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Change the game with technologies! ALCA 4 先端的低炭素化技術開発 成果集 NO.

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Page 1: Change the game with technologies! - JST · 2019. 4. 23. · Change the game with technologies! ALCA ALCAでは、温室効果ガスの排出削減を目指 した技術開発を通じて、環境・エネルギー分

Change the game with technologies!

ALCA

4先端的低炭素化技術開発 成果集

NO.

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Change the game with technologies!

ALCA

 ALCAでは、温室効果ガスの排出削減を目指

した技術開発を通じて、環境・エネルギー分

野に関する目標に貢献していきます。

S u s t a i n a b l e

D e v e l o p m e n t

G o a l s

S D G s

JSTの取り組みはP.18 へ

01

 地球温暖化問題の原因である温室効果ガスの中でも最も

大きな割合を占める二酸化炭素の排出を抑制する「低炭素

社会」を構築することが、世界的な課題となっています。

こうした国際動向の中、日本国内も温室効果ガス排出の低減

に向けた取り組みが始まり、2010年、温室効果ガス排出の

低減を目指した低炭素技術開発に特化した研究プログラム

として先端的低炭素化技術開発(Advanced Low Carbon

Technology Research and Development Program;

ALCA)を発足しました。

A L C A O u t l i n e M a n a g e m e n t

 ALCAでは事業統括(プログラムディレ

クター;PD)がALCA運営全般を統括し、

運営総括(プログラムオフィサー;PO)が

各技術領域の全般的なマネジメントを行

います。研究開発期間中に、研究開発の継

続/中止について厳格な評価が行われま

す。このようなステージゲート評価による

選択と集中によって、2030年の社会実装

に向けた研究開発を推進します。

 地球温暖化問題の解決には大別して適応策と緩和策の二つのアプローチがあります。前者は、自然や社会の在り方を

調整して温暖化による影響を軽減しようというものです。一方、後者は温室効果ガスの排出自体を抑制しようというもの

で、科学技術の貢献が大いに期待されます。

 緩和策としての技術オプションは様々な分野や技術が考えられますが、ALCAでは以下の技術領域と体制でゲームチェ

ンジングテクノロジーによる低炭素社会実現を目指します。

T e c h n o l o g y A r e a s

運営総括(PO)

魚 崎   浩 平物質・材料研究機構 フェロー

【担当技術領域】 次世代蓄電池

土 肥   義 治高輝度光科学研究センター 理事長

【担当技術領域】 ホワイトバイオテクノロジー

大 須 賀 篤 弘京都大学 教授

【担当技術領域】 太陽電池および太陽エネルギー利用システム

大 崎   博 之東京大学 教授

【担当技術領域】 超伝導システム

逢 坂   哲 彌早稲田大学名誉教授/特任研究教授

【担当技術領域】 蓄電デバイス

近 藤   昭 彦神戸大学 教授

【担当技術領域】 バイオテクノロジー

辰 巳     敬製品評価技術基盤機構 理事長

【担当技術領域】 革新的省・創エネルギー化学プロセス

谷 口   研 二大阪大学 特任教授

【担当技術領域】 革新的省・創エネルギーシステム・デバイス

出 来   成 人神戸大学 名誉教授

【担当技術領域】 自律分散型次世代スマートコミュニティ

原 田   幸 明物質・材料研究機構 名誉研究員

【担当技術領域】 耐熱材料・鉄鋼リサイクル高性能材料

事業統括(PD)

橋 本   和 仁

物質・材料研究機構 理事長

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02

我が国のエネルギー環境戦略におけるALCAの位置づけ

化 学プロセス

09星野 友 九州大学

C h a p t e r 01

C h a p t e r 03

CO2排出量の削減を実現する安価な二酸化炭素分離材料

断熱材は建築物の空調における省エネルギーや様々な熱プロセスの高効率化を実現します。

10

CO2排出量の多い発電や運輸の分野から排出を削減するためには、高温でタービンを効率よく運転する必要があります。タービンの耐熱材料開発やリサイクルによりCO2排出削減に貢献します。

