ブランド拡張の研究課題 - osaka city...

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大阪市大論集第 128 (201 1.7) ブランド拡張の研究課題 廷和 I はじめに E ブランド戦略におけるブランド拡張の位置づけ 1 ブランド・エクイティ論の変選 2 ブランド・エクイティの活用戦略 E プランド拡張の戦略課題 1 改めてブランド拡張とは 2 プランド拡張が注目される理由 3 プランド拡張の基本枠組と戦略課題 IV おわりに I はじめに プランドを企業の競争優位を創出する資産とみなし、その維持・強化および 有効的活用を中心的テーマとする Aaker の『ブランド・エクイティ戦略」が 1991 年に出版されて以降、ブランド戦略は研究者や実務家の間で最も注目さ れるマーケティング領域のひとつとなっている。 もっとも、ブランドに注目したのは Aaker が最初ではない。古くは、ブラン ドの長期的投資の重要性を指摘した Gardnerand Levy (1 955) Cunningham (1 956)などの研究や、ブランドの無形資産としての側面に注目した Levitt (1 98 1)の研究など、今日のブランド・エクイティ戦略に通じる議論が過去に も存在する~ 1) Levitt (1 981)は「いかなる有形財であっても、ブランドに代表されるような無形性

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大阪市大論集第 128号 (2011.7)

ブランド拡張の研究課題

洪 廷和

I はじめに

E ブランド戦略におけるブランド拡張の位置づけ

1 ブランド・エクイティ論の変選

2 ブランド・エクイティの活用戦略

E プランド拡張の戦略課題

1 改めてブランド拡張とは

2 プランド拡張が注目される理由

3 プランド拡張の基本枠組と戦略課題

IV おわりに

I はじめに

プランドを企業の競争優位を創出する資産とみなし、その維持・強化および

有効的活用を中心的テーマとする Aakerの『ブランド・エクイティ戦略」が

1991年に出版されて以降、ブランド戦略は研究者や実務家の間で最も注目さ

れるマーケティング領域のひとつとなっている。

もっとも、ブランドに注目したのは Aakerが最初ではない。古くは、ブラン

ドの長期的投資の重要性を指摘したGardnerand Levy (1955)やCunningham

(1956)などの研究や、ブランドの無形資産としての側面に注目した Levitt

(1981)の研究など、今日のブランド・エクイティ戦略に通じる議論が過去に

も存在する~

1) Levitt (1981)は「いかなる有形財であっても、ブランドに代表されるような無形性

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26 大阪市大論集第 128号

このように、プランドに関する議論が、古くから存在していたにも関わらず、

マーケティング領域においてブランドが再度注目されるようになった理由とし

て、①1980年代盛んに行われた M&Aの結果、売買の対象としてのブランド

資産評価の問題が重要になったこと、②短期的成果をあげるために行った価格

プロモーションやコスト節約型の安易なブランド拡張がブランド・イメージを

ダウンさせることとなり、そのことに対する危機感が高まったこと、③ブラン

ド・イメージの維持管理や適切な形でのプランド再生 Crevitalization) や拡

張を行った企業が業績を伸ばし、それに対する関心が高まったこと、④セール

ス・プロモーションの効果を強調する業績および研究者に対する広告業界から

の反発、などがあげられる九

そして、プランド戦略に関する研究が盛んに行われるようになっている中、

ブランド・エクイティを有効的に活用するための代表的方法として、注目され

ているのがブランド拡張である。ブランド拡張とは、既存プランド・ネームを

活用することで市場参入リスクを減少させ、新製品の成果向上を試みる戦略で

あり、既存ブランドの活用手法のひとつとして位置づけられる(青木, 1994;

青木, 1995)。

しかし、当初こそプランド拡張によって市場参入した新製品のリスク削減や

成果向上に研究の焦点、が当てられていたものの、市場参入した新製品が既存プ

の側面を持っており、その無形性の本質と重要性を理解することが、マーケティング

や販売戦略の差別化につながる」とし、マーケティングにおけるブランドの重要性を

指摘している CLevitt,1981, pp. 94-102.)。また、 Aaker以外にも MSICMarketing

Science Institute)が1988年から 1990年の最も重要な研究課題としてプランド・エ

クティを取り上げるなど、 1980年代後半から 1990年代初めにかけて、プランドが大

きく注目されるようになった。なお、日本でブランドに関する研究が盛んに行われる

ようになったのは、まさに Aakerが『ブランド・エクティ戦略」を出版してからで

ある(青木, 1995 ;青木・陶山・中旧, 1996 ;石井, 1995;小川, 1994 ;片平, 1999 ;

