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構造物の3次元プロダクトモデル, AIIoTVR/AR技術などの インフラの設計・施⼯・維持管理への応⽤ ⼤阪⼤学 ⼤学院⼯学研究科 環境・エネルギー⼯学専攻 教授 Ph.D. ⽮吹 信喜 東京⼤学 ⼤学院情報学環 「情報技術によるインフラ⾼度化」社会連携講座(第2期) 年次シンポジウム 平成30年(2018年)418⽇(⽔)16001800 東京⼤学 弥⽣講堂⼀条ホール Nobuyoshi Yabuki (c) 1 BIM (Building Information Modeling) 2004年頃からBIMという言葉が盛んに建築の方で聞かれるよう になった. BIMは、米国ジョージア工科大学のチャック・イーストマン(Chuck Eastman)教授が最初に使ったと言われている. BIMとは,ある程度標準化された3次元プロダクトモデルを様々 なソフトウェア群がデータを一元的に共有・活用しながら統合的 に設計・施工・維持管理を進めていくという新しい仕事の方法 実は,米国では,1980年代から,BIMと同じ概念を「統合化 Integration)」という言葉を用いて既に研究されていた. 2 Nobuyoshi Yabuki (c)

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Page 1: BIM (Building Information Modeling)advanced-infra.sakura.ne.jp/sblo_files/advanced-infra/...BIM (Building Information Modeling) •2004年頃からBIMという言葉が盛んに建築の方で聞かれるよう

構造物の3次元プロダクトモデル,AI,IoT,VR/AR技術などの

インフラの設計・施⼯・維持管理への応⽤

⼤阪⼤学 ⼤学院⼯学研究科環境・エネルギー⼯学専攻

教授 Ph.D.

⽮吹信喜

東京⼤学 ⼤学院情報学環「情報技術によるインフラ⾼度化」社会連携講座(第2期)

年次シンポジウム平成30年(2018年)4⽉18⽇(⽔)16:00〜18:00

東京⼤学 弥⽣講堂⼀条ホール

Nobuyoshi Yabuki (c) 1

BIM (Building Information Modeling)• 2004年頃からBIMという言葉が盛んに建築の方で聞かれるよう

になった.• BIMは、米国ジョージア工科大学のチャック・イーストマン(Chuck 

Eastman)教授が最初に使ったと言われている.• BIMとは,ある程度標準化された3次元プロダクトモデルを様々

なソフトウェア群がデータを一元的に共有・活用しながら統合的に設計・施工・維持管理を進めていくという新しい仕事の方法

• 実は,米国では,1980年代から,BIMと同じ概念を「統合化(Integration)」という言葉を用いて既に研究されていた.

2Nobuyoshi Yabuki (c)

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BIMのねらい

• 建築分野でのWaterfall Modelによる設計プロセスを,3次元のプロダクトモデルを中心として,プロジェクトの初期の段階に,皆で,同時進行的・協調的・協力的に,短期間で,ほぼ全て行ってしまい,施工や維持管理で設計データを捨てずに活かす.

• 「フロントローディング」(コンカレント・エンジニアリング)

• 効率化,ミスの低減,コスト削減,およびより良い設計・施工の実現が期待できる.

Nobuyoshi Yabuki (c)

設計変更による建設コストと構造物

の機能への効果

現状の設計に

係る業務量

業務量

(コスト)

または

効果

時間

計画 基本設計 詳細設計 生産設計 施工 運用・維持管理

設計変更に伴う

建設コスト増分

BIMでの

設計

CIM (Construction Information Modeling)

Nobuyoshi Yabuki (c) 4

• 2012年,佐藤直良氏(元国土交通省事務次官,現在ACTEC理事長)がCIM

を唱え,国交省で試行業務(設計)を開始.

• 2013年からは,試行工事も開始• 但し,CIMという言葉は,情報や機械工学分野

では,Computer Integrated Manufacturing(コ

ンピュータ統合生産)を意味し,昔から使われている用語なので,日本の土木分野以外で使用する際は,注意を要する.

• 3次元データをライフサイクルを通じて連携・段階的に構築させながら関係者で共有する.

