に目標を再評価することが推奨される42。

社内外のコミュニケーションや報告に関する課題は、第 8 章で詳しく取り上げる。

42 SBTi 認定基準では、少なくとも 5 年毎に目標を見直し、必要であれば、再計算し、妥当性確認を受けるものとされている。目標の

再計算が義務となる年は 2025 年。

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8 進捗をコミュニケーションし、把握する

SBT を効果的に伝えることにより、社内の経営判断が導かれ、従業員から賛同を得、企業の評判が向上

する。さらに、ビジネスコミュニティや政策立案者にも、企業が野心的な気候活動に真剣に取り組んでい

るという前向きなメッセージを送ることとなる。一度目標が設定されると、それをしっかり、簡潔かつ明

確にコミュニケーションすることは、ステークホルダーに正確な情報を伝え、信頼を構築するために重

要である。同じく重要なことは、SBT が継続して妥当性を保つため、気候科学と事業状況の変化を反映

し、必要に応じて再計算されることである。

本章では、訴えかける対象の定義、SBT 関連情報の開示場所の決定、開示情報や SBT を再計算する時期

の決定を含め、SBT のコミュニケーションや進捗を追跡する際の重要な段階を説明する。

本章での重要ポイント

・ 対象者が、SBT の内容、意義、ニュアンスをよく理解できるよう、SBT の定量的

及び定性的側面を開示する際、GHG プロトコルの算定及び報告の原則に従うべき

である。

・ 目標達成を目指す中で、年次進捗を報告すべきである。

・ SBT は、専門用語を避け、わかりやすい用語を用い、ダイアグラムや画像情報等

を使って興味がわくような方法で伝えられることが望ましい。

・ 少なくとも 5 年に一度、再計算されるべきである。

8.1 SBT と実績の進捗を公にコミュニケーションする

重要なコミュニケーション段階として以下を含む。

訴えかける対象を定義する

まず SBT の何をどのように伝達するかを決める前に、訴えかける対象を定義することが重要である。顧

客、サプライヤー、競合他社、事業提携者、投資家はみな、企業の GHG 排出削減の取組みに関心を持っ

ているだろう。まず外部対象者の関心事を特定し、その対象者に関連のある目標設定の側面を強調する

ため、アピールする内容を調整することが望ましい。目標を設定する際に使用した情報には機密扱いと

なっているもの(例えば、プロジェクト活動データ)もあり、取扱いに注意する情報を守るため、伝える

内容は調整の必要があるかもしれない点に留意することが重要である。しかし、これによって企業が外

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部の対象者に、効果的に SBT をコミュニケーションすることが阻害されてはならない。対象が誰であろ