小林, 1994 ;陶lJJ・梅本, 1996なとつ。

2)青木, 1994, 5ページおよび小川, 2009, 628-630ページ参照。

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ブランド鉱張の研究課題 27

ランドに及ぼす影響について議論するなど、現在、ブランド拡張に関する議論

が広がりを見せている CAaker,2004)。そこで、本論では、プランド戦略に

おけるプランド拡張の位置づけを明確にするとともに、プランド拡張の戦略課

題を体系的に整理することを目的とする。

E ブランド戦略におけるブランド拡張の位置づけ

本節では、ブランド・エクイティ概念の登場以降、注目されるようになった

ブランド・マネジメントの戦略課題と、ブランド活用戦略に関して考察しよう。

1 ブランド・ヱクイティ輸の変遷

冒頭で示したように、ブランドの重要性に対する認識は古くから存在してい

たにも関わらず、とりわけマーケティング研究対象のひとつとして、再度注目

されるきっかけとなったのは、 Aaker(1991)のブランド・エクイティ概念と

いう新しい視点、からのアプローチである九ブランドを単にイメージの集合体

ではなく、長期的な競争優位の源泉としてとらえるのがブランド・エクイティ

概念である。ブランド・エクイティとは「あるプランド名やロゴから連想され

るプラスの要素とマイナス要素との総和(差し号 I~、て残る正味の価値)J であ

り、言い換えれば、同じ種類の製品であってもどのブランドが付いているかど

うかによって価値の差が生じるという考え方である CAaker,1991)。

Aaker (1991)は、プランド・エクイティの構成要素として、以下の 5つを

提示している CAaker,1991)。すなわち、①プランド・ロイヤルティ Cbrand

loyalty)、②ブランドの認知 (nameawareness)、③知覚品質 Cperceived

3) プランド・エクイティという概念が最初に用いられるようになったのは、アメリカ

では 1980年代のはじめ頃であり、それも広告業界において、ブランドがもっ長期的

な顧客フランチャイズ Ccustomerfranchise)、その顧客のフランチャイズの財務的

価値を意味する言葉として使うようになったのが始まりであるといわれている。こ

れについては Barwise(1993)および青木(1994)を参照。

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28 大|坂市大論集第 128号

quality)、④ブランド連想 Cbrandassociation)、⑤その他のプランド資産

(特許、商標、チャネ/レ関係など)がそれである。

また、 Farquhar(1989)は、あるブランドが製品に対して付与するところの

「付加価値 Caddedvalue) Jとしてブランド・エクイティを捉えている 4)。 す

なわち、製品は機能的ベネフィットを消費者に提供するものであり、それにプ

ランドが付与されることにより、製品は機能的ベネフィット以上の製品価値を

高めることが可能になるという考えである。

一方、 Keller(1993, 1998)は、顧客ベースの観点、から、プランド・エクイ

ティとは、「あるブランドのマーケティング活動に対する消費者の反応に、ブ

ランド知識が及ぼす効果の違い」として捉えている 5)。そこには、「差異的効

4) Farquhar (1989), p. 240

5) Keller (1993), pp.8-9。ブランド・エクイティに対する消費者の反応は、ブランド

に関する消費者の知識によってもたらされる。 Kellerが考えるプランド知識構造と

は、「記憶の連想ネットワーク・モデルに依拠する形で、ブランド知識の構成次元を

ブランド認知 Cbrandawareness)とプランド・イメージ (brandimage)に区別し

ている。まず、ブランド認知とは、様々な状況において、当該プランドを識別する

消費者の能力を反映したものであり、さらに、記憶内における当該プランドに関す

るノード Cnode)や痕跡 Ctrace)の強度に基づき、名等の手がかりが与えられた場

合、過去に当該ブランドに露出したことを確認できるか否かという能力レベルを指

すブランド再認 (brandrecognition) と、ある製品カテゴリーが手がかりとして与

えられた場合に、当該ブランドを検索できるか否かといった能力レベルを指すブラ

ンド想起 (brandrecall)と区分される u 一方、ブランド・イメージとは、あるブラ

ンドについての消費者の知覚であり、消費者の記憶内に保持されたブランド連想に

反映されたもののことを指す。ここでいうブランド連想とは、記憶内において当該

ブランドのノードとリンクした他の情報ノート群のことであり、消費者にとっての当

該ブランドの意味内容を反映したものとして捉えている。また、そのようなブランド

連想には、抽象化のレベルに応じて、属性 Cattributes)、便益 (benefits)および態

度 Cattitudes)といった三つのタイプが存在し、さらに、それらは強さ (strength)、

好ましさ (favorability)、およびユニークさ (uniqueness) といった次元において

各々異なっているという。詳しくは Keller(1993)および Keller(1998)を参照され

fこし、。

