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NUTRITION Improve your nutrition. Improve your life. https://nutritionmatters.jp 臨床栄養ハンドブック 適切な栄養を、今すぐに!

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  • NUTRIT ION

    Improve your nutrition.Improve your life.https://nutritionmatters.jp

    臨床栄養ハンドブック

    適切な栄養を、今すぐに!

  • 1

    このハンドブックは、世界各国の栄養エキスパートによる監修のもと、Abbott Nutrition により作成されました。

    ©2014 Abbottこのハンドブックは、その形式を問わず、Abbott Nutrition の許可なしに複製することを禁じます。

  • 2

    目 次1.栄養不良とは …………………………………………………………………………… 3 栄養不良の定義 ………………………………………………………………………………… 3

    栄養に関する最新情報のまとめ ……………………………………………………………… 3

    2.「栄養スクリーニング、介入」栄養不良に対応するために ………………………… 5 栄養不良リスクのスクリーニング …………………………………………………………… 5

    さまざまな栄養スクリーニングツール …………………………………………… 6 栄養必要量に関する栄養ケアアルゴリズム ………………………………………… 8 栄養不良の影響と重症度を評価するためのその他の検査とツール …………… 8 基本的な栄養ケアによる介入 ………………………………………………………… 9 入院中の観察と退院後の栄養プラン作成 ………………………………………… 113.高度な栄養ケアのプロトコールとアルゴリズムの使用 …………………………… 12 栄養療法の対象、手段、種類、投与量 ………………………………………………………12

    経腸栄養 v.s. 静脈栄養 ……………………………………………………………… 13 栄養法の手段:経腸栄養の投与経路の選択 ……………………………………… 15 経腸栄養のための経鼻アクセス …………………………………………………… 16 経腸栄養ルート:胃瘻、腸瘻 ……………………………………………………… 17 経腸栄養のための外科的アクセス ………………………………………………… 18 投与方法:デバイスと投与計画 …………………………………………………… 19 投与タイミング ……………………………………………………………………… 20 栄養剤の種類とその量:    必要とするたんぱく質ならびにエネルギー量に基づく栄養剤を選択する … 20 栄養指示 ………………………………………………………………………………… 23 高度栄養ケアの基本方針 ……………………………………………………………… 24診療ツールの付録…………………………………………………………………………… 25参考文献……………………………………………………………………………………… 39

  • 3

    1. 栄養不良とは栄養不良の定義

    栄養不良は、様々な理由で栄養摂取量が栄養必要量と釣り合わない場合に起こります。そのため、栄養不良は、基礎疾患 /外傷や炎症の有無、そしてその程度の 3 種類に分類されます 1。

    その 3 種類とは、(1)飢餓に関連した栄養不良、つまり炎症を伴わない栄養不良、(2)慢性疾患に関連した栄養不良、つまり軽度~中等度の持続性炎症が生じる状態に関連した栄養不足、そして(3)急性疾患または外傷に関連した栄養不良、つまり著しい炎症反応を引き起こす状態に関連した低栄養です(図1.1)。数多くの慢性疾患(腎疾患、がん、心不全、関節リウマチなど)では、疾患そのものにより炎症が生じるため、栄養不良のリスクが高まります 2,3。ほとんどの急性期における重症病態(重篤な感染、手術、熱傷、敗血症など)では著しい炎症が起こるため、高度な栄養不良リスクが生じます 2,3。

    栄養に関する最新情報のまとめ

    他のあらゆる医療と同様に、栄養療法も時間とともに変化しています。変化をもたらす最大の要因は、臨床研究の結果から得られた新たなエビデンスの蓄積にあります。例として、過去10 年間で経管栄養法の新たな基準として推奨される入院患者向けの12の栄養療法の実施方法を紹介します(表1.1)。

    図 1.1 3種類の栄養不良とその原因の例

    炎症の有無 ?

    ない ある、軽度〜中等度 ある、重度

    急性疾患に関連した栄養不良

    例 : 感染、敗血症、熱傷、外傷

    慢性疾患に関連した栄養不良

    例 : 腎臓疾患、がん、心不全、関節リウマチ

    飢餓に関連した栄養不良

    例 : 慢性飢餓、神経性食思不振症

  • 4

    表 1.1専門家の推奨とエビデンスに基づく入院患者向け栄養療法の実施

    * 専門家の意見

    課題または状態 推 奨

    1 経腸栄養と静脈栄養の比較ガイドラインでは、経口摂取できない入院患者のほとんどに対して静脈栄養より経腸栄養が推奨されている 4, 5, 6。

    2 腸雑音 腸雑音の欠如はもはや経腸栄養の禁忌とはみなされない 7,8。

    3 経腸栄養の禁忌静脈栄養は、穿孔、小腸イレウス、腸管虚血、機械的腸閉塞、小腸瘻(修復前)、重度短腸症候群(100 cm 未満)などの重度胃腸機能障害のある患者に適用される 7,8。

    4 早期経腸栄養 早期経腸栄養は現在の標準治療である7,8。経腸栄養が必要な

    場合、ICU入室後または術後 24 ~ 48 時間以内に開始する。

    5 経腸栄養剤の濃度希釈せずに投与する。栄養剤の希釈は消化管認容性を高めると考えられていたが、むしろ汚染リスクを高める場合があり、結果的に不耐症の症状を引き起こすおそれがある 9。

    6 経腸栄養剤のタイプ

    栄養剤を選択する時は各患者のニーズを考慮する。現在入手可能な経腸栄養剤には、エネルギーやたんぱく質量が多様で、食物繊維を含むものと含まないもの、疾患に特有の成分を含むもの(例、糖尿病、腎疾患、がん)、免疫調節成分が含まれているものがある *10。

    7 吊り下げ時間

    通常の投与システムでは、滅菌されていない経腸栄養剤は4 時間毎、滅菌済では 8 時間毎に、クローズドシステムでは 24 ~ 48 時間毎に交換する(メーカーのガイドラインより)9, 11-13。

    8 栄養剤投与の中断栄養剤の投与中断は最小限にする *14。簡単な処置の直前は経腸栄養を中断し、処置後 1 時間以内に再開する*14。

    9 経腸栄養投与中の体位

    ガイドラインでは、栄養剤投与中は患者のベッドの頭側を30 ~ 45°に挙上するよう推奨している。この簡単な対策により、胃内容物の逆流が減少し、誤嚥性肺炎の発生率が低下する。脊椎が不安定、もしくは血行動態が不安定な場合、ベッド頭側挙上は禁忌である 9。

    10 蠕動運動促進薬 経腸栄養剤の認容性がみられない(嘔吐等)重症患者には、蠕動運動促進薬を使用する4, 6。

    11 プロバイオティクス最新の重症患者向けガイドラインでは、プロバイオティクスの使用が人工呼吸器関連肺炎などの感染リスクの低下と関連していた15。

    12 栄養チューブの小腸留置(胃留置との比較)誤嚥リスクのある患者には栄養チューブの小腸留置を推奨する6。

  • 5

    2.「栄養スクリーニング、介入」栄養不良に対応するために

    栄養スクリーニングは、入院する患者の新しい標準治療であり、米国静脈経腸栄養学会(A.S.P.E.N.)、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)がともに推奨しています16,17。

    栄養不良リスクのスクリーニング炎症の有無が考慮される最新の栄養不良の定義では、リスクを有する患者を特定する新たなアプローチを必要とされており、現在は、患者に栄養不良リスクを高める疾病か外傷があるかどうかを判断することが重要になっています1-3。

    ここでは、(1)患者の疾病もしくは外傷が栄養不良リスクを伴うかどうかに関する迅速な臨床的判断 1-3と(2)MalnutritionScreeningTool(MST)の2 種類18, 19を組み合わせた栄養スクリーニング(表 2.1、図 2.1)を紹介します。

    第一段階では、医師は、患者の状態やそれが栄養不良を引き起こすか悪化させる可能性を速やかに判断します。多くの慢性疾患(腎疾患、がん、心不全、関節リウマチなど)や急性疾患(感染症、手術、熱傷、敗血症、外傷)は炎症を特徴としており、したがって栄養不良のリスクを伴います。この第一段階により、潜在的な栄養不良のリスクに対する認識が高まります。

    次の段階として、MalnutritionScreeningTool(MST)が推奨されますが、これは栄養不良のリスクを示す症状を認識する手段として患者に最近の体重減少や食欲減退について質問するものです。MST スコアから、栄養不良リスクの重症度を迅速に推定することができ18,19、それは感度と特異度を兼ね備えています18,20。

    栄養スクリーニングと栄養介入は栄養ケアの新たなパラダイムです。つまり、基礎疾患、外傷、症状のいずれかから栄養不良リスクが示唆される場合は、経口摂取が可能なすべての患者において栄養不良が及ぼす影響を予防・軽減する手段として、速やかな経口摂取か経口的栄養補助(ONS)を検討します。例外として、患者が終末期に近い状態にある場合は、食事を提供せずに安楽な状態が保たれる可能性があります21。

    表 2.1 栄養不良リスクのスクリーニングは直後や後続の栄養ケアの手引きとなる

    *MST18,19

    入院患者の栄養スクリーニング

    1.患者には栄養不良リスクを高めるおそれのある炎症性疾患か外傷があるか。

    2.食欲が低下しているために食事があまり取れていないか。*

    3.最近意図せず体重が減少することがあったか。*

    必要であれば、経口摂取もしくはONS による介入を速やかに行い、栄養不良リスクを低下させる。*

  • 6

    さまざまな栄養スクリーニングツール

    栄養不良を特定するツールは多数あり、様々なツールが状況(外来患者、病院、高齢者)に応じて最適化されて、また地域や施設の傾向に合わせて使用されています(表 2.2)。そのニーズを満たすツールを選択して、ルーチンとして使用できる、というのが理想的です(スクリーニングツールは付録を参照)。