うと、SBT はわかりやすい用語で伝えられるべきである(ボックス 8-1 参照)。

ボックス 8-1:わかりやすい言葉で SBT をコミュニケーションする

技術に詳しい対象者に SBT を伝える際は、きちんと詳細を含むだけでなく、専門用語を

使わず、一般にもわかりやすい方法で情報を提示すべきである。

例えば、環境や財務知識をあまり持たない一般人にとって、付加価値当たりの原単位指標

mtCO2e は混乱するものであり、意味がないだろう。総量や原単位指標は、用語集かコミ

ュニケーションの文章の中で定義されるべきである。「年間 4,000 人が乗用車を利用しな

いことに匹敵する削減量」といった「実生活」での例や比較を使用することは、社内外の

対象者が企業の進捗度を理解する助けとなる。米国環境保護庁の Greenhouse Gas

Equivalencies Calculator (GHG 換算算定ツール)43は、排出量が、乗用車、発電所、家庭

でのエネルギー消費といった実生活の排出源ではどれくらいなのかを示す有益なツール

である。

専門知識のある人にとっても、わかりやすさは利点となるだろう。例えば、「付加価値」

という用語(原単位指標の基準として使用される)は、地域の会計用語によって、粗利益、

営業利益、すべての人件費を差し引いた EBITDA44、または購入した製品及びサービス

にかかる経費を差し引いた収益などと定義される。気候科学や金融の専門用語の使用を

避けることで、明瞭さを提供し、混乱を低減し、よりインパクトのあるコミュニケーショ

ン内容となる。例えば、「企業活動からの直接排出」という表現がスコープ 1 排出の用語

の代わりに使用されたり、隣に明記されたりしてもよい。

簡略化した一般向けの SBT の説明が、確実に科学的根拠を示し続け、不確かな情報を伝

えないようにするには課題が伴う。このため、SBT イニシアチブは、専門外の人に対す

るコミュニケーションの場合も、目標の詳細な技術説明を参照できるようリンクや脚注

の使用を推奨している。

技術専門用語を平易にした用語

技術用語 一般的用語

スコープ 1 排出 直接排出

スコープ 2 排出 購入した熱及び電気からの排出

スコープ 3 排出 バリューチェーンの排出

43 米国環境保護庁の算定ツールは、排出量データを乗用車、家庭、発電所からの年間推定排出量に変換する。

https://www.epa.gov/energy/greenhouse-gas-equivalencies-calculator. 44 税引き前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益

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SBT 気候科学に裏付けられた排出量目標

開示する場所を決定する

SBT を設定することで、企業はリーダーとして目立つことができるため、サステナビリティのウェブサ

イトといった目につきやすい所で目標を開示することが、企業の関心事となる。企業の報告書(サステナ

ビリティレポート、CSR レポート、年次報告書、戦略計画等)も、定期的に進捗を報告し、この情報を

企業のその他の活動と統合する良いプラットフォームである。

The Global Reporting Initiative (GRI)45は、環境、社会、経済のパフォーマンス及び影響を報告する際、

幅広く使用されている枠組を提供している。SBT 及び排出削減の取組みは、GRI レポートに含まれるも

のの、専用ウェブサイトや企業報告書と同じくらい目を引くことはないだろう。

CDP の Climate Change Questionnaire(気候変動質問書)46もまた、多くの外部対象者に情報を発信す

るためによく知られた公共のリソースである。CDP は、投資家、購買担当者、政府に対して気候に関す

るリーダーシップを開示するためのプラットフォームを提供していて、SBT を NAZCA というプラット

フォーム47にも伝えている。NAZCA プラットフォームは、UNFCCC の活動課題の一環として、企業を

含め「非国家主体」が掲げた重大なコミットメントをフォローしている。

指針となる報告原則に従う

対象者が目標の内容、意義、ニュアンスをよく理解できるよう、目標に関するあらゆる側面を開示するこ

とは必須である。GHG プロトコルコーポレートスタンダード(WRI&WBCSD 2004)は、企業の GHG

インベントリ開発の指針となるべき 5 つの重要な原則を定義している。同じ原則が、目標と進捗の報告

を説明する際にも用いられるべきである。

・ 目的適合性:目標が事業者の GHG 排出量を適切に反映し、かつ事業者内外の排出量情報利用者の意

思決定ニーズに役立つようにすること。

・ 完全性:選定した目標バウンダリの範囲内に含まれるすべての GHG 排出源と活動からの排出量を

算定して報告すること。除外した排出源や活動があれば、開示してその理由を示すこと。

・ 一貫性:排出量の意味ある経時比較を可能にするために一貫した方法を用いること。データ、インベ

ントリ境界、方法またはその他の関連要素の変更を時系列で明確に記録すること。

・ 透明性:すべての関連事項について監査証跡を明確に残せるよう、客観的かつ首尾一貫した方法で

対処すること。用いた仮定を開示し、使用した算定・計算の方法論や情報源の出典を明らかにするこ

と。

45 サステナビリティ報告に関する GRI 基準に関しては、https://www.globalreporting.org/standards/ を参照。 46 排出量データの収集に加えて、CDP の Climate Change Questionnaire(気候変動質問書)は、気候変動に関連する企業のリスク

や機会の情報を収集する。https://www.cdp.net/en/climate 47 NAZCA プラットフォームは現在、少なくとも 2,000 社のコミットメントを報告している。http://climateaction.unfccc.int/.