国際会議ICCBEI 2013で基調講演をされた佐藤直良氏

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(発注者)

(発注者)

3次元モデル(設計レベル)

3次元モデル(施工レベル)

3次元モデル(管理レベル)

3次元モデル(施工完了レベル)

・発注業務の効率化(自動積算)

・違算の防止

・工事数量算出(ロット割)の効率化

・起工測量結果・細部の設計

(配筋の詳細図、現地取り付け等)

・干渉チェック、設計ミスの削減・構造計算、解析・概算コスト比較・構造物イメージの明確化・数量の自動算出

・点検・補修履歴・現地センサー(ICタグ等)との連動

・施工情報(位置、規格、出来形・品質、数量)

・維持管理用機器の設定

・施設管理の効率化・高度化・リアルタイム変状監視

・干渉チェック、手戻りの削減・情報化施工の推進

・地形データ(3次元)・詳細設計(属性含む)

(施工段階で作成する方が効率的なデータは概略とする)

・設計変更の効率化・監督・検査の効率化

施工(完成時)

・現場管理の効率化・施工計画の最適化・安全の向上・設計変更の効率化

・完成データの精緻化・高度化

維持・管理

調査・測量・設計

(発注者)

・適正な施設更新・3D管理モデルの活用

【得られる効果】

【作成・追加するデータ】

【得られる効果】

【作成・追加するデータ】

【得られる効果】

【作成・追加するデータ】

【得られる効果】

【作成・追加するデータ】

【得られる効果】

【得られる効果】

【得られる効果】

【得られる効果】・時間軸(4D)

【追加するデータ】

施工中

3次元モデルの連携・段階的構築

施工(着手前)

3次元モデル例

CIMの概要

「CIM」とは、計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルに連携・発展させ、あわせて事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより、一連の生産システムの効率化・高度化を図るものである。 3次元モデルは、各段階で追加・充実され、維持管理での効率的な活用を図る。

平成27年度 土木学会CIM講演会 国土交通省発表資料より 5

Nobuyoshi Yabuki (c)

従来は各フェーズ間で大量のデータが捨てられていた.BIM/CIMでは,設計・施工段階のデータを共有しながら,全て蓄積できる

Nobuyoshi Yabuki (c) 6

計画・測量 設計

施工維持管理

計画・測量 設計

施工維持管理

従来 BIM/CIM

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3Dプロダクトモデルは単なる3D CADとは異なる• 昔の3D CADのモデルは,単なる点,線,⾯,ソリッドな

どの集まりで,唯のCG• 現代の3D CADは,オブジェクト指向技術に⽴脚したモデ

ルベースシステム• 梁,柱,窓,ドア,桁,橋脚,杭など各部材を単なるCG

で表しているのではなく,⼀つ⼀つがオブジェクトとして定義

• 各オブジェクトに名称を付けたり,属性データを持たせたり,オブジェクト間の種々の関係を定めることが可能

• オブジェクトを抽象化したクラスを階層構造,ネットワークとして表現したものが3Dプロダクトモデル

• 3Dプロダクトモデルを標準化すれば,異種ソフトウェア間でデータの交換,共有が可能に

• 1980年代前半から,オブジェクト指向CAD,Model‐based CADあるいはFeature‐based CADなどと呼ばれて発売

• 単なるCGから⼤幅にインテリジェント化Nobuyoshi Yabuki (c) 7

橋梁のプロダクトモデルの例

Nobuyoshi Yabuki (c) 8

橋梁を,種類によって分類Is‐aの関係汎化上位のクラスの属性は下位に継承

橋梁を,部分によって分割Part‐ofの関係集約とコンポジションン

この他にも関係はある

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プロダクトモデルの記述

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ISO 10303 (ISO‐STEP)のEXPRESS⾔語で橋梁の簡単なプロダクトモデルを記述したもの(右)

それをEXPRESS‐Gで表現した図(上)