    表2.2栄養スクリーニングツール

    名称 説明 使用するパラメータ

    MalnutritionScreeningTool(MST)18

    MST は、現在世界中の医療現場で使用されているシンプルですぐに実施できる 2項目の質問からなるツールである。

    食欲と意図しない体重減少

    MalnutritionUniversalScreeningTool(MUST)22

    地域におけるスクリーニング用に英国静脈経腸栄養学会 諮 問 委 員 会(Advisory G roup o f t h e B r i t i s h Association of Parenteral and Enteral Nutrition)が考案。MUST は英国やヨーロッパで広く使用されている。

    肥満度指数(BMI)、体重の変化、急性疾患の有無

    NutritionalRiskScreening-2002(NRS-2002)16

    ESPEN が考案。これはヨーロッパの病院で使用されている。

    体重減少、BMI、食事摂取量、疾病の診断

    MiniNutritionalAssessment-Short Form(MNA-SF)23-25

    高齢者に使用する目的で具体的かつ信頼性の高い、再現可能な評価ツール。簡易版(MNA-SF)は ス ク リ ーニ ン グ ツ ー ル と し て 使 用す る こ と が で き、 完 全 版MNA はアセスメントツールになる。

    食事歴、体重減少、BMI、疾病の状態、神経心理学的問題

  • 7

    栄養スクリーニング・患者に栄養不良をきたす疾病もしくは外傷があるか ?

    ・食欲はあるか ? ・体重減少はあるか ?1

    直ちに食事の栄養強化をする、もしくはONS(経口的栄養補助)を考慮する 2

    SGA、その他のツールを使った栄養診断を実施 3

    入院中のプランを立てる

    いつ、どのように ?

    投与ルートアクセス

    タイミング

    何を ?栄養製品を選択する

    どれくらい ?エネルギー量タンパク質量

    入院中は経過を観察し、適宜修正する

    退院後のプランを立てる

    定期的に再スクリーニングや再評価を行う

    終末期患者では別のプロトコール

    を使用する

    入院患者の栄養ケアパスウエイ1. Ferguson M, et al. Nutrition. 1999;15:458-464.18

    2. 経口摂取が可能な場合3. Detsky AS, et al. JPEN. 1987;11:8-1326 ╱Jensen GL, et al. JPEN. 2012;36:267-2743 ╱ White J, et al. JPEN.

    2012;36:275-2832. ╱J Acad Nutr Diet. 2012;112:730-738.27

    図2.1 入院患者向け栄養ケアアルゴリズム

  • 8

    栄養必要量に関する栄養ケアアルゴリズム栄養スクリーニングにより栄養不良あるいは栄養不良のリスクのある人を特定する場合は、栄養ケアアルゴリズムをそのまま辿ります(図 2.1)。次の段階として、栄養アセスメントツールを使用して、栄養上の具体的な問題点を明らかにします。

    栄養アセスメントでは、主観的包括的評価(SGA)は幅広く使用されており26、Mini-NutritionalAssessment(MNA)は特に高齢者に使用されます23-24。(SGA および MNA については付録を参照のこと)。

    栄養アセスメントの結果に基づいて、臨床医は栄養療法の方法、時期、栄養剤の種類、量を具体的に示したプランを作成します25。ガイドラインでは、迅速な介入、即ち入院後 24 ~ 48 時間以内の栄養療法を推奨しています5-6,28。

    栄養不良の診断を容易にし、栄養治療を標準化しやすくするため、A.S.P.E.N. と米国栄養士会(AND)の専門家が、栄養不良診断の具体的な基準を定めています 2 ,27。栄養不良の重症度を決定する 6つの指標は、(1)エネルギー摂取量、(2)体重変化、(3)体脂肪、(4)筋肉量、(5)体液貯留、(6)握力、です。

    栄養不良の影響と重症度を評価するためのその他の検査とツール

    低体重または低 BMI、もしくは急激な体重減少は、栄養不良または栄養不良リスクの徴候です。筋力、身体機能、ある種の血清たんぱく質の値は、栄養不良の原因、影響、重症度のいずれかを特定するのに用いられます。

    筋肉の指標:たんぱく質摂取量の不足は、筋力や筋肉機能の低下、即ちサルコペニアを招きます29。筋力は握力測定によって推測が可能で、筋力の低下は高齢や疾病に関連します。パフォーマンスまたは筋力は、通常の歩行速度、もしくは timedget-up-and-go(TGUG)やshortphysicalperformancebattery(SPPB)などの検査で測定することができます29。

    臨床検査:血液生化学検査で得られた追加情報により、栄養不良のタイプ、重症度、治療に対する反応が特定しやすくなります(表 2.3)17,19。血清トランスサイレチン(プレアルブミン)低値は炎症があることを示唆しており、栄養不良のリスクを高めます。トランスサイレチンの半減期は比較的短いため(2~ 4日)、複数回にわたるトランスサイレチン値の減少から、栄養不良のリスク増大が示唆され、トランスサイレチン値の増加は、例えば疾病や栄養の治療に反応したことや、栄養不良リスクの低下が示唆されます。

    CRPは炎症マーカーとして参照しますが、疾病に関連する栄養不良にも関与します。栄養不良の徴候があり、CRP が上昇している場合(≥1.0mg/dL または >10mg/L)、疾病に関連した栄養不良が考えられますが(慢性または急性炎症疾患と同様に)、他方で低 CRP を伴う栄養不良(CRP<1.0mg/dL)からは飢餓(例、神経性食思不振症)しか示唆されません。

    アセスメントツール主観的包括的評価(>18 歳)Mini-Nutritional Assessment(>65 歳)

  • 9

    基本的な栄養ケアによる介入栄養療法の手段:栄養療法の適切な種類は、段階的かつシステマチックに選択されます 29。

    消化管を経由する経腸栄養(EN)には、普通食の提供、経口的栄養補助(ONS)の実施、もしくは経鼻胃管、経鼻腸管、経皮胃瘻・腸瘻のいずれかのチューブからの栄養剤投与などがあります 30。

     ●食事の強化または経口的栄養補助(ONS)による経口摂取は、多くの患者にとって主に第一選択となります 31。

     ●経口食や ONS が実施できないか、適さない場合は、経管栄養を選択します。

     ●消化管の機能が低下している場合は、静脈栄養を単独で、もしくは経腸栄養と併用して実施します。

    栄養療法の時期:ガイドラインは、迅速な介入、即ち入院後 24 ~ 48 時間以内の栄養療法を推奨しています 1, 16, 25, 28。栄養療法を目標レベルまで促進するために、栄養の専門家は医学的処置に伴う栄養療法の中断を最小限にすることを推奨しています 14。

    栄養療法の種類:入院患者の多くは食事を摂取できますが、食欲は減退しています。このような場合、高エネルギー成分(マルトデキストリン、たんぱく質強化)を含む食品等を、食事の1回量を減らし、回数を増やすかエネルギーの高い間食として、もしくは経口的栄養補助(ONS)の使用が推奨されています 25。

    標準的な栄養剤は、概して栄養バランスに優れており、1.0kcaL/mLもしくはそれ以上のエネルギーを供給するため、普通食で十分なエネルギーを摂取できない疾病または外傷のある患者の栄養ニーズを満たします 32。特殊な栄養剤は、基本的なニーズを満たすだけでなく、疾病や状態に特有の栄養ニーズも満たし、ONS として使用する目的でフレーバーを調整したり、経管栄養に適したものもあります(表 2.4)10。

    表2.3 栄養不良リスクの指標としての臨床検査 *

    * 様々な臨床検査が有力な炎症マーカーとして提案されているが、栄養不良の診断に関して妥当性が確認された特定の炎症マーカーはない 2。

    臨床検査指標 基準値

    トランスサイレチン(プレアルブミン) 15-36mg/dL

    CRP

  • 10

    表 2.4 病態別経腸栄養剤の特徴の例

    疾病の状態 特別な栄養成分と組成

    輸液制限(例、心不全に伴う) 体液量の影響を受けやすい患者には、高エネルギー、高たんぱく質 33

    耐糖能障害、糖尿病 徐々に吸収される炭水化物や脂質は食後の血糖値上昇を最小限に抑える 34,35

    透析前の慢性腎臓病 透析開始前の腎臓にかかるクリアランス負荷を抑える低たんぱく質、低リン 36,37

    透析中の慢性腎臓病 腎臓にかかるクリアランス負荷を抑える低リンと透析により喪失するたんぱく質を補う 38,39

    がん 低脂肪、除脂肪体重(LBM)を維持するために高たんぱく質、抗炎症性(ω 3 脂肪酸)39、抗酸化物質 40

    投与量:医師は、エネルギーやたんぱく質の必要量を推定し、患者個々の目標エネルギー量を設定します 5,6。成人のエネルギー必要量は、基礎代謝、身体活動量、様々な疾病状態の代謝ストレスのニーズによって異なります 33。エネルギー必要量を推定する最も簡単な方法は、患者の体重(BW、kg)に 25 ~30kcal を乗じて1日のエネルギー必要量を算出する単純な予測式、即ち25 ~30kcal/kgBW/ 日を使用する方法です(表 2.5)6。

    サルコペニア、つまり低筋力または低パフォーマンスを伴う筋肉喪失は、外傷、疾病、あるいは入院中の活動量の低下によって生じたり、悪化したりします。高齢者はもちろん、疾病か外傷があると高齢者ではなくてもサルコペニアのリスクは発生します29,41。たんぱく質は、筋たんぱく質の合成を維持し、筋たんぱく質の減少を予防するのに不可欠な栄養素です。したがって入院中や退院後にも、食事からのたんぱく質摂取量に注意する必要があります。

