structural design of spatial structure ...2 大空間構造物の構造設計...

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13 大空間構造物の構造設計 (時刻歴応答解析を用いた設計法について) 高澤 恒男 * 1   渡壁 守正 *2 藤堂 正喜 * 2   荒井 豊人 *1 渡部 幸宏 * 1   山下 英利 *1 杉本 和聴 *1 渡邉 秀仁 *1 概    要 岡山操車場跡地公園(仮称)整備事業に係る全天候型多目的球戯場(以下多目的ドームと呼ぶ)の構造設計において、時 刻歴応答解析を用いたに構造設計を行い(財)日本建築センターの性能評価を受け、国土交通大臣の認定を取得した。 本報では、大空間構造物の構造設計における時刻歴応答解析を用いた耐震・耐風設計法について報告する。本ドームの 耐震・耐風設計は、静的設計と動的設計の2本立てとした。設計手順は、静的設計で動的な荷重を静的な設計用荷重に設 定し、変形と各部材の応力度を検定し建物全体の耐震、耐風安全性を検証した後、動的設計で時刻歴応答解析を行ない、変 形及び代表的な部材の時刻歴応力による応力度が設計クライテリアを満足していることを確認すると共に、このような静 的設計用荷重の設定方法や時刻歴応答解析を用いた構造設計方法の妥当性を確認した。 STRUCTURAL DESIGN OF SPATIAL STRUCTURE (METHODS OF TIME-HISTORY RESPONSE ANALYSIS) Hidehito WATANABE *1 Tsuneo TAKAZAWA *1 Morimasa WATAKABE *2 Masanobu TOHDO *2 Toyohito ARAI *1 Takahiro WATABE *1 Hidetoshi YAMASHITA *1 Kazuaki SUGIMOTO *1 The time-history response analysis methods of designing structural members of Okayama Dome (a multi-purpose ball game ground) were evaluated by the Building Center of Japan prior to the approval of the Minister of Land, Infrastructure and Transport. This paper presents the time-history response analysis methods of designing the spatial structure, Okayama Dome. The earthquake resistant and wind resistant design methods are composed of the following two design phases, static design and dynamic design. The static design requires static design loads that are obtained from the preliminary time-history response analyses. The displacements and stresses of structural members by static earthquake and wind loading are investigated in order to determine crucial members. Then, as a dynamic design, the time-history response analyses are performed. Next, the displacements and stresses of crucial members by dynamic design are evaluated so that the values from dynamic analyses fulfill the design criteria. Finally, the validity of using the static design loads and the time-history response analysis for a spatial structure is verified. *1 構造設計部 *2 技術研究所 *1 Structural Engineering Dept. *2 Technical Research Institute

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Page 1: STRUCTURAL DESIGN OF SPATIAL STRUCTURE ...2 大空間構造物の構造設計 (時刻歴応答解析を用いた設計法について) 渡邉 秀仁 *1 高澤 恒男 渡壁 守正*2

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大空間構造物の構造設計(時刻歴応答解析を用いた設計法について)

高澤 恒男*1  渡壁 守正*2

藤堂 正喜*2  荒井 豊人*1

渡部 幸宏*1  山下 英利*1

杉本 和聴*1

渡邉 秀仁*1

概    要

 岡山操車場跡地公園(仮称)整備事業に係る全天候型多目的球戯場(以下多目的ドームと呼ぶ)の構造設計において、時刻歴応答解析を用いたに構造設計を行い(財)日本建築センターの性能評価を受け、国土交通大臣の認定を取得した。 本報では、大空間構造物の構造設計における時刻歴応答解析を用いた耐震・耐風設計法について報告する。本ドームの耐震・耐風設計は、静的設計と動的設計の2本立てとした。設計手順は、静的設計で動的な荷重を静的な設計用荷重に設定し、変形と各部材の応力度を検定し建物全体の耐震、耐風安全性を検証した後、動的設計で時刻歴応答解析を行ない、変形及び代表的な部材の時刻歴応力による応力度が設計クライテリアを満足していることを確認すると共に、このような静的設計用荷重の設定方法や時刻歴応答解析を用いた構造設計方法の妥当性を確認した。

STRUCTURAL DESIGN OF SPATIAL STRUCTURE(METHODS OF TIME-HISTORY RESPONSE ANALYSIS)

Hidehito WATANABE*1 Tsuneo TAKAZAWA*1

Morimasa WATAKABE*2 Masanobu TOHDO*2

Toyohito ARAI*1 Takahiro WATABE*1

Hidetoshi YAMASHITA*1 Kazuaki SUGIMOTO*1

The time-history response analysis methods of designing structural members of Okayama Dome (a multi-purpose ball game ground)were evaluated by the Building Center of Japan prior to the approval of the Minister of Land, Infrastructure and Transport. This paper presents the time-history response analysis methods of designing the spatial structure, Okayama Dome. The earthquakeresistant and wind resistant design methods are composed of the following two design phases, static design and dynamic design. Thestatic design requires static design loads that are obtained from the preliminary time-history response analyses. The displacements andstresses of structural members by static earthquake and wind loading are investigated in order to determine crucial members. Then, as adynamic design, the time-history response analyses are performed. Next, the displacements and stresses of crucial members by dynamicdesign are evaluated so that the values from dynamic analyses fulfill the design criteria. Finally, the validity of using the static designloads and the time-history response analysis for a spatial structure is verified.

*1 構造設計部 *2 技術研究所*1 Structural Engineering Dept. *2 Technical Research Institute

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大空間構造物の構造設計(時刻歴応答解析を用いた設計法について)

渡邉 秀仁*1 高澤 恒男*1

渡壁 守正*2 藤堂 正喜*2

荒井 豊人*1 渡部 幸宏*1

山下 英利*1 杉本 和聴*1

1.はじめに

 岡山操車場跡地公園(仮称)整備事業に係る全天候型多目的球戯場(以下多目的ドームと呼ぶ)の構造設計において、時刻歴応答解析を用いたに構造設計を行い(財)日本建築センターの性能評価を受け、国土交通大臣の認定を取得した。 本報では、大空間構造物の時刻歴地震応答解析方法を採用した耐震・耐風設計について報告する。

2.建物概要

2.1 計画概要本計画は、8ヘクタールの公園敷地整備を目的として、この敷地の中に多目的ドーム、多目的広場及びアクションスポーツパークからなっている。           多目的ドームは、各種のスポーツ競技や展示会、文化イベント、各種興行などを誘致し幅広い利用展開できるように計画している。ドーム形態は円形平面の南側を切り取りガラスの開口部とし主な観客席は東側に集中させ、南側の多目的広場と一体感を持たせた明るく開放的なドーム空間を作り出している。 多目的広場は、多彩なイベントが開催できるフリースペースとして計画し、緑化された広場周辺と相まって、幅広い年齢層が楽しめるように計画している。 アクションスポーツパークは、ストリート系スポーツ(インラインスケートスケートボード、BMX等)が行える日本初の本格的施設である。 図‐1.1に全体配置、図‐1.2に完成予想図、図‐1.3、1.4に平面図図‐1.5に断面図を示す。

図‐1.1 全体配置図

*1 建築設計統轄部構造設計部 *2 技術統轄部秘術研究所

図‐1.2 完成予想図

113.961m

95.151m

図‐1.3 1階平面図

図‐1.4 2階平面図

113.961m

95.151m

スタンド部分は、エキスパンションジョイントでドーム建屋とは別棟とする。

スタンド部分は、エキスパンションジョイントでドーム建屋とは別棟とする。

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2.2 建物概要2.2.1 建物概要 敷地面積 80,000㎡、   建築面積 9,500㎡ 延べ面積 9,938.55㎡  階 数 地上2階、地下なし 構造形式  S,SRC,RC造 架構形式 屋根 鉄骨造2方向格子グリッドドーム         下部 ブレース及び耐力壁付RCラーメン構造 一部SRCラーメン構造、プレストレストコンクリート造 基礎   RC造 杭    拡頭拡底場所打ちコンクリート杭(アースドリル工法)2.2.2 ジオメトリー(幾何形態)長径 114m、短径95m、高さ37.8mの球殻裁断型ドーム2.2.3 使用材料  コンクリート 躯体-杭 24N/mm2 スタンド部分 21N/mm2 鉄 筋 D16以下(SD295A),D19~ D29(SD345),D32 (SD390) 鉄 骨・・・原則は既製圧延H形鋼の採用 2方向格子グリッドドーム H-300× 300× 10× 15(SN400B,SN490B) H-350× 350× 12× 19(SN400B,SN490B) BH-400× 400× 16~ 22× 25~ 32(SN490B) 補強アーチ □ -400× 400× 19(BCP325) H-400× 400× 13× 21(SN400B,SN490B) BH-400× 400× 16× 28(SN490B) 接合方式 高力ボルト摩擦接合(フランジ,ウェブ 共) 膜  四ふっ化エチレンガラスコーティング膜 厚さ0.8mm2.2.4 構造概要(1)ドームの幾何学 平面及び断面計画より、Lx=113.9m、Ly= 95.1m、高さ37.8mで南側に大開口部を持つ球殻裁断形のドーム形態がさだめられる。このドームは平面的に歪な形状をしているため、この形態を満足するようにY方向(開口部に直角方向)に開口部、最高高さ部、テンションリング部を通る円弧を最高高さ部で決定しその中心点を軸に円弧を回転して各フレームのジオメトリーを決定した。 X 方向は、Y 方向の最高部を通る円弧上でグリッドが8.0m以内になるように位置を求め各フレームが平行になるように決定しX方向とY方向で2方向格子グリッドを形成した。図‐1.6に構造概念図を示す。