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プランド拡張の研究課題 29

果JIプランド知識JIマーケティングに対する消費者の反応」という 3つの重

要概念が含まれている(青木, 2000)。すなわち、当該ブランドに対する消費

者の知識が消費者の差異的反応をもたらし、その差異的反応が競争的優位性の

源泉となる。したがって、ブランド認知とイメージに構成されるブランド知識

は、顧客ベース・ブランド・エクイティ概念の中心になっており、消費者の差

異的反応の違いをどの程度呼び起こすかは、「ブランド連想の強さJIユニーク

さJI好ましさ」に依存する CAaker,1991 ; Keller, 1993)。

このように、ブランド・エクイティ概念の登場により、ブランドが戦略的資

産価値を有しており、その重要性に対する認識は高まった。しかし、それをど

のようにして維持・強化し、活用していくかに関する具体的かっ実践的活動に

関しては依然として不十分なままであった九

そこで、ブランド戦略に関する研究は、次第にプランド・マネジメントへと

シフ卜してし、く。そして、プランド・マネジメントを行う上で重要なものとし

て注目されたのが「ブランド・アイデンティティ」である。

ブランド・アイデンティティとは、「ブランド戦略策定者が創造したり維持

したいと思うブランド連想のユニークな集合」であり、プランド策定者が当該

ブランドの目標または理想像を意味する 7)。すなわち、プランド構築において、

重要なポイントとなるのは、「ブランドがどのように知覚されているか」より

6) しかし、ブランド・マネジメン卜に関する議論は、それ以前にも存在している。た

とえば、このブランド・コンセプト管理の重要性を主張している Parket al. (1986)

の研究である。彼らは、ブランド・コンセプト管理に着目し、ブランド管理段階を「導

入期 (conceptintroduction)J 1"精徹化期 (conceptelaboration)J 1"強化期 (concept

fortification) Jの3つの段階にわけ各々の段階ごとに異なったマネジメントの課題

とポジショニング戦略を示している。彼らの研究の貢献は、企業がブランド・イメー

ジを長期的視点からマネジメン卜する必要性を示しており、いかにマネジメン卜し

てL、くかを段階別に適用可能なブランド・マネジメントのフレームワークを提示し

た点であると思われる。

7) Aaker (1996)邦訳、 86ページ。

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も、プランド策定者が当該ブランドのあるべき姿の理想や目標を明確化するこ

とにある。

他方、プランド・マネジメントにおいてプランド・アイデンティティが注目

されるのとほぼ同じ頃、日本企業のブランド・マネジメントにおいて注目され

たものに「ブランド体系の管理」がある(田中. 1996;青木. 1996;小川,

1997 ;小林.2001など)。

そして、 2000年代に入り注目されたのがプランド・マネジメン卜の組織問

題である。 Aakerand Joachimsthaler (2000)は、組織構造と企業文化に注目

し、古典的ブランド・マネージャー制の代表ともいえる P&G方式は、もはや

その効力を失t¥,それに替って「ブランド・リーダーシップ」という新しいプ

ランド・マネジメント方式を提唱している。かつてブランド・マネジメントに

関する意思決定が組織の下位レベルでなされていたのに対し、ブランド・リー

ダーシップでは戦略的かっ先見性を持ち、組織の上位レベルで意思決定するこ

との重要性が指摘される。

以上のプランド戦略に関する考察からもわかるように、ブランド戦略の研究

課題は、プランドの資産的価値の重要性を主張するブランド・エクイティ論か

ら、プランド・マネジメント論にシフトしており、その中で「プランド・アイ

デンティティ JIプランド体系管理JIプランド・マネジメント組織」そして

「ブランドの文化」など多様な概念を生み出している。

しかし、ブランド・マネジメントの課題は、プランドを中核とする無形資産

が生み出す付加価値を維持・強化し、また、それを有効に活用することにある

ことは変わっておらず、その意味でブランド・マネジメントの観点からブラン

ド戦略はプランド・エクイティの構築維持戦略とプランド・エクティの活用戦

略の大きく 2つに分けて考えることができると言えよう。

2 プランド・エクイティの活用戦略

なかでも、プランド・エクイティの活用戦略は、長期にわたるマーケティン

グ諸活動や消費者の購買経験等を通じて蓄積されたブランド資産を戦略的に活

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プランド拡張の研究謀題 31

用するものであり、ブランドの資産価値を成果に結び、つけるという意味で非常

に重要となる。企業は、強いブランドを構築すれば、それを経営資源として活

用することが可能となり、新製品の市場導入の際、そのブランド資産を戦略的

に活用すれば、挺子効果が得られるようになる。したがって、ブランド・エク

ティの活用戦略は、企業が新製品を市場導入するさい、どのようなブランドを

付与するかというブランディング Cbranding)に焦点があてられている。

そして、ブランド・エクイティの活用戦略のひとつにあげられるのが「コ・

プランディング Cco-branding) Jである。コ・プランディング Cco-branding)