町田 洋 名古屋大学

排出されるCO2を省エネルギー・低コストで分離・回収する技術は、CO2排出を削減する技術として注目されています。

相分離する不思議な液体を用いた革新的CO2回収技術

CO2排出削減に貢献する電気自動車や再生可能エネルギーの普及には蓄電技術が欠かせません。

12

植物はCO2を固定して有用資源に変換出来ることから、CO2排出削減への貢献が期待されています。

植 物

富永 基樹 早稲田大学

革新的かつ汎用的な植物バイオマス増産技術 原形質流動の人工高速化

木下 俊則 名古屋大学 11

気孔開度制御による植物の成長促進と乾燥耐性向上技術の開発

バイオマス由来材料の創出によるCO2利用や、バイオプラスチック創出の高効率化による省エネルギー化を実現します。

高機能バイオ材料

15

14金子 達雄 北陸先端科学技術大学院大学

アミノ酸由来の熱に強い有機ガラスの開発

大嶋 正裕 京都大学 13

超高発泡倍率な高分子発泡体の量産技術の開発

輸送機器などの軽量化は燃費向上等につながり、CO2排出削減に貢献します。

03西川 慶・伊藤 仁彦 物質・材料研究機構

リチウム金属を使用する次世代電池のための金属組織の制御と表面皮膜形成

盛満 正嗣 同志社大学 04

ここまできた水素/空気二次電池(HAB)の開発世界初の実用化へ

06原田 広史 物質・材料研究機構

タービン翼用高性能超合金の材料コストを1/4に低減直接完全リサイクル法により可能に

竹山 雅夫 東京工業大学 05

高効率火力発電を実現する新規鉄系超耐熱鋼を開発

07中西 和樹 京都大学

高性能透明断熱材 エアロゲルの高強度化に成功

鎌土 重晴 長岡技術科学大学 08

自動車軽量化に期待:易加工性の熱処理型マグネシウム合金展伸材

CO2の排出を減らす C h a p t e r 02 CO2を回収・利用する

軽 量 材 料

断 熱 材 料

蓄 電

タービン材 料

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03

リチウム金属箔の結晶配向などを制御可能な超高真空リチウム蒸着システム

ピット(電析時の異常成長核)の少ないLi膜を実現

KE

I N

ISH

IKA

WA 

/ 

KIM

IHIK

O 

ITO

ALCA特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING)

の実用化加速推進チームでは、各電池系に共通する課題に

横断的に取り組んでいます。主な課題として、リチウム金属

負極を使用する際、負極表面上に発生し、安全性を損なうリ

チウム金属の異常析出物(デンドライト)の生成が挙げられま

す。デンドライトを抑制し、高容量なリチウム金属負極を安

全に使いこなすため、物質・材料研究機構では、負極に用

いるリチウム箔の金属組織の制御と表面皮膜形成技術の研究

を行っています。アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、鋳

造・押出・圧延の様々なパラメータを制御しながら、リチウ

ム箔の加工を行う世界でも数少ないプロセスシステムを構築

しました。また、不活性ガス雰囲気に、微量の酸素や二酸化

炭素を加えることで、反応しやすいリチウム表面に人為的な

皮膜を形成させ、乾燥空気中で安定に取扱えるリチウム箔の

作成に取り組んでいます。さらに、超高真空中でリチウムを

蒸着するシステムも構築し、前述のリチウム箔とは異なる金属

組織の形成を実現しました。これらの成果により、蓄電池の寿

命向上のために最適な金属組織を詳細に探索できるようになり

ました。

主任研究員 西川 慶主幹研究員 伊藤 仁彦

物質・材料研究機構

エネルギー・環境材料研究拠点

1 リチウム真空鋳造機  2 リチウム押出機  3 リチウム圧延機  4 押し出されたリチウム金属箔

3 421

リチウム金属を使用する

次世代電池のための金属組織の制御と

表面皮膜形成

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04

ここまできた

水素/空気二次電池(HAB)の開発

世界初の実用化へ

1 アクティブ型セル  左:単セル、右:2積層セル 2 ラミネート型セル  左:0.5Ah、右:2.5Ah 3 水素吸蔵合金負極 4 空気極 

HABのキーテクノロジーである触媒ナノ粒子

ヒートロールプレス機:空気極の製造装置

MA

SA

TS

UG

U 

MO

RI

MI

TS

U

盛満 正嗣

水素/空気二次電池(HAB)は充電では水を分解して負極に

水素を吸蔵し、放電では大気中の酸素を還元して水を生成

する水系の二次電池で、高いエネルギー密度と安全性を両立

することが可能です。この電池を使った新しい蓄電システム

が、太陽光や風力で発電した電力をたくわえ、需要に応じて

供給することにより、低炭素社会の早期実現に貢献します。

また、HABに使用する材料はリサイクルに適しており、社

会実装での資源的な課題にも対応が可能です。

本研究開発では、他の二次電池を凌駕する900Wh/Lのエネ

ルギー密度と500サイクル以上の安定した電池特性をすでに

実証し、HABの実用化に向けた電池ユニットの開発も進め

ています。

同志社大学

大学院理工学研究科 教授

触媒ナノ粒子を担持したチタンディスク(左)と担持前のチタンディスク(右)触媒評価の新手法「チタンディスク法」を開発

1

2

34

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MA

SA

O 

TA

KE

YA

MA

火力発電プラントの発電効率を向上させるためには、タービ

ンに送る蒸気温度を高温化し、長期間強度を保つ材料が必要

となります。本研究では発電効率を大幅に向上させる800℃

級火力発電プラントを目指し、世界初の鉄ベース材料である

オーステナイト系耐熱鋼を開発しています。開発した耐熱鋼

では、結晶粒界にTCP相(Fe2Nb Laves相)、粒内にGCP

相(Ni3Nb-γ“ 相)が形成されることで、クリープ破断強

度が上昇し、高温水蒸気に対する耐酸化性が向上します。

また、本耐熱鋼は粉末成形プロセスでも高い破断強度と延性

を示すため、粉末HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間等方圧

加圧法)プロセスのタービン部材への適用を進めています。

竹山 雅夫

東京工業大学 

物質理工学院 教授

高効率火力発電を実現する

新規鉄系超耐熱鋼を開発

TCP相(Fe2Nb Laves相)とGCP相(Ni3Nb-γ“ 相)