図‐1.5 断面図

図‐1.6 構造概念図

東 西

南 (2)ドームの構造・上部構造(鉄骨屋根架構) 約 7.6m× 7.6mの2方向格子グリッドドームは、主に圧延 H 形鋼を主材料に用い X 方向(メインフレーム)は400mm~350mmの広幅H形鋼、Y方向(フィレンディールトラス 梁成2.0m)は 300mm(上下弦材とも)の広幅H形鋼で構成された複層の 2 方向格子グリッドドームである。

メインフレームは膜形状に合わせたトラスとし、フィレンディールトラスの上弦材は膜の頂部を形成している。X方向とY方向の下弦材は剛接合とし面内剛性を向上させている。南側開口部には、幅6.0m、成2.0m~ 3.0mの剛強な補強アーチ(キールトラス)を設けてY 方向のフィレンディールトラスを支持している。・下部構造(地上部躯体) 地上部躯体は、剛性の高い鉄筋コンクリート造(以下RCと呼ぶ)一部鉄骨鉄筋コンクリート造(以下SRC造と呼ぶ)とし、その上にドーム鉄骨屋根をのせている。 屋根荷重により発生する鉛直力、水平力はテンションリングから柱、柱から基礎、基礎から杭へと流しを処理している。鉄骨建て方時は、柱を梁下までコンクリートを打設し柱上部にテンションリング(SRC造)の鉄骨のみを施工し、その鉄骨に建て方時上部屋根架構を支持させ鉄骨のみのテンションリングで建て方時応力を処理した後,コンクリートを打設する。短期荷重時の応力はSRC造のテンションリングにて処理するものとする。 客席・スタンドは一部分を除きエキスパンションジョイントを設けドーム本体と構造的には切り離している。

Y 方向

X方向

37.800

93.000121,000

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・膜の構造膜はY方向に約7.6mを 1レーンとしその中間部分に押さえケーブルを配置し常時及び強風時の安定を計っている。膜の施工は、1レーンをロール状に一気に張る方式としている。・基礎構造 ドーム部分の基礎は、GL-24.0m以深の堅固な洪積世の砂礫層を支持地盤とする杭基礎とし拡底拡頭場所打ちコンクリート杭(アースドリル工法)としている。テンションリング部分の柱直下には、原則として2本の杭を打ちこの杭によりドーム建屋の軸力、水平力と柱脚の曲げ応力を処理している。 基礎梁は水平剛性を高めるため外周に2重に廻し、その間はRCスラブを打設している。

3.構造設計概要

3.1 上部構造の設計方針 耐震設計においては、防災拠点としての機能確保、人命の安全確保を目標とし構造体は震災後大きな補修をすることなく建物を使用出来るように、重要度係数を1.25とする。ただし、動的解析においては、重要度係数を考慮した入力地震動の割増は行わない。 解析モデルは、全ての部材を線材(引張り、圧縮、ねじり及び曲げ機能を有する1軸要素)にモデル化したフル弾性立体モデルとする。静的解析モデルには、杭及び杭先端地盤の鉛直バネおよび地盤の水平バネを考慮する。

図‐3.1 解析モデル図

   質点数:2534質点   要素数:4646要素       鉄骨屋根質点数:2180質点     鉄骨屋根要素数:4064要素   使用プログラム    NASTRANN 各検討用荷重ケースで一次設計(許容応力度設計)、二次設計(終局強度設計)を行ない構造体の安全性及び変形が仕上げ材料に影響を及ぼさないことを確認する。設計用の検討荷重、荷重ケース及び荷重状態を以下に示す。

検討荷重 荷重ケース 荷重状態

1 鉛直荷重 固定荷重G(84条)+積載荷重P(85条) +ケーブル張力+膜応力 1ケース 長期荷重

2 積雪荷重 施行令86条(全載1+偏載4) S 5ケース 短期荷重 3 風荷重 施行令87条(風量係数は風洞実験)W 5方向 短期荷重 4 地震荷重 時刻歴地震応答解析結果より決定 K 4方向 短期荷重

標準温度15℃±30℃ T 2ケース 長期荷重 5 温度荷重 標準温度15℃+60℃ T 1ケース 短期荷重

6 初期不整 施行時誤差を考慮 B 1ケース 長期荷重

表‐3.1 設計用検討用荷重、荷重ケース及び荷重状態

 地震荷重と風荷重に対しては、静的弾性解析と時刻歴弾性応答解析を行ない構造体の安全性の確認を行う。静的な荷重により設計された骨組の耐震・耐風安全性を時刻歴応答解析により総合的に確認する。静的な地震荷重は、時刻歴予備地震応答解析結果より決定する。また、静的な風荷重は、風洞実験結果から得られた平均風力係数から求めた等価静的最大風荷重とする。風の動的効果の考慮は、風洞実験結果から得られた風圧データより求めたスペクトル・モーダル解析手法により評価し、時刻歴風応答解析はスペクトル・モーダル解析手法の妥当性の確認のために行なう。 各検討用荷重での解析方法を表‐3.2に、検討用荷重の組合せを表‐3.3に示す。

一次設計(弾性設計) 二次設計(終局強度設計) 検討荷重 静的弾性解析 時刻歴弾性解析 静的弾性解析 時刻歴弾性解析

1 鉛直荷重 ○ 2 積雪荷重 ○ ○ 3 風荷重 ○ ○*1 ○ ○*1 4 地震荷重 ○ ○ ○ ○ 5 温度荷重 ○ 6 初期不整 ○*2 ○*2

表‐3.2 解析方法一覧

*1  ドーム屋根面の動的応答解析とその設計用風荷重の評価は、風洞実験で多点同時測定した風圧データを用いたスペクトル・モーダル解析手法により行う。

                  *2  初期不整は線形座屈固有値解析時に考慮する。

 検討用荷重の組合せケースは長期荷重2ケース、短期荷重で一次設計時28ケース、二次設計時28 ケースの計58ケースとなる。

荷重状態 検討用荷重の組合せ 備 考 長期荷重 鉛直荷重(G+P)+温度荷重(T)*1 *1 ±30度

鉛直荷重(G+P)+温度荷重(T)*1+積雪荷重(S) *1 ±30度 鉛直荷重(G+P)+温度荷重(T)*1+風荷重(W) *1 ±30度 鉛直荷重(G+P)+温度荷重(T)*1+地震荷重(K) *1 ±30度

短期荷重

鉛直荷重(G+P)+温度荷重(T)*2 *2 ±60度

表‐3.3 検討荷重の組み合わせ

・ 鉛直荷重には、施工時応力も考慮する。

3.2 耐震・耐風設計方針3.2.1 耐震設計方針(1)耐震設計の目標耐震設計では,2つのレベルの強さの地震動を想定し,各々の地震動の強さに対して以下に示す目標を設定する.■本建築物が当該敷地において耐用年数中に1度以上受 ける可能性が大きい地震動及び平成12年建設省告示第 1461号(以下建告1461号と呼ぶ)の稀に発生する地震動 (以下レベル1の地震動と呼ぶ)に対して,本建築物は各 部材が座屈する事無く、主架構に軽微なひび割れを生 じても各部材の応力度は許容応力度以内である事と、  変形が仕上げ材に影響を及ぼさない事を目標とする。■本建築物が当該敷地において将来に受けることが考え られる最大級の地震動及び建告1461号の極めて稀に発 生する地震動(以下レベル2の地震動と呼ぶ)に対して, 本建築物は上部構造(鉄骨屋根架構)の各部材が座屈 する事無く、応力度は材料基準強度(F値)の1.1倍以 内である事、下部構造(地上躯体)及び基礎構造は部 材の一部に降伏が生じても倒壊あるいは局部崩壊など 人命に損傷を与える可能性のある破壊を生じない事と