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・ 正確性:GHG 排出量の定量化が、推定できる限り、実際の排出量を過大または過小に評価すること

のないように体系的になされ、また、それに伴う不確実性を可能な限り最小化するよう努めること。

情報利用者が報告された情報の完全性に関して、合理的な確信をもって意思決定を行えるよう十分

な正確性を保証すること。

目標の説明や進捗報告のための具体的な推奨事項を以下に列挙する。対象者やコミュニケーションの中

でも特に強調したいことに応じて、一つ以上の推奨事項に焦点をあわせ、コミュニケーションを調整す

るべきである。

目標を説明する

SBT の説明には、目標のバウンダリや野心に関する技術的情報だけでなく、目標を設定するために用い

た前提や手法も含めるべきである。目標に関する定性的、文脈情報も合わせて説明してもよい。

SBT に関する技術的情報

少なくとも以下の情報は説明すべきである。

・ 基準年と目標年

・ 目標に含まれる排出対象と含まれない排出対象(スコープ 3 排出が排出量全体の大部分を占めない

ため除外される等)や将来的に排出対象に含める計画

・ 企業の排出合計のうち、目標が網羅する割合

・ 原単位目標の場合;指標の説明(注:総量および原単位基準の両方で示すことがベスト)

・ 最終目標及び中間目標の各々の削減割合

・ 排出シナリオ、配分アプローチ、目標設定のために用いられた手法

・ 基準年のスコープ 2 排出量の算定及び SBT の進捗を把握するために用いたアプローチは、ロケーシ

ョン基準かマーケット基準か

・ その手法に必要とされるその他情報(商業的に支障のでないデータを想定)

・ GHGプロトコルコーポレートスタンダードの報告要件に沿った企業の年間GHGインベントリへの

リンク

削減割合のほかに、実際の目標排出量の水準(MtCO2e)を明記することも推奨されている。

スコープ 3 目標

上記の推奨事項は、スコープ 3 目標の開示の際にも当てはまるが、スコープ 3 目標の策定方法によって、

関係のないものもある。例えば、SBT 手法が使用されていなければ、排出シナリオの開示は不要となる

だろう。

加えて、スコープ 3 目標を説明する際、以下の点をコミュニケーションするべきである。

・目標に含まれているスコープ 3 カテゴリと明確に除外されているカテゴリを説明する。

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・例えば、目標に含まれているスコープ 3 排出量の割合、あるいはスコープ 1・2 排出量の規模と比較し

