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エマージング・リスクへ対処するガバナンスと管理手法 ムーディーズ・アナリティックス ディレクター 野 裕 [email protected] 2014年7月

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エマージング・リスクへ対処するガバナンスと管理手法

ムーディーズ・アナリティックス

ディレクター

水 野 裕 二

[email protected]

2014年7月

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

目次

1.エマージング・リスクに対処するガバナンス

(サブプライムは最初から危機だったわけではなかった)

2.エマージング・リスク対応の意義

(多くの金融規制で対応が求められている)

3.エマージング・リスクを発見・特定するプロセス

(「はっきりするまで様子見しよう」は危険な行動)

4.システミック・リスクの兆候を発見する

(国・市場レベルで異常を察知する)

5.個別テーマに即してエマージング・リスクを俯瞰する

(ムーディーズのリサーチを活用する)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

1.エマージング・リスクに対処するガバナンス

(サブプライムは最初から危機だったわけではなかった)

雲行きが怪しい。午後は傘が要るかも知れない。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

サマリー/エマージング・リスクに対処するガバナンス

エマージング・リスクは「新たに出現するリスク」であり、不確実性が既知のリスクへと変容する過程にあるものを指す。

エマージング・リスクへの対処が重視されているのは、金融危機の反省に基づくものである。

エマージング・リスクにはいくつかの類型があり、全てのリスク管理カテゴリーに関連して発生するものである。

エマージング・リスク対応の失敗は「対応の遅れ」と「損失の悪化」に直結する。

エマージング・リスクへの対処には複数のステップがある。本資料では特に「発見」と「特定」のステップに注目する。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクとは?

昨今の金融規制に関する文書の中で、エマージング・リスク(新たに出現するリスク)という言葉が非常に多く登場する。

エマージング・リスクとは、既にリスクとして認識し、管理対象となっている既知のリスクではなく、今までは必ずしもリスクとして認識していなかった事象が発生し、それが徐々に顕在化する過程にあるものを指す。

既知リスク 不確実性

エマージング・リスク

エマージング・リスクに対処するとは、「想定外」をなくすこと

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスク対応はサブプライム危機の教訓に基づく

☞発生当初は米国のサブプライム問題が世界的な金融危機を引き起こすと思っていた人はほとんどいなかった。すなわち、サブプライム問題は当時の金融業界にとって、エマージング・リスクであった。

1.リスク情報共有とリスク分析フレームワーク

リスク情報を全社で効果的に共有していた

業務部門の判断に委ねず、上層部が判断した

リスクを特定し、リスク削減・ヘッジの指示が適切になされた

4.強固なリスク評価実務

複雑かつ非流動的な商品の評価プロセスが確立していた

実際の売却価格との比較による検証を行った

2.充実した経営情報システム(MIS)

多くの手法による分析結果を経営層が共有し、外部環境の変化について、全社的な議論が活発に行われた。

各手法のストレステスト結果を経営層に報告し、その実施スピードは速かった。

【エマージング・リスクとしてのサブプライム危機をうまく生き残った金融機関の特徴】

3.資金流動性、キャピタル、B/Sの効果的な管理

財務部門とリスク管理部門が密接に連携した

高リスクのトレードを抑制する枠組みがあった

“Risk Management Lessons from the Global Banking Crisis of 2008” (Senior Supervisors Group, 2009) に基づいてまとめたもの。この後、これらの内容を踏まえ、各種の金融規制が策定された。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクのいくつかの類型

金融市場や市場参加者の行動の変化に起因するもの

金融規制に起因するもの

内部的なガバナンスやコンプライアンスの欠陥に起因するもの

マクロ経済や政治的要因によるもの

災害や地政学上のリスクによるもの

中国経済のハードランディング・リスク、シャドーバンキング・バブルの崩壊リスク

中国・韓国との関係悪化が日本の貿易に悪影響を及ぼし、中小企業のクレジットを悪化させるリスク

米国ハイイールド市場の背後で生じているコベナンツ緩和とデットクッション減少

IRRBB規制やソブリン信用リスク見直しによる国債市場の下落リスク、欧州でのデリバティブ市場の流動性低下リスク

コンプライアンス違反による海外での罰金リスク、顧客データ流出や不正融資発覚による風評リスク

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

最近のエマージング・リスク事例

国の法制度によって異なりうるリスク

米司法当局がBNPパリバに課した罰金(89億ドル)の事例では、「米国では違反でもフランスや欧州連合(EU)の法律では問題ない」とのノワイエ仏中銀総裁のコメントが報道された。リスク認識が各国の法制下で異なる可能性があることを示している。

【コンプライアンス面のリスク】 【金融リスク/米国HY市場のバブル?】

【金融リスク/中国シャドーバンキング】

外部から見えづらいクォリティ悪化のリスク

2014年に入ってから、米国HY市場の活況がバブルではないかと懸念されている。そこで懸念されているのは表面的に見えるボリュームの増加だけではなく、審査基準(コベナンツ)の緩和という、外部から見えないクォリティ面のリスクも含まれている。

統計データの不足により予測困難なリスク

2013年から懸念されている中国シャドーバンキング市場については、正確な統計データが得られない分野が依然として多く、実態を把握することが難しい面がある。また、市場参加者の群衆行動についても過去事例が少なく、予測が困難な面がある。

【金融規制が市場に及ぼす影響】

金融規制が市場参加者の行動を変化させるリスク

IRRBBやソブリンリスク見直しに伴い、日本国債が売却され、長期金利上昇リスクが懸念されているなど、様々な金融規制の導入が金融機関の市場行動、ブッキング拠点の選択、ビジネスミックスなどに影響を与え、市場が予想外な動きを示す可能性がある。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクは顕在化と共に既知のリスクとなる

「エマージング・リスク」は永続的なリスクカテゴリーではなく、それが定量化可能な程度まで明らかになった時点で、既知のリスクとなる。既知のリスクは通常のリスク管理活動の対象となる。

エマージング・リスク (新たに出現するリスク) 既知のリスク

「エマージング・リスク」は全てのリスク管理カテゴリーについて発生しうるものである。

市場リスク

信用リスク

コンプライアンス・リスク(顧客情報漏洩)

オペレーショナル・リスク(ITリスク、業務リスク)

風評リスク

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスク対応が失敗する要因とその帰結

エマージング・リスク (新たに出現するリスク)

