day2 redd panel discussion...2014/02/06  · day2 panel discussion (wwf, 粟野美佳子氏)...

14
パネルディスカッション REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割: その条件、機会とシナジー」 DAY2 Panel Discussion セッション 4 モデレーター:Mr. Eduardo Mansur (国際連合食糧農業機関 (FAO)) パネリスト Dr. Ian Thompson (カナダ天然資源省林業局/IUFRO) Dr. Carmenza Robledo (Ecoexistence - Robledo Abad Althaus) Mr. Deuteronomy Kasaro (ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省) Dr. Ir. Yusurum Jagau (パランカラヤ大学農学部) Ms. Naomi Swickard (Verified Carbon Standard (VCS)) Dr. Louis V. Verchot(国際林業研究センター(CIFOR)) 平田泰雅室長 (森林総合研究所 温暖化対応推進拠点) (FAO, Mr. Eduardo Mansur) 2 日間のセミナー最後のセッションでは、各セッションから 1 名の 代表者をパネリストとしてお招きしている。会場から頂いた 40 の質問を 7 つの論点としてまと めた。 1.REDD プラスが森林経営に与えた影響 (FAO, Mr. Eduardo Mansur) 最初の質問は、「REDD プラスが森林経営に何か変化をもたらした か、もしそうであれば、どのような変化を与えたのか」ということだ。ザンビアの Mr. Kasaro とインドネシアの Dr. Ir. Jagau にお答えいただきたい。 (ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省, Mr. Deuteronomy Kasaro) REDD プラスを始めて からの影響力としては、森林減少や森林経営のドライバーをいかにして理解するかという課題 へのコンセンサスを強化させたことだろう。もう一つは、政策プロセスに対する影響である。 以前、森林プロジェクトでボアホールを掘るような森林に間接的に関わる活動は、ドナーは森 林プロジェクトではないとして資金調達を断る傾向があった。しかし、今では全体的な統合が 重要だということが分かっている。 (パランカラヤ大学, Dr. Ir. Yusurum Jagau) REDD プラスはインドネシアの森林に対する見方や 森林経営方法を変えた。インドネシアの森林計画は 2011 年、 2013 年にまとめられたが、その文 書の中に REDD プラスが含まれている。インドネシアは REDD プラスに関する国家戦略を実 行するため、各州に森林管理ユニットを設置した。地域社会レベルでは、REDD プラスは森林 経営の方法を変化させた。例えば地域社会がトレーニングを受け、地域社会のレベルで森林計 画をまとめている。 (インド理科大学院, Prof. N. H. Ravindranath) インドの場合、インドネシアやその他の国のよう REDD プラスプロジェクトはなく、既存の森林政策を微調整して REDD プラスプロジェク トに適合できるようにしている。 (林野庁, 堀正彦氏) Mr. Kasaro に質問がある。これまで貴国に対して支援を行ってきた。 REDD 1

Upload: others

Post on 05-Jun-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

セッション 4

モデレーター:Mr. Eduardo Mansur (国際連合食糧農業機関 (FAO))

パネリスト :Dr. Ian Thompson (カナダ天然資源省林業局/IUFRO)

Dr. Carmenza Robledo (Ecoexistence - Robledo Abad Althaus)

Mr. Deuteronomy Kasaro (ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省)

Dr. Ir. Yusurum Jagau (パランカラヤ大学農学部)

Ms. Naomi Swickard (Verified Carbon Standard (VCS))

Dr. Louis V. Verchot(国際林業研究センター(CIFOR))

平田泰雅室長 (森林総合研究所 温暖化対応推進拠点)

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 2 日間のセミナー最後のセッションでは、各セッションから 1 名の

代表者をパネリストとしてお招きしている。会場から頂いた 40 の質問を 7 つの論点としてまと

めた。

1.REDD プラスが森林経営に与えた影響

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 最初の質問は、「REDD プラスが森林経営に何か変化をもたらした

か、もしそうであれば、どのような変化を与えたのか」ということだ。ザンビアの Mr. Kasaro

とインドネシアの Dr. Ir. Jagau にお答えいただきたい。

(ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省, Mr. Deuteronomy Kasaro) REDD プラスを始めて

からの影響力としては、森林減少や森林経営のドライバーをいかにして理解するかという課題

へのコンセンサスを強化させたことだろう。もう一つは、政策プロセスに対する影響である。

以前、森林プロジェクトでボアホールを掘るような森林に間接的に関わる活動は、ドナーは森

林プロジェクトではないとして資金調達を断る傾向があった。しかし、今では全体的な統合が

重要だということが分かっている。

(パランカラヤ大学, Dr. Ir. Yusurum Jagau) REDD プラスはインドネシアの森林に対する見方や

森林経営方法を変えた。インドネシアの森林計画は 2011 年、2013 年にまとめられたが、その文

書の中に REDD プラスが含まれている。インドネシアは REDD プラスに関する国家戦略を実

行するため、各州に森林管理ユニットを設置した。地域社会レベルでは、REDD プラスは森林

経営の方法を変化させた。例えば地域社会がトレーニングを受け、地域社会のレベルで森林計

画をまとめている。

(インド理科大学院, Prof. N. H. Ravindranath) インドの場合、インドネシアやその他の国のよう

な REDD プラスプロジェクトはなく、既存の森林政策を微調整して REDD プラスプロジェク

トに適合できるようにしている。

(林野庁, 堀正彦氏) Mr. Kasaro に質問がある。これまで貴国に対して支援を行ってきた。REDD

1

Page 2: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

プラスのプロジェクトでは、森林経営にステークホルダーを参加させるため、トレーニングを

実施したが成功していない。それらの参加型管理は、REDD プラスのために開始されたプロジ

ェクトというが、そもそもなぜ以前は行っていなかったのか。

(ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省, Mr. Deuteronomy Kasaro) REDD プラスのコーデ