たスコープ 3 目標の規模を示すことで、目標の意義を論じる。

スコープ 3 目標をコミュニケーションするための一つの規定された定型フォームはない48。スコープ 1・

2 目標の開示のように、訴えかける対象者を理解し、対象者にとって有意義で関連性の高い方法で目標を

提示することが重要である。スコープ 3 目標の達成は、サプライヤー、顧客、その他外部のステークホル

ダーの協働・協力にかかっていることを認識するのは重要であり、彼らが貢献する意欲をかきたてられ

るような言葉でコミュニケーションしなければならない。

定性的、文脈情報

目標の内容を説明することは、二つの重要なメリットがある。まず、ステークホルダーが目標の重要性を

より理解し、気候変動に関する企業のリーダーシップを認知することである。二つ目は、企業による気候

活動がどれほど実行可能で、かつ賢い経営かという、より大きなストーリーに事業者の声を寄与するこ

とである。文脈情報とは以下の点を含む。

・ 動機付け:なぜそのような大幅な排出削減を宣言したのか?なぜ気候科学に則ることが企業のリー

ダーシップに重要なのか?このような疑問に対する答えは、ステークホルダー、ジャーナリスト、そ

の他ビジネス経営のトレンドや気候変動に関心のある人たちに有益なものとなる。目標に貢献する

動機を与えたり、自分たちの組織でも SBT を設定したりする動きにつながるかもしれない。

・ 企業の広範な目的との関係:多くの企業は、低炭素ビジネスを実現させるため、異なるビジネスモデ

ル、技術、運用手順、サプライヤーやその他企業の取組みを熱心に研究するだろう。ステークホルダ

ーは、SBT を考慮する時、企業の現状や将来のビジョンを深く理解する必要があるだろう。従って、

企業は、目標を自社の戦略計画や財務計画、営業計画に結び付けたいと考えるだろう。

・ どのように排出を削減するか:ほとんどの企業が SBT の達成に向け、はじめから十分に練られた計

画を持つわけではないだろうが、排出量削減のために講じる段階の短期的な例を示すことはできる

だろう。視覚化しやすい具体例は有益である。例えば、「来年、施設の 20%にソーラーパネルを設置

する予定」といったものである。

・ 気候科学に沿ったビジネスケース:SBT は、気候変動の最も危険な結末を防ぐための世界的な取組

みを支持しているため、注目に値する。ステークホルダーが、気候科学は排出削減に関する判断を導

くことができ、そうするべきだと理解することは重要である。提案されている論点を以下のボック

スで示す。

・ 受けた賞、メディアの掲載、その他コミュニケーションのための重要な資料へのリンク

SBT の論点

・ 科学は、地球の気温上昇を 1.5℃に抑え、破壊的で不可逆的な気候変動を防ぐために、

48 SBTi は、SBTi のウェブサイト上で報告するための SBT の説明に具体的な要件を定めている。

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世界の GHG 排出量を 2030 年までに 2010 年水準から 45%削減し、2050 年頃には排

出量を実質的にゼロにしなければならない、と論じている。これには世界的な構造変

化が必要となる。

・ 企業は低炭素未来を目指し、事業を変容させるため最も利用可能な気候科学に則った

GHG 排出量削減目標を設定しなければならない。

・ 賢明な企業は、野心的な目標の設定が自社の利益になることを知っている。SBT はイ

ノベーションを推し進め、長期的な競争優位性を確保することができる。

・ 長期的で有意義な目標を設定することは、ステークホルダーに、企業の方向性につい

て明確なメッセージを送り、ビジネスモデルを変容するために必要な戦略投資の内容

を提供することとなる。

・ 2015 年 12 月、地球上のほぼすべての国が、気温上昇を産業革命前の水準より 2℃を

十分に下回る水準に抑えることに合意し、歴史的なパリ協定を締結した。今こそ企業

は、その約束を履行するために役割を担わなければならず、この世界的目標に則った

排出量目標は重要な第一歩である。

目標への進捗を説明する

企業は目標達成に向けた進捗、並びに企業全体の GHG 排出インベントリについて、毎年報告するべきで

ある。このような情報は、目標年に達する前に、ステークホルダーが企業の進捗や取組みをより理解する

ことに役立つ。以下の情報は、進捗についてコミュニケーションする際に企業が含めるべきものである。

・本章の推奨事項に沿った目標自体の説明

・基準年から最新年までの排出量の変化(年毎の内訳が望ましい)

○年によって変動が予測されるため、複数年にわたって傾向を示すことが重要

・特定のスコープやスコープ 3 カテゴリに補助目標を設定している場合、各補助目標に対する進捗を示

さなければならない

・大幅な排出量変化の理由(例えば、排出削減活動、成長に伴う大幅な増加あるいは減少、取扱い製品の

変更)

・削減が順調に進んでいない、または目標経路から逸れている場合、その理由と対処のための今後の戦略

・目標が修正されていないか。修正されていた場合、その内容と理由(基準年インベントリの再計算、あ

るいは排出シナリオの更新のため等)

・排出量の削減に成功したプロジェクトに関する情報

・すでに実行されていて、企業の差別化を図り、企業がリーダーとして注目されるような新しい、または

革新的取り組みやパートナーシップ

・実行された投資や変化の中で、未だ大きな結果をもたらしていないが、今後そのようなことが期待され

るか、長期目標に対して必要な変容を可能にするもの

8.2 目標を再計算する

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時間が経っても一貫性を持って成果を把握するために、企業は、必要に応じて SBT を再計算し、そうし

なければ目標の妥当性を損なってしまうだろう大きな変更に対処するべきである49。以下の項目に大きな

50変更があれば再計算するべきである。

・企業構造(例:買収、子会社の売却、合併、内部委託、外部委託)

・基準年のインベントリを計算する方法論(例:改善した排出要因あるいは活動データ)

・目標を算出する方法論(例:排出シナリオ、成長予測、その他の前提)