金融業務

不十分なリスク認識に基づく対応の遅れ

損失の悪化・風評リスク

リスク管理のルール上で報告対象とされていないことを理由に報告がなされない。

リスク文化の欠如 IT・データ集計の欠陥 ガバナンスの欠陥

既知のリスク

定量化できる金融リスク

⇒ リスク管理フレームワークの対象

⇒ リスクアペタイト・フレームワークで業務目標と連携

コンプライアンス・リスク

⇒ ガバナンス上の対処

オペレーショナル・リスク

⇒ ガバナンス・IT上の対処

【エマージング・リスク対応の失敗要因】

「発見していない」 「報告していない」 「特定していない」

新たに出現するリスクを発見し、議論するリスク文化が組織に根付いていない。

グループ内で影響を受けるエクスポージャー額の所在や影響度が把握できない。

【エマージング・リスク対応の失敗がもたらす帰結】 エマージング・リスク対応の失敗は「対応の遅れ」と「損失の悪化」に 直結する

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクに対処するプロセス

エマージング・リスク(新たに出現するリスク)への対処には複数のステップがある。

=発見すること (それがリスクであると認識する)

=特定すること (バランスシート影響を把握する)

=報告すること (経営層に報告する)

=決定すること (対処の方針を決定する)

=管理すること (リスク管理の対象とする)

=削減すること (リスクを減らすための方策をとる)

ガバナンス上の対応とIT上の対応の両面が必要

本資料では特に「発見」と

「特定」のステップに注目

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

2.エマージング・リスク対応の意義

(多くの金融規制で対応が求められている)

規制に横串を刺してみる

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

サマリー/エマージング・リスク対応の意義

多くの金融規制が金融機関のガバナンス強化の一環として、エマージング・リスクへの対処能力の強化を求めている。それは以下の事項に直結する。

= 金融機関の自己規律を確立する

= フォワード・ルッキングなリスク管理を実現する

= Informedな経営判断を実現する

= リスク文化を組織に定着させる

= リスクアペタイト・フレームワークにて経営関与を高める

= ストレステストのシナリオ設定を高度化する

= データ管理とMIS(経営情報システム)を高度化する

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクは多くの規制文書で触れられている(1)

「リスク文化」の構築に関連して

「健全なリスク文化は実効的なリスク管理を支え、健全なリスクテイクを推進し、金融機関のリスクアペタイトを超えた新たに出現するリスクやリスクテイク活動をタイムリーに認識、評価、上位報告されることを確実なものとする。」

「リスク文化に関する金融機関と監督当局の相互作用に関するガイダンス」(2014年4月、金融安定理事会)より

リスク文化の構築に不可欠な「取締役会の責任」に関連して

「組織全体における現状および新たに出現するリスク情報が、モニター、報告、対応されることへの明確な期待感を示すこと(3.2.1)。新たに出現するリスクに関する情報が組織内で共有されるメカニズムを整えること(3.2.3)。」

「リスク文化に関する金融機関と監督当局の相互作用に関するガイダンス」 (2014年4月、金融安定理事会)より

「G-SIFIの監督」に関連して

「監督当局は一般に、G-SIFIの業務を包括的に理解することにより、ルールベースの監督アプローチを補完している。それには金融機関のビジネスモデル、戦略、文化をより深く理解することが含まれる。『金の流れを追う』(“follow the money” )アプローチには、新たに出現するリスクを発見するために役立つ、財務諸表分析のような伝統的な分析ツールも含まれる。」

「SIFI監督の密度と実効性を高める」(2012年9月、金融安定理事会より)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクは多くの規制文書で触れられている(2)

「取締役のガバナンス上の責任」としてFSBが各国当局に勧告した内容

「取締役会は金融機関の戦略、リスクプロファイル、新たに出現するリスクに対する有効な意思決定ができるよう、経営層や管理部門から提出される情報が包括的、正確、完全、適時なものになるよう確保しなければならない。」

「リスクガバナンスに関するテーマ別レビュー」(2013年2月、金融安定理事会)

「監査委員会とリスク委員会の役割」に関連して

「監査委員会とリスク委員会は定期的に会って情報交換し、全リスクの対象範囲が新たに出現するリスク問題を含んでいることを確実なものとする。」

「リスクガバナンスに関するテーマ別レビュー」(2013年2月、金融安定理事会)

「G-SIFI監督を強化するための各国当局の協力関係」に関連して

「より有効な情報交換を行い、当局間の協力関係を築くことが、新たに出現するリスクを特定し、利用できるリソースの有効活用のために役立つ。」

「SIFIに対する監督フレームワークとアプローチに関するテーマ別ピアレビュー」(2014年7月、金融安定理事会)

「銀行監督行政」に関連して

バーゼル委員会の「脆弱な銀行を特定し、対処するための監督ガイドライン」(2014年6月)には、監督当局にとってのエマージング・リスクである「脆弱な銀行の兆候」を特定する監督手法が示されている。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

なぜ金融規制が金融機関のガバナンス強化を要求するのか?

【FRBタルーロ理事の最近の講演内容より】

金融機関の管理態勢やリスクアペタイト決定プロセスを強化することが、なぜ規制目的を達成することにつながるのか、と疑問に思う人もいるかも知れない。1つの答えとして、そうすることにより、当局が金融機関の安全性と健全性を見抜く能力を改善できる点がある。よりタイムリーかつ正確な情報を監督当局が収集できれば、我々の監督はより対応力を増す。良く整備されたリスク管理機能が金融機関にあれば、規制上の目的を達成するために有効に内部状況を探ることが可能になる。

金融規制が金融機関のコーポレート・ガバナンスに影響を与える理由として少なくとも3つ挙げることができる。第一に、預金を受け入れる金融機関のコーポレート・ガバナンスは一般企業のものとは異なるものであるべき、ということである。第二に、金融規制は金融機関のコーポレートガバナンスで前提とされている市場規律に影響を与える、という事実。第三に、金融機関はレバレッジが高く、満期転換機能を担うというリスク特性を持っており、コーポレート・ガバナンスは特に難しいものとなるという点である。

2014年6月 Corporate Governance and Prudential Regulation Remarks by Daniel K. Tarullo より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「エマージング・リスクに対処する」とは、金融機関の自己規律を確立すること