ィネーションをする以前は統合型アプローチによる共同森林経営に携わっていた。そのプログ

ラムでは、森林の問題だけでなく、農業やその他のマネジメントプランに関わった。その際、

ドナーは、森林プロジェクトに対して社会インフラや水問題に関する資金を拠出できないとい

う状況であった。しかし、現在 REDD プラスは森林だけを切り離して考えることはできない。

他のセクターとも関連しているということがステークホルダーに理解されてきている。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) REDD プラスは多様なステークホルダーに参加の機会を与え、それ

ぞれの貢献を明確にさせようとしているというインドの事例が示された。

2.森林依存型地域社会と他のステークホルダー間での利害調整

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 二つ目は、Dr. Robledo に対する質問である。持続可能な森林経営に

おいて、森林依存型の地域社会と政府など他のステークホルダーとの間で、どのように両者の

ニーズや利害の衝突を避け、合意を得ていくことができるか。

(Ecoexistence - Robledo Abad Althaus, Dr. Carmenza Robledo) その方法は、三つあると思う。まず

一つは、トレードオフをオープンにするということである。一方では得をし、一方では損をす

るステークホルダーが出てくるといった社会的なトレードオフが必ずあるので、それをある程

度受け入れなければいけない。

二つ目は非常に重要なことで、ステークホルダー間で対話のための場を設けるということで

ある。表向きの対話のみならず、協働して意思決定していくための対話である。この活動に時

間やお金を費やしてこなかったのは失敗であり、ステークホルダーに含まなかった人びととの

衝突があった。これは、包括的なプロセスでなければ実施することはできないのである。

最後に、役割と責任の所在を明確にすることである。便益だけではなく、プロセスの中での

責任と義務の明確化である。

REDD プラスは進行度合いが一定ではなく、森林に依存する人びとの実際のニーズの把握が

重要であり、それは森林の外にいる人たちにおいても同様であった。多くの地域社会が自分た

ちの権利について考え声を上げることは、政府にとって居心地がいいことではない。しかし、

将来的に森林の持続可能な経営につなげていくためには重要な課題なのである。

(ザンビア共和国土地・自然資源・環境保護省, Mr. Deuteronomy Kasaro) ザンビアでは、REDD

プラスのフェーズ 1 の段階では地域社会に焦点を当てている。困難ではあったが、市民社会が

参画しつつ、国としての戦略をともに話し合っている。相違があったとしても、オープンな話

し合いを持つことで合意に至ることができる重要な場なのである。

2

Page 3: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

(林野庁, 堀正彦氏) JICA にも参加プロセスがあり、私も関わっている。これについて唯一の

答えがあるわけではなく、妥協もしながら合意にこぎ着けていくのである。非常に時間がかか

るが、これが唯一の方法で、乗り越えていかなければならない。

(IUFRO-GFEP, Dr. Ian Thompson) 私たちは状況をきちんと理解をし、正直でなければならない。

REDD プラスに限らず、いろいろな取り決めの場で、利益を享受できない人たちが出てくるの

は当然のことである。Win-Win の状況とよく言うが、多くの場合、Win-Win になることはない。

Win-Win-Win を実現することはもっと難しい。現実を見据えていかなければならない。そのよ

うな事実も踏まえた上で、必要な対策を取っていくことが重要である。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) これは、つまり、コンフリクトマネジメントの課題と言える。森林

依存型の地域社会にとっては、森林から享受できる資源は生活の一部になっており妥協はでき

ない。トレードオフは貧困問題や森林依存の問題として捉えられなければならない。

(UNU, Dr. Richard Rastall) 森林依存型の地域社会について議論する場合、必要なのは一体性や

参加を越えた同意である。これこそが衝突や不調和を避ける術である。

REDD プラスに関しては、カンクンセーフガードを考慮すると、炭素の所有権などのさまざ

まな権利を地域社会の利益につながるように交渉していくことも可能ではないか。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) FPIC の重要性を挙げていただいたが、これは十分な状況にないため、

利益が守られるようにしなければならない。

(森林総合研究所 温暖化対応推進拠点, 平田泰雅室長) この問題を考えるときに、国ごとに状

況も所有形態も森林に対する見方も違う中で問題を同じ一つのセンテンスで捉えようとするの

は難しいということである。ここにおられる方の中には、いろいろな国に行かれた方もいらっ

しゃると思うが、それらの訪問国以外においてもまた違った森林に対する形態や取り扱いがあ

るということ、そしてそれらに十分に応じた形で考えていかなければいけないのではないか。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 多様性と複雑性というトピックを挙げてくださった。