Y方向

X方向

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変形が仕上げ材に影響を与えない事を目標とする。(2)耐震設計の基本方針 上記の目標を満足するように、静的解析による一次設計、二次設計と、時刻歴地震応答解析による設計を行ない総合的に耐震安全を確認する。1)一次設計静的な地震荷重に対する設計で,レベル1相当の地震力の大きさに対して許容応力度設計を行なう。2)二次設計静的な地震荷重に対する設計で,レベル2相当の地震力の大きさに対して強度設計を行なう。基準値を満足しない項目がある場合は別途詳細な検討を行ない耐震安全性の確認を行なう。3)時刻歴地震応答解析本建築物に想定する地震動の強さは,建設地の地域係数(Z=0.9)を考慮し、観測波は最大速度値でレベル1では22.5㎝ /sec,レベル2 では45 cm/sec とし,模擬地震動は建告1461号の加速度応答スペクトルに準拠する。検討に用いる地震動波形は、標準的な観測波形2波、地域特性を表す観測波形1波および建告1461号に定める加速度応答スペクトルによる模擬地震動波形3波の合計6種類とする。   EL CENTRO 1940 NS 波(日本建築センター保有) TAFT   1952 EW 波(日本建築センター保有) OKAYAMA  2000 EW 波(K-NET) 模擬地震動波形 WGLCO-EL 模擬地震動波形 WGLCO-TA 模擬地震動波形 WGLCO-BCJ3.2.2耐風設計方針(1)耐風設計の目標耐風設計では,2つのレベル強さの風荷重を想定し,各々の風荷重の強さに対して以下に示す目標を設定する。■建告1461号により地上10mにおける平均風速が建築基 準法施行令第87条第2項の規定に従って地表面祖度区 分を考慮して求めた数値以上の暴風(以下50年再現期 待値相当の風をレベル1と呼ぶ)によって、建築物の各 部材は座屈する事無く、主架構に軽微なひび割れを生 じても各部材の応力度は許容応力度以内である事と、  変形が仕上げ材に影響を及ぼさない事を目標とする。■建告1461号により地上10mにおけるおける平均風速が 建築基準法施行令第87条第2項の規定による風速の 1.25倍に相当する暴風(以下500年再現期待値相当の 風をレベル2 と呼ぶ)によって、建築物の各部材は座屈 する事無く、各部材の応力度は材料基準強度(F値)の 1.1倍以内である事と、変形が仕上げ材に影響を及ぼさ ない事を目標とする。(2) 耐風設計の基本方針 上記の目標を満足するように、静的解析による一次設計、二次設計と、風荷重の動的効果を考慮した設計をおこない総合的に耐震安全を確認する。風荷重の動的効果は、風洞実験の多点同時測定で得られた風圧データを用いたスペクトル・モーダル解析手法により評価し、時刻歴応答解析はスペクトル・モーダル解析手法の妥当性を確認する。1)一次設計(許容応力度設計) 等価静的最大風荷重に対する設計で、レベル1の風荷重に対して許容応力度設計を行う。

2)二次設計(終局強度設計) 等価静的最大風荷重に対する設計で、レベル2の風荷重に対して各部材の応力度が材料基準強度(F値)の1.1倍以内である事を確認する。3)時刻歴風応答解析 ドーム屋根面の動的応答解析とその設計用風荷重の評価は、風洞実験で多点同時測定した風圧データを用いたスペクトル・モーダル解析手法により行い総合的に耐風安全性を確認する。(3)構造体の風力係数と膜材の風力係数 風力係数は風洞実験にて測定し、風荷重が厳しくなる方向について検討を行うものとする。 構造体の安全性を確認する場合の風力係数は、外圧係数については風洞実験における平均風圧係数とする。内圧係数は建設省告示第1454号に準拠する。 膜材の安全性を確認する場合の風力係数は、膜材を外装材と考え風洞実験におけるピーク風圧係数を採用する。内圧係数は建設省告示第1458 号に準拠する。3.2.3 耐震・耐風安全性判定基準イ) レベル1の地震動・風に対する耐震・耐風安全性判定基準

図‐3.2 耐風・耐震設計フロー

ロ) レベル2の地震動・風に対する耐震・耐風安全性判定基準

・上部構造(鉄骨屋根架構)の各部材の応力度が材料基準強度 (F値)の1.1倍以下であること。・構造体の変形が仕上げ材に影響がない事を確認する。・下部構造及び基礎構造の各部材の最大塑性率は2.0以下とする。・下部構造の最大応答層間変形角が原則として1/100 以下である。・膜屋根においては、膜材は許容応力度以内、ケーブルは材料基準強度 (F値)の1.1倍以下であること。

・各部材の応力度が許容応力度以下である。・下部構造の最大応答層間変形角が原則として1/200 以下である。・構造体の変形が仕上げ材に影響がない事を確認する。・膜屋根においては、膜材及びケーブル材が許容応力度以下である事。

スタート

構造計画

工法の設定

部材断面の仮定

予備地震応答解析

設計用地震力の設定

設計用風荷重の設定

設計用雪荷重の設定

応力解析

応力解析

地盤調査

地盤特性の把握

検討用入力地震動の設定

断面検討

設計用外力の設定積雪荷重 G+P+T +1.40S風荷重  G+P+T +1.56W地震荷重 G+P+T +2.0K

設計用外力の設定風荷重  G+P+T +1.00W     G+P+T +1.56W地震荷重 22.5cm/sec,45.0cm/sec

部材応力度・降伏部位の確認変形量の確認

基礎構造の強度の確認

時刻歴応答解析

耐風・耐震安全性の確認

*1風荷重の動的検討はスペクトル・ モーダル解析によって行う。

エンド

一次設計(

許容応力度設計)

二次設計(

終局強度設計)

動的検討

NO

YES

NO

YES

NO

YES

風洞実験

*1

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3.2.4 耐震・耐風設計フロー 図‐3.2 に耐震及び耐風設計のフローを示す。

4.時刻歴地震応答解析

4.1 検討用地震動4.1.1 検討用地震動1)水平動 水平動の検討に用いる地震動波形は,日本建築センター保有の観測波形の中から標準的な地震動波形として,EL CENTRO NS波およびTAFT EW波の2波形と, 建設地の地域特性を考慮した波形として,鳥取県西部地震(平成12 年 10 月 6 日)を本建物建設地近傍で観測した波形,OKAYAMA EW波(強震観測網(K-NET))を選択する.さらに,建告1461号4項に規定された解放工学基盤における加速度応答スペクトルに基づき,表層地盤による増幅を適切に考慮した模擬地震動波形3波を採用する。 地震動の強さは,模擬地震動を除き,各観測波形の最大速度で基準化し,建設地の地域係数(Z=0.9)を考慮して,レベル1の地震動では22.5 ㎝ /sec,レベル2 の地震動では45.0㎝/secとする 上記3種類の観測波形では,実測最大速度をレベル1およびレベル2の地震動の強さに換算する。 検討用模擬地震動としては,建告1461号の稀に発生する地震動をレベル1とし,極めて稀に発生する地震動をレベル2として採用する。採用した入力地震動波形の諸数値を表‐4.1に,レベル2 の地震動の擬似加速度応答スペクトル(減衰定数2%)を図‐4.1に示す。2)上下動 上下動の検討に用いる地震動波形として,TAFT UD波およびOKAYAMA UD波の観測波形の2波形を選択する。上下動は,レベル2の地震動について検討する事とし,入力地震動の大きさは,水平動との加速度比率を観測地震動の比率に合わせて換算する。 採用した上下動の入力地震動波形の諸数値を表‐4.1に示す。

表‐4.1 入力地震動波形の諸元

レベル 1 レベル 2 EL CENTRO 1940 NS波 342 33.5 230 460 53.0 TAFT 1952 EW波 176 17.7 224 447 54.0 OKAYAMA 2000 EW波 133 12.2 245 491 30.0 告 示波 WGLCO-EL波 ― ― 84 398 60.0 告 示波 WGLCO-TA波 ― ― 83 389 60.0

水平

告 示 WGLCO-BCJ波 ― ― 69 336 60.0 TAFT 1952 UD波 103 6.6 ― 261 54.0 上

下 OKAYAMA 2000 UD波 42 2.0 ― 155 30.0

図‐4.1 入力地震動波形(レベル2)の擬似加速度応答スペクトル(減衰定数2%)

4.1.2 解放工学的基盤における模擬地震動 建告1461号に基づき、解放工学的基盤における模擬地震動を作成する。 ”稀に発生する地震動”の場合の減衰定数5%に対する加速度応答スペクトルSA(T)(m/s/s)は下式で表せる。  T<0.16秒、      SA(T)= (0.64+6T)Z  0.16秒 <T <0. 64秒  SA(T)= 0.16Z  0.64秒 <T、      SA(T)= (1.024/T) Z 上記で、Z=0.9である。また、”極めて稀に発生する地震動”の場合は、(1)式を5倍したSA(T)とする。 上記の応答スペクトルを対象として、(2)式の正弦波の重ね合わせによって模擬地震動a(t)を作成する。

(1)