とは、 2つ以上の既存ブランドが伺らかの形で lつの製品に結合されるか、一

緒に販売されるときに発生することを意味している8)。すなわち、別企業のプ

ランドが、何らかの形で、水平的に結ひ'つくことで新製品の市場参入を試みるこ

とと捉えることができる。

このコ・プランデイング Cco -branding)は、ブランド・バンドリング

Cbrand bunding)やアライアンス Cbrandalliance) と呼ばれることもある。

ブランド・アライアンス Cbrandalliance)は、優れた製品やサービスを創造

したり、効果のある戦略的かっ戦術的ブランド構築プログラムを実行したりす

るために、 2つ以上の企業がそれぞれのブランドを結び‘つけることを意味し

CAaker, 2004、邦訳、 206ページ)、クレジッ卜・カードなどで多く使われる

手法である。一方、プランド・バンドリング Cbrandbunding)は、企業が保

有する固有の技術やノウハウを前面に押し出し、それを他社の商品ブランド

と結合させるやり方であり、たとえば、パソコンメーカーが自社製品の優秀

さを宣伝するためにインテルの MPUCベンティアム)を使用する例などが、

その典型である9)。市場ですでに確立している自社以外の別のプランドを共同

で利用する意味では、プランド・アライアンス Cbrandalliance)や、プラン

ド・バンドリング Cbrandbunding) もコ・プランデイングとみなすことがで

8) Keller (1998)邦訳 322ページ。

9)小JlI(2009) 654-655ページ。

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きる 10)。

そして、ブランド・エクティのもうひとつの活用戦略が、本論で取り上げる

ブランド拡張である。プランド拡張は、その展開方法の椙遠により「ライン拡

張JIカテゴリー拡張JI垂直拡張」の 3つに分けられ、また、単に新製品に既

存ブランドを付与する場合と、既存ブランドの下位レベルに新たな要素を加え

る下位ブランド化 Csub-branding) と呼ばれるものが存在する CFarquhar,

1992 ; Keller, 1998 ;小川, 2009)。その詳細に関しては、次の節で改めて議論

することにしよう。

図 l ブランド資産の戦略的活用

提携ブランドの付与

(co-branding)

プランド拡張

(brand extension)

共同マスター・ブランド

(co-master brand)

ブランド差別化要素の創出

(external branded diifferentiators)

ブランドイじされたイベント

(branded event)

戦術的ブランド提携

(tactical brand alliances)