(Ecoexistence - Robledo Abad Althaus, Dr. Carmenza Robledo) その回答としては二つある。一つは、

同意は重要だが、その前に意思決定に当事者意識を持って参加してもらわなければならないと

いうこと。もう一つは、森林依存型の地域社会にマイナスになる意思決定をしないようにした

いが、その実現は非常に困難である。多くの子どもたちは、新しい焼畑をつくるために森林を

開く。食糧安全保障の課題よりももっと基本的な食糧についての話だ。何も持たずに生活する

人びとが、違法に森林を開く活動を止めなければならないということである。このような痛み

を伴うトレードオフもある。このようなアクターも可能な限りプロセスの中で含めていくべき

だろう。しかし、このような地域社会は異質なケースであり、われわれは森林地域社会の利益

に資することができると信じて活動すべきだ。

3

Page 4: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

(WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

テークホルダーへの取り込みが必要なのか。また、ステークホルダーの境界線はどこにあるの

か。例えば、先程のコメントにもあった JICA の方たちが実地で仕事をするに当たって、これは

大きな課題であると思う。ステークホルダーの定義はすごく難しい。

もう一つは、利益という言葉の概念が一定していない。持続可能な森林経営の概念において

も、その定義に関する議論はされていない。例えば、プライベートセクター、特に日本の企業

は、地域社会の人々との衝突を避けたがる傾向があるが、ではそのときのステークホルダーと

は誰なのか。境界線を引くのは難しい。これがプライベートセクターにとって REDD プラスの

プロセスにおける最初のバリア、あるいはチャレンジなのだろう。REDD プラスプロジェクト

を成功させたいのであれば、われわれはそれをもっと考えるべきではないか。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 地域社会の中には、自分たちの言葉を民主的な形で自主的にまとめ

るのが難しい場合もある。そのような地域社会を含めたステークホルダーについて考えるとき、

ステークホルダーの定義だけでなく、そこには誰が含まれ、そして誰が公平性をもってそのス

テークホルダーグループを代表するのか、という具体的な課題をあげていただいた。

3.国家森林モニタリングシステム構築のための優先順位

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 三つ目の質問は、平田室長への質問である。国家森林モニタリング

システムを開発するに当たって、それぞれの国の間にギャップがあると思うが、それを埋める

ために、どのような活動を優先順位の高いものとして重要視していくべきか。

(森林総合研究所 温暖化対応推進拠点, 平田泰雅室長) 質問への回答として、まず、国家森林

情報あるいはモニタリングシステムのあるべき形について示したい。現在、途上国では多くの

ドナーが REDD プラスや森林管理のためのシステムづくりという目的でシステムを構築して

いる。一つの国で、あるドナーは情報システム、また別のドナーはモニタリングシステムを構

築していることもある。場合によってはプロジェクトベースで行っているシステムを拡張させ

たり整合性を取らせたりするための模索がなされている。そこで非常に重要なことは、REDD

プラスのコンテクストからだけではなく、持続的に森林を管理していく立場からも、国が責任

を持って信頼性のある森林情報あるいはモニタリングシステムを作成することである。ダブル

カウンティングやリーケージの問題、その他のいろいろなリスクを避けるためにも必要なこと

である。

現在、まずはフェーズ 1 の段階で既に国が持っている情報を尊重しながら、新しいものを加

えていくという方法で、国家森林情報システムやモニタリングシステムを構築しようとしてい

る国が多く見受けられる。この際、フェーズ 2 に移るときに、REDD プラスのコンテクストの

中ではどれだけ正確に炭素を計測できるか、すなわち検証に堪え得るシステムなのかどうかを

考えなければならない。国によっては、90 年代で森林減少として把握されている数値と、直近

の森林減少として把握されている数値とは、計算方法が違うので直接は比較できないと明確に

述べている。その場合には、レファレンスレベル、レファレンスエミッションレベルを引くこ

と自体が不可能になるため、まずは現在の技術の中で最良のものをつくり、過去にあるものを

4

Page 5: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

修正していくようなシステムが必要なのではないか。しかし、現場担当者は、「先進国が持ち込

んだ複雑なシステムは自分たちには使えない。なるべく簡単なシステムでなければ無理だ」と

強調する。従って、現地の森林管理をする省庁の方々が、場合によっては自分たちでシステム

に修正を加えられるようなシステムづくりが必要だろう。

質問にある国々のギャップということについて一言で説明はできないが、まず、森林を見る

ときに、森林が熱帯季節林、熱帯雨林、あるいは半乾燥林か乾燥林かといった気候的な区分に

よって森林を捉えるモニタリングシステムも変わってくる。それだけでなく、森林の所有形態

によっても変わってくる。従って、ギャップを埋めるための最善の方法は失敗から学ぶことで

あり、先行している活動から改善点を学ぶべきだろう。そのときに必要なグルーピングには、

森林タイプや、所有形態、あるいはランドスケープマネジメントにも関わってくる。スタート

ラインは離れているとしても、その森林周辺で起こっていること、例えばゴム農園やオイルパ

ーム農園の拡大などの状況も踏まえながら、それぞれの国をグルーピングして、同じあるいは

なるべく近い状態にしてフェーズ 2 に移っていけるような対策が必要なのではないか。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 非常に包括的なお答えをいただいた。各国間のギャップは複雑だと