800℃級先進超々臨界圧火力発電プラント用新規オーステナイト系超耐熱鋼

05

1 アトマイズ法による粉末の作成2 HIP用粉末(50μm以下)

模擬HIPタービンバルブのカプセル

1

2

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06

HI

RO

SH

I H

AR

AD

A

タービン翼用ニッケル基超合金の基材料コストを大幅に低減

するリサイクル技術を開発しました。

実験室での小規模実験の後、インゴットメーカーの商用炉

で、3トンの使用済みタービン翼模擬材(硫黄添加)を、

合金設計プログラムによる特性予測を行いつつカルシア

(CaO)添加溶解することにより、主成分の調整ならびに

不純物(硫黄)の除去を行いました。その結果、使用前の超

合金と同等以上の高温特性の合金が得られることが分かりま

した。この「直接完全リサイクル法」を用いれば、タービ

ン翼用高性能超合金の材料コストを1/4に低減できます。ま

た、タービンの製造やリサイクルのプロセスを大幅に短縮で

き、その分のエネルギー消費を削減できます。

原田 広史

物質・材料研究機構

リサーチアドバイザー

タービン翼用高性能超合金の

材料コストを1/4に低減

直接完全リサイクル法により可能に

高温下で長期間、材料に一定の引張荷重を与えるクリープ試験の様子

CaOでできた溶解るつぼ

1 使用済みタービン翼をCaOでできた溶解るつぼへ投入  2 溶解・鋳造室で溶解・鋳造(溶解後、鋳型に流し込む)  3 溶解・鋳造室から冷却室へ移動し徐冷

(結晶成長)  4 得られた単結晶棒(表面は鋳型) 

下: 1 ~ 4 を行う真空溶解/一方向凝固炉

3 41 2

溶解試験後のインゴット商業用大型溶解炉(5.4トン)にて使用済みタービン翼に相当する模擬材(3トン)を溶解・精製し、作製したインゴット

使用済みタービン翼実際の航空機で使用されたジェットエンジンのタービン翼

*NIMS試算による

*

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KA

ZU

KI 

NA

KA

NI

SH

低密度の多孔体であるエアロゲルは最も熱伝導率の低い固体と

して知られていますが、機械的強度が低くその利用は困難でし

た。本研究では、有機−無機ハイブリッドネットワークを新た

にデザインすることによってエアロゲルの高強度・柔軟化に成

功し、従来必要であった高圧の超臨界乾燥を用いない常圧乾燥

プロセスを確立しました。これらの成果によってハンドリング

性や成形性の良いエアロゲルを低コストで製造できるようにな

り、透明断熱窓をはじめとする高性能断熱材として展開できる

可能性が高まりました。様々な熱プロセスの高効率化により、

低炭素化社会に貢献できると考えています。

本技術は、2018年度よりNEDO戦略的省エネルギー技術革新

プログラムにて実用化に向けた研究開発を推進しております。

中西 和樹

京都大学 

大学院理学研究科 准教授

高性能透明断熱材

エアロゲルの高強度化に成功

PMSQ

aer

ogel

PMSQ aerogel

07

一軸圧縮応力に対して約80 %もの線形ひずみを示し、負荷を除いた後はほぼ完全に変形回復(spring-back)します。

常圧乾燥により250x250x10㎜³程度の大型タイルの作製も可能です。

常圧乾燥により作製されたエアロゲル。高い気孔性や光透過性(>90%)により、超軽量透明断熱材として期待。

本エアロゲルが示す、大きな曲げ変形に対する柔軟性。数百回の繰り返し変形に対しても安定。

*ALCA終了時

*

開発したエアロゲルは所望の形状に成形可能。透明窓の断熱材や、採光可能な断熱窓、壁や配管の断熱材等に応用可能。

板状 粒状 ブランケット状

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自動車軽量化に期待:

易加工性の熱処理型

マグネシウム

合金展伸材

本研究では、自動車の構造部材などに使用されている中強

度アルミニウム合金に匹敵する室温成形性や押出し性、強

度を持つ展伸マグネシウム合金を開発しました。この合金

は、Guinier Prestonゾーン(原子層レベルの薄い板状の

原子集合体)や溶質元素の偏析によって強化される新しい

マグネシウム合金です。資源的に豊富で安価な合金元素か

ら構成され、製造工程も展伸加工と溶体化・時効(Bake

Hardening)処理を組み合わせた単純なもので、半連続鋳

造や双ロール薄板鋳造などの安価な鋳造プロセスも使用可能

であることから、これまで展伸マグネシウム合金の実用化を

妨げていた製造コストの問題もクリアすることができます。

今回開発した新しいマグネシウム合金は、自動車のルーフや

ドア、バンパー補強材などへの活用が期待できます。

鎌土 重晴

長岡技術科学大学 

大学院工学研究科 教授

従来材 新開発合金

SH

IG

EH

AR

U 

KA

MA

DO

08

押出材:押出温度500℃、出口速度60m/minの高速押出が可能

圧延材:従来のマグネシウム合金に比べて格段に優れた室温成形性

結晶粒径の微細化とZn添加により優れた室温成形性を付与

自動車バンパー部材を模擬した大型中空形材の試作

AlとCa添加による原子集合体の形成により高強度化を実現

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YU 

HO

SH

IN

O本研究では、火力発電所やボイラー等の排気ガス中の二酸化

炭素を高効率に分離濃縮する材料を開発しました。開発し

たCO2可逆吸収材料やCO2選択透過膜および分離モジュール

は、安価な原料から簡単に大量生産できるため、低コストな

排ガス浄化プロセスを実現します。また、本分離材は、対象

ガスを事前に乾燥せずに処理できるため、既設の火力発電所の

排ガスや室内外の空気からのCO2分離濃縮に適用できる可能性

があります。分離濃縮した二酸化炭素を化学変換、利用、貯蔵

することで温室効果ガスの排出量削減に貢献します。

星野 友

九州大学 

大学院工学研究院 准教授

CO2可逆吸収評価装置

中空糸モジュール型の分離膜

CO2可逆吸収装置の試作

開発したCO2可逆吸収材

多孔膜にCO2可逆吸収材を塗布することで分離膜を作製

CO2排出量の削減を実現する

安価な二酸化炭素分離材料

1 CO2可逆吸収材を上から噴霧し分離膜を作製  2 分離膜評価モジュールに分離膜をセット 3 評価装置で分離性能を測定

12 3

09

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CO2再 生塔(高 温 側)

CO2 吸収塔( 低温 側)

10

相分離する不思議な

液体を用いた

革新的CO2回収技術

キャプション□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

量子化学計算により最適な溶液組成を探索

CO 2高濃度相(下相)の分離・加熱によりCO 2を放出し、吸収前(左)に再生可能。

吸収液の化学的特性を評価

CO2吸収再生ラボプラント

HI

RO

SH

I M

AC

HI

DA

現在、地球温暖化対策として、発電所などから排出される

CO2を分離回収し地中に貯留するプロセス(CCS;Carbon

Capture and Storage)や、さらに回収したCO2を資源化

するプロセス(CCU; Carbon Capture and Utilization)が

注目を集めています。本プロセスの実用化はCO2回収をいか

に低コスト、省エネルギーで実施できるかがカギとなりま

す。本研究では、CO2を吸収すると2液相に分離する相分離

型CO2吸収剤を開発しました。本吸収液は従来より低い温度

でCO2を分離回収できる特徴があり、CO2回収の大幅な省エ

ネルギー化が期待できます。さらにCO2資源化を見据えた統

合プロセスの提案も行っています。

町田 洋

名古屋大学 

大学院工学研究科 助教

CO2吸収前

CO2吸収後

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11

1 ソラマメの葉の表皮を剥がす 2 3 特定波長の光源下で表皮の細胞を培養、観察4 光合成蒸散測定装置により光合成速度を測定

プロトンポンプ過剰発現株(右)は野生株(左)より生産量が増加

T

OS

HI

NO

RI 

KI

NO

SH

IT

A

植物の表皮に存在する気孔は、光合成に必要な二酸化炭素の

唯一の取り入れ口です。気孔を介した二酸化炭素取り込みの

際に生じる抵抗(気孔抵抗)は、光合成の主要な律速段階の

一つとして知られています。本研究では、光による気孔開口

を促進させた植物の生産量が増加することを明らかにし、そ

の有用性をイネやポプラなどの実用植物を用いて実証しつつ

あります。さらに、本研究により同定した気孔開口を阻害す

る化合物を植物に散布することにより、植物の葉の萎れを抑

制することが明らかになり、切り花などの鮮度維持や乾燥地

での農作物の乾燥ストレス軽減に有用な薬剤の開発につなが

ることが期待されます。

木下 俊則

名古屋大学 

トランスフォーマティブ生命研究所 教授

気孔開度制御による

植物の成長促進と

乾燥耐性向上技術の開発

気孔 が 閉じている状 態

気孔

が開

いて

いる状態

気孔の開口を阻害する化合物を散布することで、葉の萎れを抑制

Figure 6

A

B

DMSO SCL1 DMSO SCL1

0 min 20 min

Fig. 6. Effect of SCL1 on leaf wilting. Rose leaves in a bouquet (A) and 7-day-old oatseedlings (B) were sprayed with 0.5% DMSO or 100 µM SCL1 in 0.02% Silwet L77 and0.05% Approach BI, and incubated at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent lightand 70% relative humidity for 3 h. Then, the leaves were excised and incubated for 6 h(rose) and 20 min (oat) at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent light and 35–50% relative humidity. All experiments were repeated in triplicate and yielded similarresults. Scale bars, 1 cm.