出所)Aaker (2004)、pp157ー181、keller(1998),邦訳 515-517ベ ジをもとに作成。

10) コ・プランデイング (co-branding) は、双方のブランドの関係のあり方により、

①共同マスター・ブランド、②社外ブランド差別化要素の創出、③ブランド化され

たイベント、④戦術的ブランド提携の 4つに分類することができる (Aaker,2004,

pp. 157 -181)。

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ブランド拡張の研究課題 33

以上、ブランド・エクイティの活用戦略が、別企業の既存プランドを何らか

の形で水平的に結び、つけて活用するコ・プランデイング Cco-branding) と企

業内の既存ブランドを活用するブランド拡張 Cbrandextension)の 2つに大

きく分類できることを示した CKeller,1998 ; Aaker, 2004 ;小JlI,2009) 11)。

両方とも、既存のプランド・エクイティを戦略的に活用することで新製品の成

果向上を試みるという点では共通しているが、前者は、どちらかというとそれ

ぞれの企業が保有するブランド・エクイティの相乗効果を狙っているのに対し、

後者は過去に蓄積されたブランド資産を単純に有効活用しようとするものであ

り、その意味では、前者よりも、適用範囲の側面で後者のブランド拡張のほう

が広いと言えよう。

E プランド拡張の戦略課題

1 改めてブランド拡張とは

上述したように、ブランド・エクイティ概念の登場以降、プランド・エクイ

11)小川 (2009)は、ブランド活用戦略として、垂直方向での活用は、ブランド拡張戦

略、水平的方向での展開をプランド提携戦略と分類されている。 Keller(1998)も、

コ・プランディング (co-branding) と、プランド拡張とはわけで議論している。

したがってプランド活用戦略という意味では、 2っとも同じではあるが、コ・プラン

ディング (co-branding)は、相手のブランドと提携することにより、相互企業聞

の不足した資源および資産(ブランド連想など)を活用できる便益をもたらし、た

だちに信頼性、競合他社との差別化要素を創出可能となる。一方、 Aaker(1996)は、

既存プランドのレパレッジ効果の方法として、ライン拡張、垂直的ブランド伸張、

プランド拡張、コ・プランディング (co-branding)の4つの方法を示しているが、

今日に議論されているブランド拡張の範囲はライン拡張および垂直拡張、 Aaker

(1996)が主張するブランド拡張の意味が含まれているものとして捉えている。なお、

ブランド拡張は、その基本フレームワークでも示されているように、企業が保有し

ている同一の既存プランドを傾数の製品に付与し、新製品の成果向上およびそのフィー

ドパック効果を考慮するならば、ブランド拡張の戦略的効果はコ・プランディング

(co-branding)とは異なるものと考えられる。

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34 大阪市大論集第 128号

ティの活用戦略のひとつとして位置づけられたブランド拡張は、企業の「製

品計画の指針的戦略」となり、戦略的市場機会を提供することから、企業の

成長戦略の中核をなすようになった (Tauber,1981 ; Tauber, 1988; Aaker,

1991)。

しかし、ブランド拡張という活動自体は、 Fry(1967)、Roman(1969),

Neuhaus and Taylor (1972)の研究などに見られるように、ファミリー・ブ

ランド (familybrand)やアンプレラ・ブランド (umbrellabrand) として

古くから議論されてきた。過去の研究では単に既存プランドを新製品に付与す

るか否かという点を議論していたのに対し、 Tauber(1981, 1988)がブランド

拡張の戦略的重要性を指摘して以降、ブランド拡張は新製品の成果以上の意味

をもつようになる 12)。

ところで、ブランド拡張の定義に関しては、その範囲が研究者の間でも若干

異なっている。ブランド拡張は、 1980年以降、本格的に研究されるようにな

るが、当初は、既存プランドを新製品に付与し、市場導入するすべてをブラン

ド拡張だと見なしていない。従来の伝統的なブランド拡張であるライン拡張と

異なり、新たな製品カテゴリーに既存ブランドを付与して新製品の成果を試み

ることをブランド拡張だと捉えている。

たとえば、 Farquhar(1989)によれば、プランド拡張とは「既存プランド・

ネームを新たな製品カテゴリーに適用する」ことであり、 Aakerand Keller

(1990)も、ブランド拡張を「ある製品クラスにおいて確立されたブランド・

ネームを他の製品クラスに導入するために使用すること」と定義している。同

様に、 Tauber(1981)も既存ブランドの同一製品カテゴリー内(既存製品)に

12) Tauberは新製品が投入される製品カテゴリーとその製品に付与されるプランドの

タイプにより成長戦略を分類し、そのなかにプランド拡張を位置付け、また、ブラ

ンド拡張を通じて成長機会が企業の他の戦略とどのような相違点があるかについて

論じ、ブランド拡張の長所、短所、適切なブランド拡張の状況、プランド拡張を行

う際に考慮すべき点についても提示している。詳しくは Tauber(1981, 1988)を参

照されたい。

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ブランド拡張の研究諜題 35

異なるサイズやフレーパーの製品に既存ブランドを付与して新製品導入する戦

略をライン拡張と呼び、新たな製品カテゴリーに既存ブランドを付与した新製

品を市場導入する「フランチャイズ拡張」と区分している。

このように、ブランド拡張が注目された当初は、確立したブランドを異なる

製品カテゴリーに用いることをブランド拡張と呼んでおり、ブランド拡張を

ライン拡張と区別して議論してきた。ここでいうライン拡張とは既存ブラン

ド・ネームを同一製品カテゴリー内の新製品に付与することであり、ブラン