聞いたが、その事実をお答え頂いてうれしく思う。パネルリストもしくはフロアからのコメン

トをいただきたい。

(FAO, Dr. Maria Jose Sanz-Sanchez) モニタリングに関して二つの実践がある。まず国の森林モニ

タリングシステムにより情報収集する方法で、平田室長の評価に全面的に同意する。これには

初めから活動を始めるのではなく、国が所有する既存のシステム上に構築して改善を加えてい

く。もう一つは、各国あるいは他のステークホルダー国が将来の動向を予測しシナリオを作成

する助けとして情報を使うことである。

純粋なモニタリングと情報収集というのは、さまざまな異なる機能を満たすものであるが、

カーボンクレジットの機能はその中でも特に REDD プラスに関連するものである。しかし、持

続可能なモニタリングシステムを構築しようと思うなら、カーボンクレジット以外の目的も満

たす必要がある。そうでなければ、機関・制度間で十分な統合が図れず、一つのモニタリング

システムに関する利益しか守られないことになってしまう。

もう一点は、コンポーネントについてである。コンポーネントは全ての土地利用に関連して

おり、土地モニタリングシステムは森林に関連するものだが、同時に他の土地利用にも簡単に

使えるものである。混同してはいけないのは、モニタリングシステムを構築するにあたって、

私たちがモニタリングシステムからどのような情報を得るのかということではなく、その情報

を使って何をすべきかを理解しておく必要があるということだ。

(インド理科大学院, Prof. N. H. Ravindranath) 情報モニタリングシステムには、メジャーなな三

つのタイプがある。国家森林インベントリ、リモートセンシング、実地調査である。国家森林

インベントリを持っている国はあまりない。リモートセンシングもまた非常に複雑なシステム

なので、全ての国で使うのは難しいだろう。ブラジルやインドには REDD プラス以外の目的で

構築された独自のリモートセンシングの機能があり、それを REDD プラスにも応用できると思

う。

5

Page 6: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

ただ、リモートセンシングは全ての国で必要とされているわけではない。例えばインドは、

リモートセンシングのデータを用いて多くの近隣諸国を支援しているが、国家森林インベント

リには非常に多くの資源を必要とし、大きな国で実施するのは難しいかもしれない。恐らくカ

ナダではできるだろうが、他の大きな国では難しい。国レベルでより重要なのは、バイオマス、

炭素蓄積、社会経済的な側面に関する地上調査である。これに関しては全ての国が実施するべ

きで、より小さな国では特に重要だ。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 平田室長から、ドナー間での調整が必要だという非常に興味深いポ

イントが挙げられた。意思決定や政策立案だけでなく、マーケットにおいての不確実性をなく

したい場合、精度が最も重要だろう。不確実性があると、投資リスクを避けるため、その促進

が難しい。したがって、精度がその不確実性をなくすための基礎になるだろう。また、異なる

レベル、異なるグループの人に理解してもらい、ギャップをなくすために常にシンプルな方法

を探す必要がある。

4.持続可能かつコスト効果の高い国家森林モニタリングシステムの構築に向けた課題

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 四つ目の質問は、Dr. Thompson の講演を受けてのものである。国の