金融危機以降の多くの金融規制は「金融危機の再発防止」を目的としている。「リスクのトリガー」を全て防ぐことはできないが、「市場の脆弱性」に対処しておけば、システミック・リスクは回避できる。この考え方に即して規制措置が取られてきた。

「金融危機について考える際、トリガーと脆弱性を区別して考えたい。トリガーは前回の金融危機におけるサブプライム損失のようにきっかけに過ぎない。一方、脆弱性は元々金融システムに内在し、危機を増幅させるものである。脆弱性がなければ、トリガーは本格的な危機を引き起こさない。よって、脆弱性に対処することが金融システムの健全化のカギである。」 (バーナンキ前FRB議長の発言より)

一方、市場の脆弱性に対処するために金融規制にできることにも限界がある。金融規制が実現できることが「市場規律」であるならば、金融機関に求められているは「自己規律」(ガバナンス)の向上である。

金融機関の自己規律を高める必要性が強く意識される中、金融危機以降の新たな金融規制において、エマージング・リスク(新たに出現するリスク)への対応能力の強化が繰り返し指摘されている。

既に見えているリスクのみならず、今後顕在化する可能性のある未知のリスクに対して、適切に対処できる自己規律能力が金融機関に求められている。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「エマージング・リスクに対処する」とは、フォワード・ルッキングなリスク管理とInformedな経営判断を実現すること

エマージング・リスクに対処するとは、

フォワード・ルッキングなリスク管理を実現すること

Informedな経営判断を実現すること

不確実性

経営判断

リスク管理

既知のリスク エマージング・

リスク

フォワード・ルッキングなリスク管理

Informedな経営判断

リスク管理・経営判断の両面でエマージング・リスクへの対処能力を高めることが金融機関に求められている

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「エマージング・リスクに対処する」とは、健全なリスク文化を組織に定着させること

「健全なリスク文化は実効的なリスク管理を支え、健全なリスクテイクを推進し、金融機関のリスクアペタイトを超えた新たに発生するリスクやリスクテイク活動をタイムリーに認識、評価、上位報告されることを確実なものとする。」

【トップが示す基本理念(Tone from the top)】

取締役会および上位経営層の行動は金融機関のリスク文化を反映しなければならない。

【説明責任】

全従業員がリスク文化の中核的価値観とリスクへのアプローチを理解し、リスクテイクに関して説明責任を負う。

【実効的なコミュニケーションと異議申し立て】

健全なリスク文化は、オープンなコミュニケーションと実効的な異議申し立ての環境を促進する

【インセンティブ】

従業員に対するインセンティブは金融機関の中核的な価値観とリスク文化を支える。

エマージング・リスクに対処する枠組みを構築することは、リスク文化の定着を証明する1つの有効な手段 (ただし、これが全てということではない)

「リスク文化に関する金融機関と監督当局の相互作用に関するガイダンス」(2014年4月、金融安定理事会)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「エマージング・リスクに対処する」ことは、リスクアペタイト・フレームワークに組み込まれていなければならない

【リスクアペタイト・フレームワークのイメージ・チャート】

監査委員会

リスクガバナンス・フレームワークの独立評価を監視する

取締役会

金融機関のRAFを承認・監視する。

リスク委員会

リスク戦略をレビューし、提言する。リスク管理の導入を監視する。

CEO

業務戦略、リスク戦略、RAFおよびRAS全般を策定・提言する。

内部監査

ガバナンスとリスクアペタイトの適切性について評価・提言する

CFO

全社的、業務部門ごとの収益、所要自己資本と予算について調整、監視、報告する。

業務部門

リスクリミットを遵守する。リスクリミット抵触を監視、リスク指標を遵守、報告する。

CRO

リスク管理を監督する。RAS上のリスク指標を策定・監視・報告する。ストレステストを実施する。

RAF:リスクアペタイト・フレームワーク

RAS:リスクアペタイト・ステートメント

エマージング・リスクに対処する流れをRAFに組み込むことは、Informedな経営判断を実践するための重要な要素

『リスクガバナンスに関するテーマ別報告書』 (2013年2月、FSB)より一部加工して抜粋

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「エマージング・リスクに対処する」とは、ストレステストのシナリオ設定を高度化させること

エマージング・リスクが計量化できないほど早期段階のものであっても、適切なシナリオを設定することにより、ストレステストにおいてインパクトを推定できる。

エマージング・リスクについて適切な前提条件を置き、波及効果を検討することは、ストレステストのシナリオ設定の高度化に直結する

時系列

リスク大

リスク小 現在

経営状況

(ストレス後)

経営状況

(3年後)

経営状況

(2年後) 経営状況

(1年後)

スタティックなストレステスト ダイナミックなストレステスト

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクへ適切に対処するには、データ管理とMISの高度化が不可欠

Informedな経営判断を実現するには、経営層に対して必要な情報をタイムリーかつ正確に伝達することが必要。

各業務部門

リスクアペタイト・フレームワーク

【ダッシュボード・システム】

取締役会 ・ 上位経営層 ・ Cレベル役員

リスクデータ・ウェアハウス基盤

計量化できる既知のリスクのみならず、エマージング・リスクをフレームワークの中に含めているか?

エマージング・リスクに基づくストレステスト結果が報告対象とされているか?

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクを発見・特定し、ストレスシナリオに転換できれば、通常のストレステスト過程で計量化が可能になる

中国経済のハードランディング?

(GDP伸び率が2014年中に2.8%へ低下)

・・・

エマージング・リスクを前提条件として設定

モデル算出/推定

計算エンジンへ投入

日本のGDPは▲1.7%へ下落

・失業率:XX%へ上昇

・鉱工業生産指数:XX%へ下落

・長期金利:XX%へ上昇

・株価:指数XXX円下落

・不動産:XX%下落

波及効果を前提条件として設定

・信用ポートフォリオのPD上昇

・国別・業種別PD上昇

・個別銘柄の内部格付悪化

信用リスク経路

エマージング・リスクは前提条件を置けば、既知リスクと同じ管理が可能

ストレス後のKPI・KRI算出

・バーゼル自己資本比率

・信用VaR or 経済資本

・ROA、ROE、RAROC等

~不良債権・損失額

~内部格付の変化

~業種別のリスク量変化

~集中リスク変化

~格付遷移変化

~期待損失の算出(P/L影響)