    成人で通常推奨されるたんぱく質摂取量は、0.8g/kgBW/ 日です 42。疾病か外傷のある成人のたんぱく質摂取目標量は、重症度によって大きく異なります(1.0~2.0g/kg実際の体重/日)6,43。除脂肪体重や身体機能を維持するには、65 歳を超える高齢者の方が若年層よりたんぱく質必要量が多くなります(≥1g/kgBW/日)43。肥満[BMI>30]では、たんぱく質必要量が 2.0g/kgBW/ 日以上になることもあります(理想体重を肥満成人の推定値に使用)6,43。

    高齢者はもちろん、疾病もしくは外傷のあるとサルコペニアのリスクが発生します。

    これらの患者には、筋たんぱく質合成を助け、筋たんぱく質分解を抑制するのに十分なたんぱく質の摂取が不可欠です。

  • 11

    入院中の観察と退院後の栄養プラン作成

    栄養療法を受ける患者は、栄養療法に対する認容性や、たんぱく質およびエネルギーが十分供給されていることを、定期的にモニターする必要があります。栄養状態が良好な患者では、定期的に再スクリーニングを行い、患者の臨床状態が変化した場合にも再スクリーニングを実施する必要があります 44。

    栄養ケアは、患者が退院する時に終わるものではなく、退院後の継続的ケアによるフォローアップが重要です。体重減少と血清アルブミン低値をバイオマーカーとする退院時の低栄養状態は、30日以内の再入院の予測因子として認識されています 45。退院後の栄養ケアプランの作成 47は、再入院を減少させ47、患者の QOLを改善し48,47、死亡のリスクさえも低減する50と期待されています。効果的な栄養ケアには、退院後の栄養プランとともにそのプランが確実に実施されるためのフォローアップが必要になります。

    表 2.5 投与量

    * 疾病の代謝ストレス、身体活動、実際の栄養状態に基づく推奨† 年齢、疾病または外傷の重症度、実際の栄養状態によって決まる推奨

    疾病または外傷からの回復期における1日エネルギーとたんぱく質必要量の推定

    推定エネルギー必要量(簡易法):25〜 30kcal/kgBW/ 日 *

    たんぱく質必要量のガイドライン:1.0 〜 2.0g 以上 /kgBW/日†

  • 12

    3. 高度な栄養ケアのプロトコールとアルゴリズムの使用

    入院患者が栄養必要量を満たすのに十分な強化食または経口的栄養補助製品(ONS)を摂取できない場合は、さらに高度な栄養介入が不可欠になります。これらの患者には、腸管または静脈ルートから栄養投与を行うことができます(経腸栄養 EN;静脈栄養 PN)。ただし重症度の高い患者の投与ルートの決定は複雑な場合があります。全身状態や医学的問題(基礎疾患、併存疾患、精神状態、予想される予後)、ならびに倫理的問題(患者の希望、週末期)を考慮することが重要です 25。

    本セクションでは、栄養上のニーズが複雑な重症患者または外傷のある患者に対する栄養療法にフォーカスします。栄養に関する推奨事項を診療に取り入れやすくするためにツール、プロトコール、ケアアルゴリズムを提供します。これらのプロトコールは、安全で効果的な栄養療法の手引きとなります。

    栄養療法の対象、方法、種類、投与量本セクションでは、適切な栄養補給に必要な非常に重要な選択について概説しますが、その選択には EN、PN のどちらを実施すべきかの決定、栄養療法の経路・アクセスの決定、使用する栄養剤の選択、たんぱく質量とエネルギー量の目標値の設定などがあります(図 3.1)。

    図3.1 ほとんどの重症患者には栄養補給が必要であり、栄養ケアアルゴリズムでは、投与方法や栄養剤の種類、投与量を決定する。

    入院中のプランを立てる

    いつ、どのように ?

    投与ルートアクセス

    タイミング

    何を ?栄養製品を選択する

    どれくらい ?エネルギー量タンパク質量

    入院中は経過を観察し、適宜修正する

    退院後のプランを立てる

    定期的に再スクリーニングや再評価を行う

  • 13

    静脈栄養(PN)

    ● 腸が十分に機能していないか、物理的にアクセスできない、または経腸栄養法が安全でない

    ● 患者が経腸栄養チューブを拒否している場合

    経腸栄養v.s.静脈栄養

    経口摂取のみでは効果がなかったか、効果が得られない可能性のある患者には、経腸栄養もしくは静脈栄養が必要になります(図 3.2)。

    経腸栄養法:ヨーロッパ、カナダ、米国、そして日本のガイドラインでは、重症患者や血行動態の安定した患者に対しても経腸栄養法を推奨しています 4-6。実際に、ほとんどの集中治療室(ICU)の患者にはPNよりもENが選択されています。エビデンスに基づく診療は、外傷、熱傷、頭部外傷、大手術、急性膵炎といった様々な重症患者を対象とした非常に多くの臨床試験で裏付けられています。経腸栄養の対象となる重症患者の場合、早期介入(ICU入室後 24 ~ 48 時間以内)が推奨される標準的治療になっています。早期栄養投与は腸管バリア機能を保ち、免疫応答をサポートするのに最適なタイミングとされています 5,6。

    適応:経腸栄養は、患者が摂食できないか、栄養必要量を満たすのに十分な栄養を経口摂取できない場合に適応となり、消化管にアクセス可能で、かつ十分な運動能や吸収能を備えていなければなりません 7, 8。

    図3.2 強制栄養療法の適応 8

    禁忌:以下に該当する患者では、EN が禁忌となり、PN が必要になる場合があります:

    腸管穿孔(修復前)、腸閉塞、高度な短腸症候群(100cm 未満)、腸内容物を運搬し吸収する能力の低下、コントロール不良の嘔吐と下痢、間欠性腸管虚血、重度の血行動態不安定4, 7, 8。

    一般に、腸雑音の欠如はもはや EN の絶対的禁忌とはみなされず 6、血行動態不安定な患者における新たなエビデンスから、48 時間以内に EN が行われた患者の生存率の改善が明らかになっています 51。

    栄養法の決定を複雑にする病態は多々あり、医療従事者はエビデンスに基づく指針を参考に、EN か PN を選択します(表 3.1)。

    経腸栄養(EN)

    ● 食事と経口的栄養補助では、栄養目標値の 50%~ 70% を満たしていない

    ● 消化管へのアクセスが可能である● 消化管の運動能や吸収能は適切である

  • 14

    表3.1 EN が可能か、安全か、効果的か?経腸栄養が禁忌となる場合とは? 7,8

    病態 コメント

    腸管が十分に機能しないか、アクセスできない疾患があるか?

    ● 腸管穿孔 ENは禁忌;穿孔が修復されるまで PNを適用し、その後 ENを検討する。

    ●高度短腸症候群(

  • 15

    静脈栄養:PN を開始すべき時期に関して世界中の栄養ガイドラインは、一致した見解を示していません 4-6。PNが必要な ICU患者は原疾患や合併症が多様であり、栄養法は個々に決定されます。

    栄養状態の悪い ICU 患者については、米国やヨーロッパの専門家により、PN は入院後 24 時間以内に開始すべきであるという意見で一致しています(図 3.3)5,55。

    ICU患者

    ●消化管は正常に機能しているか? *●EN が可能であると予想されるか? *●蘇生後か、昇圧剤が投与されていないか、もしくは昇圧剤が減量されているか?

    ● 患者の状態を安定させる● 必要であれば、静脈内輸液を追加する● ENが可能になるまで PNを検討する

    24~ 48時間以内に ENを開始する

    はい いいえ

    * 正常に機能していない消化管は、腸閉塞、虚血、イレウス、腹膜炎、吻 合、 難 治 性 嘔吐・下痢などと同様に、EN の禁忌である。

    図3.3  担当の重症患者は EN の対象か、PN の対象か? 10,56,57

    重度の血行動態不安定(乳酸値増加または昇圧剤必要量の増加)がみられる場合、一般に入院患者の EN は推奨されません(図 3.3)。一方、最近のエビデンスでは昇圧剤が必要な ICU 患者における早期 EN 法が生存率を改善する可能性が示唆されています 51。昇圧剤が投与されている重症患者に経腸栄養法を行う場合は、胃の不耐症(例、腹部膨満、乳酸値上昇)が現れるおそれがあるため、慎重な観察が必要です 58。

    栄養法の手段:経腸栄養の投与経路の選択

    経腸栄養の投与経路は、経鼻胃管、もしくは胃瘻・腸瘻などにより、腸管にアクセスします。最適な経路の選択するためには、患者の健康状態、患者の消化管の解剖学的状況や機能、予想される治療期間を考慮します 11。一般に、栄養剤は、最大限に吸収されるようにしながら、消化管の可能な限り高位に投与する必要があります 32。経鼻ルートは、短期間、つまり4週間未満の使用に最も適しています。誤嚥リスクのある患者には、小腸ルートの選択がより適しています 11。栄養療法の 4週間以上の継続が予想される場合は、胃(胃瘻造設)または小腸(空腸瘻造設)へのアクセスが必要になります(図 3.4)。

  • 16

    経腸栄養ルートの選択は、患者の胃の機能に依存します。胃への栄養剤投与を行うメリットには、通常の食事と似ている点や、チューブ留置が比較的容易な点などがあります。また、胃に留置することにより、患者の状態に応じて、経腸栄養剤を持続的投与か間歇的投与か選択できるようになります。小腸に留置すると、胃留置で生じる問題(胃流出ルート閉塞、瘻孔)、誤嚥リスク、膵炎に関連する問題を回避することができます11。小腸への投与には、持続投与が適しています 59。