ド拡張は異なる製品カテゴリーの新製品に既存ブランドを付与することを意

味する。しかし、彼らの 2分法の主張に従いプランド拡張概念の範囲を規定

することには、どの次元の製品カテゴリーを指しているのかという製品カテ

ゴリー自体の暖昧さが問題として指摘されている(小林. 1994;小川他,

1997) 13)。

今日のブランド拡張研究では、戦略的効果は異なるものの、ライン拡張とプ

ランド拡張を区分せず、既存プランドを付与し新製品の成果向上を目指すとい

う意味で、ブランド拡張の分類のなかにライン拡張を含めて議論している。た

とえば、 Keller(1998)は、ブランド拡張を「企業が新製品を導入する際、既

に確立しているブランド・ネームを用いること」と定義しており、プランド拡

張をライン拡張と区分せず、ブランド拡張を議論している 14)。

実際、 1990年に市場導入された新製品の 63%はライン拡張であり、わずか

18%がカテゴリー拡張であった。また、ある実証データによると、新規に導入

された消費財のうち、約 89%がライン拡張、 6%がカテゴリー拡張であること

13)たとえば、小林(1994)によれば、缶コーヒーのブランド活用を考える場合、缶コー

ヒーをひとつの製品カテゴリーとするか、または缶飲料金体を製品カテゴリーとす

るかによって、ブランド拡張とみなされたり、ライン拡張とみなされるという問題

が生じると指摘している。なお、製品カテゴリ一分類に分析者の主観が入るため、

その新製品がブランド拡張なのか、ライン拡張なのか正確に定義するのは困難であ

るという研究者も存在する。

14) Keller (1998)、邦訳、 515-516ページ。

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36 大阪市大論集第 128号

がその理由としてあげられる 15)。

以上の議論から、本論ではブランド拡張概念の範囲をカテゴリー拡張とライ

ン拡張を含むものとする。そして、既存ブランド・ネームを同ーのカテゴリー

内の別の製品に付与するか、あるいは全く異なる新たな製品カテゴリーに付与

するかによって、プランド拡張をライン拡張とカテゴリー拡張(フランチャイ

ズ拡張)の 2つに大きく分類することにする CTauber,1981 : Aaker and

Keller, 1990 : Keller 1998)。

ところで、今日の意味するブランド拡張の形態は、この両者だけを拡張範囲

に限定しているわけではない。ブランド拡張の概念範囲には、このカテゴリー

拡張やライン拡張以外に、もうひとつの拡張形態すなわち垂直拡張が存在する。

垂直拡張とは、同ーの製品カテゴリー内に異なる価格帯や品質 Cstep-upvs.

step-down)に拡張することを意味する 16)。

以上のことから、本論におけるブランド拡張は、「ライン拡張Jrカテゴリー

拡張(フランチャイズ拡張)J、そして「垂直拡張」を含むものとして議論を進

める。

2 プランド拡張が注目される理由

新製品を開発した後、新規ブランドを付与して育成すべきか、それともすで

に確立している既存ブランドを付与して市場導入を行うかは、企業の意思決定

においても重要な課題である(小林, 1994)。

プランド拡張に対する注目が高まった第 1の理由として、新プランドの育成

に伴う莫大な費用とブランド拡張の新製品導入の有効性があげられる CTauber,

15)小川(1997)、176ベージ。

16)なお、垂直拡娠には技術レベルのプランド拡張まで含む。ここでいう技術レベルの拡

張とは、既存の技術水準と比べた拡張新製品の技術レベル (upwardor downward)

に対する知覚を指しており、たとえは, Canonカメラの拡張の場合、ビデオ・カメ

ラに拡張した例がこれに該当する (Junet al., 1999, pp.32-33.)。

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ブランド拡張の研究課題 37

1988 ; Kapferer, 1992 ;小林. 1997)0 Kapferer (1992)は、新規プランドの

育成において、莫大なマーケティングコストと時聞が必要とされることを指摘

している。たとえば、新規ブランドの育成には、単にブランド・ネームの考案

やロゴのデザインといったブランド付与に直接かかわる活動のみならず、その

プランドを確立するための広告プロモーションや流通活動などマーケティング

活動の支援がそれである 17)。

また、新規ブランドを付与して新製品を市場導入するより、ブランド拡張に

よる新製品の市場導入の成功率が高まることがいくつかの調査で報告されてい

る。たとえば、 Kapferer(1992, 2008)が紹介している調査では、新ブランド

とブランド拡張による新製品導入後4年過ぎた時点で、新規プランドの生存率

が 30%であったのに対し、ブランド拡張の場合は 50%に高まったという 18)。

同じ調査においてトライアル率と再購買率に関しでも調査しており、新ブラン

ドよりプランド拡張のほうが、新製品のトライアル率 (100vs. 123)、再購買

率(100vs. 161)も高まることが報告されている。

また、 Tauber(1988)は、 1970年代以降 10年間アメリカのスーパーマーケッ

ト市場に導入した 7000品目に達する新製品を詳細に調査した。その結果、年

間 1500万ドル(最低限の売上)以上の売上を上げたのはわずか 92品目に過ぎ

ず、その内 3分の 2が既存の製品群で既に支配的な市場位置を確立していたブ

ランドを拡張したものであることを明らかにした。

消費財メーカーを対象とした日経産業消費研究所によれば、販売額・利益面

で目標を超えた新製品は、全体で約 4割、食品業界だけでは 32%であるが、

多くの開発担当者の実感からすると、実際の成功率は、この調査結果より遥か

に低いという実態があるという 19)。

このように、新ブランドが必ずしも企業の収益、成長に貢献するのではなく、

17) Kapferer (1992), p. 83および小林(1994)67ページ。

18) Kapferer (1992), pp. 84-85, Kapferer (2008) pp.312-313.