0 h

6 h

DMSO SCL1

Figure 6

A

B

DMSO SCL1 DMSO SCL1

0 min 20 min

Fig. 6. Effect of SCL1 on leaf wilting. Rose leaves in a bouquet (A) and 7-day-old oatseedlings (B) were sprayed with 0.5% DMSO or 100 µM SCL1 in 0.02% Silwet L77 and0.05% Approach BI, and incubated at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent lightand 70% relative humidity for 3 h. Then, the leaves were excised and incubated for 6 h(rose) and 20 min (oat) at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent light and 35–50% relative humidity. All experiments were repeated in triplicate and yielded similarresults. Scale bars, 1 cm.

0 h

6 h

DMSO SCL1

Figure 6

A

B

DMSO SCL1 DMSO SCL1

0 min 20 min

Fig. 6. Effect of SCL1 on leaf wilting. Rose leaves in a bouquet (A) and 7-day-old oatseedlings (B) were sprayed with 0.5% DMSO or 100 µM SCL1 in 0.02% Silwet L77 and0.05% Approach BI, and incubated at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent lightand 70% relative humidity for 3 h. Then, the leaves were excised and incubated for 6 h(rose) and 20 min (oat) at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent light and 35–50% relative humidity. All experiments were repeated in triplicate and yielded similarresults. Scale bars, 1 cm.

0 h

6 h

DMSO SCL1

Figure 6

A

B

DMSO SCL1 DMSO SCL1

0 min 20 min

Fig. 6. Effect of SCL1 on leaf wilting. Rose leaves in a bouquet (A) and 7-day-old oatseedlings (B) were sprayed with 0.5% DMSO or 100 µM SCL1 in 0.02% Silwet L77 and0.05% Approach BI, and incubated at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent lightand 70% relative humidity for 3 h. Then, the leaves were excised and incubated for 6 h(rose) and 20 min (oat) at 24oC under 50 µmol m-2 s-1 white fluorescent light and 35–50% relative humidity. All experiments were repeated in triplicate and yielded similarresults. Scale bars, 1 cm.

0 h

6 h

DMSO SCL1

1 23 4

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12

1 伸長した根2 3 イメージング装置で観察 4 根のアクチン(ミオシンの軌道となるタンパク質)