~大口与信先のリスク変化

~不動産担保価格の変化

中国ハードランティング前提についてはムーディーズ・アナリティックスのリサーチレポートを参照した。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

3.エマージング・リスクを発見・特定するプロセス

(「はっきりするまで様子見しよう」は危険な行動)

様子見は危険

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

サマリー/エマージング・リスクを発見・特定するプロセス

エマージング・リスクに対処する複数のステップのうち、「発見」と「特定」のプロセスが最も重要である。

「発見」と「特定」のプロセスにはリスクマップの概念を活用することができる。リスクマップの概念は発生確率とインパクトの2面から、リスク事象を定義するものである。保険業界では「ヒートマップ」として定着が進んでいる。

金融当局によるシステミック・リスクを特定するプロセスを紹介する。これは、システミック・リスクを発見・特定し、リスク格付を付与し、対応策を決定する「リスク登録(リスクレジスター)」の枠組みとして参考になる。

エマージング・リスクは各社に固有のものであるため、リスクマップやヒートマップも各社に固有のものでなければならない。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクに対処するステップとツール

エマージング・リスク(新たに出現するリスク)に対処すること

=発見すること (それがリスクであると認識する)

=特定すること (バランスシート影響を把握する)

=報告すること (経営層に報告する)

=決定すること (対処の方針を決定する)

=管理すること (リスク管理の対象とする)

=削減すること (リスクを減らすための方策をとる)

リスクマップ

+データ集計

MIS

ストレステスト

リスクヘッジ(*)

リスクアペタイト

ツール(例)

(*)リスクヘッジは1つの事例として示したもの。ポートフォリオミックスの変更、リスクリミットの変更、営業・投資方針の変更、所要スプレッド基準の変更、審査基準の変更、担保基準の変更、業務撤退、資産売却などリスクアペタイトの変更と見なしうる全戦略方針がリスク削減ツールとなりうる。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクに対処するステップの中で最も重要なのは「発見」と「特定」

エマージング・リスクに対処する複数のステップのうち、最も重要なのは「発見」と「特定」のプロセスである。なぜならば、エマージング・リスクはその定義からして通常のリスク管理対象になっていないものであり、発見・特定されないこと(=見逃されてしまうこと)が最大のリスクになるからである。

発見・特定した後のプロセスは通常のリスク管理プロセス(特にストレステスト)とほぼ同じである。

「発見」と「特定」が最大の課題であることが、エマージング・リスクがガバナンスの文脈で議論されることが多い理由である。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクの「発見」と「特定」

【エマージング・リスクを発見する】

発生する可能性のあるリスク事象を選び出す。

(例1):中国のGDP成長率が7%未満に低下する可能性(ハードランディング)

(例2):米国のハイイールド市場でバブル現象が起きている

(例3):新たな金融規制により日本国債を保有することが困難になる可能性

【エマージング・リスクを特定する】

リスク事象をシナリオ化し、必要に応じて波及効果を特定し、影響を受ける自社のエクスポージャーの有無を確認する

(例1):中国ハードランディング ⇒中国企業のデフォルト増加 ⇒中国企業向け貸出額

(例2):米国HYバブル ⇒CLOの損失リスク増加 ⇒CLO投資額

(例3):新金融規制 ⇒日本の長期金利上昇 ⇒国債保有額

発見・特定プロセスでの最大のリスク要因は、「リスクとしてはっきりするまでは様子見しておこう」という発想。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクを発見・特定するためのリスクマップ(1)

リスクマップ(ヒートマップ)とは、金融機関にとってのエマージング・リスクを対象に、その発生の可能性と自社に与えうるインパクトの大きさを推定し、その重大さを分かりやすく経営層に伝えるための経営ツール。(以下は図表イメージだが、必ずしもこの形式にこだわる必要はない。後述の「モデルケース」ご参照。)

発生の蓋然性

自社に与える インパクト

中国シャドーバンキングのクラッシュ

米国Taperingによる新興国不況

アベノミクス失敗による景気低迷

規制による国債売却・長期金利上昇

低い 中程度 高い

米国HY市場の デフォルト増大

(この表に示された事象は全て例示であり、実際の発生確率やインパクトを反映したものではありません。)

各社固有の評価である点に注意

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

エマージング・リスクを発見・特定するためのリスクマップ(2)

波及効果分析型のリスクマップとして、エマージング・リスクが及ぼしうる波及効果と影響を受けるエクスポージャーを特定する方法も考えられる。これはストレステストのシナリオを意識した手法。

米国景気の反転 米国クレジットクランチ 米国企業の売上低迷

米国株・債券のバブル兆候

米国HY市場のコベナンツ・バブル

米国Tapering(2014年秋)

米銀へのレバレッジ規制

新興国経済の2極化

日本経済の悪化

日米長期金利上昇

リスク対象: HYファンド、CLO投資

リスク対象: 東南アジア

リスク対象: 貿易依存度の高い国内中小企業

リスク対象: 国債ポートフォリオ、住宅ローン

(ここに示された事象は全て例示であり、実際の発生確率やインパクトを反映したものではありません。)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

日本の保険業界のERMで活用されるヒートマップ

金融庁による主要な保険会社に対するERMヒアリングでは、ヒートマップの活用が推進されている様子が示されている。以下は2013年のヒアリング結果に基づき、リスク選考(アペタイト)に関する該当箇所を抜粋したもの。(下線は筆者による)

【リスクプロファイル(リスクの全体像)の把握】

リスクプロファイルとは、全ての重要なリスクを、網羅的なリスクの洗い出しによって把握したものであり、ERM を実践する上で基本的な前提となる。米国サブプライムローン問題を契機とする金融危機以前は、市場リスクや保険引受リスクなどの既に計量化されているリスクに焦点があたり、エマージング・リスク(発生したことのない新たなリスク)等の計量化が困難なリスクについては管理が手薄となりがちであった。しかし、当該金融危機の経験から、エマージング・リスク等の計量化が困難なリスクも含め、網羅的かつ能動的な把握が重要であると認識されるようになった。また、保険会社を取り巻く環境は多様化しており、エマージング・リスク等を含め、保険会社が晒されているリスクは多岐にわたる。そこで、リスクの影響度と発生可能性等に基づいてまとめたヒートマップ等の一覧性をもった資料の作成により、経営陣が重要なリスクを網羅的に把握する取り組みは、リスクプロファイルの把握において有益である。こうしたことを踏まえ、前回と同様に今回のERM ヒアリングにおいても、計量化困難なリスクも含めた分析や、経営陣の重要なリスクの網羅的な把握に関する取り組みを中心にヒアリングを実施したところ、保険会社における取り組みとして以下のような特徴が見られた。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