 ここで、A(wk) はスペクトル振幅値であり、作成した模擬地震動a(t)が対象の応答スペクトルSA(T)に適合するように修正を加えて決める。φ(wk)は位相角であり、ある記録(地震動)波をフーリエ変換して求まる位相角を代入する。 上記の位相角としては、表‐4.2に示す3記録(地震動)によるものとする(BCJ-L2波は1)による)。すなわち、”稀に発生する地震動”の応答スペクトルを対象に3波の模擬地震動、 ”極めて稀に発生する地震動” の応答スペクトルを対象に3波の模擬地震動を作成した。作成した模擬地震動の最大加速度と最大速度を表‐4.3 に示す。”極めて稀に発生する地震動” の応答スペクトルを対象とした模擬地震動の加速度波形を図‐4.2に、それらの応答スペクトルを図‐4.3に示す。なお、”稀に発生する地震動”の応答スペクトルを対象にした模擬地震動は、図‐4.2また図‐4.3の振幅を1/5にしたものである。

Code-EL 60秒 66.9 8.8 334.3 43.8

Code-TA 60秒 74.3 8.9 371.3 44.7 Cod-BCJ 60秒 61.7 9.4 308.3 47.1

図‐4.2 模擬地震動の加速度波形

表‐4.3 解放工学的基盤の模擬地震動の緒元

Level-2 . H=2%EL CENTRO 1940 NS 波TAFT   1952 EW 波OKAYAMA  2000 EW 波告示波 WGLCO-EL 波告示波 WGLCO-TA 波告示波 WGLCO-BCJ 波

模擬地振動 の名前

継続 時間 最大加速度

稀に発生する地震動

cm/sec2 最大速度cm/sec

最大加速度cm/sec2

最大速度cm/sec

極めて稀に発生する地震動

観測地震動波形 入力地震動波形 波 形 名 称 最大加

速度 cm/sec2

最大速度cm/sec

最大加速度cm/sec2 解析

時間sec

∑ +=k

kkk tAta )(cos)()( ωφωω

模擬地振動 の名前

位相に用いた記録 (地震動)名 備 考

Code -BCJ BCJ-L2波 関東地震等の地震動評価結果を参

考とした模擬地震動

Code-TA TAFT 1952 EW波 M=7.3 Kern Countyの 地震記録

Code-EL EL CENTRO 1940 NS波 M=7.0 Imperial Valleyの 地震記録

(2)

表‐4.2 解放工学的基盤の模擬地震動に用いた地震動

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7

図‐4.3 建告1461号の“極めて稀に発生する地震動”の解放工学的基盤の応答スペクトルと模擬地震動の応答スペクトル

4.1.3 地盤応答解析による時刻歴地震応答解析用の入力地震動 表‐4.3の解放工学的基盤における模擬地震動による、当該地盤の地盤応答解析を行う。 地盤調査に基づくPS検層により求めたS波速度を図‐4.4中に示す。ここでGL-26m以深のS波速度が400m/sec以上の砂礫層を工学的基盤と設定する。本地盤の微小歪時の1次卓越周期は0.41秒である。地盤応答解析は、土の応力ー歪関係を修正ROモデルによって表した非線形逐次積分法によって行った。土の動的変形特性は、土質種別と上載圧をパラメータとした既往の平均的な経験式2)から定めた。剛性低下率G/Goと履歴減衰定数hの例を図‐4.5に示す。 図‐4.2の波形の1/2を、図‐4.4の地盤におけるGL-26m 以深の工学的基盤への入射波として地盤応答解析を行った。”極めて稀に発生する地震動”の場合の、応答結果の最大加速度と最大歪の分布を図‐4.4に示す。また、本建築物応答解析の入力とする、応答加速度による応答スペクロルを図‐4.6に、それらの最大値を表‐4.4に示す。 上記と同様の地盤応答解析を”稀に発生する地震動”の場合についても行った。これによる地表応答加速度による応答スペクトルを図‐4.6中に、それらの最大値を表‐4.4中に示す。

図‐4.4 当該地盤構造と”極めて稀に発生する地震動”の模擬地震動による地盤応答結果の最大値

(シルト) (砂礫)

図‐4.5 地盤応答解析に用いた土質の動的変形特性の例

図‐4.6 模擬地震動による地表応答加速度から求めた応答スペクトル

WGLCO-EL 84.4 9.8 397.8 49.6 WGLCO-TA 82.7 9.1 388.7 47.3

WGLCO-BCJ 68.6 10.9 336.0 52.9

表‐4.4 当該地盤地表応答波の最大値

4.2 時刻歴地震応答解析4.2.1 振動解析モデル 本建築物の地震応答解析は,レベル1とレベル2の地震動に対して,個々の主要な構造材(下部構造および上部構造)を全て有限要素の線材(引張り、圧縮、ねじり及び曲げ機能を有する1軸要素)にモデル化したフル弾性立体モデルとした(図‐3.1参照)。減衰は内部粘性型とし,減衰マトリックスは下式により作成する.

模擬地振動の 名 前 最大加速度

cm/sec2 最大速度cm/sec

最大加速度稀に発生する地震動 極めて稀に発生する

地震動

cm/sec2 最大速度cm/sec

[ ]K2C1ωh1=

〔C〕:減衰マトリックス〔K〕:剛性マトリックス(剛性比例型:振動数比例型)

減衰定数 : h1 = 0.02       1次の減衰定数は2% とする。 減衰は、レーリー減衰(4次~10次で2%)での振動解析も行ない安全性を確認する。応答解析手法:直積積分法(弾性解析)       解析のきざみ時間0.01~ 0.02秒

[ ]

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8

FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M TODA / OKAYAMA-DOOM TRAN EL-CENTRO-X (0.0sec-53.0sec) 20001.4.24

NORMAL MODE

X

Y

TIME 2.30

CASE NO. 116

-3.50

-2.75

-2.00

-1.25

-0.50

0.25

1.00

1.75

2.50

3.25

ACCEL. -X -3.30

FEMOS : POST-PROCESSOR FOR F.E.M TODA / OKAYAMA-DOOM TRAN EL-CENTRO-X (0.0sec-53.0sec) 20001.4.24

NORMAL MODE

X

Y

TIME 2.30

CASE NO. 116

-3.50

-2.75

-2.00

-1.25

-0.50

0.25

1.00

1.75

2.50

3.25

4.00

4.75

ACCEL. -Z 4.10

4.2.1 固有値解析 図‐4.7にフルモデルの固有モード(1次~4次)を図‐4.8に刺激係数を示す。

1次モードT1=0.954秒(1.033Hz)

2次モードT1=0.844秒(1.185Hz)

3次モードT1=0.729秒(1.374Hz)

4次モードT1=0.681秒(1.474Hz)

図‐4.7 固有モード

0

10

20

30

40

50

60

70

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50

次数

刺激

係数

X

Y

Z

図‐4.8 刺激係数

 表‐4.5に振動数比例型とレーリー減衰の減衰定数の比較を示す。各モードは非常に近い固有周期となっている。振動数比例型とレーリー減衰の減衰定数は、100 次のモードで11.6%と3.8%となりレーリー減衰による減衰定数は振動数比例型に対して約1/3程度である。 高次モードの影響が考えられる大空間構造物では減衰定数の設定方法は今後の課題である。4.2.3 時刻歴地震応答解析(1)解析ケース レベル1では水平動に,レベル2では水平動および上下動に対して時刻歴地震応答解析を行う。解析ケースは42ケースとなる。表‐4.6に解析ケースを示す。

表‐4.5 振動数比例型とレーリー減衰の減衰定数の比較モード

固有周期(sec)

固有振動数(Hz)

減衰定数 %振動数比例型

減衰定数 %レーリー減衰

1 0.9679 1.03316 2.000 2.219 2 0.8435 1.18541 2.272 2.106 3 0.7278 1.37387 2.609 2.023 4 0.6805 1.46956 2.755 2.000 5 0.6194 1.61446 3.007 1.974 10 0.4730 2.11373 3.918 2.000 15 0.3983 2.51047 4.633 2.085 20 0.3548 2.81805 5.343 2.204 25 0.3209 3.11571 5.974 2.329 30 0.2845 3.51463 6.646 2.475 40 0.2515 3.97624 7.556 2.688 50 0.2270 4.40478 8.328 2.883 60 0.2090 4.78526 9.118 3.085 80 0.1818 5.49922 10.477 3.457 100 0.1449 6.9030 11.646 3.771

表‐4.6 時刻歴地震応答解析ケース

波 形 名 称 X

方向 Y 方向

45度 方向

X 方向+ 上下動

Y 方向+

上下動 45 度+上下動

EL CENTRO 1940 NS 波 ○ ○ ○ TAFT 1952 EW 波 ○ ○ ○ OKAYAMA 2000 EW波 ○ ○ ○ 告示波 WGLCO-EL 波 ○ ○ ○ 告示波 WGLCO-TA 波 ○ ○ ○