MO

TO

KI 

TO

MI

NA

GA

原形質流動とは、あらゆる植物の細胞内で見られる運動で、

植物ホルモンや栄養の輸送に重要と考えられています。原形

質流動は、細胞小器官に結合したモータータンパク質ミオシ

ンXIが、エネルギーを使って運動する事により発生してい

ます。本研究では、シロイヌナズナ、ブラキポディウム、カ

メリナあるいはコケといった植物において、ミオシンXIを

人工的に高速化することで植物体の大型化や種子の増産に成

功しました。

原形質流動の高速化は様々な植物に適用可能です。資源植物

であるトウモロコシ等を大型化することにより、バイオマス

エネルギーや飼料の増産と同時に地球規模での二酸化炭素削

減が期待できます。

富永 基樹

早稲田大学 

教育・総合科学学術院 准教授

革新的かつ汎用的な

植物バイオマス増産技術

原形質流動の人工高速化

葉の

表皮細胞のミオシン

ミオシンⅪを高速化したカメリナ。高速化していないカメリナ(左)に比べ、植物体が大型化。

カメリナの種子から得られる油はジェット燃料などにも利用される

カメリナの種子

1 23 4

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超高発泡倍率な

高分子発泡体の量産技術の開発

MA

SA

HI

RO 

OH

SH

IM

A

セルロースナノファイバーを汎用プラスチック材料であるポ

リプロピレンに添加することで、結晶の微細化や増粘効果

が発現します。この材料を発泡射出成形法により成形を行う

ことで、最大で21倍もの超高発泡倍率の高分子発泡体の量

産を実現しました。また、セルロースナノファイバーが気泡

構造を微細化し、さらに気泡壁内に分散、補強することで、

機械的な特性を向上させることもわかりました。軽量かつ高

強度な高分子発泡体を自動車部材へ応用することで、軽量化

や断熱特性向上による燃費向上・CO2削減が期待できます。

大嶋 正裕

京都大学 

大学院工学研究科 教授

超高発泡倍率で発泡させた高分子発泡体断面とその微細構造

高分子発泡体はめっき処理も可能

CNFを含む材料(茶色)とポリプロピレン(白色)を混合した発泡成形体を射出形成機で作製

1 材料の熱放出を評価  2 発泡射出形成機で発泡体を作製  3 CNFを含む発泡体(左)はCNFを含まない発泡体

(右)より発泡密度が高い  4 発泡構造を観察

1 2

3 4

13 21倍発泡を達成

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バイオポリイミド(有機ガラス)は透明性と耐熱性が高い。

バイオポリイミド(有機ガラス)は燃えやすいのが欠点だが、ナノガラス(白い点)を複合化することにより難燃化を実現

14

TA

TS

UO 

KA

NE

KO

4-アミノ桂皮酸という大腸菌の生産するアミノ酸を出発原

料とし、効率の良い光反応および重縮合法を用いて、様々な

透明バイオプラスチックを作製しました。中でもシクロブタ

ンを2つ含有するバイオポリイミドは透明性と高耐熱を具有

する優れた有機ガラスです。また、弾性率も高くフレキシブ

ルパネルの透明基材に応用できます。特に、フレキシブル太

陽電池デバイスや有機EL照明などのエレクトロニクス分野

へと応用することで、革新的な自然エネルギー利用や面発光

による大規模な照明革命を起こすことが出来るため、大規模

な低炭素効果が期待されます。

最近では、バイオポリイミド塩の合成により、極めて高い水溶

性を確認しました。水溶性ポリイミドの合成により有機溶剤

の排気無しで安全にフィルムや繊維の作成が可能となります。

金子 達雄

北陸先端科学技術大学院大学 

先端科学技術研究科 教授

アミノ酸由来の

熱に強い

有機ガラスの開発

1 バイオマス由来の4-アミノ桂皮酸(効率的な微生物生産手法を開発)  2 4-アミノ桂皮酸から世界初のバイオ由来芳香族ポリイミドを合成  3 芳香族ポリイミドをフィルム化して高い強度の透明膜を作製