19)恩蔵(1997),134ページ。

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38 大阪市大論集第 128号

かえって、ブランド拡張による新製品の市場導入のほうが、より高い収益性が

あるという事実が確認されたのである。事実、企業はブランド拡張の有用性を

高く評価しており、新製品の 80%がブランド拡張によるものだという調査結

果もある20)。

第 2の理由は、新ブランドと比べ、新製品の市場参入コストを削減できるこ

とがあげられる。すでに確立されている既存ブランドは、消費者に認知度が高

く、既存ブランドを新製品に付与するため、新しく知覚させるためのマーケテイ

ングコストが削減できる。また、既存ブランドが付与されている既存製品に対

する広告などのプロモーション活動の効果は新たに市場導入される新製品に対

する波及効果を有している21)。

そして、第 3の理由としてあげられるのが、消費者の知覚リスクの削減であ

る。プランド拡張は、消費者は既存ブランドの知識をもとに、新製品を評価す

るため (Smithand Park. 1992)、新製品の購買意思決定プロセスを単純化さ

せると同時に、購買意思決定に伴う知覚リスクを削減することができる。たと

えば、ソニーがマルチメディア対応の新型パソコンを導入する際には、ソニー

の他製品(既存製品)での経験や知識から、消費者はそのパソコンの性能を予

想することができるのである22)。

このように、消費者は、新たな製品に対して、既存製品および既存プランド

の知識を移転することで当該製品に対する意思決定を促進することができる。

また、企業も、新ブランドを開発し、多数のブランドを管理していくより特定

のブランドだけを集中管理する方が、プランド管理において効率性を高めるこ

とカfできる。

以上のことから、ブランド拡張が注目される理由として、①新規ブランドの

市場導入に伴う莫大なコスト、②プランド拡張による新製品の市場導入の有効

20) Barone etαl. (2000), p. 386.

21) Smith and Park (1992), p. 298.