レベル1告示波 WGLCO-BCJ 波 ○ ○ ○ EL CENTRO 1940 NS 波 ○ ○ ○ TAFT 1952 EW 波 ○ ○ ○ ○ ○ ○ OKAYAMA 2000 EW波 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 告示波 WGLCO-EL 波 ○ ○ ○ 告示波 WGLCO-TA 波 ○ ○ ○

レベル2告示波 WGLCO-BCJ 波 ○ ○ ○

 時刻歴地震応答解析結果の 1 例としてレベル1 の EL CENTRO波のX方向水平加力による水平方向加速度分布と鉛直方向加速度分布を図‐4.9示す。ドーム頂部でX方向に350cm/sec2 鉛直方向(Z方向)に475cm/sec2 の最大加速度が発生し、鉛直方向は上向きと下向きの左右逆の加速度が発生している。

図‐4.9 時刻歴地震応答解析結果(屋根面加速度分布 発生時刻2.30秒)

水平方向加速度分布 鉛直方向加速度分布

(2)静的地震荷重との比較 静的地震荷重の決定方法は、①水平加速度が最大となる時刻の加速度分布から推定②水平変位が最大となる時刻の加速度分布から推定③鉛直加速度が最大となる時刻の加速度分布から推定④鉛直変位が最大となる時刻の加速度分布から推定⑤ドーム部分の水平せん断力が最大となる時刻の加速度分布から推定 等が考えられる。本ドームでは①の水平加速度分布が最大となる時刻の水平加速度分布と鉛直加速度分布から、各検討用地震動による時刻歴地震応答解析結果の屋根面の加速度分布を包括するように屋根面の震度分布を決定した。図‐4.10 に屋根面の震度分布を示す。

x xy y

z

-350gal -350gal

325gal 475galx

y

z

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9

図‐4.10 屋根面の設計用震度分布

4.2.2 時刻歴地震応答解析結果(1)水平動 水平動の時刻歴地震応答解析結果のうち大きな応答結果を示したY方向水平動のレベル2の解析結果を以下に示す。

748(5.56) 1015(5.14) 1628(4.94) EL CENTRO NS 1081 1025 874 805(8.32) 887(6.74) 1954(7.68) TTAFT EW 1081 20 874 823(11.94) 1045(12.81) 1740(12.11) OKAYAMA EW 1081 1077 874 842(5.72) 1120(5.12) 1933(3.24) 告 示WGLCO-EL 1081 1002 874 880(14.74) 1360(13.76) 1996(8.26) 告 示WGLCO-TA 1081 20 874 910(11.92) 1217(9.90) 1935(5.04) 告 示WGLCO-BCJ 1081 1002 874

表‐4.8 レベル2の最大応答加速度(cm/sec2、sec)

図‐4.11 最大応答加速度節点位置図

4.4(5.78) 6.6(5.12) 10.9(2.86) EL CENTRO NS 1119 1025 874 4.5(5.94) 6.8(7.24) 11.7(7.68)TTAFT EW 738 1025 874 3.9(11.88) 5.9(12.84) 9.4(11.92) OKAYAMA EW 1119 20 874 4.4(3.44) 7.1(5.24) 11.4(5.94) 告 示WGLCO-EL 1081 1025 874 4.9(14.22) 7.7(8.48) 10.5(8.04) 告 示WGLCO-TA 1100 1025 874 5.1(11.92) 7.4(10.74) 11.0(11.48) 告 示WGLCO-BCJ 1081 1025 874

表‐4.9 レベル2の最大応答変位(cm、sec)

図‐4.12 最大応答加速度節点位置図

鉛直方向加速度が最大になる節点(節点番号874,入力波:告示波WGLCO-TA, 入力方向:Y方向)の応答時刻歴加速度波形と鉛直変位が最大になる節点(節点番号990,入力波:告示波WGLCO-TA, 入力方向:X方向)の応答時刻歴変位波形を図‐4.13~図‐4.14に示す。

図‐4.13 鉛直方向加速度が最大になる節点(節点番号874)の応答時刻歴加速度波形(告示波WGLCO-TA,入力方向:Y方向)

図‐4.14 鉛直方向加速度が最大になる節点(節点番号990)の応答時刻歴加速度波形(告示波WGLCO-TA,入力方向:X方向)

2)水平動と上下動の同時入力 レベル2水平動と上下動の同時入力による解析結果のうち大きな応答結果を示したY方向地震動の最大応答加速度と最大応答加速度節点位置を表‐4.10及び図‐4.11に示す。さらに上下動のみの最(((((大応答加速度を表‐4.12に示す。水平動と上下動の同時入力の結果は、上下動のみの結果に比べかなり大きな応答値となっており、水平動による応答値が水平方向も鉛直方向も卓越している。

東 西

X方向入力(西⇒東)

Y方向入力(南⇒北)

45度方向入力(南西⇒北東)

入力地震波 節点位置 節点位置 節点位置 水平方向(X) 水平方向(Y) 鉛直方向(Z)

Y方向入力時応答加速度(発生時刻:秒)

入力地震波 節点位置 節点位置 節点位置 水平方向(X) 水平方向(Y) 鉛直方向(Z)

Y方向入力時応答変位(発生時刻:秒)

-2000

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

2000

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20時間(sec.)

加速

度(cm/se

c2)

MAX:1996cm/sec2(8.26sec)

-15

-10

-5

0

5

10

15

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20時間(sec.)

変位

(cm)

MAX:12.0cm(8.98sec)

水平震度 鉛直震度

水平震度 鉛直震度

水平震度 鉛直震度

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表‐4.10 レベル2の最大応答加速度(cm/sec2, sec.)水平動,上下動同時入力

表‐4.11 レベル2の最大応答加速度(cm/sec2, sec.):上下動のみ

図‐4.15 最大応答加速度節点位置図

  表‐4.12 レベル2の最大応答変位(cm, sec.)  水平動,上下動同時入力

表‐4.13 レベル2の最大応答変位(cm, sec.):上下動のみ

図‐4.16 最大応答加速度節点位置図鉛直方向加速度と鉛直方向変位が最大になる節点(接点番号874、入力波:TAFT EW波+TAFT UD波、水平動の入力方向:Y方向)の応答時刻歴加速度波形と応答時刻歴変位波形を図‐4.16、4.17に示す。

-2500

-2000

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

2000

2500

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20時間(sec.)

加速

度(c

m/sec2)

図‐4.16 鉛直方向加速度が最大になる節点(節点番号 874)の応答時刻歴加速度波形

(TAFT EW波+TAFT UD波 ,水平動の入力方向:Y方向)

図‐4.17 鉛直変位が最大になる節点(節点番号874)の応答時刻歴加変位波形

(TAFT EW波+TAFT UD波 ,水平動の入力方向:Y方向)

(3) 時刻歴地震応答解析結果のまとめ 時刻歴地震応答解析結果の要約を表‐4.14に示す。時刻歴地震応答解析による設計で、すべての部材のすべての時刻の応力での断面算定は膨大な量となる。よって時刻歴地震応力は① 静的解析結果で応力度の大きい部材② 応答加速度が大きい節点周りの部材③ 応答変位が大きい節点周りの部材の3ケースに注目し各ケースでの注目部材の時刻歴応力に対し断面検定をおこなう。 レベル2におけるメインフレーム主材の静的設計荷重と時刻歴地震応答解析結果の応力による断面検定結果を図‐4.18に示す。時刻歴地震応答解析結果の応力に対する検定値は、静的設計用地震荷重による応力に対する検定値を全ての部材で下回っており、設計用地震荷重の妥当性を確認した。

最大応答加速度(発生時刻) 水平方向(X) 水平方向(Y) 鉛直方向(Z) 入力地震波 節点位置 節点位置 節点位置 284(4.72) 244(9.76) 563(10.22) TAFT UD

(上下動のみ) 968 25 874 213(10.72) 176(10.75) 403(10.38) OKAYAMA UD

(上下動のみ) 968 25 940

-15

-10

-5

0

5

10

15

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20時間(sec.)