森林モニタリングシステムを持続可能かつコスト効果が高い方法にするためにはどのような課

題があるだろうか。森林モニタリングシステムはそのためだけにつくられるべきなのか、それ

とも複数の目的を達成すべきなのか。

(IUFRO-GFEP, Dr. Ian Thompson) 国のモニタリングシステムは重要な問題である。モニタリン

グシステムでは、その目的に照らし合わせて、明確かつ焦点を絞ってなされる必要がある。同

じ指標に関する複数のプロセスがあるとしても、費用対効果を高くするためには一つの指標に

対して一つの数値を用いることだ。

FAO か他の誰かが REDD プラスをモニタリングしているのであれば、森林インベントリの数

字に一貫性を持たせ、課題に対する指標が全ての人に共通して使えるものであるべきである。

もう一つの課題は、技術は常に進化しており、新しい技術は新しい答えを出していく。いつの

時も次世代の人工衛星やレーダー衛星の方が、より良い画像、またより精度の高い答えを与え

てくれる。私たちはそれらの新しい答えが前世代の衛星による結果と比較可能であるかを検証

する必要がある。

今後も精度や正確さの重要性を主張していくつもりだ。ドナー国なので、炭素 1 トン当たり

に 100 ドル払う場合、1 トンちょうどの量でなければならない。従って、国の森林モニタリン

グシステムの戦略として精度や正確さが組み込まれているということが重要である。そうでな

ければ、平均の倍である場合に、100 ドルに対して実際に 1 トンのカーボンクレジットを得て

いるのか不明確になる。

モニタリングが他の目的も果たすべきかという質問は、そうあるべきだ。汎用目的で用いる

ためには、モニタリングプログラムを慎重に考え、様々な報告を相互に参照すべきである。同

じ指標に対して、異なるプロセスで算出しないようにすべきである。

6

Page 7: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

(CIFOR, Dr. Louis V. Verchot) 私も精度と正確さは重要だと思う。例として、持続可能なパーム

オイルのための円卓会議では、排出要因としてのパームオイルに関する IPCC の評価は過大で

あるため、それを 2 倍にすることについて検討がされている。これによって持続可能な経営へ

のインセンティブを与えようとしているのは理解できる。しかし、本当に森林減少を食い止め

る際にも、過度な排出を生み出すことになる。精度を考えたときに、インセンティブをつくる

ために単に数字を入れるのではなく、私たちが何を達成しようとしているのかを正確に計算す

る必要もあるのである。

(FAO, Dr. Maria Jose Sanz-Sanchez) 確かに私たちはできるだけ正確でなければいけないと思う。

精度の高さと精密さが必要だ。ただ、そもそも評価をすることの目的とは何かを考えよう。目

的とは、場合によっては変化させることであり、そのためのインセンティブが必要である。私

は温室効果ガスのインベントリのレビューを数年間やっているが、温室効果ガスの排出見積り

では、必ず一貫性を担保しなくてはならない。予測が難しい場合も首尾一貫してトレンドに沿

って行かなければならないからだ

しかし、あまりにも精密で正確さを求めた投資になると、本当にアクションが必要なものに

対してリソースが振り分けられない可能性があるので、バランスが必要である。先進国でのデ

ータの質に問題ないからといっても、これが変化しないということにはならない。これが全体

のプロセスで独自に走り出すことになってしまえば、持続可能性はなくなってしまうだろう。

(林野庁, 赤堀聡之氏) 少し違う視点かもしれないが、REDD プラスや LULUCF について、排

出の多い産業セクターの方からは、森林は非常に分かりにくい、正確性が低いといった話をよ

く聞く。確かに産業セクターと比べることは非常に難しが、ある程度、皆さんが受け入れられ

るレベルの正確さには到達することができる。事例としては、先進国がやっている LULUCF の

アカウンティング、モニタリングがあるので、そういった技術はちゃんとある。

(WWF, 粟野美佳子氏) REDD プラススキームは、日本企業が CSR レポートで適当に「これだ

けの CO2 吸収に貢献している」と語るよりははるかに正確である。CSR レポートなどは検証さ

れておらず、相対的な評価だからである。

(CIFOR, Dr. Louis V. Verchot) たしかに過剰に精度を高めていく必要はないが、精度がどれぐら

い必要かは定量化すべきである。不確実性を定量化するのか、それとも私たちの持つバイアス

を定量化するのかという議論であり、バイアスというのは定量化の精度を高めることよりも難

しい。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) データを測定してリスクの確立をエコノミストに出すと、エコノミ

ストの方でそれに見合った投資額を決める。これは、カーボンクレジットも同じだと思う。き

ちんとエラーを管理できれば、少なくともどのような状況であるかを理解した上で先に進める

と思う。従って、正確さと精度は、私たちの間違いをいかに正すことに貢献できるかというこ

とにもつながる。

7

Page 8: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

(フロア 1) もし REDD プラスのクレジットが大量に出る可能性がある状況になったときに、

今までは森林から出るクレジットと排出削減から出るクレジットの交換性を考え、排出削減セ

クターと同等の正確さを求めてきたわけだが、新しいものをつくることができれば、そういう

ことを考えなくても済むのではないか。

(LRQA, Dr. Dave Mateo) 民間部門では、REDD プラスの「うまみ」について、しばしば話題に

なるある。LRQA では、CSR レポート関係の仕事をしているが、レポート内容に大きな変化が

見られる。例えば、以前は植林プロジェクトや森林管理への貢献をうたっていたが、現在は

REDD プラス活動をレポートするようになってきた。ただ単に森林を持っているとか植林をし

ているというだけでなく、REDD プラス活動も含めるというのがトレンドになっている。

しかしながら、そこから読み取れるのは、企業はステークホルダーを交えていくといったプ

ロセスをたどり、コミュニケーションを図っているというが、そこでの主張は彼らがカーボン

ニュートラルであるとか、REDD プラスを介して排出量をオフセットできたといったことであ

る。そしてそのような活動で地域社会を支援しているというのである。これは私たちのように

保証機関にとって非常にやりがいのある状況である。

5.REDD プラス成功の要件と持続可能な森林管理、カーボンファイナンス

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 五つ目の質問に移りたい。議論のポイントが少し複雑で包括的にな