    経腸栄養のための経鼻アクセス

    経鼻ルート(経鼻、即ち経鼻胃管、経鼻十二指腸、経鼻空腸のいずれか;図 3.5)は、短期の栄養サポートや以下に該当する患者が対象となります 59。

     ●咽頭または食道の障害

     ●神経学的または精神的障害

     ●特定の消化管障害

     ●短腸症候群

     ●熱傷

     ●化学療法または放射線療法を受けている

    図3.4 経腸栄養デバイスの選択は、患者の状態と予想される栄養剤投与期間によって異なる(出典:A.S.P.E.N  EN ハンドブック)11,56。

    予想される EN法の期間は? 胃への栄養剤投与

    の禁忌:• 最高閾値を超え

    る胃残存量• 慢性 / 急性胃食

    道逆流• 高い誤嚥リスク

    胃への栄養剤投与は禁忌か? *

    経鼻十二指腸または経鼻空腸 経鼻胃管

    胃空腸吻合または空腸瘻造設

    胃瘻造設

    胃への栄養剤投与は禁忌か? *

    はい いいえ はい いいえ

    長期>4週

    短期<4週間

  • 17

    経鼻胃管

    経鼻十二指腸

    経鼻空腸

    図3.5  経腸栄養ルート 36

    経腸栄養ルート:胃瘻、腸瘻

    経腸栄養を4 週間以上実施する必要がある場合は、栄養チューブを胃または小腸に直接留置する選択が適しています。胃瘻チューブは、体壁から体内に挿入され、胃に直接栄養を送りますが、空腸瘻チューブは、小腸内に挿入され、空腸に直接栄養を送ります(図 3.6)。

    以下の場合に胃瘻または空腸瘻が適応となります 11,37。

     ●嚥下困難、上部消化管新生物、多発外傷のいずれかがある患者

     ●人工呼吸器を長期間装着している患者

     ●口腔または咽頭手術の術後

    胃瘻または空腸瘻は、内視鏡室もしくは病棟で、鎮静および麻酔下で内視鏡を使用して造設することができます。外科的留置は、内視鏡検査を実施できない場合、もしくは患者が他の理由で既に手術を受けることになっている場合に適しています7。胃瘻および空腸瘻チューブの合併症には、創合併症、チューブの位置ずれ、誤留置、栄養剤の腹腔内漏出、誤嚥、心肺合併症などがあります 60。

  • 18

    PEGでは経腸栄養の禁忌がすべて適用になりますが、次にあるような内視鏡的留置に特有の問題も同様に禁忌になります。

     ●咽頭、食道、もしくは消化管の他の部位の閉塞、重度凝固障害、内視鏡の腹壁透過照明を確認できない(例、肥満で)、などの内視鏡的処置の妨げとなる問題 37

     ●腹膜炎 60

     ●限られた余命に関連する倫理上の問題や心理的な摂食障害 11

     ●大量腹水、腹膜透析、重度門脈圧亢進症、病的肥満、もしくは重度の肝肥大は、一部の患者において PEG による投与を妨げる可能性があります。37,60

    経腸栄養のための外科的アクセス

    胃または小腸への内視鏡的チューブ留置ができない場合は、手術が必要になることがあります。外傷または消化管疾患に対する外科手術が既に予定されていれば、栄養チューブを外科的に留置します 37。内視鏡的留置を実施できず、他に手術の予定がない場合は、腹腔鏡的留置を検討する必要があります。外科的手技の合併症は内視鏡的手技と似てますが、その死亡や罹病のリスクは高くありません 37,60。

    NCJ=ニードルカテーテル空腸瘻造設術。腹壁から空腸内に栄養チューブを留置するこの方法は、大手術後または腹腔鏡検査と同時に実施するのが比較的簡単です。ニードルカテーテルは腹壁の穿刺に使用し、まず空腸の粘膜下層内に、続いて空腸内に挿入します。次に、カテーテルをニードルに通して小腸まで挿入し、縫合糸で固定します。追加の縫合糸を使用して腸係蹄を腹壁に固定し、カテーテルをその出口ポイントで固定して、合併症リスクを低下させます 61。

  • 19

    投与方法:デバイスと投与計画

    次に、患者のニーズや栄養チューブの留置部位に応じて投与方法(デバイスと投与計画)を選択します(表 3.2と表 3.3)。

    表3.2  経腸栄養剤の投与方法を選択する:持続的、間歇的、もしくはボーラス投与法

    持続的 間歇的 ボーラス

    解説 栄養法を緩徐で持続的な速度で行う 9

    24 時間の間に定期的に投与を行う 62-64。例えば、2 ~ 3時間の投与した後 2時間空ける 32

    通常の食事と同様に、経腸栄養を一度に行う。例えば、約15 分 ず つ、1日 3~ 8 回 9

    実施に使用するもの: ポンプ ポンプか自然滴下 12 自然滴下かシリンジ 9

    通常投与される部位: 小腸(または重症患者では胃)9

    小腸または胃 小腸には貯留能力がないため、胃のみ 62-64

    メリット ●緩徐で持続的な速度によって、消化管の耐性を高めることができる 12

    ●例えばうっ血性心不全患者のように、体液量に影響されやすい患者に対する安定した栄養剤投与が可能になる

    栄養剤が投与されない時間帯が長くなる

    通常の食事に似ている

    好ましい対象: ●重症患者 65●逆流のリスクのある患者

    ●誤嚥性肺炎の既往歴のある患者

    ●誤嚥性肺炎の既往歴のある患者

    ●小腸への投与●間歇的 / ボーラス栄養法が適さない患者

    自力移動が可能な患者 66

  • 20

    表3.3 栄養剤の投与に使用するのはポンプか自然滴下かを判断する

    デバイス ポンプ 自然滴下

    好ましい対象:●小腸への投与 67●以下に該当する患者:62,63 - 重度の逆流 - 誤嚥性肺炎のリスク - 重度の下痢

    状態が安定している患者

    メリット/デメリット

    ●体液量に影響されやすい患者に正確で一定の量を投与できる 68

    ●消化管の耐性を高めるために何時間もかけて緩徐に持続的に一定量を投与できる 68

    ●ポンプを使用した投与は嘔吐、誤嚥性肺炎、重度下痢の割合を低下させる 9

    ●状況によっては、実施できない。

    ●幅広くに利用可能●胃へのボーラス投与に適している68●投与速度への信頼性はポンプより低い 32

    ●患者が体位を変えると、流速が変化することがある 32

    投与タイミング

    ガイドラインは、迅速な介入、即ち入院後24~48時間以内の栄養療法を支持しています 1,15, 25,28。

    栄養剤の種類とその量:必要とするたんぱく質ならびにエネルギー量に基づく栄養剤を選択する

    以下に、栄養剤選択の指針を示します(図 3.7)。

    図3.6 個々の患者のニーズで最適な経腸栄養法が決定します 32

    *MCT:Middle Chain Triglyceride(中鎖脂肪酸トリグリセリド)

    いいえ

    はい

    消化管機能は正常か?ペプチドおよびMCT*ベースの栄養剤を検討

    標準的な栄養剤

    体液量の制限または高いエネルギー密度が必要か?

    いいえ

    はい

    標準的な栄養剤

    高濃度栄養剤を検討

    特別な病態または他の栄養上のニーズは

    あるか?

    いいえ

    はい

    標準的な栄養剤

    病態別経腸栄養剤を検討

  • 21

    標準的な経腸栄養剤は、患者の基本的な三大栄養素および微量栄養素の必要量を満たすことが可能です。一方、病態別経腸栄養剤は、過剰な炎症の亢進を抑えたり、感染に対する免疫応答をサポートしたり、もしくは消化管の認容性の改善をサポートする栄養成分を配合しています。病態別経腸栄養剤には、特殊な栄養成分、即ちアルギニン、抗酸化物質、ω3 およびω 6 等の脂肪酸、たんぱく質加水分解物、中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合しています。これらの成分は、それぞれ特別な機能を備えていることが知られており、これらを配合した病態別経腸栄養剤を投与することにより、患者の転帰が改善される可能性があります 10。(表 3.4)。

    表3.4 状態の異なる重症患者は必要な栄養成分が様々です

    状態 病態別経腸栄養剤の特徴

    SIRS/ 敗血症または ALI/ARDS 抗炎症性脂肪酸(ω3)39

    手術、外傷、熱傷 アルギニン、グルタミン、抗炎症性脂肪酸(ω3)39

    消化管不耐症または吸収不良たんぱく質加水分解物、中鎖脂肪酸トリグリセリド、プレバイオティクス 6,10

    SIRS = 全身性炎症反応症候群、ALI = 急性肺損傷、ARDS = 急性呼吸窮迫症候群

    ICU の医師は、投与する栄養の量を決定するのに、エネルギー/ たんぱく質必要量を算出または推定してから、各患者に合わせた栄養目標を設定します 5,6。成人のエネルギー必要量は、基礎代謝、身体活動、疾病または外傷の代謝ストレスのニーズによって異なります 72。必要量は、予測式か間接熱量測定法で算出することができます。予測式は個々の患者にとっての精度が低く、間接熱量測定法は特殊な装置を使用する必要があります 6。予測式を使用する場合は、推定値を上方修正して炎症ストレスによるエネルギーのニーズ増大に対応するために、補正するための係数が必要になります(表 3.5)。