・再計算は、重大なエラーを発見するためにも実施されるべきである

目標を作成するために用いた企業成長の前提を更新し、最新の気候科学を反映するために、特に長期目

標は再計算が必要となるだろう。例えば、IPCC やその他科学業界団体から利用可能な最新の排出シナリ

オが公表されると、このようなシナリオに合わせて目標は再計算される。

再計算は、組織の成長や業績不振によって行われるべきではない。組織の成長や業績不振は「生産量の増

減、取扱い製品の変化、当該企業が所有あるいは管理している事業所の閉鎖や開店」として定義される。

(WRI&WBCSD 2011, 106)

通常、企業は目標を毎年確認し、少なくとも 5 年毎に見直すべきである。目標の予測が変わる時は、短期

目標は変えず、短期目標の更新の際に長期目標の軌道を再調整することが望ましい。

49 目標が最新の気候科学に則っていることを確実にするために、SBTi の認定基準第 4 版は最初に目標が認定された日から 5 年毎に目

標を見直し、必要であれば妥当性確認を受けることを求めている。義務化は 2025 年からである。 50 変更の累積的な影響によって再計算が必要かを決めるために、企業は有意な閾値を採択すべきである。GHG プロトコルは閾値の数

値は規定していないが、通常、5%数値が推奨されている。5%閾値に基づけば、合わせて 5%以上 SBT に影響を及ぼす変化は重大だと

考えられるだろう。有意閾値は一度定義されると、経時的に一貫して適用されるべきである。

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用語

排出総量目標

基準年の水準と比較して目標年までに企業が大気に放出する GHG の全削減量

配分アプローチ

ある排出シナリオの基本となる炭素予算が、同水準に分割され企業間に割り当てられる方法(例

えば、地域、セクター、世界)

評価報告書(AR)

気候変動の科学的及び技術的評価を提供する IPCC が発行する資料

基準年

経時的に企業が目標達成度を評価する基準となる過去のある期間

炭素予算

気温上昇が特定の気温の閾値を超える前に、世界が排出できる炭素(あるいは CO2)の推定量

CO2 換算量(CO2e)

異なる GHG の地球温暖化係数を一つの数字として表すために使用される単位。すなわち、二酸

化炭素の相当量あるいは濃度

排出原単位目標

企業の生産量あるいは業績といった、ある一事業指標と比較した排出量の削減(例えば、製造ト

ン製品あるいは付加価値当たりの tCO2e)。目標は基準年の水準と比較して目標年までに達成さ

れる

排出シナリオ

将来の排出量に対する社会経済的変化や技術的変化の影響を評価するために使用される、将来

の排出量及び大気中の GHG 濃度の予測

エネルギー技術展望(ETP)

コストと環境係数によって技術が選ばれていく、持続可能なエネルギーの未来につながる経路

を示すシナリオを提供している IEA が発行する文書

温室効果ガス(GHG)

温室効果につながる大気中の放射能を吸収、及び放出するガス。GHG には水蒸気、二酸化炭素、

メタン、亜酸化窒素、オゾン及び CFCs を含む。

複合セクター

それぞれが固有の性質及び特徴を持ち、お互いに比較することが難しい多様な製品を生産する

ために、一つの物理的指標を用いて説明できないセクター

単一セクター

企業が、複数企業及びセクター全体で均一の製品を生産していて、一つの物理的指標を用いて

説明できる製品を生産するセクター

オフセット

他の場所での GHG 排出量を埋め合わせるために使用される個別の GHG 排出量削減量

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代表的濃度経路(RCP)

気候モデルや研究のために、IPCC 第 5 次評価報告書(AR5)で策定された GHG 濃度の軌道

スコープ 1 排出量

報告事業者が所有する、あるいは管理する排出源からの排出量

スコープ 2 排出量

報告事業者が購入した電力、熱あるいは蒸気から発生する排出量

スコープ 3 排出量

報告事業者のバリューチェーン上にある排出源からのその他の間接排出量全て

目標年

目標の中で、企業が宣言した排出削減を達成するとした年

付加価値

会計の専門用語によって異なり、粗利益、営業利益、購入した製品及びサービスにかかる経費を

差引いた収益、あるいはすべての人件費を加えた EBITDA として定義される

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略語一覧

AR5 (Fifth Assessment Report from the IPCC)