る。森林と社会が直面する問題に REDD プラスが貢献できるような状況をどのように生み出せ

るだろうか。持続可能な森林経営なのか、あるいはカーボンファイナンスか。

(CIFOR, Dr. Louis V. Verchot) 今までの成果は、制度的な状況によるのだろう。REDD プラスに

向けて動き出し成功している国は、既に森林政策の方向転換や森林セクターにまつわるさまざ

まな問題に取り組んでいる国である。

そうした国では、森林に対する深刻な圧力や法整備的・規制的のために前進してきた。その

後、地域社会のオーナーシップをともなう参加型プロセスが求められるようになり、フェーズ

2 に入っていくだろう。持続可能な森林経営は、そのとうなプロセスの結果である。どのよう

なことができるようになるかではなく、制度的なフレームワークを導入することによって、ど

のような方向に導いていけるかが重要ではないだろうか。政策のプロセスや移行を内から進め

ていき、そこに制度が入ってくることによって加速させる。

カーボンファイナンスは困難に直面している。しかし、国レベルでは、気候変動なども含め、

このようなメカニズムを使うことによってどのように自国の森林が管理されているのかを把握

しようとしている。そして、国民に対して森林がどう検証されているかを提示していくことに

もなるのではないか。

(Ecoexistence - Robledo Abad Althaus, Dr. Carmenza Robledo) 反対意見を言わせていただきたい。

資金メカニズムの話をするとき、いつも現実感が薄いと思う。森林減少は、2030 年までで 1 年

当たり少なくとも 170 億~300 億ドル程度に匹敵する。機会費用だけを見ても、1 年当たり 100

~200 億ドルもの金額が掛かるという算定がある。この機会費用というのは、消費コストでも、

8

Page 9: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

実施コストでも、モニタリングコストでもない。

これらのコストを合算してみると、7 年間で 43 億ドルという数字が既に約束されており、こ

れには支払いがされていない部分も含まれている。プライベートセクターは、資金はあるけれ

ども好意的でないこともある。

矛盾しているようだが、私たちはゼロコンマ幾つという細かいレベルの話をする一方で、何

十億、何百億ドルというレベルの大きな金額を見ている。資金がないからという理由で、持続

可能でないモニタリングシステムを築くのか?途上国に開発面での問題に無用なモニタリング

システムの構築を求めるのか?そうすれば、10 年後にはだれも炭素に支払わなくなるだろう。

従って、サービスと財を考慮しつつ、森林がつくり出すことができるもの、全体のバスケット

の中に何があるのかをもう一度見直して、ファイナンスシステムを考えるべきである。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) カーボンファイナンスは魔法のつえではない。モチベーションとな

ってプロジェクトに寄与することはできるが、これによって人々が豊かになるということでは

ない。土地利用を持続可能に行うことで利益を得られるというのはよいことだが、これによっ

て、土地所有者の資金的な問題が本質的に解決できるわけではない。

持続可能な森林経営とは REDD プラスの結果であり、REDD プラスの成果が持続可能な森林

経営の成果なのである。今回のセミナーのタイトルが、「REDD プラスと持続可能な森林経営」

というのは間違っていると同僚が指摘していたように、REDD プラスは持続可能な森林経営の

一部であって、全てではない。持続可能な森林経営の理解をどのようにするか、持続可能な森

林経営のスケールをどう定義するか、持続可能な森林経営のポジショニングをどうするかにも

よるものである。

6.REDD プラスの普及

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 六つ目は Ms. Swickard に対する質問で、REDD プラスプロジェクト