4 水溶性ポリイミドのフィルム5 水溶性ポリイミドのフィルムは酸およびカルシウム処理により不溶性へと変換

4 5

1 2

3

WATER WATER

REVERSIBLE

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科学界に投げかけられた課題

 現在、地球温暖化の問題に対しては次々に国際的な約

束が決まっています。我が国も2030年までにCO2排出量

26%削減(2013年度比)―CO2排出量10億t以上の削減

に相当―を宣言いたしました。世界レベルでは、さらに一

歩踏み込んで、2050年に世界全体で温室効果ガスの排出

量を今の半分にするということを申し合わせた訳ですが、

発展途上国も含めて半分にということなので、先進国は8

割以上も削減しなければいけないという目標なのです。こ

れを達成するのは技術でしかないわけですが、今の技術の

延長上ではとても達成できない壮大な目標です。これは科

学界に投げかけられた“課題”でもあります。

 日本も2016年4月に「エネルギー・環境イノベーシ

ョン戦略」を打ち出し、温室効果ガス排出の削減のため

に、2050年に向けて国を挙げて長期的に研究開発に取り

組むことを正式に決めました。

ゲームチェンジングテクノロジーで低炭素社会を

 温室効果ガスを抜本的に削減するための革新的な技術―

我々はゲームチェンジングテクノロジーと呼んでいます―

を創出しようという理念の下、2010年にJSTの研究プロ

グラムとしてALCAが発足しました。ALCAでは温室効果

ガス排出の削減という“出口”を強く意識した基礎研究を

推進します。このプログラムでは、あくまでも地球規模で

温室効果ガスの排出量を削減することに貢献することを目

的としておりますから、デバイスやシステムあるいは製品

として優れているというレベルにとどまるのではなく、将

来―我々は2030年を目処にしておりますが―世界中に普

及するような技術を求めております。

 通常、文部科学省系の研究プログラムではプロジェク

ト研究期間は5年が標準で、まれに10年の長期型のものが

ありますが、我々は研究開発の性質上、最長10年にわた

り研究開発をサポートするという枠組を講じました。ただ

し、高々10年で基礎研究が実用化を達成するのはむしろ

例外であって、どうしても研究開発には長い年月が必要と

なります。従って、ALCA研究の出口は、より実用化に近

い研究開発フェイズ―例えば経済産業省系の研究開発プロ

グラム、より望むらくは産業界に引き継がれる形―を想定

しております。

 このタイトルのように大上段に構えた背景は、今後、我が国の

エネルギー・環境分野における研究を推進していく上で、私たち

のプログラムは実はパイロット的な役割を果たしているのではな

いかと最近つくづく感じるようになったからであります。

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我が国のエネルギー環境戦略におけるALCAの位置づけ

ALCAプログラムディレクター

橋本 和仁

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Change the gam

e with technologies

 先程、2030年を目処と申し上げましたが、地球温暖化

というようなレベルで貢献し得るような技術というのは、

仮に2030年頃に世の中に出たとしても、実際に貢献でき

るのは2050年あるいは更に先の時間的スケールになるで

しょう。そういう意味で、このALCAというのは2050年

の低炭素社会を実現するために、バックキャスティングし

て2030年に世の中に送り出す技術を開発しているという

位置づけなのです。

スモールスタートとステージゲート評価

 限られた予算の中で数多くの研究テーマを採択するた

めに、1件当たりの研究費を少額にしました。我々はこれ

を“スモールスタート”と呼んでいます。途中段階でステ

ージゲート評価を行うことで研究テーマを絞り込み、同時

に研究費を増額するというシステムにしました。つまり、

スモールスタートとステージゲート評価は不可分な関係に

なる訳です。

 当初、このステージゲート評価は根付くだろうかと随分

不安視され、実際に研究コミュニティの中でも「基礎研究

は1~2年で成果が出るはずはない」などの強い批判もあ

りました。実は全くその通りであって、我々もこうした短

期の成果を期待しているのではなく、研究の方向性が将来

のCO2排出削減への貢献を目指しているかどうか、という

観点で判断しているのです。逆に言えば、サイエンスとし

てすばらしい芽が出ていても、将来のCO2排出削減に向か

っていなければ、ALCAではなく別の基礎研究プログラム

でやっていただくというマネジメントを行ってきました。

ステージゲートで不通過だからといってサイエンティフィ

ックな意味で価値が低いということではなく、あくまでも

ALCAの最終目標に資するかどうかで判断をしていること

を強調したいと思います。また、このステージゲートシス

テムは、ALCAのような明確な出口を設定した研究プログ

ラムには有効なのですが、科学者の自由な発想にもとづく

研究を支援するプログラムがあって初めてALCA型の研究

システムも成り立つのだということは肝に銘じないといけ

ません。

ボトムアップ/トップダウンの二系統

 ALCAでは研究者の創意に基づくボトムアップ型と、明

確な研究開発目標達成に向けたトップダウン型の二系統で

技術領域を設定しました。ボトムアップ型と言っても、温

室効果ガス排出に大きく貢献し得るという出口を目指す、

という点で通常の基礎研究プログラムとは異なります。当

初はこのボトムアップ型だけでスタートしたのですが、勢

い技術分野も多岐にわたり、ALCAとしてシステマティッ

クに技術を創出することが難しいという現実に直面いたし

ました。研究者の自由な発想だけではCO2排出削減に大き

く貢献するかどうかは、なかなかわからないのです。今あ

る技術の中で抜本的な技術転換によってCO2が大きく削減

されるようなテーマというのは、専門家がしっかりと話し

合ってそこを提示していくことも重要であるということか

ら、文部科学省と経済産業省の中で委員会を編成し、その

中で次世代蓄電池やホワイトバイオテクノロジーが抽出さ

れました。これらの技術開発は公募で選ばれたチームリー

ダーが多くの研究者を集めて最強チームを編成し推進しま

す。

 ボトムアップ型についても5年目のステージゲートで

は、より実用化に近い研究開発フェイズに相転移し得るか

どうかという観点を加え、通過した研究テーマは実用技術

化プロジェクト(イネーブリング・テクノロジー)として

推進するような仕組みを2015年から新設いたしました。

 このように、プログラム開始当初からの既定路線という

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よりも、この5年間余の中で徐々にこのプログラムは進化