    流動食は、汚染リスクが高まることを理由に、現在の栄養療法において経管栄養に推奨されていませんし、広く使用されてもいません。

  • 22

    表3.5 重症または外傷患者に投与すべき量:エネルギー

    疾病または外傷からの回復期にある患者の1日エネルギー必要量を推定する

    ICU 患者では、1 日エネルギー必要量を間接熱量測定法で算出するか、予測式で計算する 6

    炎症ストレスに基づくストレス係数 73

    ストレス状態 ストレス係数

    外傷 1.4 = 骨格または鈍的外傷1.6 = ステロイド療法下の頭部損傷

    手術 1.2 = 小手術

    敗血症 1.6 = 重度敗血症

    熱傷 2.1 = 重度熱傷

    たんぱく質必要量も同様に重度の疾病や外傷に伴って増加し、最高で 2.0g/kg 体重 / 日のたんぱく質を必要とする患者もいます(表 3.6)。重症患者では、筋肉の減少が1日あたり1.4kg を超える場合があり、2 週間以内に入院時の筋肉量が半減することも考えられます 41。たんぱく質は、筋肉の合成を維持し、筋肉分解を阻止するのに不可欠な栄養素です。したがって食事からのたんぱく質摂取量には、入院中や入院後に特に注意する必要があります。疾病か外傷のある成人の目標たんぱく質量は、1日あたり1.0 ~2.0g/kg(実体重)となります 43,74。除脂肪体重や体の機能を維持するには、65 歳を超える高齢者の方がそれより若い成人よりたんぱく質必要量が多くなります(≥1g/kgBW/ 日)43。熱傷または多発外傷患者では、たんぱく質必要量が 2.0g/kg/ 日を超えます 6,43。

    表3.6 重症または外傷患者に投与すべき量:たんぱく質

    疾病または外傷からの回復期にある患者の1日たんぱく質必要量を推定する

    食事からのたんぱく質量:1.0 〜 2.0g 以上 /kgBW/日†

    急性および / または慢性疾患のある高齢患者:1.2 〜 1.5g/kgBW/ 日†43

    重度疾患および / または著しい栄養不良のある高齢患者:最高で2.0g/kgBW/ 日† 43

    重度熱傷患者:最高で2.0g/kgBW/ 日† 6

    †年齢、疾病または外傷の重症度、および実際の栄養状態によって決まる推奨BW = 体重

  • 23

    栄養指示栄養ガイドラインやベストプラクティスの内容は、下記の例に示すような経腸栄養オーダーフォームに盛り込むことができます(図 3.8)。栄養チェックリストの内容は、各医療機関によって異なります。

    表3.7 成人における経管栄養指示の例

    1. 経管栄養投与法:以下のいずれかを選択する。□ NG  □ ND  □ NJ  □ PEG  □ PEG-J  □ D-PEJ  □その他:

    2. 経管栄養剤の種類:以下のいずれかを選択する。□ 食物繊維を含む  □ 食物繊維を含まない  □ 耐糖能異常   □ 呼吸不全  標準栄養剤   栄養剤 □ 抗炎症      □ 免疫調節      □ 腎不全(透析前) □ 腎不全(透析中)□ ペプチドベース  □ 高濃度      □ その他: 

    3.

    経管栄養の投与スケジュール:禁忌でない限り、上半身を30度以上挙上以下のいずれかを選択する。

    □持続的経管栄養法(投与速度 = 総投与量を 24 時間で除算):経腸栄養剤を希釈せずに25 mL/ 時から開始し、目標の 75 mL/ 時に達するまで 4 時間毎に ___mL 増加。

    □経腸栄養剤を ___ 時間投与した後 ___ 時間空ける間歇的経管栄養法:経腸栄養剤を希釈せずに 25 mL/ 時から開始し、目標速度に達するまで投与毎に ___mL 増加。推奨最高速度は 150 mL/ 時。

    日中 / 夜間 / その両方に投与(選択肢を丸で囲む)。

    □ボーラス経管栄養法(自然滴下による):推奨最高速度は 500 mL/ 回。  希釈せずに 120 mL/ 回で開始。目標に達するまで投与毎に ___mL ずつ増加。  ボーラス目標量 = ____mL/ 回、24 時間または ___ ~ ___ で(頻度)___、(回)___

    4. 栄養チューブのフラッシュ:□ 滅菌水 ___mL、___ 時間毎または  □ BID / □ TID / □ QID

    5. チューブ閉塞時の処理:□ ___________ による酵素処理

    6. 胃残存量をチェックする。小腸投与であればチェックは不要。____mL を超える GRV が 2 時間以上連続する場合は、経管栄養を中断し、医師に報告する□ 昼夜を問わずいつでも □ 以下の時間帯のみ ______________

    7. 排便の管理□ 栄養チューブから __________________ を ______mg 1 日 ___ 回

    8. その他:

    医師の署名:

    日付:       時間:

    略語: NG 経鼻胃;ND 経鼻十二指腸;NJ 経鼻空腸;PEG 経皮的内視鏡的胃瘻造設;PEG-J 経皮的内視鏡的胃空腸瘻造設;D-PEJ 直接経皮的内視鏡的空腸瘻造設;BID 1 日 2 回;TID 1 日 3 回;QID 1 日 4 回;GRV 胃残存量;PRN(pro re nata)必要に応じて

  • 24

    高度栄養ケアの基本方針 ●経口摂取では栄養必要量を満たせない入院患者には、速やかに経腸栄養を開始します。ガ

    イドラインでは、重症患者の栄養投与を早期、即ち入院後 24 ~ 48 時間以内に開始することや、問題が無ければ 48 ~72 時間以内に目標量を達成することが推奨されています。ENは、また目標の投与速度で開始される場合があります 4-6,9。

     ●静脈栄養は、消化管が機能していないか、消化管にアクセスできない患者、または経腸栄養を安全に実施できない患者にとっては、依然として救命的治療になっています。

     ●すべての入院患者に対して、栄養状態をモニターし、栄養介入に対する効果を経過観察します。栄養ケアプランは病態の悪化や改善に合わせて調整します。ICU から病棟への転室や、病棟から長期ケアまたは在宅ケアへの移行に際しては、栄養ケアプランを作成します。

  • 25

    目 次feedM.E. 栄養ケアプランアルゴリズム ………………………………………………… 26栄養不良とリスクを同定するツール……………………………………………………… 27 BMI 計算機 ………………………………………………………………………………………27

    栄養スクリーニングツール …………………………………………………………… 28 MSTスコアに基づく栄養不良リスク ……………………………………………… 28 Nutritional Risk Screening(栄養リスクスクリーニング) (NRS-2002) …… 29 Malnutrition Universal Screening Too   (栄養不良ユニバーサルスクリーニングツール)………………………………… 30 栄養アセスメントツール ……………………………………………………………… 31 主観的包括的評価(SGA …………………………………………………………… 31 主観的包括的評価採点用紙 ………………………………………………………… 32 MNA(65 歳以上向け) ……………………………………………………………… 33 血清生化学検査 ………………………………………………………………………… 33経腸栄養が困難と思われる場合には: …………………………………………………… 34 経腸栄養(EN)法と静脈栄養(PN)法の比較 ……………………………………………34

    経路、アクセス、投与計画 ……………………………………………………………………35

    投与する栄養量:エネルギーおよびたんぱく質目標値の設定………………………… 36投与する栄養:患者に最適な経腸栄養剤の選択………………………………………… 38参考文献……………………………………………………………………………………… 39

    診療ツールの付録

    本付録では、医師が院内栄養ケアの独自のプログラムを構築する一助とするために、一連のツール、アルゴリズム、チェックリストを提供します。いずれもダウンロードできるようにリンクされていますので、実際に使用することができます。

  • 26

    feedM.E. 栄養ケアプランアルゴリズム

    栄養スクリーニング・食事の量が減っているか ? ・体重減少があるか ?1

    ・患者に栄養不良をきたす疾病もしくは外傷があるか ? 

    栄養介入を検討する†

    SGA、その他のツールを使った栄養診断を実施††

    栄養療法を実行する

    いつ、どのように ?

    投与ルートアクセス

    タイミング

    何を ?

    栄養製品を選択する

    どれくらい?

    エネルギー量タンパク質量

    入院中は経過を観察し、適宜修正する

    退院後のプランを立てる

    定期的に再スクリーニングや再評価を行う

    ・食事指導・製品の栄養強化・ ONS(経口的栄養

    補助製品)

    *MST を用いた栄養スクリーニングの詳細は、以下を参照のこと:Ferguson M, et al. Nutr.1999;15:458-464.18

    † これは食事を経口摂取できる患者向けのアドバイスである。†† 栄養アセスメントや栄養不良の診断に関する詳細は、以下を参照のこと:Detsky AS, et al. JPEN 1987;11:8-13.26;Jensen GL, et al. JPEN 2012;36:267-274.3; White J, et al. JPEN 2012;36:275-2832, and J Acad Nutr.Diet 2012;112:730-738.27

  • 27

    栄養不良とリスクを同定するツール

    BMI 計算機BMI を算出するには、身長と体重のデータを cmと kgで入力します。

    身長(cm):             体重(kg):       

    BMI=           

    身 長(cm)

    体 重(kg)