オントロジーと標準化• プロダクトモデルが,国やソフトウェア,発注者などによって

バラバラではどうしようもない• 標準化が必要• そのためには,オントロジーの構築と標準化が必要• オントロジーは,あるドメイン内で共有されている概念および

概念間の関係(概念化)を形式的・明⽰的に表現する仕様• オントロジーは,ドメインの語彙,すなわちオブジェクトや概

念の型,属性(プロパティ),関係を提供• オントロジー構築では,taxonomy(分類学),classification(分

類)といった⽤語が頻繁に使われる• オントロジーをしっかりと作らないと,プロダクトモデルは⼀

時的,局所的な利⽤に留まってしまい勝ち• 標準化を視野にしっかりと構築すべき

• 欧州は,必要性を感じており,関⼼が強い• ⽶国は,⾃分が標準だと思っている節がある• ⽇本は,島国で各組織が独⽴し必要性もそれほど感じていない

• しかし,やらねばならないNobuyoshi Yabuki (c) 10

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buildingSMART JapanbuildingSMART Japan

buildingSMART Internationalのインフラストラクチャルームでインフラ⽤プロダクトモデルの構築と国際標準化の作業を実施中

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2020

2017

2018

Nobuyoshi Yabuki (c)

変状データを含む開削トンネルのプロダクトモデルの構築

• 開削トンネルは主に場所打ちコンクリートで築造されることから,その品質は環境や施工の様々な条件が大きく影響し,完成後の大規模な補修・補強は容易ではない.

• 開削トンネルを健全な状態に保つためには適切な維持管理が必要であり,変状の調査,発生原因の推定,補修・補強等の検討には,設計,施工の情報が必要不可欠である.

• 本研究では,維持管理における情報の有効利用を行うため変状を含めた開削トンネルのプロダクトモデルの開発を行うこととした.

• コンクリート構造の変状には表のように数多くの種類がある.

Nobuyoshi Yabuki (c) 12

有賀・矢吹(2012)

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開削トンネルのプロダクトモデルデータの例

Nobuyoshi Yabuki (c) 13

ひび割れの進展 面上のひび割れのインスタンス

表面の変状

内部の変状(塩害など)

クラックスケール内蔵TSを用いた遠隔ひび割れ形状3次元計測システム

• この測量器は,40倍の望遠レンズを搭載し,焦点鏡にクラックスケールを内蔵したもので,ノンプリズムによる長距離測距およびひび割れ幅に対する視準角度補正が可能である.

• 測量器を据え付けた位置の座標,計測対象との角度,距離からひび割れの座標を得ることができる.

• この測量器を用いたひび割れ計測の利点は,過去のひび割れデータの座標を基に,ひび割れの進展を追跡可能であること,ひび割れの測定と同時に構造物の3次元形状を得られる点にある.

• そこで,本研究では,コンクリート構造物のアセットマネジメントを目的とし,ひび割れ情報の蓄積,関連情報との連携,ひび割れの定量的評価へ向けた情報活用にプロダクトモデルを用いる手法を開発した.

Nobuyoshi Yabuki (c) 14

KUMONOS NETIS登録 ひび割れ計測システム

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バーチャルリアリティ(VR)• VRがVRであるための三要素

• 3次元の空間性:⼈間にとって⾃然な3次元空間を構成している.• 実時間の相互作⽤性:⼈間がその中で,環境との実時間の相互作

⽤をしながら⾃由に⾏動できる.• ⾃⼰投射性:その環境を使⽤している⼈間がシームレスになって

いて環境に⼊り込んだ状態が作られる.• BIM/CIMが広まり,今後,3次元モデルが構築されていけ

ば,VRの利⽤も加速化される• 点群データだけでもVRに結構近いことができる• インフラ維持管理における将来的なVRの想定される利活⽤

事例• 点検作業の事前確認• 点検作業の訓練• ベテラン点検技術者のVR内での経路や⾏動の記録

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⼆⾜歩⾏VRで橋梁点検シミュレーション

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University of Cambridgeで撮影• ⼆⾜歩⾏VRコントローラCyberith Virtualizer• Oculus ヘッドマウンテッドディスプレイ• PrioVRを装着すれば,全⾝の動きがVRで再

現され,没⼊体験

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オーグメンテッドリアリティ(AR)• 拡張現実感(Augmented Reality :AR)とは実環境の物

体の映像にデジタル情報をシームレスに重畳し,現実を補強する技術

• 遠隔作業⽀援,ナビゲーション,医療分野,教育などの分野に応⽤されることが期待されている.