22) Keller (1998),邦訳 520ページ。

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プランド拡張の研究課題 39

性と収益性、③新製品の市場参入コストの削減、④消費者の購買意思決定への

影響力(既存製品および既存ブランドの評価にもとづく新製品の購買促進)な

どがあげられる。

3 ブランド拡張の基本枠組と戦略課題

ここで再度確認してみよう。ブランド拡張とは「企業が新製品を導入する際、

既に確立しているブランド・ネームを用いること」であり、したがって、ブラ

ンド拡張は、すでに確立している「既存ブランド」、既存ブランドが付与され

既に市場に導入された「既存製品」、そして、既存ブランドを用いて新たに市

場導入する「拡張新製品」という 3つの構成要素の影響関係として捉えること

ができる23)。

図 2は、ブランド拡張の構成要素とその 3つの影響関係を示したものである

(小林, 1994;小林, 1997)。ブランド拡張は、既存プランドが新製品に及ぼす

影響と既存プランドが付与された新製品の市場導入が既存ブランドおよび既存

製品に及ぼす影響の大きく 2つが存在する。前者を「拡張新製品効果」、後者

を「フィードパック効果」と呼ぶことにしよう。

まず、プランド拡張の基本枠組の中から、既存ブランドが新製品に及ぼす影

響すなわち拡張新製品効果について見てみよう。ブランド拡張における拡張新

製品効果とは、既存製品が既存ブランドを経由して拡張新製品に影響を及ぼす

ことを指す(図 2の A1→A)。

上述したように、企業がブランド拡張を活用する最大の理由は、すでに市場

で確立された既存プランドの資産的価値を市場導入する新製品に移転すること

で、新製品の成功確率を高めることにある。すなわち、市場で確立されたブラ

ンドを新製品に付与して市場導入のリスク軽減や収益性の向上を図るものであ

り、ブランド拡張研究の出発点として、数多くの研究者がこの拡張新製品効果

に重点をおいて研究してきた。

23) Keller (1998),邦訳516-6ページ。

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40 大阪市大論集第 128号

図2 プランド拡張の基本枠組

既存ブランド

C

対新製品プランド効果

+ーーーーーーーー・ーー間接フィードパック効果

+一一一一一一一一直接フィードパック効果

出所)小林(1994)71ページ。

拡張新製品効果は、既存ブランドに対する評価が新製品に反映されることで

発生するものであり、したがって、まず、顧客が既存ブランドに対しどのよう

な知識を有し、どのような評価をしているか考慮する必要がある。

しかし、既存プランドの高い評価を受けているからといってすべての拡張新

製品が成功するわけではなし、。拡張新製品の成果は、既存プランドに関する

高い評価すなわち当該ブランドに対する知覚品質の程度とともに、それが拡張

新製品にし、かに上手く反映されるかという知覚品質の移転が大きく影響する

(Consumer Behavior Seminar, 1987 ; Aaker and Keller, 1990 ; Park etα1.,

1991 ; Broniarczyk and Alba, 1994) 24)。

24)この知識移転の程度に影響を与えるのが、既存プランドと拡張新製品の適合性であ

る。プランド拡張による新製品の成果は既存プランドと拡張新製品聞の適合性を消

費者が知覚する場合、その成功率が高まることが多くの実証研究から明らかにして

いる。たとえば、 Aakerand Keller (1990), Consumer Behavior Seminar (1987),

Park etα1. (1991), Broniarczyk and Alba (1994)などの研究があげられる。この適

合性が拡張新製品効果に影響を及ほす理論的根拠としてあげられるのが、カテゴリー

化理論 CCategorizationTheory)である。カテゴリー化理論は、ある対象の特徴お

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ブランド拡張の研究課題 41

拡張新製品効果を高めるためには、既存ブランドに対する評価が拡張新製品

にも当てはまること、すなわちどの新製品に既存ブランドを付与するかという

拡張新製品の候補選定 CAaker,1991)や拡張新製品効果に及ぼす影響要因を

明らかにすることが、拡張新製品効果の向上において戦略的に重要な位置を占

めているのであろう。

一方、図 2でも示されているように、ブランド拡張は、拡張新製品効果だけ

ではなく、当該ブランドが付与された拡張新製品が市場導入後、既存ブランド

に及ぼす影響、すなわちフィードパック効果を有している CLokenand John,

1993 ;小林、 1994、1997; John et αl., 1998 ; Gurhan-Canli and Maheawaran,

1998 ; Aaker, 2004)。このように、ブランド拡張は、同一ブランドを複数の

製品に付与することであり、結果的に既存プランドの再評価に影響を及ぼす。

そのため、ブランド拡張では、拡張新製品の成果向上と同等にプランド拡張が

既存ブランドの維持・強化にどのように影響を及ぼすかが重要な戦略課題とな

る。

したがって、ブランド拡張における戦略課題は、大きく拡張新製品効果とフィー

ドパック効果の大きく 2つに分けることができる。

上述したように、この 2つのブランド拡張の戦略課題を明らかにすることは、

どのようにブランドの維持・強化および活用していくかを重要な戦略課題とす

る今日のプランド戦略においても、重要な意味をもっており、とりわけブラン

ド・エクイティ管理問題に深く関わっている重要な戦略課題となる。このこと

は、プランド拡張が拡張新製品の成果向上だけではなく、拡張新製品の市場導

入後、拡張新製品が及ぼす既存ブランドへの影響に関する分析まで、研究範囲

よび属性に関する認知構造をカテゴリー構造 Ccategoricalstructure)とみなし、人々

が新たな対象を評価する際、その対象と類似する既存のカテゴリ一知識を援用して

推論すると仮定する CCohenand Basu, 1987, pp. 455-456)。したがって、既存ブラ

ンドと拡張新製品の適合性が高いほど、拡張新製品は既存ブランドと閉じカテゴリー

に属するものとみなされることになり、そのカテゴリー知識すなわち既存ブランド

に対する消費者の知識がそのまま拡張新製品に適用されることになる。

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42 大阪市大論集第 128号

を広げ、精徹化していくことの重要性を示している。前者は、ブランド・エク

イティの活用という意味で重要な課題であり、拡張新製品が及ぼすフィードパッ

ク効果は、既存ブランド・エクイティの維持・強化にいかに影響を及ぼすのか

という、ブランド・エクイティ管理に関わる課題である。このように、プラン

ド拡張のフィードパック効果は、既存プランドの維持・強化といった既存プラ

ンドの資産価値を高める(低下させる)可能性を有しているため、拡張新製品

の効果向上と同様に考慮すべきであり、ブランド・エクイティ管理に影響を及

ぼす戦略要素のひとつであるといえよう。

以上、ブランド拡張研究における戦略的課題を拡張新製品効果とフィードパッ

ク効果という大きく 2つの領域が存在することを示した。

W おわりに

本論では、プランド戦略に関する理論的考察を踏まえた上で、プランド戦略

におけるブランド拡張の位置づけを明確にするとともに、ブランド拡張の戦略

課題を体系的に整理することを試みた。

その結果、プランド拡張の戦略課題は、既存プランドが新製品に及ぼす影響

と拡張新製品が市場導入後、既存ブランドに及ぼす影響の大きく 2つに分けら

れることを示した。前者は、拡張新製品効果、後者は、フィードパック効果で

ある。拡張新製品効果は、既存ブランドの有する力を新製品に反映させること

で、新製品の効果向上を目指すのに対し、フィードパック効果は、拡張新製品

が市場導入後、既存ブランド力の向上(低下)に影響を及ぼす可能性を有して

いるため、ブランド・エクイティ管理に関わる重要課題となる。

以上の考察は、拡張新製品効果とフィードパックのメカニズムという 2つの

ブランド拡張の戦略課題に関してより踏み込んだ議論の重要性を示したもので

あり、この 2つの戦略課題に関する詳細な議論は、稿を改めて考察したいと思

つ。

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プランド拡張の研究課題 43

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