変位(cm)

水平動の入力方向:Y方向 最大応答変位(発生時刻)

水平方向(X) 水平方向(Y) 鉛直方向(Z) 入力地震波

節点位置 節点位置 節点位置 4.5(5.94) 7.0(7.24) 12.2(7.68) TAFT EW+TAFT

UD (水平+上下) 738 1025 874

4.5(5.94) 6.8(7.24) 11.7(7.68) TAFT EW (水平動のみ) 738 1025 874

4.0(11.88) 6.2(12.6) 9.6(11.92) OKAYAMA EW+OKAYAMA UD (水平+上下) 1119 20 874

3.9(11.88) 5.9(12.8) 9.4(11.92) OKAYAMA EW (水平動のみ) 1119 20 874

最大応答変位(発生時刻) 水平方向(X)

水平方向(Y)

鉛直方向(Z) 入力地震波

節点位置 節点位置 節点位置 0.8(10.86) 1.1(9.96) 1.9(10.68) TAFT UD

(上下動のみ) 1100 1025 1038 0.3(12.04) 0.4(11.96) 0.9(12.89) OKAYAMA UD

(上下動のみ) 758 20 874

水平動の入力方向:Y方向 最大応答加速度(発生時刻)

水平方向(X) 水平方向(Y) 鉛直方向(Z) 入力地震波

節点位置 節点位置 節点位置 769(8.32) 997(6.76) 2240(7.68) TAFT EW+TAFT UD

(水平+上下) 1081 20 874 805(8.32) 887(6.74) 1954(7.68) TAFT EW

(水平動のみ) 1081 20 874 813(11.94) 1123(12.61) 1758(11.71) OKAYAMA EW+OKAYAMA UD

(水平+上下) 1081 20 874 823(11.94) 1045(12.81) 1740(12.11) OKAYAMA EW

(水平動のみ) 1081 1077 874

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写真 5.1 実験模型(縮尺:1/200)

図‐4.18 メインフレーム主材検定値比較図(Y方向)

参考文献1)建設省建築研究所、日本建築センター :設計用入力地震動作成手法技術指針(案)、1992.32)安田他:種々の不撹乱土における動的変形特性、土 質工学研究発表会、1985

5. 風洞実験及び時刻歴風応答解析

5.1 風洞実験概要 実験は(財)日本建築総合試験所所有のエッフェル型吹出式境界層風洞を用いて実施した。概略図及び諸元を図‐5.1,表‐5.1にそれぞれ示す。

図‐5.1 エッフェル型吹出式境界層風洞

仕様 型式 エッフェル型吹出式境界層風洞 風速範囲 0~20m/sec(連続可変) 全長 19.1m

計測筒長さ 11.6m 測定部口径 1.8m×高さ1.2m~1.4m 縮流比 1:3.87

表‐5.1 風洞仕様

5.2 実験模型 実験模型を写真‐5.1に示す。模型は縮尺1/200の剛模型で、半径800mmの円形の地面板上に計画建物とその周辺施設建物が再現されている。ただし,建物周辺の樹木についての模型化は省略した。計画建物模型はアクリル板で製作されており,表面はラッカー吹き付け仕上げとした。また,計画建物模型の表面には風圧測定点の位置に直径1mm の圧力測定孔が設けられており,模型内部には圧力測定孔に作用する風圧力を模型下部に設置した圧力変換器に伝達するためのビニ-ルチュ-ブ(内径1.2mm,長さ600mm)が内蔵されている。風圧測定位置及びビニールチューブ配線の状況を写真-5.2 に示す。

写真‐5.1 実験模型(縮尺:1/200)

メインフレーム主材(Y方向)

1200

1300

1400

1500

1600

1700

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6検定値

Elem.No

SUB1: 検定値(Static-Y方向)

SUB1: 検定値(TAFT-Y方向)

SUB1: 検定値(WGTAFT-Y方向)

地震動 レベル1の地震動 レベル2の地震動 レベル2の地震動 (水平動+上下動)

入力方向 X方向 Y方向 45度方向 X方向 Y方向 45度方向 X方向 Y方向 45度方向

加速度 (cm/sec2)

685 (鉛直方向) EL CEMTRO

977 (鉛直方向) TAFT

679 (鉛直方向) TAFT

1381 (鉛直方向) WGLCO-TA

1996 (鉛直方向) WGLCO-TA

1389 (鉛直方向) WGLCO-TA

1253 (鉛直方向) OKAYAMA

2240 (鉛直方向) TAFT

1417 (鉛直方向) TAFT

変位 (cm)

4.6 (鉛直方向) EL CENTRO

5.9 (鉛直方向) TAFT

4.3 (鉛直方向) TAFT

12.0 (鉛直方向) WGLCO-TA

11.7 (鉛直方向) TAFT

8.6 (鉛直方向) TAFT

7.6 (鉛直方向) TAFT

12.2 (鉛直方向) TAFT

9.3 (鉛直方向) TAFT

部材 検定値 - - -

0.78 (補強アーチ 下弦材) WGLCO-TA

0.46 (メインフレーム 主材) TAFT

0.79 (補強アーチ 下弦材) WGLCO-TA

0.59 (メインフレーム 主材) TAFT

0.66 (メインフレーム 主材) TAFT

0.62 (メインフレーム 主材) TAFT

下部構造 層間変形角 (rad.)

1/3972 EL CENTRO

1/1418 EL CENTRO

1/1909 OKAYAMA

1/1986 EL CENTRO

1/605 WGLCO-TA

1/954 OKAYAMA

1/2309 TAFT

1/727 OKAYAMA

1/945 OKAYAMA

表‐4.5.1 時刻歴地震応答解析による最大応答値

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写真‐5.2 風圧測定孔配置及び導圧管接続

5.3 実験風向及び実験気流 風圧測定点は風荷重算定の対象とした屋根面及び南側アーチ部に配置し、総測定点数は332 点である。 風圧の測定は,計画建物の南立面に風が垂直に当たる風向を0゜としたときの15゜ピッチの24風向について行

なった。以下,各風向を0゜から時計まわり方向への角度θを用い,それぞれ θ=0゜, θ=15゜,………, θ=345゜と表わす。風向角θの定義を図‐5.2に示す。 本実験では風洞内のターンテーブルより風上側の計測筒床面にバリヤと呼ばれる鋸状の板及びラフネスブロックと呼ばれる粗度を配置することにより,計画地周辺の自然風に相当すると考えられる気流を風洞内に再現した。気流の特性についての主な相似条件は以下のとおりである。・風速と乱れ強さの鉛直分布・変動風速のパワースペクトルの形状・乱れのスケール(代表的な渦のスケール)国土交通省告示第1454号では,建設地点の地表面粗度区分を周辺地域の地表面の状態などに応じて各粗度区分に応じた平均風速の鉛直分布を下式の Er として示してい

θ=90° θ=270°

図‐5.2 風向角θの定義

)(2 zVv

る。 H≦Zbの場合 Er= 1.7(Zb/ZG)α H> Zbの場合 Er= 1.7(H/ZG)α H:建築物の屋根の平均高さ(m) ZG:上空風高度(m) α:べき指数 本実験では,当計画地が都市計画区域内にあり,海岸線または湖岸線から 500m 以上離れた地域になることから,当計画地の粗度区分を上表に従い粗度区分Ⅲとした。 一方,建築物荷重指針・同解説1)においても地表面粗度区分を定めており,粗度区分Ⅰ~Ⅳにおいては,建設省告示第1454号のそれらに相当する。建築物荷重指針では各粗度区分における自然風の特性を平均風速の鉛直分布の他に,気流の乱れ強さの鉛直分布,変動風速のパワースペクトル,乱れのスケール(代表的な渦のスケール)について示している。本実験での風洞気流は,これらの気流特性の相似条件に合致するように調整した。 模型実験と実現象との対応は(1)式に示す相似則で表わされる。 Vm /(nm・Lm)= Vp /(np・Lp)         (1)ここで, Vm:実験風速(m/s) Vp:実風速(m/s) nm:実験上での周波数(Hz) np:実現象での周波数(Hz) Lm:実験模型の代表長さ(m) Lp:実建物の代表長さ(m) 実験風速は,(1)式を(2)式のように変形して求めることができる。 Vm= Vp・(nm/np)・(Lm/Lp)         (2)(2)式のLm/Lp は模型の縮尺率であり,本実験ではLm/Lp=1/200である。屋根の固有振動数は解析対象上限の100次モードで n p= 5 . 2 9 H z,実験での周波数解析上限をnm=200Hzまでとした(変動風圧の測定上の限界を考慮して決定)ことから,設計風速(Vp=29.6m/s,5.5設計風速及び設計速度圧 参照)での振動解析を行なう場合には,実験風速をVm= 5.6m/s以下に設定する必要がある。ところが,この実験風速では各測定点に作用する風圧が小さく,圧力計から出力される電圧信号のSN比が大きくなるため,風圧変動の測定結果には多くのノイズが含まれている状態であった。そこで,本実験では圧力計からの電圧信号を大きくするために実験風速をVm=9m/sに設定した注)。注:実験風速Vm= 9m/sにおいても100Hz(実物の1.6Hzに相当)以上高周波数域では風圧の変動が非常に小さいためにノイズ成分が多く含まれている状態であった。振動解析においては100Hz以上の高周波数域のパワースペクトルも用いるので,本実験では5.7 に示す方法により補正値を用いることとした。風洞気流の平均風速V(z),乱れ強さ の鉛直分布及び模型高さ付近における変動風速のパワースペクトル密度を図‐5.3、図‐5.4にそれぞれ示す。同図には建築物荷重指針の規定値も併せて示している。これによれば,乱れ強さ の値は荷重指針より若干小さいが,平均風速V(z)の鉛直分布及び変動風速のパワースペクトルの形状は荷重指針の規定値によく合致していることが分かる。