が普及するということは、チャレンジなのか、それとも国レベルでの REDD プラス実施という

ことに対するチャンスなのか。

(VCS, Ms. Naomi Swickard) チャレンジであり、チャンスでもある。プロジェクトからはさまざ

まな価値が生まれる。アカウンティングに関してテストをすること、緩和効果を実地で見てい

くこと、過去から学んでいくことができる。資金に関してはまだ不確定要素がある。今まで出

てきた資金源のポテンシャルを全てさらって、プライベートセクターであれば、プロジェクト

レベルの活動に資金を拠出してくれるところもあるので、それはメリットだと思う。プロジェ

クトが実際に国家レベルの活動とどのように統合されていくのかが今後の課題だろう。

UNFCCC では、暫定的措置として準国レベルで始めることが望ましいと言っている。たしか

にこれを国家レベルでやろうとするとかなり複雑で、さまざまなセクターやエージェンシーか

らの同意を取るのが難しいことがあるので、最初は準国レベルでスタートさせるのが賢明だろ

う。この問題を克服するに当たり、それぞれのレベルで、チャンスがあれば、それを時宜にか

なった形で全て活用する必要がある。

9

Page 10: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

(IUFRO-GFEP, Dr. Ian Thompson) まず、このプロジェクトを普及させること自体がチャレンジ

だと思うが、受益国政府がここで役割を果たすべきだと思っている。先日シンガポールで REDD

プラスプロジェクトの小規模なセミナーに参加した。そこにはインドネシア、ベトナム、カン

ボジアといった国からのコンサルタントが多く出席していた。しかし、それらの国々の政府は

そのように多くのコンサルタントが自分たちの国にすでに参入していることに気づいていなか

った。同様に、カナダの企業がガーナで植林しているが、ガーナ政府は気づいていない。従っ

て、政府がある程度この動きをコントロールしなければ、普及は困難である。

(VCS, Ms. Naomi Swickard) 全くそのとおりだと思う。だからこそわれわれは行政単位でのアカ

ウンティングに関わっている。どうすればわれわれが手助けできるのか。VCS の下で、国レベ

ルより下層の活動を前進させるに当たり、プロジェクト開発が支障にならないことに留意して

いる。ペルー政府が今、準国レベルの活動に関するガイドラインを策定している。これには、

われわれも関わっている行政単位レベルのプロジェクトも含まれている。政府と連携を取りつ

つ参照レベルを設定し、プロジェクトレベルにまで落とし込んでいくことを目的としている。

一貫性を担保して明確な方向性を示すことにより、プロジェクトをより高いレベルにまで昇華

させていくことが可能だろう。

このプロジェクト活動によって何かを享受できるのかと問われれば、私はイエスと答える。

しかし、複数のスケールで活動を行うに当たって、それらの統合を担保する方法やシステムに

ついては課題として残っている。プロジェクト活動を許認可する省庁も必要になってくるだろ

う。

(IGES, Dr. Henry Scheyvens) とても興味深い議論だ。2 人の意見に同意する。プロジェクトに関

しては、2007 年にバリの COP13 で決断された内容を常々思い起こす。確かに REDD プラスの

備えができているのかデモンストレーションを試みるため、実証活動を行うこととなった。つ

まり、UNFCCC の観点から、プロジェクトは実証的であるべきだということである。ボランタ

リーマーケットをターゲットとしているのであれば、あるいは、暫定的な実証活動の指針を2007

年までに構築するためには、それに沿って戦略を実行して排出削減し、成果主義であるべきだ

ろうという議論がされた。PDD などを見ていると、膨大な量の知識が蓄積され、多くの能力開

発や学習の機会があったが、それを政府が十分に活用していないという問題があった。つまり、

普及とその規制が欠如しているということではなく、政府が実証活動としてそれを活用してい

ないということである。ドライバーに関して、あるいは能力開発に関して、これを利用できて

いないところが問題だろう。

(林野庁, 赤堀聡之氏) 日本はプロジェクトを実施する立場にあり、インドネシアやカンボジア

などへ行くが、日本以外にもいろいろな国がプロジェクトを実施している。それら各プロジェ

クトが互いに理解して調和していくことが望ましいと認識しつつも、互いに共有する機会と時

間がないのが実情である。これについて意見を伺いたい。インドネシアなどでうまくプロジェ

クトを実行するヒントはないだろうか。

(VCS, Ms. Naomi Swickard) 非常に興味深い質問だ。いろいろな国と協力する中で、準国レベル

10

Page 11: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

のフレームワークに幾つかのシナリオがある。ただ、プロジェクト活動は許可される場合とそ

うでない場合があるにしろ、すでに協力している多くの国では、こうしたプロジェクト活動を

実際に求めているし、自分たちのプロセスにとって価値があると認めてくれている。そして、

具体的に地域社会と統合し、どのようにして気候変動を軽減していくか、森林減少などに取り

組んでいけるかを考えている。

先ほどの質問の観点から、ではこのような状況における課題について、国が何を欲している

のか、何に対してインセンティブを与えようとしているのかという、国の目的についてまず考

えることだ。そして、プロジェクト活動を許可しないのであれば、準国レベルでは何を求め、

何にインセンティブを与えたいのかを見直す必要があるかもしれない。チリの事例では、ほと

んどの土地は民間セクターが所有している。従って、プロジェクト活動にインセンティブを与

えることは理にかなっているのである。リビアやベトナムといった国では必ずしもそうではな

く、国の文脈によって異なってくると思う。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) あるエピソードをご紹介したい。独自の年金基金を運用する国際機

関で働く機会があった。そこのスタッフが、「今、市場に新しくて非常に興味深い投資機会があ

る。森林の新しい REDD プラスプロジェクトに投資しようとしている」と言い、私たち全員が

頼むからやめてくれと言った。

もう一つ短いエピソードだが、ケニアでの最初のプロジェクトが VCS の認証を取得したとき、

誰もが祝福した。もしその会社が今、私たちのところに来たら、「Acre のプロジェクトに投資

するつもりだ。Acre は恐らく認証されるだろう」と言うだろう。

確かに REDD プラスは進化していると思う。REDD プラスは課題ではあるが、同時に、チャ

ンスでもある。活動を認証し、体制を立て直す機関も必要だろう。

7.セミナーによる REDD プラスに対する考え方の変化

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) ここまで六つの質問に答えていただいた。七つ目の最後の質問に行

きたい。これは非常に良い質問だと思う。パネリストだけでなく会場にいる私たちみんなに対

しての質問である。このセミナーを受けて、皆さんの REDD プラスに対する考え方に何か変化

は見られただろうか。

(森林総合研究所 藤間剛室長) 今回のセミナーで、REDD プラスというものが持続可能な森林

経営のためのツールでもあるということを理解した。

(LRQA, Dr. Dave Mateo) 非常に洞察力と情報力に富んだ 2 日間だった。認証機関側から考える

と、リスクや不確実性はあるが、マーケットもあると思う。結局、REDD プラスプロジェクト

の実施に当たり、私たちのような機関が、保証や認証といった意味でわれわれのリスクに取り

組み、それをどうやって抑えられるのかだと思う。さまざまな技術によって不確実性はどんど

ん少なくなっているので、マーケットは確実にあるだろう。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 私たちのような環境サービスや支払いサービスに関わる人びとに