していったのです。

プログラムオフィサーによるマネジメント

 低炭素社会を形成するための緩和策としてはCO2排出の

抑制とCO2そのものを削減する手法に大別できます。これ

らは、省エネルギー、創エネルギー、蓄エネルギー、カー

ボンニュートラルといった技術に分類されます。更にこれ

らを太陽電池、蓄電池、耐熱材料、…といった技術領域に

ブレイクダウンし、技術領域毎に研究開発を推進すること

にいたしました。

 そうすると、マネジメント体制が極めて重要となってき

ます。現在、10人のプログラムオフィサー(PO)がそれ

ぞれ担当する技術領域のマネジメントを行っています。こ

のPOの役割はきわめて重要で、個々の研究テーマの中身

まで深く立ち入りディスカッションを重ね、ALCAの方向

性に沿うように指導や助言を与えます。

 トップダウン型とボトムアップ型のマネジメントはかな

り異なります。トップダウン型はチームをしっかりと把握

する必要があるので、頻繁に全体会議を開催したり研究チ

ームを訪問したりするなどして、POが個々に入り込んで

方向性をつくっていきます。一方、ボトムアップ型は、研

究者の創意に基づきますので、当初は強く誘導はいたしま

せんが、研究を行う上でALCAの趣旨から逸れていくこと

もあります。そういう時、POは研究チームを実際に訪問

し、その場でいろいろな助言をすることによって是正しま

す。このようにマネジメント形式は双方でかなり異なりま

すが、いずれにしてもALCAのような明確な課題解決型研

究プログラムではPOの役割は極めて重要であるというこ

とを強調したいと思います。

 実は、2016年3月、ALCAの5年経過の節目に国際評価

を受けまして、私たちのこの取り組みに対しては、「大変

ユニークな取り組みである、殊にエネルギー・環境分野で

は、このようなスモールスタートでステージゲートを設け

ていくというのは重要なのではないか」とご評価をいただ

いていたところです。

ボトルネック課題の抽出と解決が今後の鍵

 ALCAは発足してから6年目に入っていますが、今、プ

ログラムディレクターとして痛感しているのは、予め低炭

素技術のボトルネックが何であるかを具体的に示し、その

解決に向けた提案をしてもらうことが、このエネルギー・

環境分野の研究では必要ではないか、ということです。当

分野では、長い研究の蓄積があって、すでに古今東西で様

々なトライアルがなされてきています。未だ実現されてい

ない技術はあまたありますが、それぞれに実現されていな

い理由―ボトルネック―があるからなのです。専門家や過

去の経験のある人たちが集まって、こうしたボトルネック

を示すことによって、異分野の科学者がそれぞれの視点や

手段でボトルネックの解消を目指す形が一つの理想型では

ないかと考えております。実際に2015年から、ALCAで

は公募に先立ち、技術的なボトルネックがどこにあるのか

ということを専門家あるいは産業界の方々からの意見も聞

きながら明確にし、それらを提示する形で様々な研究分野

からの提案を受けるという試みを始めております。

 ALCAでは今後も社会実装につなげるということを強く

意識しながら研究開発を推進していく所存です。併せて、

トップダウン型領域を増設していきたいと思います。ス

モールスタート、ステージゲート、そしてこのボトルネッ

ク。この三者が、今後ALCAの運営にますます重要になっ

てくるでしょう。

17

ALCAシンポジウム(2016年6月30日、パシフィコ横浜)における基調講演を基に作成

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 2015年9月の国連総会において「我々の世界を変革する:持続可能

な開発のための2030アジェンダ」が全会一致で採択されました。「持

続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」の

17の目標と169のターゲットは、わが国を含む地球的・人類的課題を包

摂して掲げた国際的な目標です。SDGsは、我が国を含む地球的・人類

的課題を包摂して掲げた目標です。SDGsで掲げられている課題の達成

は、国内的には我が国の成長戦略の軸の1つである第5期科学技術基本

計画に掲げる「Society5.0」や「第四次産業革命」の実現にも密接に関

係し、また国際的には途上国をはじめとした国際社会への貢献への基本

理念でもあります。

 国連では、SDGsの達成に向けて科学技術イノベーション(Science,

Technology and Innovation: STI)がどのように貢献できるかをテーマ

とするフォーラムが2016年6月に初めて開催されました。SDGsの達成

において、科学技術イノベーションは、私たち人類が直面している持続

可能性に関する諸課題の解決や、より良い政策決定に資する科学的根拠

を提供することに、強い期待が寄せられています。

SDGsの達成に科学技術イノベーションが貢献(STI for SDGs)していく

ためには、政府はもとより、大学、研究開発機関、NGOや企業等を含め

た様々なマルチステークホルダーが連携していくことが重要です。JSTで

は、シンクタンク機能、研究開発、産学連携、次世代人材育成、科学コ

ミュニケーション等多岐に亘る機能を活かしつつ、日本におけるSDGs

の活動に積極的に貢献していきます。

持続可能な開発目標(SDGs)へのJSTの取り組み

制作協力(敬称略)

物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点

 主任研究員 西川 慶

 主幹研究員 伊藤 仁彦

同志社大学 大学院理工学研究科

 教授 盛満 正嗣

東京工業大学 物質理工学院

 教授 竹山 雅夫

 准教授 小林 覚

物質・材料研究機構

 リサーチアドバイザー 原田 広史

京都大学 大学院理学研究科

 准教授 中西 和樹

 ※所属・役職はALCA終了時

長岡技術科学大学 大学院工学研究科

 教授 鎌土 重晴

 助教 中田 大貴

九州大学 大学院工学研究院

 准教授 星野 友

名古屋大学 大学院工学研究科

 助教 町田 洋

名古屋大学 トランスフォーマティブ生命研究所

 教授 木下 俊則

名古屋大学 大学院理学研究科

 博士研究員 相原 悠介

 博士研究員 林 優紀

 博士研究員 安藤 英伍

早稲田大学 教育・総合科学学術院

 准教授 富永 基樹

京都大学 大学院工学研究科

 教授 大嶋 正裕

 助教 引間 悠太

北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科

 教授 金子 達雄

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2019.03

[email protected]

www.jst.go.jp/alca/

03-3512-3543