• 位置合わせの技術も格段に進歩• ヘッドマウンテッドディスプレイなどハードも進化• インフラ維持管理においては,ARの構造物の点検作

業に利⽤されるようになるだろう

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⽮吹研社会⼈Dr学⽣だった⽻⿃⽒の研究

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15図17.円錐による表示図16.流線による表示(風の流れの線)

ARを用いた温度・湿度・風等の環境データの可視化

Nobuyoshi Yabuki (c)

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インフラのセンサによるモニタリング• 2014年度から橋梁とトンネルは5年に1回の⽬視・打⾳点検が義務化• ⼤量の点検報告書が蓄積化• 現状の⽅法で,このビッグデータを活かせるか?

• センサを設置してあるインフラは少なく,法律などで義務付けられている構造物のみ

• 従来タイプのセンサは,太くて⻑いケーブル,電源,⾼額な多チャンネルデータ記録装置(データロガー),操作する技術者が必要だった

• 得られたセンシング・データは,記号が書かれた磁気テープやディスクに貯蔵され,担当者しかわからない

• センサの設置状況は,2次元図⾯に⾚や⻘等で記⼊され,⼈間しか理解できず,コンピュータは検索や集計が出来ない

• データフォーマットもセンサやデータロガーのメーカー毎に違い,インフラ管理組織(発注者)によりマチマチ

• 何か技術的な検討を実施しようとすると,技術者が何⽇もデータを丹念に書き写したり,集計したりといった相当な2次処理を必要とする(⾦がかかる)

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IoT:電池と中継局の問題− LPWAが解決• MEMSによって,センサは⼩型になり,無線ネットワークによって,ケーブルも

不要になった.• しかし,電池は相変わらず必要で,1ヶ⽉から⻑くて1年くらいに1回は電池交換が

必要である.• 社会インフラ施設にセンサを取り付ける際は,⾜場や橋梁点検⾃動⾞等が必要で

あり,電池交換の際も同様である.• ソーラーバッテリや振動を利⽤した蓄電池等が研究されているが,なかなか社会

インフラ構造物に設置されるまでは,⾄っていない.

• この問題を解決してくれそうなのが,LPWAである.• LPWAは,Low Power Wide Areaの略で,低消費電⼒で広域エリアを対象にできる無

線通信技術である.• WiFiは⾼速だが,通信距離は300m程度までで,

Bluetoothは100m程度以下である.• ⼀⽅,LPWAの⼀つSIGFOXでは,最⼤50km

くらいである.• LPWAでは,ボタン電池1つで数年単位の

動作を実現するという.

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出典:http://www.sbbit.jp/article/cont1/33292

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インフラのデータベースの課題• せっかく多額の費⽤を払って作っても,利⽤されない.利

⽤されにくい.• データの更新が特定の部署に⼀元化されて,遅れがち.DBが最新データでない.

• 部署毎に似たようなDBをバラバラに作り,互換性がない.• ⽬的別に作ったDBを連動させたいと思っても統合化でき

ない.• 点検データ,特に写真データは沢⼭あるのだが,どのよう

に使えるのか途⽅に暮れる.• 事故や災害で,利⽤したくても,できない.使いにくい.

• こうした課題に対しては,東⼤の⽯川先⽣の社会連携講座やNEXCO東⽇本のSIPプロジェクトで解決に取組んでおり,道路の標準的なデータモデルを開発し,地⽅⾃治体への展開なども実施している

Nobuyoshi Yabuki (c) 23

⼈⼯知能(AI)• 1980年代,論理学をベースに知識を記号により記述すれ

ば,推論エンジンにより,専⾨家と同等の回答が⾃動的に得られるということから,AIは第2次ブームを巻き起こした.

• しかし,その後,コストと⼿間がかかる割には効果が限定的であったことから,下⽕になった.

• ところが,AIの⼀分野である「機械学習」においてディープラーニング(深層学習)と呼ばれる新しい技術が開発されたことと,⼤量のデータ(ビッグデータ)を⽐較的容易に扱うことが出来るようになってきたことから,囲碁や将棋で世界的に著名な棋⼠にAIマシンが勝利したこともあり,昨今は第3次ブームとなっている.

• ディープラーニングと従来の機械学習との違いは,従来はデータの属性を⼈間が全て明⽰的に拾い出し,プログラム化する必要があったのに,ディープラーニングでは,属性そのものを機械が勝⼿に想定しながら学習活動を実施してくれる点である.