日本の保険業界のERMで活用されるヒートマップ

【計量化困難なリスクも含めた分析】

エマージング・リスク等の計量化困難なリスクを捉えるため、例えばCSA(統制自己評価)を活用し、業務現場が網羅的なリスクの洗い出しを実施し、それをリスク管理部門やリスク管理委員会が評価する社が多かった。また、外部のシンクタンク等に分析を依頼するなど、より大局的な視点からエマージング・リスク等を捉えるために、トップダウン型でリスクプロファイルの把握に取り組んでいる社もあり、前回よりも、より多くの社で深度あるリスクプロファイルに関する取り組みが進展していることが確認できた。一方、エマージング・リスク等を含め、全社で網羅的にリスクを洗い出すには至っていない社もいくつかあった。

【経営陣による重要なリスクの網羅的な把握に関する取り組み】

前回よりも多くの社が、重要なリスクをその影響度と発生可能性に基づき一覧化したヒートマップや、重要なリスクを列挙したリスクレジスター等の作成に着手していた。経営陣による重要なリスクの網羅的な把握に関する取り組みが浸透している模様であるが、一方で、そのような一覧性のある資料の作成は未実施との社もあり、また、一部の社からは、実効性のある一覧性を持った資料の作成は難しく現在検討中であるとの回答もあった。

【2014年のORSAレポートに基づくヒアリング結果における該当箇所抜粋】

昨年のERM ヒアリングに引き続き、リスクマップやリスクレジスター等の一覧性を持った資料による経営陣への報告等についても確認を行った。昨年よりもヒートマップ等の一覧性を持った資料の活用が広がりを見せ、全社におけるリスクの状況を経営レベルで把握しようとする取り組みが進展していることが確認できた。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

リスクマップ運用のモデルケース

リスクマップ(ヒートマップ)の運用においては、その形式にこだわらずとも、正確な内容を経営層に伝えることが肝要。例えば、以下のポイントを正確に経営に伝えるプロセスを構築することが考えられる。

【経営に影響を及ぼし得るエマージング・リスクをリストアップ】

現在はまだリスクとして顕在化していないが、状況が悪化した場合に経営に影響を及ぼす事象を幅広くリストアップ

【エマージング・リスクをリスク種類・市場別・国別などに分類、波及効果を明示】

それらのリスク(各種類別)がどのような波及経路をたどって影響を及ぼすかについて仮説を提示

【影響を受ける自社のエクスポージャーやリスク資産額を特定】

それらのリスクにより影響を受ける具体的なエクスポージャー額やリスク資産額を特定

【エマージング・リスクを経営に与える影響度に応じて分類】

自社の損益に及ぼしうる影響の大きさから、リスクの潜在的なインパクトを査定する

【ストレステストのシナリオとして含めるべきか否かの判断】

リスク発生の蓋然性に応じてストレステストのシナリオとして含めるべきかを判断し、必要と判断されるであればストレステストを実行する。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

(ご参考)リスクマップ事例

日本銀行金融高度化セミナーにて三菱東京UFJ銀行の吉藤総合リスク管理部長が講演した「RAFにおけるストレステストの活用」より転載。当該資料については以下のディスクレーマーが記載されている。「 本日の講演内容ならびに本紙に記載された内容・意見は、三菱東京UFJ銀行の公式見解を示すものではありません。また、計数はすべて架空のものを利用しており、ありうべき誤りについても、全て講演者(執筆者)自身に属します。」

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

金融当局によるリスク特定プロセスの事例(オーストラリア証券投資委員会)

【オーストラリア/ASIC(オーストラリア証券投資委員会)によるリスク登録/ヒートマップ手法】

ASICでは新たに出現するシステミック・リスクを評価するフレームワークを導入している。(本件は金融当局に採用されている手法であり、個別金融機関で導入する際には調整が必要だが、参考になる点が多いため紹介するもの。)

ステップ1:潜在的なリスクを特定する

潜在的なイベントを特定し、そこから生じる潜在的なリスクを明示する

ASICはそのイベントと潜在的なリスクの発生に対して(過去も含め)効果的に対処できているか?

ステップ2:リスクを分類する 既存リスク

新たに出現するリスクではない。

そのリスクは景気悪化につながる金融システムの損害を含むか?

Yes

No

Yes No

新たに出現するリスク?

システミック・リスク?

出所:「証券規制当局のためのリスクの特定及び評価メソドロジー」(“Risk Identification and Assessment Methodologies for Securities Regulators”)(2014年6月、証券監督者国際機構(IOSCO))

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

金融当局によるリスク特定手法の事例(オーストラリア証券投資委員会)

商品・セクター・リスク? Yes No

潜在的イベントへのリスク格付付与

イベントによる影響(投資家、金融消費者、公正市場、等)

イベント発生の確率

個別会社レベルのリスク

No

そのリスクは投資家、金融消費者、公正な市場等を害するものか?

Yes

ステップ3:リスクに格付を付与する

無視できる 小さい 中程度 大きい 極めて大きい

ほぼ確実 Low Medium High High High

可能性高い Low Medium Medium High High

可能性あり Low Low Medium Medium High

可能性低い Low Low Medium Medium Medium

まず発生しない Low Low Low Medium Medium

結果の重要度(ASICの優先事項に対するインパクト)

発生確率

リスク格付のスコアリング・マトリクス

出所:「証券規制当局のためのリスクの特定及び評価メソドロジー」(“Risk Identification and Assessment Methodologies for Securities Regulators”)(2014年6月、証券監督者国際機構(IOSCO))

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

金融当局によるリスク特定手法の事例(オーストラリア証券投資委員会)

ステップ4:対応策の決定

Yes No

ASICはそのイベントの発生に対して規制上の影響を及ぼせるか?

リスク対応 リスク対応

High 管理・モニター・緩和策

Medium 管理・モニター・緩和策

Low モニター

リスクに適切に対処するために他の関連当局とレビューを必要とするか?