    130 132 134 136 138 140 142 144 146 148 150 152 154 156 158 160 162 164 166 168 170 172 174 176 178 18080 34.6 33.7 32.9 32.0 31.3 30.5 29.7 29.0 28.3 27.7 27.0 26.4 25.8 25.2 24.7 78 34.7 33.8 32.9 32.1 31.2 30.5 29.7 29.0 28.3 27.6 27.0 26.4 25.8 25.2 24.6 24.1 76 34.7 33.8 32.9 32.0 31.2 30.4 29.7 29.0 28.3 27.6 26.9 26.3 25.7 25.1 24.5 24.0 23.5 74 34.7 33.8 32.9 32.0 31.2 30.4 29.6 28.9 28.2 27.5 26.9 26.2 25.6 25.0 24.4 23.9 23.4 22.8 72 34.7 33.8 32.9 32.0 31.2 30.4 29.6 28.8 28.1 27.4 26.8 26.1 25.5 24.9 24.3 23.8 23.2 22.7 22.2 70 34.7 33.8 32.8 32.0 31.1 30.3 29.5 28.8 28.0 27.3 26.7 26.0 25.4 24.8 24.2 23.7 23.1 22.6 22.1 21.6 68 34.7 33.7 32.8 31.9 31.0 30.2 29.4 28.7 27.9 27.2 26.6 25.9 25.3 24.7 24.1 23.5 23.0 22.5 22.0 21.5 21.0 66 34.7 33.7 32.7 31.8 31.0 30.1 29.3 28.6 27.8 27.1 26.4 25.8 25.1 24.5 24.0 23.4 22.8 22.3 21.8 21.3 20.8 20.4 64 34.6 33.6 32.7 31.7 30.9 30.0 29.2 28.4 27.7 27.0 26.3 25.6 25.0 24.4 23.8 23.2 22.7 22.1 21.6 21.1 20.7 20.2 19.8 62 34.5 33.5 32.6 31.6 30.7 29.9 29.1 28.3 27.6 26.8 26.1 25.5 24.8 24.2 23.6 23.1 22.5 22.0 21.5 21.0 20.5 20.0 19.6 19.1 60 34.4 33.4 32.4 31.5 30.6 29.8 28.9 28.1 27.4 26.7 26.0 25.3 24.7 24.0 23.4 22.9 22.3 21.8 21.3 20.8 20.3 19.8 19.4 18.9 18.5 58 34.3 33.3 32.3 31.4 30.5 29.6 28.8 28.0 27.2 26.5 25.8 25.1 24.5 23.8 23.2 22.7 22.1 21.6 21.0 20.5 20.1 19.6 19.2 18.7 18.3 17.9 56 33.1 32.1 31.2 30.3 29.4 28.6 27.8 27.0 26.3 25.6 24.9 24.2 23.6 23.0 22.4 21.9 21.3 20.8 20.3 19.8 19.4 18.9 18.5 18.1 17.7 17.3 54 32.0 31.0 30.1 29.2 28.4 27.6 26.8 26.0 25.3 24.7 24.0 23.4 22.8 22.2 21.6 21.1 20.6 20.1 19.6 19.1 18.7 18.3 17.8 17.4 17.0 16.7 52 30.8 29.8 29.0 28.1 27.3 26.5 25.8 25.1 24.4 23.7 23.1 22.5 21.9 21.4 20.8 20.3 19.8 19.3 18.9 18.4 18.0 17.6 17.2 16.8 16.4 16.0 50 29.6 28.7 27.8 27.0 26.3 25.5 24.8 24.1 23.5 22.8 22.2 21.6 21.1 20.5 20.0 19.5 19.1 18.6 18.1 17.7 17.3 16.9 16.5 16.1 15.8 15.4 48 28.4 27.5 26.7 26.0 25.2 24.5 23.8 23.1 22.5 21.9 21.3 20.8 20.2 19.7 19.2 18.8 18.3 17.8 17.4 17.0 16.6 16.2 15.9 15.5 15.1 14.8 46 27.2 26.4 25.6 24.9 24.2 23.5 22.8 22.2 21.6 21.0 20.4 19.9 19.4 18.9 18.4 18.0 17.5 17.1 16.7 16.3 15.9 15.5 15.2 14.9 14.5 14.2 44 26.0 25.3 24.5 23.8 23.1 22.4 21.8 21.2 20.6 20.1 19.6 19.0 18.6 18.1 17.6 17.2 16.8 16.4 16.0 15.6 15.2 14.9 14.5 14.2 13.9 13.6 42 24.9 24.1 23.4 22.7 22.1 21.4 20.8 20.3 19.7 19.2 18.7 18.2 17.7 17.3 16.8 16.4 16.0 15.6 15.2 14.9 14.5 14.2 13.9 13.6 13.3 13.0 40 23.7 23.0 22.3 21.6 21.0 20.4 19.8 19.3 18.8 18.3 17.8 17.3 16.9 16.4 16.0 15.6 15.2 14.9 14.5 14.2 13.8 13.5 13.2 12.9 12.6 12.3 38 22.5 21.8 21.2 20.5 20.0 19.4 18.8 18.3 17.8 17.3 16.9 16.4 16.0 15.6 15.2 14.8 14.5 14.1 13.8 13.5 13.1 12.8 12.6 12.3 12.0 11.7 36 21.3 20.7 20.0 19.5 18.9 18.4 17.9 17.4 16.9 16.4 16.0 15.6 15.2 14.8 14.4 14.1 13.7 13.4 13.1 12.8 12.5 12.2 11.9 11.6 11.4 11.1 34 20.1 19.5 18.9 18.4 17.9 17.3 16.9 16.4 16.0 15.5 15.1 14.7 14.3 14.0 13.6 13.3 13.0 12.6 12.3 12.0 11.8 11.5 11.2 11.0 10.7 10.5 32 18.9 18.4 17.8 17.3 16.8 16.3 15.9 15.4 15.0 14.6 14.2 13.9 13.5 13.1 12.8 12.5 12.2 11.9 11.6 11.3 11.1 10.8 10.6 10.3 10.1 30 17.8 17.2 16.7 16.2 15.8 15.3 14.9 14.5 14.1 13.7 13.3 13.0 12.6 12.3 12.0 11.7 11.4 11.2 10.9 10.6 10.4 10.1 28 16.6 16.1 15.6 15.1 14.7 14.3 13.9 13.5 13.1 12.8 12.4 12.1 11.8 11.5 11.2 10.9 10.7 10.4 10.2 26 15.4 14.9 14.5 14.1 13.7 13.3 12.9 12.5 12.2 11.9 11.6 11.3 11.0 10.7 10.4 10.2 24 14.2 13.8 13.4 13.0 12.6 12.2 11.9 11.6 11.3 11.0 10.7 10.4 10.1 22 13.0 12.6 12.3 11.9 11.6 11.2 10.9 10.6 10.3 10.0 20 11.8 11.5 11.1 10.8 10.5 10.2

    v

  • 28

    栄養スクリーニングツール

    Ferguson199918

    1.努力しないで体重が増えるようなことが最近ありましたか ?

    スコア

    いいえ 0

    わからない 2

    「はい」の場合、体重(kg)はどのくらい減りましたか ?

    0.9 - 6.3kg 1

    6.4 - 10.7kg 2

    10.8 -15.9kg 3

    >15kg 4

    わからない 2

    2. 食欲が低下したために食事が不十分になりましたか ?

    いいえ 0

    はい 1

    合計

    MSTスコアに基づく栄養不良リスク

    Ferguson199918

    MSTスコア 状態 対応

    食事量が多く、最近の体重減少はない 0-1 低リスク

    入院中はスクリーニングを週 1 回する

    食事量が少ないか、最近体重が減少した 2-3 中程度のリスク

    経口的栄養補助(ONS)、48 ~ 72 時間以内の栄養士へ

    の相談が推奨される。

    食事量が少なく、最近体重が減少した 4-5 高リスク

    経口的栄養補助(ONS)、24 時間以内の栄養士への

    相談が推奨される。

  • 29

    NutritionalRiskScreening(栄養リスクスクリーニング)(NRS-2002)

    NRS-2002 栄養スクリーニングツールは、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)が開発、バリデーションを行ったものであり、地域在住の成人または入院成人患者を対象としています 16。

    第1部NRS初期スクリーニング *

    はい いいえ

    1. BMI は 20.5 未満か?

    2. 患者の体重は過去 3 ヵ月以内に減少したか?

    3. 患者の過去一週間の食事摂取量は減少したか?

    4. 患者は重症か。例えば、集中治療を受けているか?

    * いずれかの質問に対する回答が「はい」であれば、第 2 部最終スクリーニングに進む。すべての質問に対する回答が「いいえ」であれば、週 1 回の間隔で患者をスクリーニングする。患者が大手術を受けることになっている場合は、栄養リスクを回避するために予防的栄養ケアプランを使用する。

    第2部NRS最終スクリーニング *

    栄養障害の重症度 疾病または外傷の重症度

    栄養状態正常 スコア 0 疾病または外傷なし スコア 0

    3 ヵ月で 5% を超える体重減少、または過去 1 週間で通常の必要量の 50 ~ 75% に満たない食事摂取量

    軽度スコア 1

    大腿骨部頸部骨折急性合併症のある慢性患者。例えば肝硬変、慢性閉塞性肺疾患

    (COPD)、慢性透析、糖尿病、腫瘍

    軽度スコア 1

    2 ヵ月で 5% を超える体重減少ま た は BM I 18.5 ~ 20.5 お よび全身状態の悪化、もしくは過去 1 週間で通常の必要量の 25 ~60% の食事摂取量

    中等度スコア 2

    腹部大手術、脳卒中、重度肺炎、造血器腫瘍

    中等度スコア 2

    1 ヵ月で 5% を超える体重減少(3 ヵ月で 15% 超)、または BMI 18.5 未満および全身状態の悪化、または過去 1 週間で通常の必要量の 0 ~ 25% の食事摂取量

    重度スコア 3

    頭部損傷、骨髄移植、集中治療患者(APACHE > 10)

    重度スコア 3

    栄養、疾患重症度のスコア

    合計スコア=栄養+疾患重症度スコア

    70歳以上の場合は、合計スコアに1を加える。

    3以上のスコア:患者には栄養上のリスクがあり、栄養プランを開始する。3未満のスコア:週 1 回の間隔で患者のスクリーニングを繰り返し、患者が大手術を受けることになっている場合は、栄養リスクを回避するために予防的栄養ケアプランを使用する。

  • 30

    MalnutritionUniversalScreeningTool(栄養不良ユニバーサルスクリーニングツール)

    MUST は、地域、介護施設、病院で生活する成人の栄養スクリーニングに使用されています。英国静脈栄養経腸栄養学会(BritishAssociation forParenteral andEnteralNutrition,BAPEN)が開発し、精確度を確認しています。22