• そのため,ディープラーニングでは,過学習とならないようにするためにも,⼤量の様々なデータが必要である.

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インフラ維持管理のSIPにおけるAIの取組• 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は,平成26年度に

11個の課題で開始し,その中の⼀つである「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」(PD:藤野陽三教授)において,ニーズとシーズをマッチングさせて,インフラの事故を未然に防ぎ,予防保全によるインフラのライフサイクルコストの最⼩化を⽬指して,研究開発を実施している.

• ⼀⽅,⼈⼯知能(AI)は,SIP開始後の短期間に⻑⾜の進歩を遂げ,本プログラムの中の各研究課題においても,AIを利⽤した研究は散⾒されるものの,断⽚的で局所的な改善に留まっている.

• そこで,インフラ維持管理におけるAIの活⽤を加速し,インフラ維持管理を起点としたSociety 5.0実現に向けて,平成27年度から「AIのインフラ維持管理への活⽤検討プロジェクトチーム」(以下,「AIプロジェクトチーム」と略す)(PTL:⽮吹信喜)を発⾜させることとした.

• 現在,進⾏中のSIPのデータ他を⽤いて,以下の検証を実施中• コンクリートのひび割れなどの変状の画像認識• 打⾳,レーザー打⾳,漏⽔⾳など⾳データからの異常発⾒

• 今後のインフラ維持管理において,AI(特に深層学習)は,IoTと相まって中⼼的な役割を果たすだろう.

25Nobuyoshi Yabuki (c)

阪⼤⽮吹研におけるAI研究• Structure from Motion (SfM) による建設現場3Dモデリングのための写真ノイズ(動いている

建設機械など)の除去に関する研究• UAV(ドローン)で撮影した現場写真から3Dモデルを作成する際,写真中に動いている物体があるとモ

デルが⼤きくくずれてしまう.• そこで,写真からAIを⽤いて動いている建設機械などを除去して,埋める技術を開発

• 深層学習における転移学習を⽤いた建設機械,作業員,および表⽰板の画像上での⾃動検出に関する研究

• 建設⼯事では⼤量の写真を整理する必要があり,時間と⼿間がかかる.• そこで,AIを⽤いて写真に写っている建設機械,作業員,表⽰板を⾃動的に認識し,セグメンテーショ

ンする技術を開発• CNN (Convolutional Neural Network) を利⽤した画像セグメンテーションによるコンクリート

表⾯のひび割れ検出に関する研究• 橋梁・トンネルなどの点検において,コンクリートのひび割れの記録は⼿作業を要し,時間と労⼒がか

かる.• 深層学習によって⾃動的に画像からひび割れを検出するだけではなく,セグメンテーションを⾏う技術

を開発• 点群と画像を⽤いたDeep Learningによる道路柱状物の認識に関する研究

• MMSで得られる道路の点群データから電柱,信号,標識,照明柱,街路樹などを分別するのは⼿作業で,時間と労⼒がかかる

• 深層学習により,MMSの画像も⽤いながら,点群データから⾃動認識する技術を開発• 機械学習技術を活⽤した路⾯性状調査の効率化に関する研究

• 道路の路⾯性状調査は,画像を⽬視判読によりひび割れの有無を判定しており,時間と労⼒がかかる• そこで,機械学習で識別器を構築し,⾃動化する技術を開発し,時間が6割減少し,⼈間の実作業時間は

2%まで低減した.• 写真測量と深層学習を応⽤した建築室内の⾳響特性改善⽀援システムの開発

• 既設建築の部屋の⾳響特性を解析するために3次元モデルを作成する際,SfMを⽤いると,家具などが邪魔なので除去したいがためがかかる

• そこで,深層学習を⽤いて,家具などを⾃動認識してセグメンテーションして除去して,⾳響解析を⾏う技術を開発

26Nobuyoshi Yabuki (c)

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AI,IoT,3Dモデル,VR/ARで維持管理はバラ⾊?• ⼤量のセンサ(IoT)を橋梁や道路,トンネル,斜⾯など

に設置したら,本当にうまくいくのだろうか?• こうしたビッグデータはデータマイニングや機械学習,つ

まりはAIで,コンピュータが⾃動的に有意なデータや知識を探し出してくれると情報科学(Computer Science)の研究者や技術者は⾔うが,本当だろうか?