High モニター・緩和策

Medium モニター

Low アクションなし

出所:「証券規制当局のためのリスクの特定及び評価メソドロジー」(“Risk Identification and Assessment Methodologies for Securities Regulators”)(2014年6月、証券監督者国際機構(IOSCO))

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

「自分たちのリスク管理」 =エマージング・リスクは各社に固有

エマージング・リスクは全ての金融機関にとって共通の事象ではない。金融機関各社に固有のリスク・プロファイルやエクスポージャー状況に応じて、その対象や重点は様々に異なりうる。

エマージング・リスクがリスク管理の文脈よりもむしろ、ガバナンスの文脈で議論されている理由は、各社にとって固有のエマージング・リスクを対象としているため。

エマージング・リスクを発見・特定するためのリスクマップやヒートマップは、一般的なものではなく、各社固有のプロセスを経て特定された各社固有のものでなければならない。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

4.システミック・リスクの兆候を発見する

(国・市場レベルで異常を察知する)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

サマリー/システミック・リスクの兆候を発見する

システミック・リスクの兆候を発見する手法として参考になる資料として、IOSCOによるレポートの内容を紹介する。

システミック・リスクの兆候を調べるためのデータソースとして、ESMA、ESRB、バーゼル委員会のレポートを紹介する。

IOCSOはシステミック・リスクの兆候を調べるためのマクロ・ミクロの指標や判定指標を示している。

民間クレジットのバブル状況を推定する指標として、民間クレジットの対GDP比率が用いられることがある。だが、同指標はときに誤ったシグナルを出すことがあり、過信は禁物である。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

IOSCOによる「リスクの特定及び評価メソドロジー」

2014年6月26日、証券監督者国際機構(IOSCO)は「証券規制当局のためのリスクの特定及び評価メソドロジー」(“Risk Identification and Assessment Methodologies for Securities Regulators”)を公表した。本報告書はIOSCO及び証券規制当局が、新たに出現する又は潜在的なシステミック・リスクを特定・評価するために策定してきた手法、アプローチ及びツールについて、実務的に概要を示すものである。

証券市場は複雑であるため、本報告では市場におけるトレンド、脆弱性及びリスクの特定に当たっては一律な手法は存在しないことを認識している。その代わり本報告ではエマージング・リスク委員会のメンバーである証券当局が現在採用している異なる手法の具体例を提供している。

本報告書は、以下のテーマに沿って構成されている。

リスクの定義

IOSCO のリスク特定手法

証券規制当局が採用しているリスク特定手法

システミック・リスク評価のための分析的フレームワーク

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

IOSCOが定義するシステミック・リスク

2011年、IOSCOは「システミック・リスクを軽減する/証券監督当局の役割」(“Mitigating Systemic Risk: A Role for Securities Regulators”)にてシステミックリスクを以下のように定義した。

「システミック・リスクはある事象、行動あるいは一連の事象や行動が広範囲において不利益な影響を金融システムひいては経済に及ぼすことを指す。」

「証券市場の文脈においては、システミック・リスクは突然発生する壊滅的事象だけに限定されるものではない。それは市場の信頼が徐々に損なわれる形態を取ることもある。」

契約の複雑さ 金融市場での

拡散 会計の悪用

ボーナス・ インセンティブ

過信 ガバナンスの

欠陥

過度な リスクテイク

資産バブル マクロ・ミクロの

歪み 資産価格の

崩壊 資本・流動性

の悪化 金融危機

【新たなリスクの出現に寄与する可能性のある複雑性と要因】

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスクを特定するための情報ソース事例

【欧州/ESMA(欧州証券市場監督局、European Securities and Markets Authority)】

ESMAは「金融市場のリスク、トレンド、脆弱性」(“Risk, Trends and Vulnerabilities in

Financial Markets”)というレポートを四半期に一度公表し、証券市場のリスク指標やファンド市場のリスクを紹介している。

レポートの内容は以下の項目から成る。(2014年3月号に基づく)

トレンド

証券市場(株式、ソブリン債、社債、シャドーバンキングなど12項目)

投資家(ファンド市場について5項目)

市場インフラ(取引所など5項目)

リスク(流動性リスク、市場リスク、波及リスク、信用リスクの4項目)

脆弱さ(EU株式市場の高頻度取引(HFT*)など5項目)

*2014年4月、株式の高頻度取引への規制が欧州 議会で承認されています。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスクを特定するための情報ソース事例

【欧州/ESRB(欧州システミックリスクボード European Systemic Risk Board)】

ESRBは“ESRB Risk Dashboard”というレポートを四半期に一度公表し、欧州金融市場のリスク指標を紹介している。

レポートの内容は以下の項目から成る。

(2014年6月号に基づく)

相互連関性とシステミックリスク指標

マクロリスク

信用リスク

ファンディングと流動性

市場リスク

収益性とソルベンシー

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスクを特定するための情報ソース事例

【バーゼル銀行監督委員会】

バーゼル委員会では広範な金融データに加え、以下のレポートを定期的に発行している。

BIS Quarterly Review International banking and financial market developments

(四半期に1回公表。グローバルな金融市場に関する統計データと最新トピックスを紹介。)

BIS indicators on global liquidity conditions

(年に2回公表。 グローバルなクレジット、流動性、マネーフロー状況を記載。)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスクを分析するための指標事例

2012年7月にIOSCOはシステミック・リスクを分析するフレームワークを含む、ワーキングペーパーを公表した。そこにはマクロ、ミクロの2分野においてシステミック・リスクを分析するための指標例が記載されている。

金融ストレス 金融ストレスインデックス資産価格の長期平均からの乖離

マーケット不均衡 市場が長期平均を著しく超えていることあるアセットクラスへの強いインフローレバレッジ水準が過去最高に

マクロ経済データ 金利の変動マイナス実質金利と国の規模クレジットバブル指標グローバル市場の価格・収益指標インフレーション経済成長率ファンドの資金フローマネーサプライ変化とクレジット成長の変化インターバンク貸出中央銀行の資産買入プログラム

政府負債の持続可能性 ソブリン負債市場参加者、発行体、個人部門の負債状況

資産価格とスプレッド 資産価格とスプレッド(クレジット、株式、コモディティ)その他 国際的な資本フローの変化

地政学的な環境

システミックリスク要因 証券市場の主要指標(テーマ別)サイズ 市場サイズ指標(総額、伸び率)