11

Page 12: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

とって心強い意見だった。私たちは常にマーケットのようなメカニズムについて議論するが、

民間セクターを代表する方がそうした現実的なマーケットがあると述べている。

(林野庁, 赤堀聡之氏) ランドスケープアプローチを担当して多くのことを学んだ。いろいろな

国で家畜を与えたり、農業の生産性を上げたりするような生計向上プロジェクトに取り組んで

いるのだが、それが森林減少に歯止めをかけることにはつながらない事例もあるので、なかな

か難しいと思っていた。今日は特に Dr. Verchot がガバナンスやゾーニングが不可欠だと話して

いたが、現場でもそういう声があったので、この話は非常に参考になった。

(WWF, 粟野美佳子氏) 私が学んだのは、農業部門を取り込むべきだということだ。Dr. Verchot

がおっしゃったとおり、REDD プラスに関わっている農業部門の人はまだ少ない。また、ブラ

ジルなどでもREDDプラスの話はしているが、REDDプラスの知識がまだ少ないのではないか。

従って、次のステップとしては、日本だけでなく世界においてもステークホルダーをもう少し

広めていくことが重要だと思った。再認識したという方が正しいかもしれない。

(パプアニューギニア 林業局, Mr. Gewa Gamoga) 非常に良い質問であると同時に課題でもあ

ると思った。持続可能な森林経営は、発展途上国の多くでは、REDD プラスから多くの課題が

挙げられてきた。REDD プラスは、森林管理に苦しんでいる国の持続可能な森林経営を進める

ためのものだと思った。

(森田一行氏) 方法論や枠組みそのものについて様々な意見があり、大変勉強になった。参加

型でいろいろな議論をしていくことが重要であることが理解できたが、その際に、参加する人

たちに対する情報のクオリティについてもきちんと評価を決めておかないと、バイアスがかか

ったものでいくら議論をしても、正しい方向に行かないのではないかと考えた。

(フロア 2) 今まではカーボンクレジットでどうやってプライベートセクターを REDD プラス

に巻き込むかに執着してきた気がするが、今回はどうすれば REDD プラスや持続可能なランド

スケープマネジメントにプライベートセクターを巻き込むことができるのかを考慮すれば、面

白い関係をつくれるのではないかと思った。

(FAO, Dr. Patrick Durst) 私もこの質問は良いと思った。私はこの数年間、一握りの REDD プラ

スの専門家と関わってきたが、その多くは REDD プラスの熱狂的な支持者たちが多かった。し

かし、今回学んだのは、REDD プラスの多くの専門家たちが、苛立ちや疑いを表現しながらも

前進させるために難しい疑問をお互いに投げ合っていたということだ。今回そうした専門家た

ちがいることを知ることができたのは、有意義であった。

(森林総合研究所 温暖化対応推進拠点, 平田泰雅室長) そろそろ MRV の V の話を真剣にする

時期が来たと思う。私はソルトレークシティにある国際森林研究機関連合(IUFRO)という機関

で REDD プラス実施のための森林炭素 MRV というセッションを設けた。そこでは事例のほと

んどが計測(メジャメント)とモニタリングである。Dr. Robledo や Dr. Sanz-Sanchez が言及したよ

12

Page 13: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

パネルディスカッション

「REDD プラスの実施における持続可能な森林経営の役割:

その条件、機会とシナジー」

DAY2 Panel Discussion

うに、実施可能なシステムを考える際に、どのような検証に堪えうれば良いのか、あるいはど

の程度の精度のものを作っていけばよいのかという疑問を途上国側からもよく投げ掛けられる

ようになった。そろそろそういうステージに移っていく段階に来ているのではないか。

(IUFRO-GFEP, Dr. Ian Thompson) このような課題は、複雑性もあって難しい中で前向きな人び

とがいることに感心する。日本だけでなく、ザンビア、インドネシア、ナイジェリア、パプア

ニューギニアといった国々が、これを前に進めようと取り組んでいることが伝わってきた。困

難が多い中で、非常に前向きな姿勢が見受けられ、うれしく思っている。

(VCS, Ms. Naomi Swickard) 素晴らしいパネリストと共に参加することができてうれしく思って

いる。実際の排出削減に向けての REDD プラスの活動、もしくは炭素の隔離といった話と関連

して議論できたのは REDD プラス関連のイベントとしては初めてのことで実りがあったと思

っている。

(FAO, Mr. Eduardo Mansur) 大きなメッセージは、今後、森林の損失を世界的にゼロにする方向

にしていかなければいけないということである。これ以上の森林減少を早く食い止めなければ

ならない。森林は土地利用の中でも最も価値あるものである。今回のセッションでもこのこと

が十分に強調されたと思っている。

13

Page 14: DAY2 REDD Panel Discussion...2014/02/06  · DAY2 Panel Discussion (WWF, 粟野美佳子氏) 途上国における参加型森林管理について、どの程度まで地域社会のス

DAY2 Panel Discussion

14