)(2 zVv

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13

図 5.6 風圧測定の概略フ

図‐5.3 風洞内気流鉛直分布

乱れの強さの鉛直分布平均風速鉛直分布

図‐5.4 変動風速のパワースペクトル密度分布

5.4 測定方法 風圧測定の概略フローを図‐5.5に示す。測定された各測定点の風圧を風圧係数に換算する際の基準速度圧は,ターンテーブルの中心から風上側1000mmにおける計画建物模型の基準高さ107.5mm(実際の21.5mに相当)での速度圧とした。建物模型に作用する風圧は各実験風向毎に基準速度圧及び全測定点の風圧を同時測定し,風向を順次変化させて行った。各測定点に作用する風圧は,模型表面の風圧測定孔(内径1mm)より長さ600mmのビニールチューブを介して圧力変換器に導くことにより測定した。なお,この風圧には風洞内での静圧(実験上生じる圧力で,実建物の場合には生じない)を含んでいるため,模型上部に設置したピトー静圧管で得られる静圧を圧力変換器の背圧側に導き,その差圧を測定することにより,静圧の上昇分を取り除いた。また,チューブを介して圧力変動を測定すると,チューブの内部で空気が共振し,風圧変動の周波数特性に歪が生じるので,本実験では実験で用いるビニールチューブの周波数伝達特性を予め確認し,その伝達関数を用いて測定された風圧時系列データの補正を行なった。風圧測定のサンプリング周波数は400Hzであり,サンプル数は20480個とした。変動風圧のパワースペクトルについては,1024個ずつのデータを順次FFT解析し,20回のアンサンブル平均として求めた。

5.5 設計風速及び設計速度圧

国土交通省告示第1454号に従い,当計画建物の設計風速を算出した。設計風速算出の際の仮定値を表‐5.2に示す。 本計画建物では,国土交通省告示1461 号により地上10mにおける平均風速が建築基準法施行令第87条第2項の規定に従って地表面祖度区分を考慮して求めた数値以上の暴風(以下50年再現期待値相当の風をレベル1と呼ぶ)と同告示に従いレベル1の風速の1.25倍に相当する暴風(以下500年再現期待値相当の風をレベル2と呼ぶ)の2つのレベルについて安全性を確かめることとしている。 レベル1における計画建物の基準高さHでの設計風速VH,1は基準風速V0と平均風速の鉛直分布係数Erから(3)式により求める。

VH,1= V0・Er         (3)平均風速の鉛直分布係数Erは周辺が平坦地でZb<Hの場合,(4)式により求める。

Er= 1.7(H/ZG)α            (4)レベル2での設計風速VH,2 は建設省告示1461号に従いレベル1の設計風速VH,1 の 1.25倍の風速とする。

各レベルにおける設計風速は以下のとおりである。レベル1の設計風速:

図‐5.5 風圧測定の概略フロー

粗度区分 Ⅲ(Zb=5m,ZG=450m,α=0.20)

基準風速(V0) 32m/s:岡山市

空気密度(ρ) 1.225kg/m3 計画建物の基準高さ(H) 21.5m

表‐5.2 設計風速算出用の仮定値

12 251 ,H,H V.V =

=29.6(m/s)

レベル2の設計風速:

12 251 ,H,H V.V = =37.0(m/s)また,レベル1,レベル2の設計速度圧は以下のとおりである。レベル1の設計速度圧:qH,1=0.6VH,12=0.6× 29.62= 526(N/m2)レベル2の設計速度圧:qH,2=0.6VH,22=0.6× 37.02= 821(N/m2)ここで,qHは計画建物の基準高さにおける設計速度圧(N/m2)である。

r,H EVV ⋅= 01

α

××=

4505.217.132

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14

5.6 風洞実験結果 各測定点に作用する風圧は,下式の平均風圧係数Cpeで表した。

HqpCpe /= (6)ここで,pは各測定点に作用する風圧(N/m2)で,その符号は表面を内に押す方向に働く圧力(正圧)を+,表面を外に引く方向に働く圧力(負圧)を-とした。内圧係数Cpi=0.0の場合、最大風力を示した風向角θ=315°と変動が大きかった角θ=275°の平均風力係数分布を図5.6にそれぞれ示す。

図‐5.6 平均風力係数分布の一例

5.7 振動応答解析5.7.1 解析手法 構造物に作用する設計風荷重としては等価静的荷重の概念に基づく風荷重を採用するのが一般的であり,ここでもこれに従う。構造物に作用する風荷重は平均荷重と変動荷重に分けて考えることができる。平均荷重は構造物に作用する時間平均的な外力,つまり平均風力に等しい。一方,変動荷重は構造物に作用する変動風力の特性だけでは決まらず,特に風による振動の影響を無視できない構造物の場合には構造物の振動特性が変動風荷重に大きく寄与する。本実験では,構造物が風を受けたときの振動応答をスペクトル・モーダル法2)~5)により確率的に予測し,それと等価な効果を与える静的荷重を求め,これを平均荷重に加えて設計風荷重とした。本実験における設計荷重の算定方法を以下に示す。(1)設計風荷重Wmax(最大荷重),Wmin(最小荷重)各質点に作用する設計風荷重Wmax,Wmin の算定は下式による。

rmsmeanmax WgWW ⋅+=

rmsmean WgWW ⋅−=min

Wmean:平均風荷重 (N)Wrms:変動風荷重 (N)g:ピークファクター

(7)

(8)

(2)平均風荷重Wmean 平均風荷重 Wmean は実験により得られた平均風圧係数Cpemeanに設計速度圧qHと各質点の負担面積Ar(m2)を乗じることにより求めることができる。

rHmeanmean AqCpeW ⋅⋅= (9)

ただし,ここでのCpemean は図 5.7に示すように、質点を挟む両側の面の風圧係数Cpemean1,Cpemean2 の平均値としとした。

図‐5.7 屋根面の平均風圧係数

(3)変動風荷重Wrms 対象屋根が風外力のもとで線形応答すると仮定し,屋根の振動応答をその振動に依存する付加的な空気力(非定常空気力)の影響を考慮しない強制外力応答として扱うと,j次モードにおける一般化変動変位はスペクトル・モーダル法により下式で求めることができる。

(10)

σxj : j次モードの一般化変動変位 (m)σFj : j次モードの一般化変動風力 (N)Kj : j次モードの一般化剛性 (N/m)ηj : j次モードの減衰定数

2σFj

jFjj )n(Sn ⋅ : j 次モードにおける一般化風力の無次元パワースペクトル

固有振動数成分(njは j次モードの固有振動数(Hz))σFj及びSFj(nj)は下式の一般化風力の時刻歴Fj(t)より求める。

(11)

Fj(t) : 時刻tにおけるj次モードの一般化風力 (N)Frj(t): 時刻tにおける質点rでのj次モードベクトル方向成分の風力(N)

δ⋅= cos)t(Fp)t(Frj

Fp(t):質点rでの法線方向の風力(N)δ :Fp(t)とモードベクトルがなす角度率なお,法線方向の風力Fp(t)は図5.9に示すように質点を挟む両側の面の風圧係数Cpe1(t),Cpe2(t)の平均値に法線方向の見付面積Arと速度圧qHを乗じて求めることとした。

(12)

rH21 Aq

2)t(CPe)t(Cpe

)t(Fp ⋅⋅+

=

Cpe1(t),Cpe2(t):実験により得られた風圧係数の時刻歴

(13)

Cpemean

Ar

Cpemean1

Cpemean2

質点

2ση4

π1σ

σFj

jFjj

jj

Fjxj

)n(SnK

⋅⋅+=

∑=r

rjj )t(F)t(F

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15

なお,一般化風力の無次元パワースペクトルは,無次元周波数nH/V = 1 以上の高周波数域ではパワーが非常に小さくなるので,風力の変動成分だけでなく測定上のノイズ成分が多く含まれていると考えられる。そこで本実験では無次元周波数nH/V=0.3~1の範囲における無次元パワースペクトルをもとに近似式を求め,無次元周波数nH/V = 1以上の無次元パワースペクトルの値については,その近似曲線(対数グラフ上では直線)上の値を用いることとした(図‐5.9)。j次モードの一般化剛性Kjは下式により求める。

Kj= Mj (2π nj )2                  (14)Mj : j次の一般化質量(kg)

∑ ⋅=r

rjrj mM 2φ (15)

mr : 質点rの質量 (kg) φrj : 質点rでのj次のモードベクトル以上により求めた各モードの一般化変動変位σxj に各質点のモードベクトルφrjを乗じることにより各モードにおける各質点での変動変位を求めることができるので,各モードにおける各質点の変動荷重Wrms jは下式により求まる。Wrms j =σxj・φrj(2 π nj)2・mr (16)

Fp(t)

Ar

Cpe1(t)

Cpe2(t)

質点

δ

Frj(t)