    ●3 日間の食事摂取内容を確認➡︎問題なし: ●継続的なスクリーニング  病院:週 1 回  施設:月 1 回  在宅:2 ~ 3 ヵ月に 1 回➡︎問題あり: ●栄養管理目標を設定または再設定 ●食事摂取量の改善 ●食事形態の見直し

    ●多職種で介入方法を相談●介入目標を設定または再設定●食事摂取量の改善●食事形態の見直し●定期的にモニタリングし、 ケアプランを見直す        ⬇    ONSパスに進む

    肥満:● 肥満が認められる場合は記録する。基礎疾患

    がある場合は、治療を優先する。

    ステップ❺栄養管理法のガイドライン

    ●継続的なスクリーニング 病院:週 1 回 施設:月 1 回 在宅:2 ~ 3 ヵ月に 1 回

    ※ 明らかな栄養不良が認められた場合はMUST を実施

    ※ 明らかな栄養不良が認められた場合はMUST を実施

    ステップ❹栄養不良リスクの診断

    ステップ1〜 3のスコアを合計して、栄養障害リスクを診断するスコア 0:低リスク  スコア 1:中等度リスク  スコア 2 以上:高リスク

    全ての患者において:● 基礎疾患については適宜治療し、必要に応じて食事摂取に

    ついて指導する。● 栄養不良のリスク度を記録する(MUST)。● 特別な食事療法などを実施している場合は記録する。

    スコア0:低リスクルーチンのケア

    スコア1:中等度リスク要観察

    スコア2:高リスク栄養介入

    BMIkg/m2 スコア

    >20 (>30 肥満) = 018.5 ~20    = 1<18.5 = 2

    BMI スコア表を参照

    ステップ❶BMI スコア

    過去 3〜 6ヵ月の意図しない体重減少率

    % スコア  < 5 = 0 5 ~10 = 1 >10 = 2

    ステップ❷体重減少率スコア

    ステップ❸急性疾患の影響スコア

    5日以上の栄養摂取を障害する恐れのある急性疾患

    スコア  無し = 0 有り = 2

  • 31

    栄養アセスメントツール主観的包括的評価(SGA)SGA は、過去の状態と身体的診察に基づいて入院患者の栄養状態を評価するのに用いられる臨床的手法です 26。既往のセクションでは、体重減少、栄養摂取量、消化管症状を扱い、身体的診察のセクションでは、様々な部位の皮下脂肪組織喪失や筋肉消耗を評価します。

    A. 既往のセクション

     体重減少  ●患者の過去 6ヵ月間(および過去 2 週間)の体重減少を評価します。2 週間のアセスメン

    トは、6ヵ月のアセスメントの微調整に使用します。可能であれば、実体重が望まれます。  ●過去 6ヵ月間の体重減少は以下のように評価します。    -10% を超えていれば重度    -5 ~10%であれば軽度~中等度    -5% 未満であれば正常  ●過去 2 週間の体重減少は以下のように評価します。    - 体重が一定であれば、正常    - 体重が増加または減少していれば、重度

     食事摂取  ●患者の食事摂取を評価します。低いスコアは、長期間にわたる摂取量の減少や食物の種類

    に大きな変化が生じたことを示します。

     消化管症状  ●過去 2 週間持続している消化管症状に注目します。症状の重症度が高いほど、スコアが低

    くなります。

    B. 身体的診察 皮下脂肪の喪失  ●皮下脂肪は以下を調べて評価することができます。    -眼下の脂肪体。栄養状態が良好な人ではやや膨隆していますが、栄養不良患者では「凹

    み」ます。    -三頭筋と二頭筋を覆う脂肪組織。三頭筋と二頭筋を覆う脂肪組織をつまみ、皮下脂肪

    厚で患者の栄養状態を評価します。

     筋肉の喪失  ●患者の筋肉量のアセスメントには、以下の部位を使用することができ、筋肉喪失の総合的

    評価はこれらの部位のアセスメントに基づいて行います。    - 側頭筋    - 鎖骨隆起、肩の輪郭    - 肩甲骨と肋骨の可視性    - 親指・人差し指間の骨間筋突出    - 四頭筋と腓腹筋の量

  • 32

    主観的包括的評価採点用紙

    患者の氏名:            患者の ID:       日付:       

      2. 身体的診察重度 軽度〜中等度 正常

    評価

    1.皮下脂肪の喪失1 2 3 4 5 6 7

    2.筋肉消耗

      2. 総合的 SGA分類最終評価

    A. 正常または良好な栄養状態ほとんどのカテゴリーが 6〜 7の評価、または顕著で持続的な改善

    B. 軽度〜中等度の栄養不良ほとんどのカテゴリーが3〜5の評価

    C. 重度の栄養不良ほとんどのカテゴリーが1〜 2の評価

      1. 過去重度 軽度~中等度 正常

    体重の変化 採点過去6ヵ月間____5% 未満の体重変化(または増加)

    ____5 ~ 10% の体重減少

    ____10% を超える体重減少

    過去2週間____ 体重増加

    ____ 体重の変化なし

    ____ 体重減少が持続している

    1 2 3 4 5 6 7

    食事摂取 評価

    総合的: ______ 通常の摂取量

           ______ 通常の量より少なく、減少している

           持続期間:______ 週

    変化の種類 ______ 固形物が十分でない  ______ 十分な水分摂取

    ______ カロリーの低い液体  ______ 休息できない

    1 2 3 4 5 6 7

    消化管症状 評価             ______ なし

                 ______ 食欲不振

                 ______ 悪心

                 ______ 嘔吐

                 ______ 下痢

                 持続期間:______ 週間

    1 2 3 4 5 6 7

    Abbott Nutrition Canada(www.CKDNutrition.ca)

  • 33

    MNA(65歳以上向け)Mini-NutritionalAssessment(MNA) に は、栄養不良リスクのスクリーニング法として推奨される簡易版があります。完全版の MNA は、アセスメントに使用することができます。

    Mini-NutritionalAssessmentMini Nutritional Assessment Tool の詳細については www.mna.elderly.com にアクセスのこと。

    血清生化学検査臨床的判断は栄養評価にとって重要ですが、主観的な栄養評価を補完できる客観的な臨床検査に関心を向ける医師もいます 17,75。各血清生化学マーカーの半減期によって、診断法(長い半減期)として、または治療に対する反応や回復を追跡する指標としての使用(短い半減期)に最も適しているかどうかが決まります 76。

    指標 基準値 半減期 注釈

    アルブミン 3.4-5.0 g/dL 20 日基準値を下回る数値は低栄養状態を示し、場合によっては予後不良を示す。

    トランスフェリン 男性:215 ~ 365 mg/dL女性:250 ~ 380 mg/dL 8 日

    基準値を下回る数値は低栄養状態を示す。

    トランスサイレチン(プレアルブミン) 15-36 mg/dL 1-2 日

    基準値を下回る数値は低栄養状態を示し、経時的な数値の増加は治療に対する反応や回復を示す。

    C反応性蛋白(CRP)

  • 34

    経腸栄養が困難と思われる場合には :

    経腸栄養(EN)法と静脈栄養(PN)法の比較

    患者には… 注釈

    …腸管が十分に機能しないか、アクセスできない疾病があるか?

    • 腸管穿孔 EN の禁忌。穿孔が修復されるまで PN を使用し、その後 EN を検討する。• 重度短腸症候群 (100 cm 未満) EN の絶対禁忌。PN を使用する。

    • 機械的腸閉塞または物理 的にアクセス不能な腸管 EN の禁忌。問題が修正されるまで PN を使用する

    4,7。

    • 腸管虚血 修復前は EN の禁忌 4,7。• 腸雑音、放屁、排便の 欠如

    腸雑音は、もはや ICU 患者の腸管使用開始に必要とはみなされず、放屁や排便も同様である 6,7。

    • イレウス (消化管運動性の低下)

    イレウスが機能に及ぼす影響は消化管の部位によって異なり、例えば、術後イレウスは小腸より胃や大腸に大きく影響すると思われるため 7、この場合は胃幽門部より奥にチューブを挿入する栄養法が可能であるかもしれない。EN が難しいければ、PN が必要になる場合がある。

    • 高胃残存量(GRV)

    「高 GRV」の定義(EN 保留時)はガイドラインによって異なるため 4,7、現地のプロトコールに従い、臨床的判断を行う。胃残存量が減少しやすくするために消化管運動刺激薬が使用される場合がある。胃残存量は 500 mLまで容認することを検討する。但し誤嚥リスクに注意を払う 4,10。

    • 消化管吸収不良 吸収の問題を克服しやすくするために小ペプチド栄養剤を検討する 52。

    …EN による経管栄養法が安全ではない可能性のある疾病があるか?

    • 血行動態不安定

    昇圧剤を漸増投与している患者のように、重度の血行動態不安定は EN の禁忌である 7,10。新たなエビデンスから、EN が血行動態不安定患者の死亡率を低下させる可能性が示唆されている(EN が 48 時間以内に開始された場合)51。ある観察研究の結果から、最も重症の患者、つまり昇圧剤が幾つも投与されている患者に有効となる可能性が最も高いことが示された。

    • ベッド頭側(HOB)の 30 ~ 45 度挙上維持に 対する制約

    脊髄損傷か血行動態不安定などの状態にあれば、HOB 挙上が不可能な場合がある 4,9,14。HOBを挙上しないと、逆流や誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、安全でない 4。

    • 膵炎 単純な膵炎で、栄養補給が必要な患者には、「EN を標準治療とみなすこと」53。

    ENは、このような患者にとって幾つものメリットがある 53,54。

    …EN による経管栄養法が効果的ではない可能性のある疾病があるか?