資産とマネーフローの指標流動性 市場流動性、グローバル流動性へ依存関係

クレジット市場/債券市場の安定性指標証券化と担保指標(例:超過担保水準)

国際間 国際間の債権・債務指標透明性 金融アドバイザーや市場への消費者信頼

不透明な市場活動の変化(年次)

相互連関性市場、商品、金融機関の間のコリレーション(例:IMFによる銀行のネットワーク分析)金融システム内の資産・負債市場(ノンバンクSIFIとG-SIB)カウンターパーティー集中/エクスポージャー

持続可能性と金融機関構造 個別資産、市場、金融機関へのエクポージャー規模金融機関のリスク中立的なデフォルト確率金融機関の大体可能性の定性的評価

市場の統合性と効率 市場操作指標ブローカー/顧客のコンフリクト指標インサイダートレーディング指標

集中 個別資産、市場、金融機関へのエクポージャー規模金融機関のリスク中立的なデフォルト確率

投資家行動 ファンドへの資金フロー販売実務のトレンド

インセンティブ構造 マージン/ヘアカット(例:レポ市場)報酬慣行のトレンド

レバレッジ マネーのレバレッジとスピード規制 規制対象外の取引の比率

規制が不十分な市場分野の存在と性質複雑性 複雑性指標(複雑な商品の件数と総額)

ポートフォリオ浸透指標(例:家計部門に占める割合)投資家や市場参加者の商品理解の定性評価

【マクロレベルの指標】 【ミクロレベルの指標】

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

IOSCOによるシステミック・リスクの判定ファクター

2014年6月のIOSCO報告書ではシステミック・リスクの判定ファクターとして 以下の項目が指摘されている。

◎サイズ :リスクにより影響を受ける市場の相対的なサイズ

◎相互連関性 :リスクにより影響を受ける市場参加者の相互連関性

◎代替不可/集中 :市場の寡占による集中リスク

◎レバレッジ :市場参加者の財務レバレッジ

◎資産・負債の類型 :資産のクォリティや負債の集中・償還リスク

◎波及リスク :セクター、市場、市場参加者の間のリスク伝播

◎流動性 :証券の売却可能性と調達市場の観点での流動性

◎透明性 :市場の相互連関性に関する情報の透明性

◎行動態様 :市場参加者の行動(資産ミスプライシングを引き起こす群集行動)

◎規制レベル :市場参加者がより規制レベルの低い市場へ流れる可能性

◎複雑性 :市場、商品等の複雑さ

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

(ご参考) G-SIB決定メソドロジー(バーゼル委員会)

“Global systemically important banks: updated assessment methodology and the higher loss absorbency requirement” (BCBS July 2013)に基づく

以下は2013年7月にバーゼル委員会が公表したG-SIB決定メソドロジーのスコアリング手法。ここで使用されている5項目はIOSCOによるシステミック・リスクの判定ファクターとほぼ一致している。G-SIBのリスクがシステミック・リスクであることから当然の帰結。

波及リスク

サイズ

相互連関性

代替不可

複雑性

IOSCOレポートの項目

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスク予測に関するBISワーキングペーパーの示唆

2012年12月にBISがワーキングペーパーとして公表した“The Great Leveraging”で

は以下の事実が指摘され、民間クレジット(対GDP比)の成長率に金融危機を予測

する能力があることが示されている。

1970年以降、金融危機は頻発している その原因は銀行アセットが対GDP比で急激に拡大していることにある

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

システミック・リスク予測に関するBISワーキングペーパーの示唆

2013年7月にBISがワーキングペーパーとして公表した“Credit and growth after

financial crises”ではクレジットブームが金融危機の原因となることが示されてい

る。

5四半期後にGDPは上向き、8四半期後に危機前の水準に回復

危機発生後、クレジット(対GDP比)は継続的に低下

クレジット・ブームを伴う景気拡大

金融危機発生

(横軸は金融危機前後の16四半期を示す)

クレジットブーム(民間与信の対GDP比率が急激に伸びること)は金融危機の原因となる。金融危機の発生後、クレジット(対GDP比)は継続的に低下する。

1970年以降の金融危機事例39件に基づく「平均的な金融危機」の姿。なお、39件の中にはシステミック・リスクまでは引き起こさなかった14件も含まれている。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

ただし、クレジット対GDP比率によるバブル予測は万能ではない

2014年5月28日にムーディーズは“Measuring the ‘credit gap’: estimates risk providing misleading signalsというリサーチレポートを公表した。そこでは、民間クレジットの対GDP比率を用いてバブル状況(=クレジットの過熱状況)の判断を行う際、ときに誤ったシグナルが出ることが示されている。

【要旨】

近年の世界各国における民間クレジット対GDP比率の推移は一本調子で上昇しているケースが多く、超過レバレッジか否かの判断が難しい。

そこで広く採用されている手法が「クレジット・ギャップ」である。これは民間クレジット対GDP比率の長期的なトレンドとその時点の水準との差を対GDP比率で算出し、これによりクレジット市場の過熱状況を計測するものである。

しかし、この手法には統計データが公表されるタイミングが遅く、フォワード・ルッキングな手法として使いにくいことに加え、速報値と確定値の間の差異によって、間違ったシグナルが算出されてしまうという欠点がときに見られる。

システミック・リスクには唯一絶対の指標はない。IOSCOやその他の当局が示唆する通り、多くの市場指標を多面的に観測することが重要。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

クレジット対GDP比率がリアルタイムで誤ったシグナルを出すケース

“Measuring the ‘credit gap’: estimates risk providing misleading signals”(2014年5月28日、ムーディーズ)より

米国のクレジット対GDPのトレンドとクレジットギャップの推移

金融危機時にトレンドを10%以上も乖離し、バブルのシグナルが良く出ているように見えるが、トレンドを上回り始めたデータが得られたのは2006年後半になってからのことであり、早期警戒指標としての機能はさほど優れたものではない。

米国のクレジットギャップのリアルタイム推定値と現状の値

米国クレジットギャップについて速報値データしか得られなかった時点で算出した値(リアルタイム)と確報値データに基づき事後的に算出した値(現状の値)を比較すると、リアルタイム値は2000年台前半において誤った「クレジット過熱」シグナルを出していたことが分かる。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