モードベクトル

図‐5.8 法線方向の風力

10-210-3 10010-1

10-1

10-2

10-3

10-4

0.3▲

近似範囲

近似曲線

n・S(n)/σ2

n・H/V

一般化風力パワースペクトル図‐5.9 無次元パワースペクトルの近似式

この変動荷重を全モードについて合成する場合,モード間の直交性を仮定するとSRSS法により求めることができるが,各モードによりベクトルの方向が異なるので,x,y,z 方向の 3 成分に分解した後にモード間の合成を行なった。例えばz方向成分の場合は下式による。

∑ ⋅⋅⋅=j

rj,rjxj, m)n( 22rms 2φW πσ zz

(17)

(4)ピークファクター g最大荷重及び最小荷重を求める際のピークファクターgは,下式により求める。

Tνln2577.0Tνln2g

⋅+⋅= (18)

ν:レベルクロッシング数T : 評価時間(T=600秒)レベルクロッシング数νは1秒間に平均変位を横切る回数であり,一般化変位のパワースペクトルを用いて下式により求める。

dn)n(S~dn)n(S~nν0 x0 x

2 ∫∫∞∞

= (19)

)n(S~x :一般化変位のパワースペクトル n :周波数(Hz)一般化変位のパワースペクトル は,下式のように各モードでの一般化変位のパワースペクトルSxjを合成することにより求めた。

xS~

(20)

( ){ } ( )22222

2

η41

jjjj

jnnnnK

)n(+−

=

2χ )n(j : j次モードのメカニカルアドミッタンス

5.8 解析結果と構造骨組用風荷重5.8.1 一般化変動変位 本実験では,各質点のモードベクトルの値をその次数のモードにおいて最大のモードベクトルをもつ質点での値を1として表しているので,ここで求まる一般化変動変位は,各次モードにおいてモードベクトルが最も大きい質点での変動変位であり,そのモードを代表する変位として扱うことができる。(18)式に示すように一般化変動変位σxj は変動荷重の算出に用いられることから,各次の一般化変動変位の大きさを比較することにより,各次の変動荷重への寄与率が概ね把握できる。なお,変動荷重を算出する際には,各次の一般化変動変位σxj の自乗和として求めるので,ここでは各次モードにおける一般化変動変位の分散σxj

2 で比較した。1次~100 次モー

∑=j

xjx )n(S)n(S~

∑ ⋅=j

Fjj )n(S)n( 2χ

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16

ドまでの一般化変動変位の分散σxj2の解析結果のうち30

次モードまでの結果を図‐5.11に示す。いずれの風向においても5次モードまでの低次振動が卓越していることが分かる。また,荷重への寄与を考慮すると,設計風荷重の算出に当たっては30次モードまでを対象にすればほぼ妥当な荷重を設定できると考えられる。

Rt=50年 Rt=500年図‐5.11 一般化変動変位の分散σxj

2

5.8.2 応答変位(変動変位) 一般化変動変位σxjに各質点でのモードベクトルの値を乗じると各次,各質点での変動変位が求まり,各質点での変動変位の全モードの加算値はモード間の直交性を仮定するとSRSS 法により求めることができる。ただし,各モードによりベクトルの方向が異なるので,x,y,z方向の3成分に分解した後にモード間の合成を行なう必要がある。例えばz方向成分の場合は下式による。

( )∑ φ⋅=σj

2,rjxj,xr zz σ

当ドーム屋根で変動変位が大きくなる部位は,いずれの風向においてもz方向が屋根頂部付近,x方向がその東側と西側,y方向が北側である。これは,骨組の構造特性(低次のモード形)によるものである。また,変動変位が大きくなる風向は,レベル1,レベル2ともにθ=315°であった。最大変動変位を示した屋根面のx,y,z各方向の変動変位の分布をコンター図に表したものを図‐5.11にそれぞれ示す。

5.8.3 ピークファクター レベル1およびレベル2の各設計風速におけるピークファクターgを図‐5.12に示す。当ドーム屋根のピークファクターgの値は3.4~3.7程度の値であり,このときのレベルクロッシング数νは0.3~0.9であった。通常,一般化変位パワースペクトルは卓越する振動モードの固有振動数成分が大きくなるので,レベルクロッシング数νはそのモードの固有振動数に近い値を示すことが多い。当ドーム屋根の場合には,1次~5次モードの一般化変動変位σxjが大きいので(図‐5.10 参照),レベルクロッシング数はそれらの固有振動数に近い値を示すと考えられたが,この結果によると1次モードの固有振動数より低い値を示している。これは,1次モードの固有振動数より低い周波数域での一般化風力のパワースペクトルがいずれの風向においても圧倒的に大きく,これにより一般化変位のパワースペクトルが固有振動数成分より低周波

(21)

数成分が大きくなり,その結果レベルクロッシング数が1次モードの固有振動数よりさらに小さい値をたと考えられる。

Rt=50年 Rt=500年

図‐5.11 変動変位の分布(315°,単位:mm)

3.3

3.4

3.5

3.6

3.7

3.8

0 90 180 270 360風向角(°)

ピー

クファクター

(g)

Rt=50年

Rt=500年

図‐5.12 設計風速におけるピークファクター(g)

5.8.4 構造骨組設計用風荷重 5.7 項に示した解析により求まる風荷重は屋根の表側に作用する荷重である。当ドーム屋根の場合,裏側は閉鎖された室内空間であるので,各質点に作用する風荷重には内圧(室内圧)を考慮する必要がある。ここでは建築基準法に従い内圧係数Cpi=0の場合とCpi=-0.2の場合について内圧を求め,それぞれの内圧が作用した場合の風荷重を算出した。この結果によると,当ドーム屋根の設計風荷重は南側アーチ部が最も大きくなることが分かる。アーチ部の荷重が大きいのは上面,下面,側面の3面に比較的大きい風圧が作用するからであるが,特に南寄りの風向(θ=345°~0°~45°)のときには上面が強い負圧,下面が正圧になるので,その合力としてアーチ部には上方へ大きな荷重が作用する。 膜屋根部分においては,質点の負担面積が若干大きい西側端部付近での荷重が大きくなり,この部位が風上側に位置するθ=90°の風向では内圧係数Cpi=-0.2のときに下方(室内側に押す方向)への荷重が最も大きくな

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17

る。また,内圧係数Cpi=0での屋根頂部付近ではいずれの風向においても上方への風荷重が比較的大きく,その値はθ=315°の風向のときに最大値を示す。

5.9 時刻歴風応答解析 時刻歴風応答解析に用いる節点風力は、風洞実験の多点同時測定により得られた風圧係数の時刻歴に、基準速度圧と荷重点の支配面積を乗じて設定した。得られた風力を風向方向(X方向)、風直角方向(Y方向)、鉛直方向(Z方向)に分解し、各方向ごとの応答を求めた。代表的な荷重節点を図‐5.13に、その時刻歴風力波形と応答変位波形の一例を図‐5.14~図‐5.15にそれぞれ示す。

5.10 応答解析結果のまとめ 1次設計用風荷重による変形と風洞実験で得られた風圧データより求めたスペクトル・モーダル解析(50年再現期待値)結果による変形、及び、時刻歴応答解析による変形を表‐5.4に示す。同表からスペクトルモーダル解析結果・時刻歴応答解析結果は、1次設計用風荷重による変形をほぼ下回っており,設計用風荷重の妥当性を確認した。

図‐5.13 解析に用いた荷重代表点

図‐5.14 荷重節点968の風力時刻歴波形(Rt=50年、風向角θ=315°)

17

力(K

N)

風力

(KN

)

968-x

-0.04

-0.02

0

0.02

0 100 200 300 400 500 600(sec)応

答変

位(m

)

968-y

-0.02

0

0.02

0.04

0 100 200 300 400 500 600(sec)

応答

変位

(m)

968-z

-0.04

-0.02

0

0.02

0 100 200 300 400 500 600(sec)

応答

変位

(m)

Rt50_3150968X

-30

-20

-10

0

10

0 100 200 300 400 500 600(sec)

風力

(KN

)

Rt50_3150968Y

-10

0

10

20

30

0 100 200 300 400 500 600(sec)

風力

(KN

)

Rt50_3150968Z

-30

-20

-10

0

10

0 100 200 300 400 500 600(sec)

風力

(KN

)

図‐5.15 荷重節点968の変位応答歴波形(Rt=50年、風向角θ=315°)

表‐5.3 解析代表点における変位(θ=315°)          単位:cm

*δ2=X2+Y2+Z2

1038

599609

985

1037 954

939 941

846

968

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18

〈参考文献〉1)日本建築学会:建築物荷重指針・同解説, 1993年版2)岡内,伊藤,宮田:耐風構造, 昭和52年 , 丸善3)日本建築学会,風荷重小委員会:建築物の耐風設計資料(その2),1991年4 )日本建築センター:建築物風洞実験ガイドブック ,1994年5)日本鋼構造協会:構造物の耐風工学 ,1997年, 東京電気大学出版局