IPCC の第 5 次評価報告書

CH4 (methane) メタン

CO2 (carbon dioxide) 二酸化炭素

CO2e (carbon dioxide-equivalent)

二酸化炭素換算量

ETP (Energy Technology Perspectives)

エネルギー技術展望

GDP (gross domestic product)

国内総生産

GEVA (Greenhouse gas Emissions per Value Added)

付加価値当たり GHG 排出量

GHG (greenhouse gas) 温室効果ガス

IEA (International Energy Agency)

国際エネルギー機関

IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change)

気候変動に関する政府間パネル

kWh (kilowatt hour) キロワット時

RCP (representative concentration pathway)

代表的濃度経路

SBT (science-based target)

科学と整合した目標

SDA (Sectoral Decarbonization Approach)

部門別脱炭素化アプローチ

SR15 世界の気温上昇を 1.5℃に抑えた影響について書かれた IPCC の特別報告書

UNFCCC (United Nations Framework Convention on Climate Change)

気候変動に関する国際連合枠組条約

参考文献

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謝辞

CDP、UN Global Compact、WRI、WWFは、本マニュアルの作成にあたって様々な専門家から助言、

知見をいただきましたことに感謝申し上げます。

技術諮問グループには、以下に列挙する企業、非政府組織、その他団体からの専門家を含みます。

Andreas Horn, BASF

Arunavo Mukerjee, Tata Steel

Bill Baue, Sustainability Context

Bryan Jacob, Climate Coach

Chris Tuppen, Advancing Sustainability

Colin Parry, Diageo

Cristian Mosella, Colbun

Edward Butt, Tate & Lyle

Eric Christensen, WSP

Geoff Lye, SustainAbility

Jeroen Scheepmaker, Navigant

Guy Rickard, Carbon Trust

Jed Davis, Cabot Creamery

Jeff Gowdy, J. Gowdy Consulting

Kevin Rabinovitch, Mars

Mario Abreu, Tetrapak

Mark Didden, AkzoNobel

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Mark McElroy, Center Sustainable Organizations

Michel Bande, Solvay

Michel Cornet, CLIMACT

Philippe Le Gall, Nestlé

Kevin Moss, World Resources Institute

Roger Fernandez, EPA

Romain Poivet, ADEME

Sanjib Bezbaroa, ITC

Scott Matthews, Carnegie Mellon University

Tasso Azevedo, Fórum Clima

Meg Storch, C2ES

Lisa Grice, Anthesis Group

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SBT イニシアチブのパートナー組織について

CDP

CDPは、重要な環境情報を測定、開示、管理、共有するため、企業や都市に対して唯一の国際的制度を

提供している国際非営利団体である。これらの見識により、投資家、企業、政府は、エネルギーや天然

資源の利用によるリスクを軽減でき、環境に対して責任あるアプローチを講じることで得られる機会を

特定できる。

(https://www.cdp.net)

国連グローバル・コンパクト

国連グローバル・コンパクトは、人、コミュニティ、市場に永続的な利益をもたらす持続可能で、包括

的な世界経済の創出は可能と考えている。そんな経済を実現するために、企業が、戦略と事業活動を人

権、労働、環境及び腐敗防止に関する十の原則に則り、責任を持って事業を行うこと、また、協調とイ

ノベーションに重点を置いた、積極的な国連持続可能開発目標といった広範な社会目標を推進するため

に戦略的行動を取ることを支援している。

(www.unglobalcompact.org)

世界資源研究所(WRI)

WRIは、環境と社会経済の発展が交差する部分に主眼を置いている。地球を守り、人の暮らしをよくす

る斬新な解決策を構築するため、政府・企業・市民社会と国際的に連携しながら、研究を越えて、アイ

デアを行動に移していく。

(www.wri.org)

WWF

WWFは、世界最大の最も経験豊富な独立環境保全団体の一つで、5百万人を超える支援者がおり、100

カ国超で活動を行う国際的なネットワークを持っている。

WWFの使命は、世界の生物多様性を保全し、再生可能な天然資源の利用を持続可能なものにし、環境

汚染と浪費的な消費の削減を促進することで、自然環境の悪化を止め、人が自然と共生する未来を構築

することである。

(http://wwf.panda.org)