    • コントロール不良の嘔吐コントロール不良の嘔吐は、誤嚥リスクを高め、チューブの留置や留置部位の維持を困難にするため、EN の使用が制限される。場合によっては、EN による栄養法を実施できる。小腸への栄養剤投与か運動促進薬の使用を検討する 4,52。

    • コントロール不良の下痢

    コントロール不良の下痢は EN の効果を減弱させる。下痢のコントロールには、感染、炎症、宿便、投薬といった根本原因を考慮し、治療する。下痢の原因によっては、繊維が添加された EN 剤か低濃度の EN 剤が有効である場合がある。下痢の原因が感染でない場合は、止痢薬の使用を検討する 52。

    • 排泄を伴う瘻孔排泄物の多い腸管中部瘻は、修復術前であれば、EN の禁忌である。瘻孔がより近位か遠位にあり、排泄量が少量~中等量の患者は、綿密なモニターを行えば EN が可能である場合がある 7。

  • 35

    経路、アクセス、投与計画経腸ルート:経鼻アクセスまたは胃か小腸への直接アクセス

    決定ポイント 経鼻アクセス * 直接アクセス†

    栄養法の予想期間 4 週間未満 4 週間以上

    適応(疾病または外傷)

    咽頭または食道の障害神経学的または心理的障害特定の消化管障害腸管が短い熱傷

    嚥下困難腫瘍または外傷による上部消化管破裂重度消化管機能障害胃排出不全重度悪心、コントロール不良の嘔吐、胃拡張のいずれか

    その他の適応 化学または放射線療法が進行中人工呼吸器の長期装着が必要口腔または咽頭手術後の術後回復のため

    * 経鼻チューブは鼻腔から挿入され、胃(経鼻胃)または小腸(経鼻十二指腸、経鼻空腸)に栄養を投与します。† アクセスチューブは、腹壁から挿入され、胃(胃瘻)または小腸(空腸瘻)に直接栄養を投与します。胃に挿

    入されたチューブは、空腸への投与にも使用することができます(胃空腸瘻)。

    栄養補給投与計画:ポンプまたは自然滴下による経腸栄養法

    対象? その理由? その理由/そうでない理由?

    ポンプ

    小腸への栄養補給 9

    重度逆流、誤嚥リスク、重度下痢のある患者 62,63

    正確で一定の投与速度。

    体液量に影響されやすい

    患者に恩恵をもたらす可能性がある 12

    緩徐で持続的な栄養法により消化管認容性を高め 12、嘔 吐、誤 嚥、重 度下 痢の発生率を低下させる 9

    施設に使用できる経腸栄養ポンプがない

    自然滴下

    胃への間歇的またはボーラス栄養法に耐えうる状態の安定した患者 12

    広く利用可能 自然滴下による栄養法の方がポンプより投与速度の信頼性が低い 32

    患者がベッドで体位を変えると、予定流速が変化することがある 32

  • 36

    栄養法投与計画:経腸栄養剤の持続的、間歇的またはボーラス投与

    栄養法投与計画* 方法 部位 対象 その理由

    持続的 ポンプ 小腸または胃

    重症患者 68

    逆流または誤嚥リスクのある患者 68 間歇的 / ボーラス栄養法に耐えられない患者 68

    持 続 的 で 緩 徐 な投与速度が消化管認容性を高める 12

    間歇的 ポンプか自然滴下 68 小腸または胃

    自分で移動できる患者 66

    または非持続的栄養法が適さない他の理由がある患者

    ポンプを使用できな い 場 合 で も 緩徐 な 栄 養 投 与 速度が可能である

    ボーラス 自然滴下かシリンジ 9小腸には貯留能力が な いため、胃のみ 62-64

    栄養剤の投与間隔を長くする必要があるか、長い方を好む患者

    通常の食事に似ており、ポンプは不要

    * 持続的栄養法では、1 日の目標栄養量を達成するために間断なく緩徐な速度で栄養剤を投与します 9。間歇的栄養法は、周期的に行い(例、2 ~ 3 時間投与した後は 2 時間空ける)32,62-64、ボーラス栄養法は一度に全量投与しますが、1 日に何回も繰り返します(例、15 分でボーラス 1 回、これを 1 日あたり 3 ~ 8 回)9。

    投与する栄養量:エネルギーおよびたんぱく質目標値の設定

    医師は、エネルギーやたんぱく質の必要量を推定し、患者ごとに目標エネルギー量を設定します 5,6。成人のエネルギー必要量は、基礎代謝、身体活動、様々な疾病状態の代謝ストレスに応じたニーズによって異なります 72。エネルギー必要量を推定する最も簡単な方法は、患者の体重(BW、単位 kg)に 25 ~30kcal を乗じて1日カロリー必要量を算出する単純な予測式、即ち25 ~30kcaL/kgBW/ 日を使用する方法です 6。

    1 日エネルギー必要量を推定する簡単な式

    疾病または外傷からの回復過程にある患者の 1 日エネルギー量目標値を推定する

    エネルギー必要量を推定する簡単な式:25 ~ 30 kcal/kg BW/ 日 *

    * 疾病の代謝ストレス、身体活動、実際の栄養状態に基づく推奨

    エネルギー必要量を推定する別の方法もあります。間接熱量測定法には特殊な装置や経験豊富な操作者が必要ですが 72、Harris-Benedict 方程式では性別、性差、体重、身長、年齢を考慮します 72,77。Harris-Benedict 方程式で得られた推定値は、活動レベルや疾病または外傷に関連した代謝ストレスの重症度を補正することでより個別化することができます。

  • 37

    1 日エネルギー必要量を推定する他の方法

    身体活動や炎症を補正するために、以下の表を使用して Harris-Benedict REE 結果を個別化する 73

    活動やストレス因子を選択する 補正係数

    活動因子: 1.2 = ベッド上のみ1.3 = ベッド以外

    ストレス因子:

    外傷1.35 = 骨格1.6 = ステロイド療法下の頭部損傷1.35 = 鈍的

    手術 1.1 = 小手術1.2 = 大手術

    感染1.2 = 軽度1.5 = 中等度1.8 = 重度

    熱傷 1.5 = 体表面積の 40%1.95 = 体表面積の 100%

    エネルギー必要量を推定する方法 入力データ/ 装置 注釈

    間接熱量測定法 72 特殊な装置と経験豊富な操作者が必要

    排気フード、呼吸チャンバ、ポンプ、測定機器の利用を要する個々のエネルギー必要量の正確な測定は、患者の酸素 / 二酸化炭素の量と濃度の測定を可能にする。この数値を一般式でエネルギー必要量に変換する。

    Harris-Benedict方程式 72,77

    性別、体重、身長、年齢

    安静時エネルギー消費量(REE)による1 日エネルギー必要量を算出する予測式として一般的で広く受け入れられている。男女別の方程式は以下の通り:

    • 成人男性の 1 日 REE(カロリー)= 66.5 +(13.8×体重 kg)+(5.0×身長

    cm)-(6.8×年齢) • 成人女性の 1 日 REE = 655.1+(9.6×体重 kg)+(1.8×身長

    cm)- (4.7×年齢)

    計算結果は、活動や疾病か外傷のストレスによる高い代謝ニーズを補正する因子を乗じることでさらに精度が高まる。

  • 38

    たんぱく質は、特に疾病か外傷のある患者では、筋たんぱく質の合成を維持し、筋たんぱく質分解を阻止するのに不可欠な栄養素です。したがって食事からのたんぱく質摂取量には、入院中や入院後に特に注意する必要があります。健康な成人で通常推奨される食事からのたんぱく質摂取量は、0.8g/kgBW/ 日です 42。疾病か外傷のある成人のたんぱく質目標量は、状態の重症度によって大きく異なります(1.0 ~2.0g/kg 実際の BW/ 日)6,43。脂肪の少ない体や機能を維持するには、65 歳を超える成人の方がそれより若い成人よりたんぱく質必要量が多くなります(≥1g/ kgBW/ 日)43。肥満の患者[肥満度指数(BMI)>30]では、たんぱく質必要量が 2.0g/kgBW/ 日以上になります(理想体重を肥満成人の推定値に使用)6,43。

    疾病か外傷のある患者に投与するたんぱく質の量

    疾病または外傷からの回復過程にある患者の 1 日たんぱく質量必要量を推定する

    食事性たんぱく質の指針:1.0 ~2.0 g 以上 /kg BW/ 日†

    急性および / または慢性疾患のある高齢患者:1.2 ~ 1.5 g/kg BW/ 日†,43

    重度疾患および / または著しい栄養不良のある高齢患者:最高で 2.0 g/kg BW/ 日†,43

    重度熱傷患者:最高で 2.0 g/kg BW/ 日†,6

    † 年齢、疾病または外傷の重症度、および実際の栄養状態によって決まる推奨、BW = 体重

    投与する栄養:患者に最適な経腸栄養剤の選択

    栄養剤:病状の異なる患者は栄養必要量も様々ですが、特殊な栄養剤で必要量を満たすことができます。

    病態 特別な栄養上のニーズ

    輸液制限(例、心不全に伴う) 高カロリー、高エネルギーおよび / または高たんぱく質 33

    糖尿病 食後の血糖値上昇を最小限に抑えやすくする成分 34,35

    透析前の慢性腎疾患 腎臓への負担を軽減する低たんぱく質、低リン 39

    透析中の慢性腎疾患 透析による蛋白喪失を補う高たんぱく質39、腎臓への

    負担を軽減する低リン 39

    がん 高たんぱく質、炎症調節、抗酸化成分 40

    SIRS/ 敗血症または ALI/ARDS 炎症調節成分 39

    手術、外傷、熱傷 免疫調節成分 39

    消化管不耐症または吸収不良 中鎖脂肪酸トリグリセリドや小ペプチドなどの消化管認容性を高める成分 6,10

  • 39

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