• そもそも,⼟⽊技術者は,構造物にセンサを設置した場合,センサのデータだけを⾒ているのではなく,センサの⽅向,設置条件,設置してある部材の性質や境界条件,周辺の環境などのコンテクストを,適宜使⽤して推論している.

• コンテクストは,通常,2次元の図⾯,画像情報等の⼈間にわかりやすく,コンピュータに理解させ難い情報.

• それを深層学習を使えば,データの属性(つまりコンテクスト)を⾃動的に抽出し,勝⼿に判断して学習してくれる,と⾔えるだろうか?

• かなり難しいのではないか?Nobuyoshi Yabuki (c) 27

2007年に提案したフレームワーク• センサによる計測データは,センサが設置してある位置,設置の方法,対象物の幾何形

状,材料,構造的性質等の諸属性および周辺環境に関するデータとその意味(コンテクスト)が無ければ,ただの数値の集まりになってしまう.

• そうしたデータや周辺環境(コンテクスト)が把握できたとしても,解釈ができなければ意味がない.正しい解釈をするためには,物理的な現象やデータの解釈に関する定量的のみならず定性的な知識が必要だろう.

• 上記の2つが整備されたとしても,膨大な数のセンサが膨大な数の構造物に設置されたらば,何らかの系統的な手法で効率的に解析しなければ,計算爆発を起こすか,少なくともリアルタイムに異常を検知するようなことはできなくなる可能性がある.

Nobuyoshi Yabuki (c) 28

• センサデータモデル:センサの計測データとセンサに関連するデータモデル.

• プロダクトモデル:構造物等の3次元モデル.幾何形状と属性データ,部材間の関係などデータを表現できるデータモデル.(コンテクスト)

• 知識モデル:物理システムに関する定量的・定性的知識,特に異常や事故に関する知識を含む.(知識) 3つのモデルを統合化する(Integration)

• 大量データについては,KDD(Knowledge Discovery in Database),データマイニング,機械学習を応用する.応用方法は研究する必要がある.

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各モデル• センサデータモデル

– 米国でNEES(George E. Brown, Jr. Network for Earthquake Engineering Simulation)プロジェクトのためにPeng & Law(2004)が,NEES Reference Data Modelを開発.

– 日本では,E‐Defense(実大三次元震動破壊実験施設)のデータを貯蔵するEDgridプロジェクトがあり,矢吹ら(2006)がEdgrid Data Modelを開発した.

– しかし,防災科研の予算が大幅削減され,結局データモデルは使われなかった.

• プロダクトモデル– 建物については,IAI(buildingSMART)のIFCを用いる.– その他の構造物については,IFCをベースに適宜作成する

か作成されるのを待つ.

• 知識モデル– 定量的な知識は,数式や表をベースに条件を与えると結論

を出す論理文を整備する.– 定性的な知識は,「定性推論(Qualitative Reasoning)」を用

いる.定性推論は,従来の数値解析のような解析技術で必要とする正確な定量的なデータがなくても物理システムの振る舞いについて推論することができるような知識表現と推論技術である(Iwasaki, 1997)

Nobuyoshi Yabuki (c) 29

構造技術者は,上図のように,数値が無くても,定性的にどのような変形をするか,構造力学的に間違えずに描くことができる.

(⼀財)関⻄情報センター スマートインフラセンサ利⽤研究会

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主な活動内容と⽬標

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サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」

サイバー空間• GIS

• 3次元CAD

• VR

• AR 等

融合させる技術• RFID,IoT,AI等

フィジカル空間• 実際の構造物

• 人,物,環境

Nobuyoshi Yabuki (c) 35

私が昔から唱えている「国土基盤モデル」

BIM/CIM

サイバーからリアルへの情報伝達項目としては,

ピンポイントの天気予報、洪水や津波、地震などの防災情報、犯罪や防犯に関する情報、空調制御、エネルギー制御、交通機関の各種情報、構造物の点検・維持管理、アセットマネジメントなど

これが現実になれば,「スマートシティ」になる.• エコ• 安全・安心• 競争

Thank you very much for your attention!

Nobuyoshi Yabuki (c) 36

3D CAD system for Civil Engineering at Electric Power Development Co., Ltd., in 1984