リアルタイム値の誤差は新興国ではより大きくなることがある

“Measuring the ‘credit gap’: estimates risk providing misleading signals”(2014年5月28日、ムーディーズ)より

インドネシアのクレジットギャップ/リアルタイム推定値と現状の値

リアルタイム値では1997-98年のクレジット状況は過熱していないと算出されたが、事後的には非常に過熱した状況だったことが分かる。なお、この時期はいわゆるアジア通貨危機の最悪期である。

タイのクレジットギャップ/リアルタイム推定値と現状の値

タイでも同様にアジア通貨危機時のクレジット状況はリアルタイム値ではさほど過熱したものに見えないが、事後的には非常に過熱した状況だったと分かる。

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

5.個別テーマに即してエマージング・リスクを俯瞰する

(ムーディーズのリサーチを活用する)

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

サマリー/ムーディーズの各種リサーチを活用する

ムーディーズでは格付やデフォルト率に関する情報のみならず、グローバルなエマージング・リスクをモニターするために有用なリサーチを提供している。本章では以下の事例を紹介する。

先進国(G20)のマクロ経済アウトルック

新興国ソブリン・リスクのヒートマップ

計量化されたソブリンのデフォルト確率(ソブリンEDF)

世界59か国の銀行市場の資産クォリティの予測指標(=米国銀行業界の不良債権の予測指標の事例)

グローバル業種別にデフォルト率のトレンドをモニターする

デフォルト率の先行指標である企業の手元流動性インデックス

欧州・米国のハイイールド市場のコベナンツ・クォリティ指標

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

先進国(G20)のマクロ経済アウトルック

• グリーンは前回予測から改善した予測値、オレンジは悪化した予測値。

• 右列のgrowth rangeは複数ソースから得られた同種の予測の最高値と最低値の差。GDP volatilityは過去データの標準偏差。

• ブルーは過去のボラティリティから考えて、予測に不確実性が高いと考えられるものを示す。

“Global Macro Outlook 2014-15: Role Reversal, as Advanced Economies Emerge as

Engine of Recovery” (2014年5月8日、ムーディーズ)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

新興国ソブリン・リスクのヒートマップ

脆弱さの水準は低く、対応力に富む 脆弱さの水準と対応力とも中程度 脆弱さは深刻で、対応力は弱い

“Emerging market sovereign research series / External Vulnerabilities, Exposures, Mitigants and

Credit Supports”(2014年3月25日、ムーディーズ)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

計量化されたソブリンのデフォルト確率(ソブリンEDF)

経常収支赤字: トルコ、南アフリカ、タイ、インドネシア、チリ、ペルー

経済成長の鈍化: 中国、ブラジル、ロシア

通貨危機: アルゼンチン、ウクライナ、ベネズエラ

脆弱な銀行システム: ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア

【危機の種類ごとにグループ分けした新興国の5年EDF(予想デフォルト率)変化率(2014年2月基準)】

経常収支赤字

経済成長の鈍化

通貨危機

脆弱な銀行システム

悪化

良化

“Market Signals Sovereign Risk Report ”(2014年2月18日、ムーディーズ・アナリティクス)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

世界59か国の銀行市場の資産クォリティの予測指標(=米国銀行業界の不良債権の予測指標の事例) 【新規失業申請と住宅ローン不良債権】 【新規失業申請とクレジットカード不良債権】 【新規失業申請と消費者ローン不良債権】

【製造産業設備稼働率とC&Iローン不良債権】

(出所:FDIC、米労働省) (出所:FDIC、米労働省) (出所:FDIC、米労働省)

(出所:FDIC、FRB)

【流動性ストレス指標とC&Iローン不良債権】

(出所:FDIC、ムーディーズ)

【CRE貸出GDP比率とCRE不良債権】

(出所:FDIC、FRB)

(注)オリジナル・レポートで示された8件の指標チャートのうち6件を掲載したもの。流動性ストレス指標はムーディーズが独自に算出・公表しているもの。

“Leading Indicators of Asset Quality for Banks in United States and Canada” (2013年11月21日、ムーディーズ)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

グローバル業種別にデフォルト率のトレンドをモニターする

エネルギー・環境

消費材

電気通信

自動車

化学

製造

小売・流通

メディア

ヘルスケア

輸送

サービス

金属・採鉱

航空宇宙・防衛

(直近12か月) (過去30年)

以下はグローバルな主要13業種の直近デフォルト率と過去平均デフォルト率を示したもの。業種別のデフォルト率ランキングの過去データと直近データの間の相関関係は低い。すなわち、業種レベルの信用リスクは期間の経過とともに遷移することが多い。

13業種に所属するムーディーズ格付のある事業法人(金融・電気ガス等の公共法人を除く)のシニア無担保格付データ(2013年9月1日時点)を使用。過去データは1983年1月から2012年9月までの約30年分を参照。

*直近12か月のデフォルト率の順番にて上から各業種を表示

“Industry Credit Risk: Recent Trends for Global Non-financial Corporations, 2013”

(2013年10月31日、ムーディーズ)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

デフォルト率の先行指標である企業の手元流動性インデックス

流動性ストレス・インデックスは企業の手元流動性の状況を示す指標。数値が高いほど手元流動性が厳しい。左は米国投機的格付企業(HY企業)の流動性ストレス・インデックスのチャート。デフォルト率の先行指標になっていることが分かる。

流動性ストレス・インデックスは米国、欧州、アジアについて設定されている。中国については、ハイイールド、工業、不動産開発の3つのサブ・インデックスをモニターできる。

“SGL Monitor” (2014年6月19日、ムーディーズ)と“Asian Liquidity Stress Index” (2014

年7月8日、ムーディーズ)より

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エマージング・リスクに対処するガバナンスと管理手法

欧州・米国のハイイールド市場のコベナンツ・クォリティ指標により、ローン審査の緩和状況(=ローン市場の過熱状況)をモニターする

以下は欧州と米国のハイイールド債券コベナンツ・インデックスの推移。数値は1-5のスコアリング値の平均を示し、数値が高いほど(チャートが下に行くほど)、コベナンツが緩いことを示す。欧州・米国ともハイイールド市場の審査基準は緩和トレンドが続いている。

“High Yield Interest European Edition” (2014年6月12日、ムーディーズ)より

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Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社であるMISは、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及びCP を含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、MISが行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約250 万ドルの手数料をMIS

に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO及びMISは、MISの格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS

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